まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

文字の大きさ
上 下
185 / 188
Ⅺ 青い鳥はすぐそこに

173. 調子のいいお友達

しおりを挟む
 

 ベイル様と再会して、告白されて、治療をしてもらって。
 怒涛の一日だった。けれど今日はまだ終わらない。

 ジジ様に挨拶しなければ、というベイル様について家を出た。

 メイズヤーンをつけたほうの手を繋いで、並んで歩く。
 時折メイズヤーンが光を反射して、その存在を主張した。そのたびに視線がそちらを向いて、恥ずかしいやら嬉しいやら、心が騒がしかった。

「ああ、そうだ。学院の友人たちから手紙を預かってきている。渡すだけ渡しておこう」
「うん? ……友人、たち?」

 レイラ様からというならまだわかる。けれど、友人「たち」と言えるほど何人も友人はいなかったはずだ。私は首をかしげた。

「……見ればわかる」

 ベイル様の反応も微妙だ。とりあえず受け取って、差出人だけ先に確認する。
 一通目は予想通りレイラ様だった。二通目にクリフォード様。意外ではあるけれど、ありえなくはない。
 そしてもう一通。その差出人は――。

「まあ! なんて貧相な村かしら!」
「あら、お年寄りばかりじゃない。ちゃんと畑耕せてるのかしら!」

 何とも無礼な声が聞こえてきた。ベイル様と顔を見合わせて、声のした方へと向かう。

「あら、村と同じでみすぼらしい子だわ!」
「でも、一緒にいるのって」
「「「ベイルね!」」」

 呼び捨て!? と思わず衝撃を受けた。
 そこにいたのは三人の少女とお付きの男性。記憶にある顔ではない。けれど――この印象的な会話には心当たりがあった。
 なにせ、学院でさんざん嫌味を言われたのだから。

「なんて顔してるのよ。あなたマリでしょ?」
「ちゃんと来るって伝えたでしょう?」
「まさか、文字まで読めなくなられたの?」

 三人に詰め寄られタジタジになる。

「い、いえ。これから目を通すところでした……」

 そう、最後の一通はこの伯爵家三人娘からのものだった。

「ええと、どうしてこちらに……?」
「わたくし昨年、フェーニ家に嫁ぎましたの」
「は?」

 そう明かしたのは、確かアビーと呼ばれてい少女だ。ぼっちゃまと呼ばれていたギオスティン・フェーニ伯爵の息子、次期領主の嫁になったのだという。
 学院を中退して(令嬢の中には結構な割合でいる)嫁いできたそうだ。今回、残る二人が卒業したため、領主館で侍女として雇って――せっかくだからと、私のいる村まできてみたらしい。

「だから任せなさいな。すぐにこの村をりっぱな村にして差し上げますわ!」

 どうやら村を貶していたわけではなく、問題点を洗い出していただけらしい。紛らわしい。
 とはいえ、あいかわらずの貴族っぷり、自由っぷりで。

「なにぼうっと突っ立ってらっしゃるの? 早く案内なさい」
「ずっと馬車に乗っていて疲れましたの」
「来客の歓迎もできませんの? まったく――」
「「「ダメダメですわね」」」

 ベイル様の前なのに、という乙女の叫びはどうやら彼女たちには聞こえないらしい。ベイル様はベイル様で微笑ましそうに見ているのがちょっと辛い。

 仕方なく、村で一番しっかりとした村長の家に案内し、薬草茶を出す。
 村長は最初に挨拶したかと思えば、すぐに奥に引っ込んでしまった。友人たちの語らいは邪魔しない、だそうだ。友人……なのだろうか。

「年下の旦那なんて、って思てましたけれど、悪くないわね」
「ええ。男は若くなくちゃ」
「旦那様、可愛らしいですものね、いちいち照れちゃって」
「ふふふふふ」

 のろけを聞かされているのだろうか。そんなに親しくなかったと思うのだけれど。

 というより、それ以上に気になっていることがあった。
 私はちらちらと彼女たちの付き人らしき壮年男性に目を向ける。執事、だろうか。

「ごめんなさいね、マリ。私たち、いじめてたつもりじゃなかったのよ」
「ちょっと悪戯心はあったかもしれないけど」
「ちょっと調子に乗ってはいたけれど」
「だって――」
「「「ミュリエル様だったら絶対にできなかったもの!」」」

 いつの間にか学院時代の話になっていて、三人が(たぶん)謝罪した。
 これも手のひら返しと言うべきだろうか。ただ、憎めないのが悔しい。この三人を見ているとどうにも力が抜けてしまうのだ。

「ええと、今日は視察でしょうか?」
「ひどい人! 友人に会いに来ちゃいけないのかしら」

 気を取り直して尋ねれば、アビーが怒った。
 やっぱり友人だったらしい。納得いかない部分はあるけれど……悪くないかもしれない。

「ほら、照れてないで教えてさしあげないと。無理してきたんだから」
「そうよ。そのために来たんでしょう」

 リズとベラが何やらアビーを促している。

「そ、そうね。――マリ。見てちょうだい! 私の子どもよ」
「「私たちの、ね!」」

 ずっと気になっていた。執事らしき男性が抱えていたおくるみ。その中にはまだ小さな赤ん坊がすやすやと眠っていた。
 どうやら赤ん坊を見せに来てくれたらしい。自然と笑みがこぼれた。

「……可愛い」
「「「でしょう!?」」」
「でも、どうして……」
「もう。何度言わせたらわかるの? 友人だからよ!」

 アビーが堂々と言い放った。
 これは私が気にしすぎなのだろうか。――そうだ。きっと、そうなのだろう。

「そっか、友人だから、か」

 周囲がすべて敵に見えていた学院。でも実際は違っていたのかもしれない。
 また一つ、心の澱が溶けて消えた。

 
 
しおりを挟む
いつもお読みいただきありがとうございます。
よろしければ感想ください。

↓↓こちらもぜひ!↓↓

『研磨姫と姫王子』 (完結してます!)
暴走する姫と弱々しい王子の成長物語……かもしれないお話。
軽いノリ(ラブコメ)を目指して書いた短編(中編)です。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m

つつ
感想 11

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。 その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。 だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった── 公爵令嬢のエリーシャは、 この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。 エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。 ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。 (やっと、この日が……!) 待ちに待った発表の時! あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。 憎まれ嫌われてしまったけれど、 これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。 …………そう思っていたのに。 とある“冤罪”を着せられたせいで、 ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

処理中です...