冒険者の女の子が魔物に襲われて助からない話

楢山コウ

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せ~ぶで~た01:魔法使いの女の子がミミックに惚れられ捕まり苗床にされて助からない話

01.中級冒険者になったから!

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「はーい燃えちゃって!」

 森の中、少女の高らかな声が響きます。続いてその通り炎が燃え盛る音、そしてモンスター達の敗北の悲鳴が聞こえます。

「ふふん……『中級冒険者魔法』はやっぱり強いわね!」

 燃えかすの前、深紅の魔女帽子を被った少女――中級冒険者・魔法使いフィオは得意げに杖を振り、宙に舞う灰を払いました。
 セミロングの銀髪に、丸いピンクの瞳の持ち主です。お胸は平均に比べれば幼いようにも思えますが、十五歳の女の子です。

「もう少し退治するべきかしら……手柄は上げてなんぼよね」

 明るい森の中、彼女は次の獲物を探して辺りを見回します――フィオはギルドで、モンスター退治のお仕事を請けてきました。もう十分な数を倒したものの、倒したら倒しただけ報酬が増えるおいしいお仕事ですし、ギルドでの評価も上がります。

 何故彼女が報酬と手柄を求めているのか……それは大好きなお紅茶とお菓子のためです。稼ぎが増えれば、大好きなお紅茶やお菓子が望むままに買えます。そして手柄を上げ続ければ上級冒険者となり、より報酬のおいしいお仕事が請けられるために、頑張っているわけです。
 そして今回、張り切っているのはそれだけの理由ではありません――中級冒険者になって、初めてのお仕事なのです。
 とはいえ。

「……ううん、ちょっと魔力がまた不足してきたかな」

 中級冒険者になり、いままでは使えなかった強力な魔法は非常に便利で、先程のようにもう何体ものモンスターを灰にしてきました。
 けれどもそれは、魔力薬を飲みながらできたこと……強力な魔法の行使には、それ相応の魔力を必要とします。実はフィオ、魔法の使いすぎで枯渇しそうな魔力を、薬をがぶがぶ飲んで補給しながらここまできていました。
 小瓶を一つ取り出し、逆さまに傾けて、フィオはまた薬を飲みます。底をつきそうだった魔力が回復していき、再び十分に戦える力がみなぎってきます。

 がさり、と、そこで茂みから物音。

 瞬間、フィオは空になった小瓶を投げ捨てて杖を構えました。杖の水晶が輝き、周囲に炎が生まれます。
 茂みから飛び出してきたのはモンスターのウサギ。ウサギと呼ぶにはあまりにも不気味なモンスターです。ぎょろぎょろと目玉を動かし、凶悪な前歯の生えた口を開けてフィオへと跳びかかりましたが、その姿は魔法の炎に包まれて「ぷぎゅっ!」と悲鳴を上げて消えてしまいました。

 一難去ってまた一難。今度は背後の樹から、耳をつんざくような奇声が響き渡りました。槍のような嘴を持った怪鳥が、矢のようにフィオへ向かいます。
 フィオは素早く振り返りながらその場から飛び退きます。怪鳥は勢いを殺せず、地面に突き刺さりました。そこへフィオが炎の球を放てば、あっという間に鳥の丸焼きの出来上がりです。

 しかし息をつく暇もなく、今度は頭上で枝の折れる音が。どうやらモンスター達は、畳みかけての攻撃を試みているようです。けれども中級冒険者となり中級魔法を扱えるようになったフィオの前ではなんのその。フィオは不敵に笑って、頭上に潜む敵に杖を構えますが――。

「――ひやぁうわぁっ!! 蛇!!」

 太い枝から滑り落ちて来たのは、なんと大蛇。すとんとフィオの首にひっかかるようにして落ちてきました。蛇はそのまま、フィオの細い首に巻きついて絞めようとしましたが。

「いやぁぁっ!! 離れて!!」

 実は蛇が大の苦手なフィオ。彼女の握る杖の光が爆発して、聖なる力に魔物の蛇は悲鳴を上げて彼女から離れました。地面に転がればのたうち回ります。
 間髪入れず、そして嫌悪の勢いも殺さず、フィオはありったけの魔力を杖に注いで炎を生み出しました。蛇を跡形もなく燃やしていきます。

 ……そうして大嫌いなものの姿形がすっかり消えた頃には、周囲に潜んでいた気配も、一つもなくなっていました。どうやら皆、フィオの魔法を前に怯えて逃げてしまった様子です。

「び、びっくりした……」

 両手で杖をぎゅっと握り、フィオはやっと肩の力を抜きます。けれどもちょっぴりよくない状況に気付いた様子……いまの戦いで、補給したばかりの魔力全てを使い果たしてしまったのです。中級になりたてで中級魔法を扱うのは、やはり厳しいものがあります。
 仕方なく、フィオは再び魔力薬を鞄の中から取り出しますが。

「……あらっ? さっきので最後だったの?」

 取り出せませんでした。ある小瓶は治癒薬のもののみ。
 さあ大変。魔力というものは休めば回復するものの、決して短時間で自然回復するものではありません。フィオにはもう、魔力を回復する手段がないといってもいい状況で、つまりもう魔法が使えない状態と言っていい状態でした。

 仕方ないから帰ろうか……ポケットに忍ばせていた帰還水晶に手を伸ばします。もうモンスター退治のお仕事は十分に遂行しました。この水晶を握って念じれば、一瞬で森の出入り口に戻れます。

 戻ったのなら、お仕事の報告をして、報酬を得て、そのお金でお紅茶とお菓子を買ってあとは優雅に過ごすだけ!
 ――しかしフィオは、欲張ったのです。

「……魔力薬、運よく落ちてたりしないかしら」

 何故なら中級冒険者になったばかり。もっと頑張ってみたいでしょう。もっと稼いでみたいでしょう。
 いつもは高くて買えなかったお貴族さま御用達のあのお紅茶やお菓子……背伸びして買ってみたいでしょう。

 周囲の気配に注意しながら、フィオは進んでいきます。探すは魔力薬。案外こういった「ダンジョン」には、そういったものがよく落ちているのです。それは他の冒険者の落とし物だったり、モンスターが人からくすねてきたものだったり……拾ったものを口にするのは一般的に躊躇われるかもしれませんが、冒険者はつべこべ言いません。
 幸い、モンスターに出会うことはありませんでしたが、ついに魔法薬を見つけることもできませんでした。

 代わりに見つけたのは――宝箱でした。

 ぱっと顔を輝かせて、フィオは宝箱の蓋に手を伸ばします。きっと魔力薬があるに違いありません。
 ……この時、彼女は気付かなかったのです。
 普通のものよりも一回り二回り大きな宝箱。その鍵穴の上に、奇妙な紫色の紋章があることに。

 笑顔で蓋を勢い良く開けたその時――箱の中から、太くて長い何かが飛び出し、蛇のようにフィオに巻きつきました。
 まるで舌のようにぬめるそれ。フィオは目を見開きましたが、次の瞬間には、宝箱の中に引きずり込まれていました。

 ぱさりと土の上に落ちたのは、彼女が被っていた赤い魔女帽子。
 フィオを呑み込んだ宝箱は、しばらくの間、暴れるのを押さえつけるかのようにがたがたと震えていました。やがて静かになると、森にはもとの静けさが戻っていました。
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