冒険者の女の子が魔物に襲われて助からない話

楢山コウ

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せ~ぶで~た02:魔法使いの女の子がゴブリンに捕まり花嫁にされ孕まされて助からない話

01.ゴブリンは雑魚!

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「正直、下級モンスターの相手なんて、下級冒険者がやるべきものなのよねぇ……」

 薄暗い廃墟群。大昔には栄えた街があったという場所。いまは瓦礫と、それを飲み込もうとする植物しかないようなところ。
 軽やかな足音が響きます。

 深紅の魔女帽子を被った少女――中級冒険者・魔法使いフィオは、走りながらも口を尖らせていました。ちらりと振り返り、丸いピンクの瞳を据わらせれば、追ってくる醜い集団を見据えます――この辺りを領土にしようと企んでいた、ゴブリン達です。棍棒や粗悪な剣を振り回しつつ追ってきています。その数は十体以上。どれも醜悪な顔を更に醜く歪めています。

 と、廃墟の壊れた壁の上、待機していたゴブリン一体が、弓を構えました。狙うはフィオ。ひゅん、と少女を狙って矢が放たれますが。

「あーもー! やっぱり、ほんっと退屈! このお仕事、報酬も安いし」

 フィオが杖を軽く振れば、杖の大きな水晶が輝き、同時に彼女の背に白い翼が生えました。フィオはふわりと飛び立ち、矢を避けながらも壊れた柱の上に着地します。まるで天使のようです。セミロングの銀髪も翼のように広がります。
 けれども顔にあるのは、天使らしくない不敵な笑み。

「ま……せめて私のお菓子とお紅茶のお小遣いになってよねっ!」

 杖を大きく掲げれば、水晶から目がくらむほどの光が放たれました。強力な中級魔法です!
 光は流星のようにゴブリン達に降り注ぎます。ゴブリン達に防ぐ力はありません、光の中、まるで焼かれるようにして次々に倒れていきます。一度は光を逃れた者も、次の光の奔流に捕まってしまえば悲鳴を上げます。

 十体程いた敵は、一瞬で地面に倒れ伏しました。

「ふふん……あんた達が何体来ようと、中級冒険者になった私の敵じゃないのよ!」

 ゴブリンなんて、所詮は下級モンスターの一種です。ここ最近、妙に活発に勢力をつけ領土を増やそうとしているため、こうして冒険者達に討伐の依頼が出されますが、ゴブリンはやっぱりゴブリンなのです。雑魚なのです。

 柱から飛び降りたフィオは、自慢そうに腕を組み、倒したゴブリン達を一瞥。そしてまた、このダンジョンと化した廃墟群を進んでいきます。

 とはいえ。

 ――それにしても本当に多いなぁ、ゴブリン……。

 少しだけ表情を崩して、フィオは思わす考えてしまいました。いまので一体何体倒したっけ? 討伐指示を受けた数の分は、もう倒しました。追加で倒せば報酬もその分あがりますが、ゴブリン討伐の単価は安いのです。下手に魔法を連発し、その分魔力回復薬を飲むと、むしろ赤字になることもあります。

 けれどもお菓子とお紅茶のために生きているフィオ、ちゃんと考えて来ています。今日の持ち物は、たとえ全部を使ったとしても赤字にならないくらいの数に調整してきました。無理のない数、ということです。決してケチったわけではありません。

 そもそも相手はあのゴブリン。本気で物を持ち込む必要もないのです。どんなに数が多くても、先程のようにちゃちゃっとやっつけることもできますし……。

 そう考えつつ、徐々に強気の笑みを取り戻し始めたフィオでしたが、廃墟の影が蠢いたことにすぐに気付きました。

「あんた達、かくれんぼの相手にもならないのねっ!」

 すぐに魔法を構えます。赤々とした火の球を、影へと放ちます。ぎゃっ! と声がして、物陰に潜んでいたゴブリン達が飛び出してきます。尻に火をつけられ、武器を放り投げて慌てる様は、ひどく滑稽です。

「ヤリヤガッタナ!」

 唐突に頭上で声がして、はっとフィオが顔を上げれば、棍棒を持ったゴブリン数体が飛び降りてきました。けれどもフィオは、焦りません。魔法使いだからと言って、運動が全くできないと思いましたか? こちらは冒険者、それも中級冒険者なのです、ある程度の回避体術は身に着けています。くるくると、スカートを広げながら踊るように避ければ、降ってきたゴブリンは醜く地面に打ちつけられます。
 そこに、追い討ちをかけるように火の魔法を放ちます。

「アチィィィッ!」
「数ばっかりで圧そうとするからいけないのよ! もうちょっと作戦練ったらどうなの?」

 フィオは笑いながらゴブリン達を見据えます。

 ところが――いまそう口にしたことを、ひどく後悔するハメになりました。
 ゴブリンとは、決して知能が低いわけではありません。
 そしてこの醜い緑色の亜人型モンスター最大の攻撃とは……やはり数で圧すことなのです。

 ――影から影に移り、静かに背後に忍び寄ってきていた存在に、フィオは気付きませんでした。
 周囲でやられっぱなしのゴブリン達が騒いでいたこともあります。何より「ゴブリンが相手だから」と油断していたことがありました。

「コノヤローッ!」
「大人シクシヤガレッ!」

 ゴブリン達は声をあげ、次々にフィオに襲いかかります。それこそ、無限にいるのではないかというほどに。
 だからこそ、フィオはその時まで、音もなく背後に忍び寄っていた一体に気付くことができなかったのです。

 ――ごっ! と、後頭部に重く激しい痛みが走ります。

「――!」

 激しく揺れて、そして崩れるように沈んでいく意識の中、フィオは倒れつつも振り返りました。

 そこには棍棒を持った一体のゴブリン。全く気付けませんでいた、いつここまで距離を詰められていたのでしょうか。

 そうか、これは作戦だったのか、と、完全に意識を失う前に、気付きます。
 ああしてわざと「弱い」と思わせ油断させ、そこをつく……声を上げながら襲いかかってきていたのも、注目しろと言っていたようなものなのかもしれません、忍び寄る存在に気付かせないために……。

 中級冒険者の魔法使いは、倒れてしまいました。手から離れた杖が転がり、帽子もふわりと地面に落ちます。

 その帽子を、緑色の醜い裸足が踏みつけます。
 何体ものゴブリンが、フィオを取り囲んでいました――。
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