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Ⅵ 決断は遅きに失し

67. あきらめと期待と

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 考えれば当然のこと。レイラ様にクラスメイトから避けられる要素なんて微塵もないのだ。以前から付き合いがあったからというだけで、友人を続けてくれていたけれど、きっと無理をしていたのだろう。
 なにもおかしなことはない。もし自分がレイラ様と同じ立場だったら、それこそとっくに縁を切っているだろう。だから当然のこと。それで自分が傷つくなんて――レイラ様に失礼だ。

 そうわかっていても、遠ざかっていくレイラ様から目が離せなかった。振り向いてと願わずにはいられない。――とそのとき、聞きなれたクラスメイトの声が耳に飛び込んできた。

「とうとうレイラ様にも愛想をつかされたみたいよ」

 言ったのは、以前から私の陰口をたたいたり、よく悪戯を仕掛けたりしてきていた三人組だった。
 私はこの三人に苦手意識を持っていた。他のクラスメイトに対してはそういった感情すらないのだが、なぜか彼女たちだけは無視できなかった。ある意味、私にとって特別な存在といえるだろう。

 そんな三人組だからこそ、その言葉が胸に突き刺さる。

 ――愛想を、つかされた。

 わかっていた。わかっていたけれど、目の前が真っ暗になった。それが今の状況だと現実を突きつけられて、心の逃げ場を失う。

「いい気味だわ」
「当然でしてよ。むしろこれまでレイラ様が庇われていたことのほうが不思議ですもの」
「まったくだわ。でも、さすがのレイラ様でも庇い切れなかったのね。だって――メイヴルール公爵夫人が失格とおっしゃったのでしょう?」

 メイヴルール公爵夫人?
 聞き覚えはあった。けれど、それが誰だかは思い出せない。

 ただ、もしかしたらこの行動がレイラ様の本意じゃないかもしれない可能性が出てきた。まだ絶望するには早い。私はさらに耳を済ませる――が。

「そうそう。まさかメイヴルール公爵夫人のご意思に背くなんてできませんものね」
「私はメイヴルール公爵夫人のご意思を支持するわ。どう甘く評価しても殿下の隣に立てる器ではないもの」
「頭悪いですしね」
「所作も美しくありませんし」
「時々野蛮な言葉を口にしてらっしゃるし」
「ふふふ」
「「「当然ね!」」」

 悪かったわね! と心の中で叫んでから席につく。

 もし、そのメイヴルール公爵夫人がレイラ様の行動を制限させたのだとしたら、レイラ様はいつかまた私の元に戻ってきてくれるだろうか。また、笑いかけてくれるだろうか――。



 三人組のおしゃべりはそのあとも続いていた。けれど思考に没頭した私はその部分をまったく聞いていなかった。もし聞いていたなら、今後の状況もまた変わっていただろう。

「ところで、あの子、知ってるのかしら?」

 ふと思い出したかのように三人組のうちの一人、リズが言うと、残る二人も「あら」と声をもらす。

「そういえばそうね」
「本当に、どうかしら。レイラ様が教えてらっしゃるんじゃない?」
「でも、アビー。レイラ様も婚約者候補でしょう? いくら心の広いレイラ様でも、敵に塩を送るような真似はなさらないのでは?」
「もしかして……逆なのかしら。レイラ様、ライバルだからこそ距離を取ったのかもしれないわ。正々堂々競いたかったのかも」
「確かにレイラ様はそういう方ね。メイヴルール公爵夫人……王妹様の圧力に屈したと聞かされるよりよほど現実味があるわ」
「何事もなかったかのように、友だちとして振る舞うのは騙しているようで嫌だった、ということかしら」

 そして三人で顔を見合わせ、その表情が次第にいたずらっ子のそれへと変化する。

「ベラ。リズ。つまりあの子は、あのこと知らないってことよね?」
「おそらくそうよ」
「きっとそうだわ」
「それは――」
「「「おもしろそうね」」」



 休暇明けの学院は、私を奈落の底に落とそうと口を開けて待っていた。
 そして、まもなく社交シーズンが始まる――。


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