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【残された翼】
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【この空の向こう側に】
第三話
「残された翼」
「空の港」を離れて、アマネが気球でたどり着いたのは「雲の岬」
海から空まで、高くそびえ立つ山がそこにあった。
その山の停着所に気球を着地させた。
「空の港」から同行してくれた係員が、気球を固定しながらアマネに言った。
「停着所の脇にある道を進んでみなさい。この山の管理人がいるから。フクロウさんからの紹介だと言えば大丈夫」
係員は停着所の脇にある矢印の看板を指した。
「この山の管理人さんはフクロウさんの古い友人なんだよ。確か昔はこの空を飛んで戦っていた歴戦の鷲(わし)だったらしい」
「なぜかもう飛ばずにこの山で暮らしているらしけど」
アマネは停着所の脇にある小道を進んだ。
木々が繁る森の中を小道が続いている。
頭の上に広がる枝葉が、空を隠して少し暗かった。
そして森を抜けた。
視界に青い大空が広がった。
小道はこの山から突きだした岬のような場所に続いている。
その岬の先端には誰か、椅子に座って岬の向こう側を見ていた。
この岬からは空と海が交わる水平線が見えた。
「あのー、この山の管理人さんですか?」
アマネは恐る恐る岬の先端に座る者に声をかけた。
「ああ、そうだよ」
椅子に座っていたのは老いた鷲(わし)だった。
その額には大きな傷痕がある。
「僕は空の港から来たんです。フクロウさんにここに行ってほしいと言われました。」
アマネは自分が「雲の岬」に来るまでの経緯を説明した。
老いた鷲は静かにアマネの話を聞いていた。
「そうか、お嬢ちゃんは海から来たのか」
鷲は嬉しそうに言った。
「わしは海が好きでな。海を泳いでみたかったよ」
「フクロウとは昔からの付き合いでな。この空に戦争があった時は一緒に戦った戦友だった」
鷲はアマネを見つめた。
「昔は空の世界と海の世界を行き来することが無くてな、わしらは海を泳げないし、海の者は空を飛ぶことができない。」
「だからわしは海に憧れた」
岬から空を飛んでいく鳥たちの群れが見えた。
「戦争でさんざん空を飛んだ。友達はほとんど空から落ちて消えてな。身体が残らないからこの山に墓をたくさん作った」
「もう空を飛びたくはない」
アマネがたずねた。
「まだ翼があるのに?」
鷲は静かに微笑んだ。
「翼があるから空を飛ばなくてはならない理由にはならないさ」
すると後ろから誰かが走ってやってきた。
翼の小さい子供の鷲だ。
何か紙を持っている。
「おじいちゃん。海の絵が描けたよー」
子供の鷲が紙に描かれた絵を見せてきた。
この岬から見た海だろうか。
「おお、描けたか。お前は海が好きだからな」
「うん、僕はいつか海の世界に行ってみたいんだ。行けたらおじいちゃんに海のお話をしてあげるね」
子供の鷲はまた走って離れて行った。
「そうだ、それでいいんだ。」
老いた鷲は独り言のように呟いた。
「空の住人が空に囚われなくていい」
「翼は自由だ」
老いた鷲はアマネを見た。
「海から来た人よ、ここは空の終わりの場所だ。この先に空があっても飛ぶ者は限られる。」
「もしまたここに来ることがあったら海の世界を教えてくれ。いつか行ってみたいんだ」
「わしにはまだ翼が残されているから」
アマネは頷いた。
アマネは鷲と別れて気球に戻った。
そろそろ海のくじらに戻らなくてはならない。
くじらにいる仲間たちには必ず早めに戻れと念押しされていた。
気球が「雲の岬」を離陸して「空の港」へ進路をとった。
すでに日が傾いて、山と雲が茜色(あかねいろ)に染まっている。
終わりの夕陽が空を満たしていた。
「次回予告」
「雲の岬」から海のくじらへ帰るアマネ。
空から海の世界に帰る彼女が思う事とは。
空に生きる者と海を旅する者、それぞれの世界は、境界線を越えた水平線の先を見つめて歩み続ける。
【この空を向こう側に】
最終話
「夜空の向こうに」
第三話
「残された翼」
「空の港」を離れて、アマネが気球でたどり着いたのは「雲の岬」
海から空まで、高くそびえ立つ山がそこにあった。
その山の停着所に気球を着地させた。
「空の港」から同行してくれた係員が、気球を固定しながらアマネに言った。
「停着所の脇にある道を進んでみなさい。この山の管理人がいるから。フクロウさんからの紹介だと言えば大丈夫」
係員は停着所の脇にある矢印の看板を指した。
「この山の管理人さんはフクロウさんの古い友人なんだよ。確か昔はこの空を飛んで戦っていた歴戦の鷲(わし)だったらしい」
「なぜかもう飛ばずにこの山で暮らしているらしけど」
アマネは停着所の脇にある小道を進んだ。
木々が繁る森の中を小道が続いている。
頭の上に広がる枝葉が、空を隠して少し暗かった。
そして森を抜けた。
視界に青い大空が広がった。
小道はこの山から突きだした岬のような場所に続いている。
その岬の先端には誰か、椅子に座って岬の向こう側を見ていた。
この岬からは空と海が交わる水平線が見えた。
「あのー、この山の管理人さんですか?」
アマネは恐る恐る岬の先端に座る者に声をかけた。
「ああ、そうだよ」
椅子に座っていたのは老いた鷲(わし)だった。
その額には大きな傷痕がある。
「僕は空の港から来たんです。フクロウさんにここに行ってほしいと言われました。」
アマネは自分が「雲の岬」に来るまでの経緯を説明した。
老いた鷲は静かにアマネの話を聞いていた。
「そうか、お嬢ちゃんは海から来たのか」
鷲は嬉しそうに言った。
「わしは海が好きでな。海を泳いでみたかったよ」
「フクロウとは昔からの付き合いでな。この空に戦争があった時は一緒に戦った戦友だった」
鷲はアマネを見つめた。
「昔は空の世界と海の世界を行き来することが無くてな、わしらは海を泳げないし、海の者は空を飛ぶことができない。」
「だからわしは海に憧れた」
岬から空を飛んでいく鳥たちの群れが見えた。
「戦争でさんざん空を飛んだ。友達はほとんど空から落ちて消えてな。身体が残らないからこの山に墓をたくさん作った」
「もう空を飛びたくはない」
アマネがたずねた。
「まだ翼があるのに?」
鷲は静かに微笑んだ。
「翼があるから空を飛ばなくてはならない理由にはならないさ」
すると後ろから誰かが走ってやってきた。
翼の小さい子供の鷲だ。
何か紙を持っている。
「おじいちゃん。海の絵が描けたよー」
子供の鷲が紙に描かれた絵を見せてきた。
この岬から見た海だろうか。
「おお、描けたか。お前は海が好きだからな」
「うん、僕はいつか海の世界に行ってみたいんだ。行けたらおじいちゃんに海のお話をしてあげるね」
子供の鷲はまた走って離れて行った。
「そうだ、それでいいんだ。」
老いた鷲は独り言のように呟いた。
「空の住人が空に囚われなくていい」
「翼は自由だ」
老いた鷲はアマネを見た。
「海から来た人よ、ここは空の終わりの場所だ。この先に空があっても飛ぶ者は限られる。」
「もしまたここに来ることがあったら海の世界を教えてくれ。いつか行ってみたいんだ」
「わしにはまだ翼が残されているから」
アマネは頷いた。
アマネは鷲と別れて気球に戻った。
そろそろ海のくじらに戻らなくてはならない。
くじらにいる仲間たちには必ず早めに戻れと念押しされていた。
気球が「雲の岬」を離陸して「空の港」へ進路をとった。
すでに日が傾いて、山と雲が茜色(あかねいろ)に染まっている。
終わりの夕陽が空を満たしていた。
「次回予告」
「雲の岬」から海のくじらへ帰るアマネ。
空から海の世界に帰る彼女が思う事とは。
空に生きる者と海を旅する者、それぞれの世界は、境界線を越えた水平線の先を見つめて歩み続ける。
【この空を向こう側に】
最終話
「夜空の向こうに」
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