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番外編
*. 全ては殿下のために part2
しおりを挟む研磨姫。野蛮で強引で奇怪な公爵令嬢。
けれど、不覚にも、その変人のおかげで気づかされたことがあった。
ずっとずっと大事に、それこそ豪奢なビロードを引きつめた宝石箱に仕舞っていたエリオ殿下。
もしかしたら、自分たちの行動が、エリオ王子の成長を妨げていたのではないかと。
初めのころは、エリオ王子を危険に晒す研磨姫が許せなかった。だが、それに気づいてからは、できる限り、見守るようになった。
そうして研磨姫との付き合いも一ヶ月になったかとうころ、研磨姫はお茶会に磨き上げたばかりのルビーを持ってきた。
そのときのことは忘れようにも忘れられない。研磨姫がまるで慈愛の女神のように見えたことはもちろん、それ以上に、エリオ王子の表情の変化が印象的だった。
誰よりもエリオ王子との付き合いが長い私。ずっとエリオ王子を見てきたのだ。どんなにわずかな変化だろうと、私は見逃さない。
お茶会の終わり、エリオ王子を馬車まで送り届けると、私は一旦側を離れ、研磨姫を探した。
「研磨姫!」
「ジェス――でしたかしら、護衛さん」
「研磨姫、お願いがあります。先ほどのルビーを譲ってはいただけないでしょうか」
怪訝そうな顔をする研磨姫から、新たな原石を提供することを条件に譲ってもらう。
あれから半年がたった。
今夜、ようやくエリオ王子が表舞台に立つ。
身長が高く、体も逞しくなったエリオ王子の姿を、我がことのように誇らしく思う。
もうエリオ王子を「姫」と呼べる者はいないだろう。
「殿下」
「ん?」
「こちらを」
そして私はルビーのブローチを差し出す。本当はとうの昔にできていたが、エリオ王子の気をそらさないために隠し持ち――いや、今日、この日のために取っておいたのだ。
「ジェスっ」
エリオ王子が感極まった声を上げる。ひと目でそれとわかったようだ。
そしてエリオ王子はそのルビーに唇を近づけて――。
私はそっと視線を外した。
どこで間違えたのだろうか。いや、これは、こればかりはきっと、私のせいではない。
「よし。ジェス、行くぞ」
「はい」
私の望みはエリオ王子が幸せであること。
健康的な体を手に入れ、誰にも文句を言わせないだけの実力を持ち、そして今、愛する女性を手に入れようとしているエリオ王子はきっと、幸せの絶頂にいるだろう。
研磨姫のことは未だに気に入らないが――もういい。私はエリオ王子が幸せならば、それで十分なのだ。
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これにて完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございましたm(__)m
つつ
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←これじゃ、腹黒になっちゃいますね(笑)
それまでは、姫王子様の優しいライトオパールのイメージにも感じられて……。単に宝石店でオパールの七変化の一点物のインパクトからでしたが……(笑)
番外編、楽しみにしています。
ライトオパールにブラックオパール! まさにそんな感じです!
腹黒さ……も、王族としては必要な要素ですからね。身につけましたとも(笑)
研磨姫の前でしか出さないかもしれませんけどねー♪
目覚める切っ掛け辺りから、再登場までの王子視点も追加してほしいです♪
流星ノ海さま、感想ありがとうございます(^^)/
そうですね、そのあたりはあまり書けていないのでいいですね! 検討します!
番外編はまだ一つしか構想を練っていないので、今後もご希望あれば考えたいと思います!