天使ちゃんと悪魔さん

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悲報、ガブリエル脱走

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「おい!聞いてくれえ!」
そう叫びながら回廊を走る天使の顔には焦燥の表情が色濃く出ていた。
「聞かせてくれ。」
「ガブリエル様が、ガブリエル様が…」
と言いかけると「またか…」と老いた天使はため息をつく。
「脱走したんだろう?」
「ああ…」
「問題はない、食事時には帰ってくるさ、多分な。」
不確定な言葉に「そうでしょうか」と不安を露わにする。二人共、内心焦っていた。



「サマちゃ~ん!来たぞ~!」
そう手を振って声を上げるのは白い羽織を着込んだ、熾天使ガブリエル。
「はぁ、ガブリエルさんですか…こんなところしょっちゅう来てたら堕天しますよ?」
そう注意喚起を行うのは黒いスーツに見を包んだ、大悪魔サマエル。
「大丈夫大丈夫。身も心もクソ上司(神)への忠誠心で出来てるから!忠誠心に脊椎が生えて飛び回ってるような存在だから!」
「神様クソ上司呼びしといて信憑性あると思いますかねえ。」
ここは地球。それも暗い暗い森の中。そんな地球に突き落とされた堕天使の一人が彼、サマエル。
「はあ、貴方のような明るい人に堕天するような経験は似合いませんよ。」
「それ私じゃなくて木だよ。」
サマエルは仕事ミスって目を潰された為盲目だった。そんな彼の目の周りは包帯でぐるぐる巻きにされている。
「それで?なんのようですか、お茶なら淹れますが…何にしますか?」
「私お茶とかよくわかんない。」
「ですよね。」
ガブリエルは何回も地球へ来ている。何故なら彼女は人々に神の言葉を伝える天使だから。だが、サマエルの所へ行くときはいつもお忍びである。そんな状況に慣れてしまったサマエルはすっかりお茶出しが上手くなってしまった。また、ガブリエルがよく来るので、前より掃除の頻度も上げたし、料理もできるようになった。
ガブリエルは飯時以外でお腹が空くといつもサマエルの元に行くのである。
「はいどうぞ。最近ナウなやつです。」
「目見えてないのにお茶は出せるんだな、お前。」
と何も考えてなさそうに言うその言葉はサマエルに取ってはまぁまぁ地雷だったがスルーする。
「てかこの黒い粒何?」
「タピオカとかいうらしいですよ、言ったでしょう?最近流行ってるらしいです。僕も買ってみたんですが、いかんせん苦手なタイプのヤツなんですよ。」
そのおかげか、タピオカの入った袋はまだ満タンであった。
「へえー、なんかブニブニしてて気持ち悪いなコレ。うん…私もそんなにだわ。」
苦手の意を口と顔に出すガブリエル。それをみて少しげんなりしたサマエルはタピオカがどういうものなのかを思い出す。
「まあそんなもんですよね…コレがナウいと言われる所以が見た目が良いから、らしいので。」
「ゆーて、見た目良いかな。カエルの卵にしか見えないんだけど。」
「貴女の、思ったことストレートに言葉にできるところ嫌いじゃないですよ。」
「それほどでも。デヘデヘ。」
「褒めてもないです。」
下らない言葉を並べながらチビチビミルクティーの部分だけを起用に飲み干していくガブリエル。それとは対象的に嫌な顔を隠しながら頑張ってタピオカの部分を先に飲み込むサマエル。後で地獄を見るのはガブリエルの方である。
「てか、神のブラック営業が最近またやばくなってきたんだよね。」
「デスマから逃げてきたわけですか。」
「そういう事。いやほんとに神様に楯突くわけにも行かないし、オブラート50枚に包んですごく優しくふわふわ言葉で言って差し上げる。地獄を見て死に晒せ汚物塗れの神様(笑)野郎。」
オブラート50枚使ってこれかよ。と思っサマエルは軽く引いた。自分が堕天したときでさえこんな感情わかなかったからだ。
「貴女心は堕天してますよね。」
「そりゃサマちゃんの所に入り浸ってる時点で…ねえ?」
「草も生えないですね。」
「草も生えないって何?」
「流行ってるんです。」
そういう家にガブリエルのコップに黒い粒だけが残されていく。
「うぎゃー!カエルの卵だけ残ったぁ!なぜだ!」
と困惑の意を口に出す。
「何故だもなにもないでしょう。よくそんなに起用に残しますね…ほら、こっちに寄越しなさい。」
サマエルの精一杯の善意であった。
「嫌だ!忌々しい存在は私が断罪してやる!」
「あんた断罪する天使じゃないでしょ!」
行動と反したガブリエルの言葉にツッコミをいれる。その間もガブリエルはストローの先っちょで怪訝そうにタピオカをツンツンしている。
「私決めた!この黒い粒を食べられるようにする!神の顔に見立てて食ってやるために!」 
かなりの荒んだ動機の行動ではあるが、苦手なものを克服しようとする姿勢をよく思ったサマエルはため息を付きながらではあるが「いいんじゃないですか?目標があるのはいいことですし。」と言葉を発した。
「取り敢えずそのタピオカと言うやつを神に差し入れしてやりたいから寄越せ。」
「喜んで。」
承諾を得たガブリエルはタピオカの袋を抱えて空の上へ飛んでいった。



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