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演劇部活動記録・白雪姫が狙われた2
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翌日から早速、俺たちの演劇部員としての活動が始まった。
といっても、俺や淳也がなんかの役を演じるわけでもなし、やることは専ら裏方・雑用。
大道具作りの手伝いをしたり買い出しを命じられたり、忙しく働かされている。
演劇部入部はすっかり弘大に騙されたと思っていたが、俺たち軽音楽部に協力してくれるというのも嘘ではなかったようで、弘大に渡された抜かりないスケジュール表には軽音楽部の活動も組み込まれていた。
予定通り、弘大はキーボードをやってくれるらしく、ボーカルは鈴花。俺たちの衣装も演劇部の衣装と並行して作ってくれるらしい。自前で準備しなきゃならないと思ってたから大助かりだ。
そんなわけで、今まさに採寸をされようとしてるところなわけなんだが・・・
「よろしくね、三島くん」
「・・・・お、おう・・」
俺に抱きつくような恰好でメジャーを胴回りに巻きつけているのはさっきの奴だ。
俺の胸元に頭があるってことは、身長150センチくらいってことか? ネクタイ青だから同級だよな?
こうして近くで改めて顔見てみるとかなり童顔だし・・・・っつーか、やっぱめっちゃめちゃ可愛い・・・。
「ふ~~~ん」
「はっ!」
視線を感じで左側を向くと、弘大がまた意味ありげにこっちを見て微笑んでいた。
心なしか眼鏡の奥の目が光ってる気がする。・・・やな感じだ。
「そこの二人、採寸済んだら購買部で飲み物でも買ってきてくれる? 一息入れよう」
嘘くさいほど煌びやかな笑顔で弘大が言った。
“そこの二人”ってのはまぁ、言わずもがな俺とこの目の前のコイツのことだ。
おい、弘大。何か企まれてる気がしてならねぇよ・・・。
俺は弘大の笑顔で全身に鳥肌を立つのを感じつつ異を唱えようとしたが、それよりも早く目の前の奴がパンと手を叩いた。
「よーし、これで全部終わり!」
しゅるるんっとメジャーを仕舞い込み、トドメとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「それじゃ三島君、買い出し行こっか? 」
キラキラ輝くような純粋な笑顔だ。
弘大の嘘くさい邪悪なそれとはまったく違う。
この笑顔を向けられて、異を唱えるほど、俺が非道になれるわけがない・・・。
「お、おう。じゃ、行くか」
弘大の思わせぶりな視線が痛くて、俺は顔がニヤけてしまわないように気を付けながら頷いた。
「み、三島君、ちょっと待って・・・」
「へっ?」
歩幅を合わせるのも何だか気恥ずかしい気がして、ただひたすら前だけを見て歩いていると、後ろからパタパタと走り寄って腕を掴まれた。
「三島君、歩くの・・早いんだね」
少し息を切らしている。
しまった。こんだけ歩幅が違うんだから、俺が普通に歩いてたんじゃコイツのこと置いていっちゃうんだ・・・。
「わ、悪い・・・」
素直に謝ると、大きな目をさらに大きく見開いて首をぶんぶん振った。
「ううん。僕がとろいから悪いんだよ。ごめんね」
走った所為もあるんだろうけど、頬を真っ赤にしてる。
やばいな・・・やっぱ超かわいいじゃん。
屈託なく微笑んで、“そういえばちゃんと自己紹介してなかったから”とか律儀なことを言ったこの蘇芳一維(すおう かずい)は、鈴花と同じ服飾科3年。
一切興味がなかったから俺は知らなかったけど、毎年のミスコンでは衣装デザイン担当者の中でも結構人気があって、淳也が夢中になってるアリスがグランプリになった時の不思議の国のアリスの衣装なんかも蘇芳のデザインだったらしい。
将来は当然ファッション関係の道に進むんだろうな。有望株ってやつだ。
「三島君たち軽音楽部の舞台衣装も担当させてもらうんだ。一生懸命作るから、何かあったら遠慮なくいってね」
ニッコリと微笑み、蘇芳は言った。
可愛い。本当に可愛い・・・。
俺はにやけそうになる顔をまたぐっと引きしめた。
そうこうしていると購買部に着いた。
うちの購買部は食堂の一角にあって、この学校にしたらかな~り狭い。
生徒が自分で何か選んでレジに持ってくって感じじゃなく、購買部の人に“これください”って言ったら粗方のものは出してもらえる。・・・ノートなどの文房具ならまだしも、新発売のお菓子や飲み物、有名ブランドのおしゃれ雑貨まで出てくるから、ひょっとしたらここに無いモノなんてないんじゃないかと思うくらいだ。
「すみませーん」
どこかのんびりした口調で蘇芳が購買部の人を呼ぶ。
出てきたのは眼鏡をかけた優しそうなオバちゃんだ。
演劇部の連中が何を好むのかも分からないので、買い物はすべて蘇芳に任せることにしよう。
そう思って見ていると、蘇芳は次々にコーヒーや炭酸飲料、お茶なんかの名前を羅列した。
オバちゃんがテキパキとそれに従って飲み物をビニール袋に入れていく。
ようやく全員分かと思いきや、今度は蘇芳は俺が聞いたことのないカタカナの名前をつらつらと並べ始めた。
一体なんだ?
俺が不思議に思ってみていると、オバちゃんは出すわ出すわお菓子の箱。
どうやら蘇芳が言っていたのはお菓子の名前らしい。
あっという間に山盛りになったお菓子も飲み物たちとともにビニール袋に入れられて、俺はその大量の荷物を両手に抱えた。
蘇芳は自分も持つと言ってくれたけど、見るからに力なさそうだし、こんな小さい体に重いでっかい荷物なんか持たせらんねぇって。
ってか、まぁ、せっかくだからいいところ見せたいなーなんていう俺の思惑もあったり。
「しかし、演劇部の連中ってこんなに菓子食うんだな・・・」
ビニール袋の中の色とりどりのパッケージを見つめて俺がポツリという。
やっぱ女子がいる部は違うんだなーとかぼんやり思ってると、蘇芳は“?”を浮かべて微笑んだ。
「みんなはあんまりお菓子食べないよ。弘大に頼まれたのは飲み物だけだし」
「へ? じゃあこれは?」
「僕のおやつ」
「えっ!?」
蘇芳の言葉に俺は唖然。
だって、この量・・・どう見ても部員全員で食べるにしても多いくらいだぞ?
「僕、お菓子だーいすきなんだ」
と言って蘇芳はまた満面の笑み。
・・・・・・・・・・・可愛いから、いいか。
蘇芳はお菓子が大好き。
俺は頭の中に深くインプットした。
***
翌朝。
俺はコンビニ袋を片手に、靴箱前で物陰に隠れていた。
登校中にたまたま寄ったコンビニで、たまたまいつもは見ないお菓子コーナーに通りかかって、たまたま期間限定の新商品があったから、なんとなく買ってしまったのはいいけど・・・
俺は別に買って食べるほどお菓子好きなわけでもねーし、もし蘇芳が通りかかりでもしたら渡そうかなーなんてちょっと思っただけだ。・・・・別に深い意味はなくて。
しかし服飾科の入り口って変わってる。色とりどりのモニュメントがそこかしらにあるし、門や下駄箱もカラフルだったりデザインが凝ってたりする。
俺は周囲の物体をしげしげと眺めては茫然とする、を繰り返していた。
「あ、三島君」
「!」
青と紫の炎のようなモニュメントを覗き込んでいるときに、蘇芳はひょっこり顔を出した。
「おはよう」
警戒心なんかまったくないような笑顔を俺に向ける。
やばい。この顔、小学生1年の頃飼ってたた豆しばに似てて可愛い。
「お、おう。おはよう」
俺は平常心を装いながら、片手を上げる。
そして手に持っていたビニール袋にはたと気づいた。
「あ、あの・・・これ、やるよ。その、たまたまコンビニで買ったから」
蘇芳に向かい、ずいっと袋を押し付ける。
蘇芳は不思議そうに首をかしげてそれを受け取ると、おずおずと袋の中を覗き込んだ。
やばい。この顔、小学校3年の時に飼ってたロボロフスキーハムスターに似てて可愛い。
「あ、これ! 期間限定のチョコだ!! 」
たちまち蘇芳の瞳がキラキラ輝く。
とびっきりの笑顔で俺を見つめた。
「僕このシリーズのチョコ大好きなの! ありがとう、三島君!!」
この瞬間、俺は内心ガッツポーズだ。
けど顔に出すわけには行かねーし、ポーカーフェイスを決め込んだまま蘇芳と手を振って別れた。
蘇芳はあのチョコが好きなのか・・・
勿論新しい情報は即インプット。
―――と、
「見ーちゃった~」
「うわぁあああっ!?」
至近距離で耳元に息を吹きかけられ、俺は思い切り飛びのいた。
「こ、弘大・・・なんでここに!?」
動揺あらわに尋ねる。
弘大はまたいつもの訳知り顔で俺をニヤニヤと見つめていた。
「まずは餌付けに勤しむことにしたの?」
「え、餌付けって・・・」
弘大のあまりの言い草に俺は唖然とする。
別に、餌付けとかそんなんじゃねーし・・・ただちょっと喜んでほしいなーとか、嬉しそうな顔見てぇなーとか思っただけで・・・いや、ってか、別になんか下心とかあるわけじゃねーし・・・。
俺が言い訳に困っていると、弘大は大きな欠伸をした後で手に持っていた風呂敷包みを俺の目前に上げた。
「これ、一維のお弁当なんだけど・・・一維が忘れてったからって一維のお母さんに届けるように頼まれちゃってさぁ。重くて仕方ないからちょっと持ってくれない?」
普段当然のように人に荷物を持たせることが常の弘大が、こんな前置きをして俺の同意を待つのは珍しい。
勿論、他意あってのことだ。
わざとらしく蘇芳のファーストネームを連呼しているのがその証拠だろう。
「俺と一維は家も近所だし、家族ぐるみの幼馴染ってやつなんだよねー」
「お、幼馴染!?」
こんな悪意の塊みてぇな弘大と、あの純真無垢の化身みたいな蘇芳が?
おんなじ環境で幼少期を過ごして、なんでこうも違うんだよ・・・。
俺があからさまに怪訝な顔をしているのがわかったのか、弘大は眉を顰めて俺を睨んだ。
「何が言いたいのかは何となく分かるけど、まぁ聞かないでいてあげる」
「・・・・」
思わず黙る俺。
弘大はふっと微笑み、囁いた。
「二人の仲、俺が取り持ってあげようか?」
もはや悪魔のささやきだ・・・。
何か企んでるようにしか思えない。
「べ、別に、取り持つもなにも、俺は蘇芳のことは・・その、まだ、なんつーか・・」
まごつく俺に弘大は実に楽しそうに笑う。
「別に照れることないだろ。海斗も一維も俺にとっては大事な友達なんだから、二人に幸せになってほしいと思うのは当然のことじゃないか」
美談のように聞こえるが、弘大の口から発せられると一流詐欺師の甘言だとしか思えない。
そりゃ確かに、普通に考えれば、幼馴染なんだから蘇芳のことはよく知ってるだろうし・・・何より絶世の策士:弘大だ。
コイツが味方に付けばたとえどんな無理難題でも、負け戦でも、たちまちのうちにうまくいくはず・・・。
って、俺と蘇芳がうまくいくかどうかは別に無理難題じゃねーし! 負け戦じゃねーし!!
っつーか、俺は別に蘇芳とどうこうなりたいとか、まだ具体的に考えてるわけじゃ・・・
「あ、これこないだ一維の家に泊まりに行ったとき撮った写メ。いる?」
悶々としてる俺の顔の前に弘大のスマホ画面が突然現れた。
写ってるのは、部屋着で寛いでいる無防備な蘇芳の姿・・・。
「く、下さい・・・」
俺は陥落した。
「初めから素直になればいいんだよ」
弘大は鼻歌交じりにそう言うと、俺の肩を叩いた。
「じゃ、また部活でね。例の件もまぁ任せといてよ」
蘇芳に弁当を届けた後、俺と弘大は他愛ない話――――大体が部活の話だ。軽音の編曲についてとか色々、な。――――をしながら歩き、進学科が近づいてきたところで弘大はまた俺の肩を叩いてそう言った。
“例の件”なんてわざとらしい言い回しが気になったが、俺は素直に手を振った。
しばらく歩いたところでズボンのポケットに入れていたスマホが震えた。
弘大からのメールで、早速さっきの写メを送ってきてくれたらしい。
「・・・・・・・・・・・・」
開いた画像に顔が緩みそうになるのを堪え、俺はあくまで無表情を決め込んだ。
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