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ちんちくりんと、ぼんっ、きゅっ、ぼーん

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 その時、不意にフィオラの体が宙に浮く。 フィオラが空を飛んだわけではない。
 見上げると、フィオラの両脇を抱えて持ち上げているベスターの顔があった。 

「え……」 

「失礼します、お嬢様。でも、これであいつと真面目に取り合う必要がないことは分かりましたよね?」 

 ベスターはフィオラを、踏み台にしていた木箱からゆっくりと下ろす。
 フィオラの視界からキンバリーの姿が見えなくなった。 と、思ったら、キンバリーが覗き窓まで寄って来た。
 キンバリーの顔は余裕で覗き窓に届くようだ。窓から目元を覗かせ、その視線はしっかりとフィオラを捉えていた。 

「いいか。俺がここから出たら、直ぐに魔女を連れて来るからな!それまでに出て行くんだ!」 

「もう!いい加減にしろ!」 

「ベスター。ちょっと、待って」 

 キンバリーの減らず口は終わらない。
 覗き窓を閉めようとしたベスターの腕を、フィオラは咄嗟に止めていた。 
 せっかく下ろしてもらったのに悪いなと思いつつ、フィオラはもう一度木箱に上る。扉を介し、キンバリーとしっかり目を合わせた。 

「な、何だよ……」 

 まさか向かって来るとは思っていなかったのか、至近距離でじっと見つめられたキンバリーは意外にもたじろいでいた。 

「安心しろ。私は別に結婚したいとは思っていない」 

 これは、フィオラの本心だった。レイと二人でのんびり過ごせるようになれたら、それでいいと思っている。 
 話が通じそうもない相手にわざわざこんなことを伝える必要もないのだろうが、何も言わないのも何だか負けたような気がして癪に障るのだ。 

「……ふっ。どうだかな……まあ、魔女に会えばお前も分かるだろう」 

 キンバリーは、さも自分の事のように得意気に語る。 
 フィオラは失敗したと後悔した。何も言わないのも癪だったが、言ったら言ったでキンバリーのこの態度も癪に障った。 
 キンバリーの言う魔女とは、もしかしなくともフィオラのことなのだが、何が分かるのかは分からない。フィオラの知らない何かがあるというのか。 ぽかんとしているフィオラに、キンバリーが「ふん」と、鼻を鳴らす。 

「とにかく強い魔女だ。その実力は団長をも凌ぐのではないかと俺は踏んでいる」 

「ぇっ……えへ、そうかな?」 

 その魔女とは、もしかしなくともフィオラのこと。
 突然褒められたフィオラは、思わず照れて頰を緩ませる。しかし、そんな事は知らないキンバリーは怪訝そうに眉を顰めた。 

「……何で、お前が照れてるんだ。それに、彼女はお前みたいなちんちくりんじゃなくて、男なら誰もが見惚れるほどの美貌と、ぼんっ、きゅっ、ぼーんを兼ね備えてるんだぞっ!」 

 キンバリーが顔の横でふにふにと動かしている手の動きがなんだかいやらしい。 
 それでもそれは、フィオラがイメージした「大人の女」がしっかりと伝わっているということだ。……と、思う。 
 キンバリーとしては全く意図していないだろうが、自分の魔法を褒められたと感じたフィオラは一層照れた。ぽりぽりと頭をかく。 

「へへ……大人の女ってやつだよね?」 

「だからっ!……何でお前が照れてるんだよ!馬鹿なのか?!」 

 確かに、よく考えなくともフィオラ本人は侮辱されているのである。複雑な心境ではあった。 
 時間差で腹が立って来たフィオラは「むぅ」と、口を尖らせた。 ついつい口調が、嫌味っぽくなる。 

「その魔女さまが、公爵と結婚してくれるの前提なんだねー」 

「あったり前だろっ!団長だぞっ?!」 

 真っ赤になって言い返して来るキンバリーが面白くて、フィオラの嫌味は続く。 

「そもそも、その魔女って独身なのー?いや、その前に、どこにいるのー?」 

「そっ、だからっ、……お前、俺を馬鹿にしてんのか!!直ぐに見付けて連れて来るって言ってんだろぉー!!」 

「へー、どうやって??」 

 フィオラはわざとらしく「ぷー、くすくす」と、嗤ってみせた。 

「ぅぐっ、そっ……お前、やっぱり俺を馬鹿にしてんだろぉー!!」 

 特に策などないのだろう。言葉に詰まったキンバリーが怒りに任せて喚きながら扉を叩く。 
 フィオラに危害が加わるわけではないが、ウォーリーが素早くフィオラを扉から引き剥がした。 

「さっ、お嬢様。本当にもうお終いにして下さい。これ以上、ここにいても何も良いことはありません」 

 ベスターも頷きながら覗き窓の扉を閉めた。キンバリーの喚き声が、ほんの少し小さくなる。 

「お嬢様も……あまり、あのような人間を煽ることはしない方がよろしいですよ」 

 眉尻を下げたウォーリーが「危ないです」と、小声で言った。 

『もっと、言ってやって下さい。確かに強い子なんですが、敢えて煽らなくとも良いと思うのですよね。ですが、しかし……やはり、普段の話し相手がいないのが原因なのでしょうね……友人の一人もいないので』 

 今まで黙っていたレイが大袈裟に肩を竦めると、ウォーリーの耳元で切々と語り始めた。しかし、当然その声は聞こえてはいない。

  何、言ってんだよ…… 

 何とも言えない表情でレイを見ていたフィオラを見ているウォーリーもまた、何とも言えない表情であった。









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