当然のごとく俺たちの街に平凡な日常などない。

星乃 優

文字の大きさ
上 下
33 / 33

青崎真司郎と取り引き

しおりを挟む
 「さあ、何を知りたい? 魔法について? 外について? それともーー君自身について、かな?」

 青崎の心を見透かすように薄ら笑いでスナルディは問うてくる。鼓動が一気に激しくなる。

 「俺のこと、知っているのか?」
 「……さあね?」

  ふわふわとした態度で曖昧な返事を述べるスナルディに青崎は気持ちが焦燥する。
 胸の内のイライラを隠すことなくわざとらしく表情に出した。

 「まあそう焦るなよ。冷静さを失うと得られたはずの情報を取りこぼす。プロからのアドバイスだ」
 「……」

 スカしかした顔で言うスナルディに青崎のヘイトは増すばかり。

 「プロの俺がタダで情報をやることはできない」

 「……格好の餌を目の前に吊るして無理矢理にでも食いつかせる。 なるほど、確かにプロを語るに相応しい汚いやり口だ」

 「ひどい言われようだが否定はしない。情報戦はいかに有利な立場を築くかが大切。これもまたアドバイスだ」

 薄ら笑いのスナルディに青崎は深く息を吐いて睨みつける。
 手口は汚いが手荒なわけではなく、あくまでフェアなやり口。油断すれば極少ない情報の対価に大量の情報を与えてしまうかもしれないという危険性はあるものの、得られた情報の正確性を見極める必要は無さそうだ。

 「何が知りたいんだ?」

 今度は逆に青崎が尋ねた。スナルディは顎に手を当て数秒考える素振りを見せてから、口元をニヤつかせた。

 「ーーある男について聞きたい」
 「ある男……? 悪いが俺はあまり顔が広くないからな、多分知らないぞ?」
 「知らないなら知らないでいい。それも立派な情報だからな」

 スナルディの考えは青崎には理解出来ない。しかし、警戒していたよりもずっと軽い情報で済むようであることは確かだ。

 「まあいいぜ。で、誰だよ。ある男ってのは」
 「そいつの名はーー」

 次の瞬間、スナルディが口にした名に青崎は耳を疑った。

 「ーー末高涼夜」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 傷だらけの体はとっくに限界を迎え、普段の何倍も重く感じた。
 否、もうすでに重みを感じてすらいないのかもしれない。
 ただそれでも白松は意地で歩みを止めない。

 「ふざけやがって……青崎め……!! 力を隠して……味方のふりをして……嘲笑っていやがったのか……?」

 やはりこの世の全ては強さ。強さこそが正義である。白松は改めてそう感じた。

 「強い奴を倒す。全員倒す。この力で、俺は最強になる……!」

 しばらく眠っていた野心が鋭い牙を備えて蘇る。何も変わらない、これまでそうして生きてきたように強い能力を持った強者たちをなぎ倒して行くことで自分を証明する。

 「俺は強者になるーー青崎、俺は次こそおまえを超えて……」

 瞬間、視界が揺らぐ。すると嘘みたいに全身の力がスッと抜けていった。
 白松はその場に倒れた。

 「冗談じゃねえ……クソが……動け、動きやがれぇ!!」

 声を荒げると体が悲鳴をあげ、吐血する。

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。

 何度心中で繰り返しても体は言うことを聞かない。

 なんで、なんで……!!

 脳裏に草戯原が浮かぶ。戦いの最中、草戯原の声から脳に流れ込んできた奴の過去。 無能力者だった自分に苦しみ、力を得て復讐をした強者。
 次には青崎が浮かんだ。本当の力を隠して、素手で白松や草戯原に戦いを挑んできた。
 しかし彼の目はいつも命懸けの本気の目で、それを白松は知らず知らずに尊敬していたのかもしれない。

 「そしてその理想像が崩れたショックで、君は青崎を一方的に突き放した。 うん、死に際になってようやく君は本心にたどり着けたようだね」

 どこか聞き覚えのある声がする。男の声。どこで耳にしたか。

 「君は青崎に裏切られたなんて思っちゃいない。あいつが力を隠して戦いに全力を尽くさないタイプなはずがないと理解している」

 知ったような口ぶりで一方的に語られる。いや、違う。語られてなどいない。
 ーーこれは今自分自身が考えていること、思っていること。一字一句違わず自分の言葉。

 「わかっているよ。そう、君は裏切られたと感じたわけでもなく、これから明かされて行くであろう青崎を取り巻く物語を恐れたわけでもない」

 「君は君を恐れた」

 「これまでと同じように」

 「君の弱さを恐れた」

 「青崎を取り巻く物語に置いてきぼりを食らってしまうことを恐れた」

 「だから君は自分から物語の脇役を降りたんだ」

 知ったような口ぶりはそこで収まり、途端に全身の痛みが消えて行くのがわかった。
 視界が彩りを取り戻して行く。
 頭にかかっていた靄が晴れるように思考が冴えて行く。

 そして、声の主を思い出す。
 同時に白松の視界は白松を見下ろす1人の男を捉える。 思い当たった声の主はどうやら正解らしい。

 「おまえ、名前なんだっけな。 確か青崎のダチの1人のーー」

 「末高涼夜。世界中の女の子の味方にして、モテない男子の目の敵さ」

 末高が爽やかイケメンスマイルを浮かべた。その張り付いたような笑顔に白松は草戯原以上の不気味さを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...