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Ⅶ 待ち受けていたのは
85. 最近の過ごしかた
しおりを挟む暴動鎮圧から十日。学院はいまだ臨時休暇のままだった。生徒たちの大半が貴族である以上、学院側も安易に授業を再開するわけにはいかなかったようだ。
移民の問題はともかく、隣国の脅威が完全に去ったとは言えないため、安全確認のために再開までまだあと一、二週間はかかるだろう。
とはいえ一般的には、暴動が鎮圧され、平穏を取り戻した、とされている。王宮側も鎮圧を宣言しており、解決したことを国外に示すための夜会も昨日開かれた。ただ、そこには若い令嬢や令息は呼ばれなかったという現実があるけれど。
そう、だからもちろん、セーファス様の婚約者選抜試験も行われていない。このまま、なくなってしまえばいいのに。
学院もなく、外に出ることも変わらず制限されたままの私は、ただひたすらに神秘の特訓をしていた。そしてそれでわかったのは、どうやら私は神秘の扱いがとんでもなく下手だという事実だった。
基本のパターンは覚えたし、救急道具の使い方も教えてもらった。でも、頭では理解していても、どうしてもその通りに神秘を流すことができない。それはつまり使えないということで。
むしろ独自の設計のほうが成功する確率は高かった。難しいことはできないが一応、想定した事象を起こせる。
ちなみに設計よりはるかに簡単なキッチンのコンロもつけられなかった。二本ほど、自分の神秘で既存の神秘とを繋ぐだけの簡単なものだったにもかかわらず。
「あー……」
もはや何回目かもわからない失敗に私はうなだれる。そしてそのタイミングを見計らったかのようにシンディーが声をかけてきた。
「ミュリエルお嬢様、休憩にしてはいかがですか? お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう、シンディー。いただくわ」
香り立つ紅茶に顔を緩める。カップを手に取り――そのとき、慌ただしい馬の足音が聞こえた。
私もシンディーも思わず窓へと視線を向ける。ここから外の様子は見えないが――。
「もう、まったく騒々しいですね。このお部屋まで音が聞こえるなんて」
「そうね。お父様がお帰りになられたのかしら……?」
「どうでしょう、まだ早い気がいたしますが。見てまいりましょうか?」
「いいえ、私が行くわ。お出迎えしたいもの」
シンディーはあまりいい顔をしなかったが、私は気にせず部屋を出た。
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