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せ~ぶで~た03:魔法使いの女の子が食人樹に喰われ養分にされて助からない話
01.お花見&おいしいもの!
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『失踪事件の調査をお願いします!』
そのクエストには、そんなタイトルがついていました。
冒険者ギルド内。掲示板に張り出されたそのクエストを見つめる女の子が一人。銀色のセミロングに、深紅の魔女帽子。手にしているのは水晶の杖。魔法使いの女の子です。丸いピンクの瞳は、文章を追っています。
「……ダンジョンでもない場所……とりあえず現地を見て回ること……手がかりがなくてもよし……それなのに報酬は……んふふ……!」
――数時間後、その魔法使いの女の子フィオは、とある草原にいました。
失踪事件調査のクエストを受け、早速現地へやってきたのです。
雲一つない青い空。春らしい陽気。黄緑色の草原には、ぽつぽつと桜の木も見えます。
思わずフィオは深呼吸。小さなお胸が、ほんの少し膨らみます……まだまだ慎ましやかですが。
「思ってた以上に穏やかな場所だけど、本当にここで何人も失踪してるの?」
見渡して広がるは、まさに平和。春の風景。とはいえ近くにはいくつかダンジョンもあるようですし、しっかり調査していきます……もしかすると、ダンジョンから出てきた魔物が、人を襲っているかもしれません。またはダンジョンに引き込んでいるかもしれません。あるいは、魔物の仕業でなく人攫いの仕業か……。
フィオはしばらく、お散歩するように調査しました。時々道を歩く旅人や商人に話を聞き、また失踪事件が起きていると、警告します。
戦闘のないクエストです。血気盛んな冒険者であれば、退屈で死んでしまうかもしれません。
「でもこんなにのんびりしてるのも、たまにはいいかも!」
最近稼ぐのに必死で戦ってばかりだったからなぁと、フィオは思い出します。それにこのクエスト、報酬がとてもいいのです。
暖かな季節は魔物も活発になる時期……現在、冒険者が不足しているのです。そのためクエスト報酬の相場も上がるわけです。
つまんない上に面倒が多くて大変で、報酬も低かったらサイアク! ですが、つまらなくても比較的楽で報酬が良ければハッピー! です。
ところで。
「そろそろお腹空いて来ちゃったなぁ……」
朝から冒険者ギルドへ。クエストを受けてそのままこの場所へ。お昼はとっくに過ぎていました。
ひらめいて、フィオはふふんと笑います。
「休憩ついでにお花見しちゃいますか!」
見上げた丘の上には、大きな桜の木がありました。綿飴みたいにふわふわなピンク色。風が吹けば、はらはらと風流に散っていきます。
桜の木の下に座り、バッグから取り出したのはピンク色のお饅頭。先程、道を通りがかった商人にもらったものでした。「よくないことが起きてるんだね、教えてくれてありがとう! よかったらこれ食べてよ!」と。
はぐっ、とかじれば。
「――んまーい! 春のお菓子も最高ね! お茶がないのが残念だけど、場所もいいし……なんか幸せって感じ!」
一人ですがフィオは幸せいっぱいにランチタイムです。
なんとも、平和です。風光明媚。優しい風に暖かな日差し。美しく散る桜……甘い香りを覚えます。
さて、お饅頭をはじめとしたランチを終えて。
「……どうしよう、眠くなってきちゃった」
お腹もいっぱいになったし、暖かいし、こればかりは仕方がありませんね。異常なほどの眠気で、どうにも思考がふわふわ。もしかするとあのお饅頭、ちょっとお酒使ってたのかしら、なんてフィオは考えます。
――しかし、お饅頭のせいではなかったのです。
――この眠気、否、思考の鈍化は、桜の木から放たれる、甘い香りのためでした。
「ちょっと寝ちゃおうかな……手がかりらしい手がかりもなかったし……考えるのに頭お休みさせるのって大切だし……」
ぱたん、とフィオは仰向けに倒れてしまいます。食べてすぐに寝たら太るかも……なんて普段は考えられましたが、それほどに眠かったのです。
……やがてかすかな寝息が聞こえてきます。
春の陽気の中、桜の木の下で、幸せなお昼寝タイムです。
――さわさわ、と桜の木が動き始めます。ちらりと枝の部分に見えた、奇妙な紋章。それは『魔王の紋章』でした。魔王から力を授かった魔物の証……。
太い幹に、浮かび上がるようにして横に亀裂が入ります。
それは口と言うべき器官でした。中からは桜の花よりも濃い、ピンク色の触手二本が現れます。
「ん……」
触手はフィオの身体に絡みつき、口へと引きずっていきます。口まで運べば、まるで麺でも啜るかのように頭からぱくり、ずるっずるっ、と飲み込み、ついに足も食べられて、フィオは呑み込まれてしまいました。
桜の木は、再び口を開けたかと思えば、フィオの残された荷物や杖をぽいぽいと口の中に放り混みます。証拠隠滅。まさかこの桜の木の正体が食人樹だとは、誰も思わないでしょう。
春めく陽気。ちちち、と鳥がのどかに鳴いていました。
そのクエストには、そんなタイトルがついていました。
冒険者ギルド内。掲示板に張り出されたそのクエストを見つめる女の子が一人。銀色のセミロングに、深紅の魔女帽子。手にしているのは水晶の杖。魔法使いの女の子です。丸いピンクの瞳は、文章を追っています。
「……ダンジョンでもない場所……とりあえず現地を見て回ること……手がかりがなくてもよし……それなのに報酬は……んふふ……!」
――数時間後、その魔法使いの女の子フィオは、とある草原にいました。
失踪事件調査のクエストを受け、早速現地へやってきたのです。
雲一つない青い空。春らしい陽気。黄緑色の草原には、ぽつぽつと桜の木も見えます。
思わずフィオは深呼吸。小さなお胸が、ほんの少し膨らみます……まだまだ慎ましやかですが。
「思ってた以上に穏やかな場所だけど、本当にここで何人も失踪してるの?」
見渡して広がるは、まさに平和。春の風景。とはいえ近くにはいくつかダンジョンもあるようですし、しっかり調査していきます……もしかすると、ダンジョンから出てきた魔物が、人を襲っているかもしれません。またはダンジョンに引き込んでいるかもしれません。あるいは、魔物の仕業でなく人攫いの仕業か……。
フィオはしばらく、お散歩するように調査しました。時々道を歩く旅人や商人に話を聞き、また失踪事件が起きていると、警告します。
戦闘のないクエストです。血気盛んな冒険者であれば、退屈で死んでしまうかもしれません。
「でもこんなにのんびりしてるのも、たまにはいいかも!」
最近稼ぐのに必死で戦ってばかりだったからなぁと、フィオは思い出します。それにこのクエスト、報酬がとてもいいのです。
暖かな季節は魔物も活発になる時期……現在、冒険者が不足しているのです。そのためクエスト報酬の相場も上がるわけです。
つまんない上に面倒が多くて大変で、報酬も低かったらサイアク! ですが、つまらなくても比較的楽で報酬が良ければハッピー! です。
ところで。
「そろそろお腹空いて来ちゃったなぁ……」
朝から冒険者ギルドへ。クエストを受けてそのままこの場所へ。お昼はとっくに過ぎていました。
ひらめいて、フィオはふふんと笑います。
「休憩ついでにお花見しちゃいますか!」
見上げた丘の上には、大きな桜の木がありました。綿飴みたいにふわふわなピンク色。風が吹けば、はらはらと風流に散っていきます。
桜の木の下に座り、バッグから取り出したのはピンク色のお饅頭。先程、道を通りがかった商人にもらったものでした。「よくないことが起きてるんだね、教えてくれてありがとう! よかったらこれ食べてよ!」と。
はぐっ、とかじれば。
「――んまーい! 春のお菓子も最高ね! お茶がないのが残念だけど、場所もいいし……なんか幸せって感じ!」
一人ですがフィオは幸せいっぱいにランチタイムです。
なんとも、平和です。風光明媚。優しい風に暖かな日差し。美しく散る桜……甘い香りを覚えます。
さて、お饅頭をはじめとしたランチを終えて。
「……どうしよう、眠くなってきちゃった」
お腹もいっぱいになったし、暖かいし、こればかりは仕方がありませんね。異常なほどの眠気で、どうにも思考がふわふわ。もしかするとあのお饅頭、ちょっとお酒使ってたのかしら、なんてフィオは考えます。
――しかし、お饅頭のせいではなかったのです。
――この眠気、否、思考の鈍化は、桜の木から放たれる、甘い香りのためでした。
「ちょっと寝ちゃおうかな……手がかりらしい手がかりもなかったし……考えるのに頭お休みさせるのって大切だし……」
ぱたん、とフィオは仰向けに倒れてしまいます。食べてすぐに寝たら太るかも……なんて普段は考えられましたが、それほどに眠かったのです。
……やがてかすかな寝息が聞こえてきます。
春の陽気の中、桜の木の下で、幸せなお昼寝タイムです。
――さわさわ、と桜の木が動き始めます。ちらりと枝の部分に見えた、奇妙な紋章。それは『魔王の紋章』でした。魔王から力を授かった魔物の証……。
太い幹に、浮かび上がるようにして横に亀裂が入ります。
それは口と言うべき器官でした。中からは桜の花よりも濃い、ピンク色の触手二本が現れます。
「ん……」
触手はフィオの身体に絡みつき、口へと引きずっていきます。口まで運べば、まるで麺でも啜るかのように頭からぱくり、ずるっずるっ、と飲み込み、ついに足も食べられて、フィオは呑み込まれてしまいました。
桜の木は、再び口を開けたかと思えば、フィオの残された荷物や杖をぽいぽいと口の中に放り混みます。証拠隠滅。まさかこの桜の木の正体が食人樹だとは、誰も思わないでしょう。
春めく陽気。ちちち、と鳥がのどかに鳴いていました。
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