この空の向こう側に

時猫堂

文字の大きさ
上 下
3 / 4

【残された翼】

しおりを挟む
【この空の向こう側に】

第三話

「残された翼」

「空の港」を離れて、アマネが気球でたどり着いたのは「雲の岬」

海から空まで、高くそびえ立つ山がそこにあった。
その山の停着所に気球を着地させた。

「空の港」から同行してくれた係員が、気球を固定しながらアマネに言った。

「停着所の脇にある道を進んでみなさい。この山の管理人がいるから。フクロウさんからの紹介だと言えば大丈夫」

係員は停着所の脇にある矢印の看板を指した。

「この山の管理人さんはフクロウさんの古い友人なんだよ。確か昔はこの空を飛んで戦っていた歴戦の鷲(わし)だったらしい」

「なぜかもう飛ばずにこの山で暮らしているらしけど」

アマネは停着所の脇にある小道を進んだ。
木々が繁る森の中を小道が続いている。
頭の上に広がる枝葉が、空を隠して少し暗かった。

そして森を抜けた。

視界に青い大空が広がった。

小道はこの山から突きだした岬のような場所に続いている。

その岬の先端には誰か、椅子に座って岬の向こう側を見ていた。
この岬からは空と海が交わる水平線が見えた。

「あのー、この山の管理人さんですか?」

アマネは恐る恐る岬の先端に座る者に声をかけた。

「ああ、そうだよ」

椅子に座っていたのは老いた鷲(わし)だった。
その額には大きな傷痕がある。

「僕は空の港から来たんです。フクロウさんにここに行ってほしいと言われました。」

アマネは自分が「雲の岬」に来るまでの経緯を説明した。
老いた鷲は静かにアマネの話を聞いていた。

「そうか、お嬢ちゃんは海から来たのか」

鷲は嬉しそうに言った。

「わしは海が好きでな。海を泳いでみたかったよ」

「フクロウとは昔からの付き合いでな。この空に戦争があった時は一緒に戦った戦友だった」

鷲はアマネを見つめた。

「昔は空の世界と海の世界を行き来することが無くてな、わしらは海を泳げないし、海の者は空を飛ぶことができない。」

「だからわしは海に憧れた」

岬から空を飛んでいく鳥たちの群れが見えた。

「戦争でさんざん空を飛んだ。友達はほとんど空から落ちて消えてな。身体が残らないからこの山に墓をたくさん作った」

「もう空を飛びたくはない」

アマネがたずねた。

「まだ翼があるのに?」

鷲は静かに微笑んだ。

「翼があるから空を飛ばなくてはならない理由にはならないさ」

すると後ろから誰かが走ってやってきた。

翼の小さい子供の鷲だ。
何か紙を持っている。

「おじいちゃん。海の絵が描けたよー」

子供の鷲が紙に描かれた絵を見せてきた。
この岬から見た海だろうか。

「おお、描けたか。お前は海が好きだからな」

「うん、僕はいつか海の世界に行ってみたいんだ。行けたらおじいちゃんに海のお話をしてあげるね」

子供の鷲はまた走って離れて行った。

「そうだ、それでいいんだ。」

老いた鷲は独り言のように呟いた。

「空の住人が空に囚われなくていい」


「翼は自由だ」


老いた鷲はアマネを見た。

「海から来た人よ、ここは空の終わりの場所だ。この先に空があっても飛ぶ者は限られる。」

「もしまたここに来ることがあったら海の世界を教えてくれ。いつか行ってみたいんだ」

「わしにはまだ翼が残されているから」

アマネは頷いた。

アマネは鷲と別れて気球に戻った。
そろそろ海のくじらに戻らなくてはならない。
くじらにいる仲間たちには必ず早めに戻れと念押しされていた。

気球が「雲の岬」を離陸して「空の港」へ進路をとった。
すでに日が傾いて、山と雲が茜色(あかねいろ)に染まっている。

終わりの夕陽が空を満たしていた。


「次回予告」

「雲の岬」から海のくじらへ帰るアマネ。

空から海の世界に帰る彼女が思う事とは。

空に生きる者と海を旅する者、それぞれの世界は、境界線を越えた水平線の先を見つめて歩み続ける。

【この空を向こう側に】

最終話

「夜空の向こうに」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

入れ替わった二人

廣瀬純一
ファンタジー
ある日突然、男と女の身体が入れ替わる話です。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

推しのVTuberに高額スパチャするために世界最強の探索者になった男の話

福寿草真
ファンタジー
とあるVTuberを長年応援している主人公、柊木蓮也。ある日彼はふと思った。 「高額スパチャしてみてぇ」と。 しかし彼はしがないサラリーマンであり、高額スパチャを躊躇する程度の稼ぎしかない。そんな折、蓮也はダンジョン探索者の稼ぎが良いことを思い出し── これは『推しに高額スパチャしたい』という理由で探索者になり、あれよあれよと世界最強になってしまう1人のぶっ飛んだ男の物語。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

処理中です...