演劇部活動記録・白雪姫が狙われた

sakaki

文字の大きさ
上 下
9 / 11

決戦はクリスマス前哨戦

しおりを挟む
ーーー  決戦はクリスマス  前哨戦  ーーー


例によって例の如く、放課後の帝城高校保健室には美琴と咲夜、そして一維、弘大がいた。
これまた通例通り、話している内容は一維の恋愛相談。
弘大を付き添えて美琴の所へやって来たところに、たまたま咲夜も寛ぎに来ていたというわけだ。


「クリスマスにデートですか。楽しみですね」
一維の話を聞いた美琴が笑顔を浮かべる。
大抵はよそ行きの作り笑いをしている美琴なのだが、彼らの事に関しては自然と心からの笑顔が出るのだ。なんだか自分の事のように嬉しくなるし、出来る限り応援してやりたくなってしまう。
いつも素直で真っ直ぐな一維だからだろう。
「それで綾華先生にアドバイスしてほしいんだってさ」
恥ずかしそうに言いよどんでいる一維の代わりに弘大が言う。
幼なじみで親友の間柄のためだろうか、何だかんだと言いながら弘大は一維の手助けをせずにはいられないようだ。
彼的には腑に落ちないようだが、やはり仲人業は板に付いている。
「アドバイスねぇ・・・」
呑気にコーヒーを飲んでいた咲夜が楽しむように美琴を見る。それを気にしないように努めながら、美琴は一維に微笑みかけた。
「僕に分かることなら、何でも遠慮なく言ってくれていいですよ」
その言葉に一維はホッとしたように顔を上げ、意を決したように口を開いた。
「あ、あの・・・どんな風に誘えば、ちゃんとそういう気分になってもらえるのか・・・教えてほしいんです」
「え?」
言い終えるなり、一維は真っ赤になって俯く。
美琴はフリーズ、弘大は決まりの悪そうな顔でコーヒーを啜った。
「え、えーと・・・それって、あの・・・えっと」
一維につられて美琴も顔が赤くなる。
「三島がいつまで経っても手ぇ出してこねぇ腰抜けだから、クリスマスに自分から誘って初Hに持ち込もみたいって事だな」
もごもごしている美琴と一維を後目に、キッパリと言い放ったのは咲夜だ。
「は、はい・・・」
一維は全身から湯気が出そうなほど真っ赤になってしまった。
「俺に相談されても分かんないしさ、それで綾華先生のところに来てみたんだよね」
弘大が苦笑まじりで補足するように言う。
(だからって僕にそんなこと聞かれても・・・)
益々戸惑う美琴。
あくまでも真剣な一維を見れば無碍にもできないとは思うが、正直なところ美琴にだって自分から誘った経験などないのだ。
(どうしよう・・・)
答えに詰まり、口ごもる。
一維はじっと期待に満ちた眼差しで美琴を見つめている。
「えーっと、じゃあ御剣先生はどうなの?」
沈黙に気まずさを感じたのか、弘大が助け船を出した。
「綾華先生にどんなことされたらグッと来るのか、参考までに」
インタビュアーのように尋ねられ、思わず美琴と咲夜は顔を見合わせる。
美琴は気恥ずかしくなりすぐに視線を外したが、咲夜はこちらを見つめたままで悩み始めた。
「うーん・・・そうだなぁ、なにせ綾華先生から仕掛けてくれたことなんかねぇからなぁ・・・。たまには蘇芳を見習ってほしいくらいだぜ。あ~ぁ、俺報われねぇなぁ」
「御剣先生うるさいですよ」
これ見よがしに“よよよ”と泣き真似をして当てこすりをする咲夜に冷たく言い返す。
とはいえ、咲夜が何をしてもらいたいと思っているのか、美琴だって気にならないわけではない。
平静を装いながらコーヒーを含み、密かに耳をそばだてて咲夜の答えを待った。
「まぁ贅沢言わねぇけど、たまにはして欲しいなーとは思うよな」
含みを持たせた視線を美琴へと投げかける。
「何をして欲しいの?」
好奇心に満ちた瞳の一維に続きを促されると、咲夜はまたニヤリと笑った。
「そりゃやっぱ、フェ・・・痛って!」
最後まで言い切る前に、美琴が後頭部を叩く。
「何すんだよ?」
「生徒の前で何言ってるんですか、貴方って人は!」
抗議する咲夜に一喝。
「「・・・?」」
一維と弘大は二人してぽかんとしている。
「まぁ冗談はさておき」
美琴の厳しい眼差しを受けつつ、咲夜が気を取り直してとばかりに咳払いをする。
そしてにやけ顔もしまい込んで、一維に向き直った。
「まどろっこしい事考えなくてもいいんじゃねーの? 二人きりの時に惚れてる相手から好きだってすり寄ってこられりゃ、それだけで十分たまんねーって」
優しい手つきで一維の頭をポンポンと撫でる。
「海斗も、そう思ってくれるかなぁ・・・?」
「当然だよ。だってベタぼれなんだから」
まだ少し不安そうな一維に、今度は弘大が自信を持って言った。
「綾華先生も、そう思う?」
「えぇ。蘇芳君は蘇芳君らしくしているのが一番可愛いですから」
恐る恐る尋ねられ、美琴もゆっくりと頷く。
一維もようやく安心したように笑顔を浮かべた。



丁度その頃、職員室前廊下。
(いねぇ・・・のかな)
他の教師に気付かれないように、海斗は職員室の中をそっと覗き込んでいた。
「おい、そこで何してる?」
「ひぃっ!?」
背後から投げかけられた低い声に仰け反る。声の主は泣く子も黙る冷血教師:宇佐美響一朗だ。
「よもやまさか覗き目的でもあるまいし、職員室に何か用事があるなら堂々と入ればいいだろうが」
これでもかというほど眉間に皺を寄せ、氷のような視線をぶつけられた。
「い、いや・・あの、御剣・・・先生がいないみたいなんで・・」
迫力に押されつつ、腰が引けながらも何とか答える。
別に悪い事は何もしていないのだが、この男を前にするとどうにも説教されているような気分になってくる。
「・・・御剣先生に相談事か?」
片方の眉がピクリと上がる。
なぜか咄嗟に“怒られる”と身構えてしまったが、思い掛けないことに、響一朗は眉間の皺を消した。
「相談って、蘇芳のことか?」
少しばかり声を潜めて、呆れたようにも取れる口調で問いかける。途端に、彼を取り巻く雰囲気が心なしか穏やかなものへと変わった気がした。
「え・・あ、はい。あ、いや・・」
見慣れない態度に戸惑っている所為か思わず素直に頷いてしまい、すぐに“しまった”と口を塞ぐ。
宇佐美はバツの悪そうに口許を掻いた。
咲夜や美琴から話を聞き齧っているため、海斗と一維の“清い交際”については知っているのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・蘇芳は」
暫し悩んだ後で、ポツリと口を開く。
「は、ハイ?」
一体何を言われるのかと、身構える海斗。
響一朗はほんの少しネクタイを緩めて溜息を洩らした。
「蘇芳は、お前のことが好きなんだろう?」
海斗を真っ直ぐ見据え、問いかける。
「え・・あ・・はい。そう・・・でいてくれてると思います」
海斗は頷いた。自信を持って“当たり前です”とも言えないことが情けないが。
そんな海斗を見つめ、響一朗はふっと笑みを浮かべる。
「だったら、ただ手を伸ばせばいいだろうが。余計なことを考える必要はない」
それだけ言うと、海斗の肩を軽く叩いて、職員室へと入って行った。
一人残された海斗は茫然と立ち尽くす。
(今のって、ホントに宇佐美だよな・・・?)
戸惑いつつ職員室を覗けば、そこにはまたいつもの眉間に皺を寄せた冷血教師しかいなかった。
(ただ手を伸ばす・・・か)
言われた言葉を反芻し、自分の手のひらを見つめる。自然と一維の顔が思い浮かんだ。
「そっか・・・」
思わず、一人で声に出して頷く。
そして決意をしたように顔を上げ、ぐっと手を握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...