上 下
1 / 5

01.『FS-000』

しおりを挟む
 爽やかな風の流れる、緑の美しい森。
 咲き誇る花々は歌い、小川のせせらぎは清らかな音楽を奏でています。
 妖精とは、こういった森にいるのです。

「わあ! もしかしてあなた……人間さん?」

 こちらに気付いた妖精が、羽をぱたぱた動かしながらやってきました。一見、十歳にも満たない幼い人間の女の子にも見えます。しかし人間よりも小柄で、背中にはガラスのような羽二対があります。

 薄いピンク色のボブヘア。左右に突き出すのは尖った耳。身に纏うは花で飾られたシルクのドレス。彼女は宙で興奮気味に裸足をぱたぱた動かし、水色の目を丸くさせました。

「人間さんって、初めて見たわ! 私はペルペル! 人間さんのお名前は……?」


 * * *


 妖精。
 それは世界に漂う生命エネルギーが形をなし、意思を持ったもの。
 彼ら自身で何かに使うことはないものの、その秘めた力は莫大。
 また世界と繋がった存在であり、いわばエネルギーの特異点的存在と言えた。

 ――妖精が発見されて以来、人類はこの存在が持つ莫大なエネルギーを、どうにかして得ようとしていた。
 しかし未だにうまくはいっていなかった。妖精を捕まえ、どうにかその秘めた力、エネルギーを抽出しようにも、失敗に終わる。

 何故なのか、と考えた者が一人。

「人間には扱えない形の力なのではないか?」

 雛鳥は、親が食べるものを食べることはできない。そのための身体や力、技術がないからだ。雛にとって、親鳥の食べるものとは、扱えないものである。

 では雛はどうやって食べ物を得ているのか。
 親鳥が一度食べたものを吐き出すことによって、雛は食事ができる。親鳥によって食べやすい形にされたものを、雛は食べるのだ。

「では妖精にどうにか、秘めた力を『人間が取り扱える形』にしてもらい、我々が得る、というのはどうか」

 とある研究所で進められた研究は、やがて妖精の子宮を使っての「エネルギー源となる物質の生成方法」にたどり着く。

 ただしそれは理論上。ただしそれは考察。
 実験が必要だった。

 ――妖精の捕獲計画の成果は、一体のみという結果に終わった。人間がまだ立ち入っていないような、つまり人間に対して警戒心の薄い妖精がいる場所を選んだが、一体を捕まえたところで、騒ぎに気付いた他の妖精は逃げてしまった。

 けれども、人間に興味を持って近づいてきた最初の一体だけは捕獲できた。実験体として使うには複数体欲しかった、というのが研究者達の本音であったが、無事に一体だけでも捕まえられたことに感謝した。

「――放して! 放してよぉ!」

 薄暗い部屋の中、台の上、仰向けにさせられ四肢を拘束された妖精が声を上げている。人間の幼女に似た姿の彼女は、台に縛り付けられるように拘束されているため、羽があっても役には立たない。

「なんでこんなことするの! ねえ!」

 台の傍らに立つ男が、妖精の声を無視して、その服を掴む。力任せに引っ張る。
 次の瞬間、服はもろく破れ散り、妖精の裸体が現れた。まだ膨らんでいない胸。小さな乳首。恐怖のためかひくひく動いている腹。毛の生えていない恥部はぴっちりと閉じている。

「ひいぃぃっ!?」

 妖精の水色の瞳が恐怖に見開かれる。目の前に出されたものを見て、その瞳はさらに大きく開かれた。

「なに……それ……なんかやだ……」

 ゆっくりと迫り来ていたのは、熱され真っ赤に燃え上がる鉄――焼き鏝だった。

「あっ、あっ、それやだ! こないで、こないでっ……!」

 妖精は涙を流しながら頭を振り身じろぎする。しかし拘束から逃げ出すことはできない。灼熱は彼女の臍の下に近づいていく。

 じゅぅぅううぅぅぅ……、と焼け焦げる音がする。

「がぁああぁぁぁあああぁああっ!?!?」

 喉が裂けそうなほどの悲鳴をあげ、妖精が身体を跳ね上げる。焼き鏝を押しつけられた腹は、そのまま押しつけられ続ける。

「がぁぁぁっ……あぁぁ……」

 まもなくして妖精が脱力した。目を開けたまま、気絶していた。
 焼き鏝が離れる。

『FS-000』

 臍の下には新しい名前が刻まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で 平和への夜明けを導く者は誰だ? 其々の正義が織り成す長編ファンタジー。 〜本編あらすじ〜 広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず 島国として永きに渡り歴史を紡いできた 独立国家《プレジア》 此の国が、世界に其の名を馳せる事となった 背景には、世界で只一国のみ、そう此の プレジアのみが執り行った政策がある。 其れは《鎖国政策》 外界との繋がりを遮断し自国を守るべく 百年も昔に制定された国家政策である。 そんな国もかつて繋がりを育んで来た 近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。 百年の間戦争によって生まれた傷跡は 近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。 その紛争の中心となったのは紛れも無く 新しく掲げられた双つの旗と王家守護の 象徴ともされる一つの旗であった。 鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを 再度育み、此の国の衰退を止めるべく 立ち上がった《独立師団革命軍》 異国との戦争で生まれた傷跡を活力に 革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や 歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》 三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え 毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と 評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》 乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。 今プレジアは変革の時を期せずして迎える。 此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に 《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は 此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され 巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。 

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

一度決まった婚約破棄は覆りません!〜最強聖女の新たなる物語〜運命のお相手は最強の呪い師?

tartan321
ファンタジー
「マリア!貴様との婚約をこの場において破棄する!」 「フィッチ様?私、何かしましたか?その凛々しいお顔立ちが、全く持って不可解でございます」 「ふざけるな!」 「貴様の蛮行が先ほど明らかになったのだ!」 一度決まった婚約破棄により、不遇になった令嬢マリアが、実は世界最強の令嬢だった? 最強聖女の物語がここに始まります。そして、聖女誕生の裏には、謎の占い師の存在が?

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...