69 / 188
Ⅵ 決断は遅きに失し
67. あきらめと期待と
しおりを挟む考えれば当然のこと。レイラ様にクラスメイトから避けられる要素なんて微塵もないのだ。以前から付き合いがあったからというだけで、友人を続けてくれていたけれど、きっと無理をしていたのだろう。
なにもおかしなことはない。もし自分がレイラ様と同じ立場だったら、それこそとっくに縁を切っているだろう。だから当然のこと。それで自分が傷つくなんて――レイラ様に失礼だ。
そうわかっていても、遠ざかっていくレイラ様から目が離せなかった。振り向いてと願わずにはいられない。――とそのとき、聞きなれたクラスメイトの声が耳に飛び込んできた。
「とうとうレイラ様にも愛想をつかされたみたいよ」
言ったのは、以前から私の陰口をたたいたり、よく悪戯を仕掛けたりしてきていた三人組だった。
私はこの三人に苦手意識を持っていた。他のクラスメイトに対してはそういった感情すらないのだが、なぜか彼女たちだけは無視できなかった。ある意味、私にとって特別な存在といえるだろう。
そんな三人組だからこそ、その言葉が胸に突き刺さる。
――愛想を、つかされた。
わかっていた。わかっていたけれど、目の前が真っ暗になった。それが今の状況だと現実を突きつけられて、心の逃げ場を失う。
「いい気味だわ」
「当然でしてよ。むしろこれまでレイラ様が庇われていたことのほうが不思議ですもの」
「まったくだわ。でも、さすがのレイラ様でも庇い切れなかったのね。だって――メイヴルール公爵夫人が失格とおっしゃったのでしょう?」
メイヴルール公爵夫人?
聞き覚えはあった。けれど、それが誰だかは思い出せない。
ただ、もしかしたらこの行動がレイラ様の本意じゃないかもしれない可能性が出てきた。まだ絶望するには早い。私はさらに耳を済ませる――が。
「そうそう。まさかメイヴルール公爵夫人のご意思に背くなんてできませんものね」
「私はメイヴルール公爵夫人のご意思を支持するわ。どう甘く評価しても殿下の隣に立てる器ではないもの」
「頭悪いですしね」
「所作も美しくありませんし」
「時々野蛮な言葉を口にしてらっしゃるし」
「ふふふ」
「「「当然ね!」」」
悪かったわね! と心の中で叫んでから席につく。
もし、そのメイヴルール公爵夫人がレイラ様の行動を制限させたのだとしたら、レイラ様はいつかまた私の元に戻ってきてくれるだろうか。また、笑いかけてくれるだろうか――。
三人組のおしゃべりはそのあとも続いていた。けれど思考に没頭した私はその部分をまったく聞いていなかった。もし聞いていたなら、今後の状況もまた変わっていただろう。
「ところで、あの子、知ってるのかしら?」
ふと思い出したかのように三人組のうちの一人、リズが言うと、残る二人も「あら」と声をもらす。
「そういえばそうね」
「本当に、どうかしら。レイラ様が教えてらっしゃるんじゃない?」
「でも、アビー。レイラ様も婚約者候補でしょう? いくら心の広いレイラ様でも、敵に塩を送るような真似はなさらないのでは?」
「もしかして……逆なのかしら。レイラ様、ライバルだからこそ距離を取ったのかもしれないわ。正々堂々競いたかったのかも」
「確かにレイラ様はそういう方ね。メイヴルール公爵夫人……王妹様の圧力に屈したと聞かされるよりよほど現実味があるわ」
「何事もなかったかのように、友だちとして振る舞うのは騙しているようで嫌だった、ということかしら」
そして三人で顔を見合わせ、その表情が次第にいたずらっ子のそれへと変化する。
「ベラ。リズ。つまりあの子は、あのこと知らないってことよね?」
「おそらくそうよ」
「きっとそうだわ」
「それは――」
「「「おもしろそうね」」」
休暇明けの学院は、私を奈落の底に落とそうと口を開けて待っていた。
そして、まもなく社交シーズンが始まる――。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
王子様と過ごした90日間。
秋野 林檎
恋愛
男しか爵位を受け継げないために、侯爵令嬢のロザリーは、男と女の双子ということにして、一人二役をやってどうにか侯爵家を守っていた。18歳になり、騎士団に入隊しなければならなくなった時、憧れていた第二王子付きに任命されたが、だが第二王子は90日後・・隣国の王女と結婚する。
女として、密かに王子に恋をし…。男として、体を張って王子を守るロザリー。
そんなロザリーに王子は惹かれて行くが…
本篇、番外編(結婚までの7日間 Lucian & Rosalie)完結です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
エテルノ・レガーメ
りくあ
ファンタジー
主人公の少年“ルカ”は森の中で目覚め、心優しい青年に拾われてギルドに入る事に。記憶を無くした彼が、ギルドの仲間達と共に平穏な生活を送っていた。
ある日突然現れた1人の吸血鬼との出会いが、彼の人生を大きく変化させていく。
■注意■
・残酷な描写をしている場面や、血を連想させる言い回しをしている部分が若干含まれています。
・登場人物イメージ絵は、作者自ら簡単に描いています。若干ネタバレを含んでいるので、ご注意下さい。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる