49 / 54
ちんちくりんと、ぼんっ、きゅっ、ぼーん
しおりを挟む
その時、不意にフィオラの体が宙に浮く。 フィオラが空を飛んだわけではない。
見上げると、フィオラの両脇を抱えて持ち上げているベスターの顔があった。
「え……」
「失礼します、お嬢様。でも、これであいつと真面目に取り合う必要がないことは分かりましたよね?」
ベスターはフィオラを、踏み台にしていた木箱からゆっくりと下ろす。
フィオラの視界からキンバリーの姿が見えなくなった。 と、思ったら、キンバリーが覗き窓まで寄って来た。
キンバリーの顔は余裕で覗き窓に届くようだ。窓から目元を覗かせ、その視線はしっかりとフィオラを捉えていた。
「いいか。俺がここから出たら、直ぐに魔女を連れて来るからな!それまでに出て行くんだ!」
「もう!いい加減にしろ!」
「ベスター。ちょっと、待って」
キンバリーの減らず口は終わらない。
覗き窓を閉めようとしたベスターの腕を、フィオラは咄嗟に止めていた。
せっかく下ろしてもらったのに悪いなと思いつつ、フィオラはもう一度木箱に上る。扉を介し、キンバリーとしっかり目を合わせた。
「な、何だよ……」
まさか向かって来るとは思っていなかったのか、至近距離でじっと見つめられたキンバリーは意外にもたじろいでいた。
「安心しろ。私は別に結婚したいとは思っていない」
これは、フィオラの本心だった。レイと二人でのんびり過ごせるようになれたら、それでいいと思っている。
話が通じそうもない相手にわざわざこんなことを伝える必要もないのだろうが、何も言わないのも何だか負けたような気がして癪に障るのだ。
「……ふっ。どうだかな……まあ、魔女に会えばお前も分かるだろう」
キンバリーは、さも自分の事のように得意気に語る。
フィオラは失敗したと後悔した。何も言わないのも癪だったが、言ったら言ったでキンバリーのこの態度も癪に障った。
キンバリーの言う魔女とは、もしかしなくともフィオラのことなのだが、何が分かるのかは分からない。フィオラの知らない何かがあるというのか。 ぽかんとしているフィオラに、キンバリーが「ふん」と、鼻を鳴らす。
「とにかく強い魔女だ。その実力は団長をも凌ぐのではないかと俺は踏んでいる」
「ぇっ……えへ、そうかな?」
その魔女とは、もしかしなくともフィオラのこと。
突然褒められたフィオラは、思わず照れて頰を緩ませる。しかし、そんな事は知らないキンバリーは怪訝そうに眉を顰めた。
「……何で、お前が照れてるんだ。それに、彼女はお前みたいなちんちくりんじゃなくて、男なら誰もが見惚れるほどの美貌と、ぼんっ、きゅっ、ぼーんを兼ね備えてるんだぞっ!」
キンバリーが顔の横でふにふにと動かしている手の動きがなんだかいやらしい。
それでもそれは、フィオラがイメージした「大人の女」がしっかりと伝わっているということだ。……と、思う。
キンバリーとしては全く意図していないだろうが、自分の魔法を褒められたと感じたフィオラは一層照れた。ぽりぽりと頭をかく。
「へへ……大人の女ってやつだよね?」
「だからっ!……何でお前が照れてるんだよ!馬鹿なのか?!」
確かに、よく考えなくともフィオラ本人は侮辱されているのである。複雑な心境ではあった。
時間差で腹が立って来たフィオラは「むぅ」と、口を尖らせた。 ついつい口調が、嫌味っぽくなる。
「その魔女さまが、公爵と結婚してくれるの前提なんだねー」
「あったり前だろっ!団長だぞっ?!」
真っ赤になって言い返して来るキンバリーが面白くて、フィオラの嫌味は続く。
「そもそも、その魔女って独身なのー?いや、その前に、どこにいるのー?」
「そっ、だからっ、……お前、俺を馬鹿にしてんのか!!直ぐに見付けて連れて来るって言ってんだろぉー!!」
「へー、どうやって??」
フィオラはわざとらしく「ぷー、くすくす」と、嗤ってみせた。
「ぅぐっ、そっ……お前、やっぱり俺を馬鹿にしてんだろぉー!!」
特に策などないのだろう。言葉に詰まったキンバリーが怒りに任せて喚きながら扉を叩く。
フィオラに危害が加わるわけではないが、ウォーリーが素早くフィオラを扉から引き剥がした。
「さっ、お嬢様。本当にもうお終いにして下さい。これ以上、ここにいても何も良いことはありません」
ベスターも頷きながら覗き窓の扉を閉めた。キンバリーの喚き声が、ほんの少し小さくなる。
「お嬢様も……あまり、あのような人間を煽ることはしない方がよろしいですよ」
眉尻を下げたウォーリーが「危ないです」と、小声で言った。
『もっと、言ってやって下さい。確かに強い子なんですが、敢えて煽らなくとも良いと思うのですよね。ですが、しかし……やはり、普段の話し相手がいないのが原因なのでしょうね……友人の一人もいないので』
今まで黙っていたレイが大袈裟に肩を竦めると、ウォーリーの耳元で切々と語り始めた。しかし、当然その声は聞こえてはいない。
何、言ってんだよ……
何とも言えない表情でレイを見ていたフィオラを見ているウォーリーもまた、何とも言えない表情であった。
見上げると、フィオラの両脇を抱えて持ち上げているベスターの顔があった。
「え……」
「失礼します、お嬢様。でも、これであいつと真面目に取り合う必要がないことは分かりましたよね?」
ベスターはフィオラを、踏み台にしていた木箱からゆっくりと下ろす。
フィオラの視界からキンバリーの姿が見えなくなった。 と、思ったら、キンバリーが覗き窓まで寄って来た。
キンバリーの顔は余裕で覗き窓に届くようだ。窓から目元を覗かせ、その視線はしっかりとフィオラを捉えていた。
「いいか。俺がここから出たら、直ぐに魔女を連れて来るからな!それまでに出て行くんだ!」
「もう!いい加減にしろ!」
「ベスター。ちょっと、待って」
キンバリーの減らず口は終わらない。
覗き窓を閉めようとしたベスターの腕を、フィオラは咄嗟に止めていた。
せっかく下ろしてもらったのに悪いなと思いつつ、フィオラはもう一度木箱に上る。扉を介し、キンバリーとしっかり目を合わせた。
「な、何だよ……」
まさか向かって来るとは思っていなかったのか、至近距離でじっと見つめられたキンバリーは意外にもたじろいでいた。
「安心しろ。私は別に結婚したいとは思っていない」
これは、フィオラの本心だった。レイと二人でのんびり過ごせるようになれたら、それでいいと思っている。
話が通じそうもない相手にわざわざこんなことを伝える必要もないのだろうが、何も言わないのも何だか負けたような気がして癪に障るのだ。
「……ふっ。どうだかな……まあ、魔女に会えばお前も分かるだろう」
キンバリーは、さも自分の事のように得意気に語る。
フィオラは失敗したと後悔した。何も言わないのも癪だったが、言ったら言ったでキンバリーのこの態度も癪に障った。
キンバリーの言う魔女とは、もしかしなくともフィオラのことなのだが、何が分かるのかは分からない。フィオラの知らない何かがあるというのか。 ぽかんとしているフィオラに、キンバリーが「ふん」と、鼻を鳴らす。
「とにかく強い魔女だ。その実力は団長をも凌ぐのではないかと俺は踏んでいる」
「ぇっ……えへ、そうかな?」
その魔女とは、もしかしなくともフィオラのこと。
突然褒められたフィオラは、思わず照れて頰を緩ませる。しかし、そんな事は知らないキンバリーは怪訝そうに眉を顰めた。
「……何で、お前が照れてるんだ。それに、彼女はお前みたいなちんちくりんじゃなくて、男なら誰もが見惚れるほどの美貌と、ぼんっ、きゅっ、ぼーんを兼ね備えてるんだぞっ!」
キンバリーが顔の横でふにふにと動かしている手の動きがなんだかいやらしい。
それでもそれは、フィオラがイメージした「大人の女」がしっかりと伝わっているということだ。……と、思う。
キンバリーとしては全く意図していないだろうが、自分の魔法を褒められたと感じたフィオラは一層照れた。ぽりぽりと頭をかく。
「へへ……大人の女ってやつだよね?」
「だからっ!……何でお前が照れてるんだよ!馬鹿なのか?!」
確かに、よく考えなくともフィオラ本人は侮辱されているのである。複雑な心境ではあった。
時間差で腹が立って来たフィオラは「むぅ」と、口を尖らせた。 ついつい口調が、嫌味っぽくなる。
「その魔女さまが、公爵と結婚してくれるの前提なんだねー」
「あったり前だろっ!団長だぞっ?!」
真っ赤になって言い返して来るキンバリーが面白くて、フィオラの嫌味は続く。
「そもそも、その魔女って独身なのー?いや、その前に、どこにいるのー?」
「そっ、だからっ、……お前、俺を馬鹿にしてんのか!!直ぐに見付けて連れて来るって言ってんだろぉー!!」
「へー、どうやって??」
フィオラはわざとらしく「ぷー、くすくす」と、嗤ってみせた。
「ぅぐっ、そっ……お前、やっぱり俺を馬鹿にしてんだろぉー!!」
特に策などないのだろう。言葉に詰まったキンバリーが怒りに任せて喚きながら扉を叩く。
フィオラに危害が加わるわけではないが、ウォーリーが素早くフィオラを扉から引き剥がした。
「さっ、お嬢様。本当にもうお終いにして下さい。これ以上、ここにいても何も良いことはありません」
ベスターも頷きながら覗き窓の扉を閉めた。キンバリーの喚き声が、ほんの少し小さくなる。
「お嬢様も……あまり、あのような人間を煽ることはしない方がよろしいですよ」
眉尻を下げたウォーリーが「危ないです」と、小声で言った。
『もっと、言ってやって下さい。確かに強い子なんですが、敢えて煽らなくとも良いと思うのですよね。ですが、しかし……やはり、普段の話し相手がいないのが原因なのでしょうね……友人の一人もいないので』
今まで黙っていたレイが大袈裟に肩を竦めると、ウォーリーの耳元で切々と語り始めた。しかし、当然その声は聞こえてはいない。
何、言ってんだよ……
何とも言えない表情でレイを見ていたフィオラを見ているウォーリーもまた、何とも言えない表情であった。
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~
黒鴉宙ニ
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」
自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。
全然関係ない第三者がおこなっていく復讐?
そこまでざまぁ要素は強くないです。
最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる