演劇部活動記録・白雪姫が狙われた

sakaki

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策士の憂鬱

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――― 策士の憂鬱 ―――


帰宅前に保健室に出向いてみたら、そこには海斗がいた。
一維と一緒に帰るために待ち合わせをしているらしい。
どうやら部活がない日は保健室が彼らの待ち合わせ場所のようだ。
綾華先生にコーヒーなんて出してもらって、ずいぶんと寛いだ顔をしている。

「よぉ、弘大。どっか怪我でもしたのかよ?」
海斗がこちらに向かって親しげに手を上げて見せた。
「淳也に相談したいことがあるって呼び付けられたんだよ」
溜息を付きつつ答えて、眼鏡を押し上げる。
きちんとフレームは調節しているはずなのに、少し俯いただけで眼鏡がずれるのが気に入らない。
「ほーぉ、そりゃ恋愛相談だな」
ベッドの方から揶揄するような声がする。
教師のくせに堂々とベッドで寛いでいる御剣先生だ。
「陣野君はすっかり仲人役が板についていますね」
綾華先生までそんなことを言う。そして首尾よく俺の分のコーヒーも入れてくれた。
「仲人なんて真っ平ですよ。海斗たちはうまくいくのが見え見えだったから乗ったけど、淳也の場合は0.1%にすら満たない成功率なんだから」
砂糖とミルクを遠慮してから、海斗を指さして言う。
海斗は俺の言葉に照れ臭そうな顔をした。言うまでもなく一維とは順調みたいだ。・・・ただし、
「ま、3か月も経ってて未だにキスすらしてない清~いお付き合いみたいだけどね」
吐き捨てるように言うと、海斗の顔が青ざめてるのか赤らんでるのかよく分からない状態になった。
「な、な、なんでそんなことまで知ってんだよ!?」
「仲人だからね」
動揺しきりの海斗にしれっと答えてやる。
普段は格好つけでクールぶってる海斗がこうして取り乱すのは本当に面白い。

「付き合って3か月でなんもねーって・・・マジかよ」
心底呆れたように言うのは御剣先生だ。
ナイスアシスト、と俺は密かにほくそ笑む。
「そ、そういうことは別に急がなくても、三島君と蘇芳君には二人のペースがあるんでしょうし・・・」
綾華先生がフォローしようとしてるけど、そんな困惑しきった表情だと逆効果だし。
「今日日の高校生が“清い交際”なんて不健康だろーが。ヤリたい盛りなんだから。お前、我慢しすぎるといざって時に勃たなくなんぞ」
「もう、御剣先生! 教師が何言ってるんですか! 」
海斗を嗾ける御剣先生を窘める綾華先生。
それでも御剣先生の軽口は止まなかった。というより、からかいの矛先を綾華先生に変えたらしかった。
「コトの持って行き方が分かんねーんなら、先生たちが課外授業で教えてやろうか? 」
綾華先生の腰を抱き寄せて、わざとらしいほど嫌らしく耳元で囁く。
「もうっ! なに馬鹿なことしてるんですかっ!? 」
俺たちが何も言わず異呆気に取られて見てると、真っ赤な顔の綾華先生が怒鳴った。
乱暴に御剣先生の手を払いのける。
御剣先生はといえば、怒られても全く悪びれる様子もなく、寧ろ嬉しそうにニヤニヤしてる。
・・・仲が宜しくて何よりって感じだね。

「やっぱ・・・3か月も付き合っててキスもねぇのって遅いのかな・・・」
ポツリと海斗が言った。誰に充てるともなしに思わず呟いた独り言だ。
たぶん、海斗自身も相当気にして悩んでいるはずなんだ。
けど一維に嫌われるのが怖くて手を出せないでいるんだろう。
まったく、奥手と言うか不器用と言うか・・・。
「あんだけポケポケしてるから分かりにくいけど、一維だって一応普通の年頃の男の子なんだから、それなりにそういう事にも関心はあると思うけど? 」
苦笑交じりに言いながら海斗の背中をポンッと叩く。
「いい加減ちょっとくらい先に進んでくれないと仲人としても困るんだよね」
「う、うるせーな。分かったよ」
眉を顰めて意地悪く言うと、海斗も向きになったように頷いた。
それでいいんだよ。だって、ついこないだ一維からも似たような相談受けたばっかりなんだから。

「こんにちはー」
ジャストタイミングで一維がひょっこり顔を出した。
「ごめんね、海斗。待たせちゃって・・・」
「全然いいって」
弾むように歩み寄り、海斗に微笑む一維は一際可愛いと思う。幼馴染の欲目じゃなくて。
海斗の一維を見る視線が優しくて、本当に“上手くいっている二人”という感じだ。

「本当に仲良しですね、あの二人」
海斗と一維が肩を並べて帰っていくのを見届けた後、綾華先生が嬉しそうに言った。
俺が感じていたのと同じように、あの二人の幸せそうな雰囲気が伝わっていたのだろう。
「仲人冥利に尽きますよ」
軽く溜息をついてから笑って見せる。
・・・と、御剣先生が深~い溜息を洩らした。
「陣野よぉ・・・人の世話ばっかやいてねーで、もうちょい自分の幸せも考えた方がいいんじゃねーの? 」
呆れたような顔をして、俺の肩に馴れ馴れしく手を置く。
そして確信的に囁いた。
「俺は、お前は三島に惚れてると思ってんだけどな」
「・・・っ・・・」
思いもよらなかったその言葉に、俺は目を見開いた。咄嗟に言葉を返せなくて押し黙ってしまう。
「頭で考えるばっかで自分の気持ち無視してっと、どっかの陰険教師みたいに眉間に皺寄せっぱなしの大人になっちまうぞ? たまには馬鹿になれ」
また軽口を叩きながら、俺の眉間のあたりを指でつつく。
「そんなこと言ってると怒られますよ・・」
綾華先生が苦笑する。
“どっかの陰険教師”というのは宇佐美先生のことだろう。
「おい、聞こえたぞ」
タイミングよく・・・いや、タイミング悪く、当の宇佐美先生が顔を出した。
宇佐美先生に睨まれて、御剣先生は早くも両手を上げて降参のポーズを取っている。
綾華先生はそれを見てまたも苦笑いだ。

「陣野」
宇佐美先生はこちらに向き直ると、背後に居たらしい淳也の首根っこを引っ張って俺に示した。
「悪いが、菅野はこれから補習を受けさせることになった。今日のところは置いて帰ってやってくれ」
暴れ回って抵抗している淳也をガッシリと捕まえたままで淡々と言ってのける。
俺が頷くと、淳也は一際大きくジタバタと暴れた。
「見捨てないでくれ、弘大! 今日こそ俺はお前に恋愛相談に乗ってもらうんだ! 海斗みたいに俺もアリスとの仲を取り持ってもらうんだぁ!」
「恋愛など浮ついた話は源氏物語が書かれた頃の天皇と摂政の名前くらい言えるようになってからにしてもらおうか」
宇佐美先生は一喝すると、淳也を羽交い絞めにしてそのまま去って行った。
なるほど、日本史の補習らしい。

「馬鹿な奴・・・」
淳也を見送ってから吐き捨てる。
「まぁ・・一途で一生懸命ですよね、菅野君は」
「恋愛で馬鹿になるいい見本じゃねーか」
綾華先生がフォローするように言い、御剣先生は面白がるように笑った。
「恋愛で馬鹿になる・・・」
俺が、海斗や一維や淳也みたいに? 
有り得ないと思うけどな。
「・・・それじゃあ、俺も帰ります」
気を取り直してから言い、コーヒーカップを綾華先生に渡す。
保健室を出る間際に二人をそっと盗み見ると、やっぱりなんとなく幸せそうな雰囲気を纏っていた。
俺もいつか、誰かとこんな風になれるんだろうか? 
・・・有り得ないと思うけどな。
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