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青崎真司郎と暴走
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「ああああああああああ!!!!!!」
気力だけで突き動かした体は限界などとうに忘れてしまっていた。モテる力を本当に寸分の余りもなく全て乗せた最後の一発。
それはしっかりと草戯原の頬を捉えた。
「ーーーッガアアア!!」
草戯原は白目を剥いてその場に倒れた。
それでもなお、抗うように草戯原は巨大な唸り声を上げる。
それは辺り一辺を巻き込んで、破壊を生む。
「ーーーック、ッソがあ!!」
苦痛の声が限界の青崎と白松に畳み掛け、2人は血を流しながら倒れる。
すでに薄くなってきた意識を鼓膜の振動が頭痛と吐き気を伴いながら、じわじわと刈り取る。
「ゥゥゥゥゥァァァァァァァァァ」
「持って、いかれる……!」
ギリギリの状況の中、2人はなんとか意識を保ち続ける。刹那、
『……お母さん』
唸り声に混ざって届いてきたのは、はかなげな少年の声。その声は青崎と白松の脳に一つの映像を見せた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
たしかに日が昇っている空が目に見えていても少年の視界に広がるのは暗闇に包まれた世界だった。
顔は俯き、体は縮こまり、自信のない足取りは常に周りを恐れていた。
「なあなあ見てよこのグローブ! この前の誕生日に買ってもらったんだ!」
「いいなあ! 超かっけえじゃん!」
遠くの公園から自分と同じくらいの歳の少年たちの騒ぎ声が聞こえてくる。自分はただ1人闇を行く。もう生きる意味も希望もとっくに失っていた。
日が沈み夜が訪れて、家に1人留守番をしている。静かな部屋の中で少年は机について紙に何かを書いている。しばらくするとガチャっとドアの開く音がした。
やがて疲れた様子の母親がリビングに姿を現した。
「お母さん、お帰り!」
少年はやっと晴れた顔を浮かべると母親の元に駆け寄る。しかし母親はそんな少年に1発、ビンタをする。
「イライラするから話しかけないで。疲れてるのわかるでしょう? 空気を読むことすら出来ないなんてどこまで落ちこぼれなのかしら。」
「ごめ、んなさい。」
詰まらせながら謝罪の言葉を悲しそうに連ねる少年の右手には『おかあさんたんじょうびおめでとう!』の文字と似顔絵が描かれた紙がくしゃくしゃに握りつぶされていた。
情景が移り変わる。暗い部屋で地を這うような姿勢の母親が怯えるようすで少年をみる。
「お母さんが間違っていた! あなたは落ちこぼれなんかじゃなかった! 素晴らしい自慢の子よ! あなたは選ばれた特別な人間なの!」
「そう。僕様は力を得て特別になったんだ。やっと、だよ。ずっと考えていたことがあるんだ母さん、いやーーークソババア。」
少年が狂気に満ちた笑みを浮かべたとき、タイミングよく窓の外でカミナリが落ちて少年の顔は光に照らされる。
「力を手に入れたら今まで僕様をバカにしたやつを全員ぶっ殺して強者になるってね。まずはおまえだ。」
「やめーーー!!!」
抵抗する声が少年に届くことはなく母親は一瞬で息を引き取った。血を流すことももがき苦しむこともできずに。
また一つカミナリが落ちて、少年は暗い部屋にまた1人だ。いつものように1人。だがこれまでの自分とは違う。たった今から自分は特別な人間になったのだ。
荒れ果てた辛い思い出の染み込んでいる家には少年の笑い声がただ虚しくこだましていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ーーーッフ、ハハ、ハハハハハハ!!!」
映像が途切れると少年ーーーもとい草戯原は高笑いする。
草戯原は完全に白目剥いていて、体もだらんと垂れているのにしっかりと大地を踏みしめている。口元では凍えているかのようにカチカチカチという音を歯が奏でている。
完全に正気の沙汰ではない。
「これはかなりやばそうだ。」
暴走状態へと覚醒した草戯原とは対照的にこちらは今手押し相撲したら小学生にも負けてしまいそうなほどにボロボロでギリギリの青崎と白松。
やる前から結果が見えすぎていて逆に笑えてしまうほどだ。
「ここまでくるともう化け物だぜ、草戯原さんよぉ……。」
引きつった顔で白松が言う。
「こうなったら白松も暴走するしかねえ。いけっ!やるんだ!」
「できねえよそんなもん、ていうかおまえやれよ。」
「バカかおまえ、俺なんて暴走しても能力が弱いから何の意味もないだろうが。これ以上鼻が良くなってもいいことなんてないんだからな?」
「こんな状況で後ろ向きに前向きになるやつがあるか。」
呆れたように白松が言った。途端に草戯原がこちらに向かって一歩ずつ近づいてくる。
「一つだけ俺に考えがある。」
唐突に青崎が言うと白松はため息か安堵の息か、長く息を吐いた。
「あるんだったら最初から言えよ。」
「まあそう言うな。この作戦はおまえ任せだから他に何かないか考えてたんだよ。」
「で? その作戦ってのは?」
「究極奥義を生み出すんだ。」
青崎はドヤ顔で突拍子も無いことを言いはじめる。
「は……?」
予想外すぎた回答に白松は目を丸くした。
気力だけで突き動かした体は限界などとうに忘れてしまっていた。モテる力を本当に寸分の余りもなく全て乗せた最後の一発。
それはしっかりと草戯原の頬を捉えた。
「ーーーッガアアア!!」
草戯原は白目を剥いてその場に倒れた。
それでもなお、抗うように草戯原は巨大な唸り声を上げる。
それは辺り一辺を巻き込んで、破壊を生む。
「ーーーック、ッソがあ!!」
苦痛の声が限界の青崎と白松に畳み掛け、2人は血を流しながら倒れる。
すでに薄くなってきた意識を鼓膜の振動が頭痛と吐き気を伴いながら、じわじわと刈り取る。
「ゥゥゥゥゥァァァァァァァァァ」
「持って、いかれる……!」
ギリギリの状況の中、2人はなんとか意識を保ち続ける。刹那、
『……お母さん』
唸り声に混ざって届いてきたのは、はかなげな少年の声。その声は青崎と白松の脳に一つの映像を見せた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
たしかに日が昇っている空が目に見えていても少年の視界に広がるのは暗闇に包まれた世界だった。
顔は俯き、体は縮こまり、自信のない足取りは常に周りを恐れていた。
「なあなあ見てよこのグローブ! この前の誕生日に買ってもらったんだ!」
「いいなあ! 超かっけえじゃん!」
遠くの公園から自分と同じくらいの歳の少年たちの騒ぎ声が聞こえてくる。自分はただ1人闇を行く。もう生きる意味も希望もとっくに失っていた。
日が沈み夜が訪れて、家に1人留守番をしている。静かな部屋の中で少年は机について紙に何かを書いている。しばらくするとガチャっとドアの開く音がした。
やがて疲れた様子の母親がリビングに姿を現した。
「お母さん、お帰り!」
少年はやっと晴れた顔を浮かべると母親の元に駆け寄る。しかし母親はそんな少年に1発、ビンタをする。
「イライラするから話しかけないで。疲れてるのわかるでしょう? 空気を読むことすら出来ないなんてどこまで落ちこぼれなのかしら。」
「ごめ、んなさい。」
詰まらせながら謝罪の言葉を悲しそうに連ねる少年の右手には『おかあさんたんじょうびおめでとう!』の文字と似顔絵が描かれた紙がくしゃくしゃに握りつぶされていた。
情景が移り変わる。暗い部屋で地を這うような姿勢の母親が怯えるようすで少年をみる。
「お母さんが間違っていた! あなたは落ちこぼれなんかじゃなかった! 素晴らしい自慢の子よ! あなたは選ばれた特別な人間なの!」
「そう。僕様は力を得て特別になったんだ。やっと、だよ。ずっと考えていたことがあるんだ母さん、いやーーークソババア。」
少年が狂気に満ちた笑みを浮かべたとき、タイミングよく窓の外でカミナリが落ちて少年の顔は光に照らされる。
「力を手に入れたら今まで僕様をバカにしたやつを全員ぶっ殺して強者になるってね。まずはおまえだ。」
「やめーーー!!!」
抵抗する声が少年に届くことはなく母親は一瞬で息を引き取った。血を流すことももがき苦しむこともできずに。
また一つカミナリが落ちて、少年は暗い部屋にまた1人だ。いつものように1人。だがこれまでの自分とは違う。たった今から自分は特別な人間になったのだ。
荒れ果てた辛い思い出の染み込んでいる家には少年の笑い声がただ虚しくこだましていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ーーーッフ、ハハ、ハハハハハハ!!!」
映像が途切れると少年ーーーもとい草戯原は高笑いする。
草戯原は完全に白目剥いていて、体もだらんと垂れているのにしっかりと大地を踏みしめている。口元では凍えているかのようにカチカチカチという音を歯が奏でている。
完全に正気の沙汰ではない。
「これはかなりやばそうだ。」
暴走状態へと覚醒した草戯原とは対照的にこちらは今手押し相撲したら小学生にも負けてしまいそうなほどにボロボロでギリギリの青崎と白松。
やる前から結果が見えすぎていて逆に笑えてしまうほどだ。
「ここまでくるともう化け物だぜ、草戯原さんよぉ……。」
引きつった顔で白松が言う。
「こうなったら白松も暴走するしかねえ。いけっ!やるんだ!」
「できねえよそんなもん、ていうかおまえやれよ。」
「バカかおまえ、俺なんて暴走しても能力が弱いから何の意味もないだろうが。これ以上鼻が良くなってもいいことなんてないんだからな?」
「こんな状況で後ろ向きに前向きになるやつがあるか。」
呆れたように白松が言った。途端に草戯原がこちらに向かって一歩ずつ近づいてくる。
「一つだけ俺に考えがある。」
唐突に青崎が言うと白松はため息か安堵の息か、長く息を吐いた。
「あるんだったら最初から言えよ。」
「まあそう言うな。この作戦はおまえ任せだから他に何かないか考えてたんだよ。」
「で? その作戦ってのは?」
「究極奥義を生み出すんだ。」
青崎はドヤ顔で突拍子も無いことを言いはじめる。
「は……?」
予想外すぎた回答に白松は目を丸くした。
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