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子守歌は夜明けまで続く11
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子守唄は夜明けまで続く11
目が覚めた時の気分はまさに最悪だった。
突き刺さるような日差しに目がくらんだと思えば、鈍器で殴られ続けているかのような頭痛に襲われ、極めつけに胃の奥底から凄まじい吐き気がこみ上げてくる。
視界に入ってきた時計の示す時間に一瞬肝を冷やしたが、今日は休みだったと気付いてひとまずは安堵した。
ここまでひどい二日酔いは久しぶりだ。
重たい体を引きずるようにしてベッドから抜け出ると、サイドテーブルにミネラルウォーターの入ったペットボトルが置いてあった。「一臣へ 起きて俺に謝る元気があったら電話してね」という置き手紙と共に。相変わらず手本のように整った字だなどと呑気な感想が浮かんだ後、じわじわと昨夜の記憶が舞い戻ってきて頭を抱えた。
暫くフリーズした後でミネラルウォーターを飲み干し、深い溜息をついてから携帯に手を伸ばした。
『反省してる?』
2、3コール目で繋がったと思ったら開口一番にそう問われた。
「・・・・あぁ・・・・面倒をかけた」
うなだれるようにしてベッドに腰掛けつつ、一臣は答えた。
素直に謝罪するなんて一臣にしては珍しいと軽口を叩かれたが、最早それに言い返す気力もない。
彼が本当に機嫌を損ねているわけではなく、わざと不機嫌然としているだけなのは長い付き合いから明白だ。それでも、流石に昨夜の醜態は反省してしかるべき。
(黒歴史の1ページを刻んだな)
一臣は酒臭い溜息を漏らした。
『彼にはもう連絡したの? 』
「いや・・・」
一頻り体調を心配された後で不意に尋ねられ、一臣は言葉を濁す。
彼というのは勿論八雲のことだ。
酔いの酷さに相まって記憶も飛んでいてくれれば良かったのに、生憎どんなに酔っていてもしっかり覚えている性質だ。自分が何をしたのか、何を言ったのか、八雲がどんな顔をしていたのか・・・全て明白に覚えている。ますます頭痛と吐き気がひどくなった。
『昨日のこと、ちゃんとフォローしなくちゃ・・・本当に駄目になっちゃうよ?』
やんわりとした口調で窘められ、一臣はまた頭を抱えた。
そういえば、昨夜は二人で飲んでいる時には、酔った勢いに任せて洗いざらい女々しい愚痴を吐いていたのだった。それもまた大きな黒歴史といえよう。
「・・・分かってる」
虚勢を張っても意地を張っても今更だと悟り、一臣は素直に頷いた。素直すぎて気持ち悪いと言われたが仕方ない。
「悪かったな。色々」
深い溜息と共に、改めて謝罪の言葉を口にする。
『気にしなくていいよ~。俺は久しぶりに一臣とキスできて役得だったから』
悪戯っぽく笑うその声に居心地の良さを感じつつ、一臣は電話を終えた。
それから暫く、その場から動くこともせずただぼんやりと考える。いつもの半分も働いてくれない頭に、酒に飲まれた後悔を改めて噛みしめた。
(ウダウダ悩んでる場合じゃねぇ)
意を決して立ち上がる。若干のめまいを感じたが何とかよろめかないように堪えた。
兎にも角にも、八雲と話をしなければ。昨日の今日で慌てて言い訳をするなど、何と情けないことか。普段ならば御免被りたいところだが、最早そんなことは言っていられない。どんなにみっともなくとも、例え自分らしからぬことだったとしても、何とかすがりついて足掻くしかないのだ。
八雲を手放したくないのだから。
「クソだせぇな」
独りごちて、自嘲気味に笑う。
八雲は今頃仕事だろうか。それとも、またあの男の傍に居るのだろうか。どっちだって構わない。一臣の気持ちは決まっている。
選ぶのは八雲だ。
目が覚めた時の気分はまさに最悪だった。
突き刺さるような日差しに目がくらんだと思えば、鈍器で殴られ続けているかのような頭痛に襲われ、極めつけに胃の奥底から凄まじい吐き気がこみ上げてくる。
視界に入ってきた時計の示す時間に一瞬肝を冷やしたが、今日は休みだったと気付いてひとまずは安堵した。
ここまでひどい二日酔いは久しぶりだ。
重たい体を引きずるようにしてベッドから抜け出ると、サイドテーブルにミネラルウォーターの入ったペットボトルが置いてあった。「一臣へ 起きて俺に謝る元気があったら電話してね」という置き手紙と共に。相変わらず手本のように整った字だなどと呑気な感想が浮かんだ後、じわじわと昨夜の記憶が舞い戻ってきて頭を抱えた。
暫くフリーズした後でミネラルウォーターを飲み干し、深い溜息をついてから携帯に手を伸ばした。
『反省してる?』
2、3コール目で繋がったと思ったら開口一番にそう問われた。
「・・・・あぁ・・・・面倒をかけた」
うなだれるようにしてベッドに腰掛けつつ、一臣は答えた。
素直に謝罪するなんて一臣にしては珍しいと軽口を叩かれたが、最早それに言い返す気力もない。
彼が本当に機嫌を損ねているわけではなく、わざと不機嫌然としているだけなのは長い付き合いから明白だ。それでも、流石に昨夜の醜態は反省してしかるべき。
(黒歴史の1ページを刻んだな)
一臣は酒臭い溜息を漏らした。
『彼にはもう連絡したの? 』
「いや・・・」
一頻り体調を心配された後で不意に尋ねられ、一臣は言葉を濁す。
彼というのは勿論八雲のことだ。
酔いの酷さに相まって記憶も飛んでいてくれれば良かったのに、生憎どんなに酔っていてもしっかり覚えている性質だ。自分が何をしたのか、何を言ったのか、八雲がどんな顔をしていたのか・・・全て明白に覚えている。ますます頭痛と吐き気がひどくなった。
『昨日のこと、ちゃんとフォローしなくちゃ・・・本当に駄目になっちゃうよ?』
やんわりとした口調で窘められ、一臣はまた頭を抱えた。
そういえば、昨夜は二人で飲んでいる時には、酔った勢いに任せて洗いざらい女々しい愚痴を吐いていたのだった。それもまた大きな黒歴史といえよう。
「・・・分かってる」
虚勢を張っても意地を張っても今更だと悟り、一臣は素直に頷いた。素直すぎて気持ち悪いと言われたが仕方ない。
「悪かったな。色々」
深い溜息と共に、改めて謝罪の言葉を口にする。
『気にしなくていいよ~。俺は久しぶりに一臣とキスできて役得だったから』
悪戯っぽく笑うその声に居心地の良さを感じつつ、一臣は電話を終えた。
それから暫く、その場から動くこともせずただぼんやりと考える。いつもの半分も働いてくれない頭に、酒に飲まれた後悔を改めて噛みしめた。
(ウダウダ悩んでる場合じゃねぇ)
意を決して立ち上がる。若干のめまいを感じたが何とかよろめかないように堪えた。
兎にも角にも、八雲と話をしなければ。昨日の今日で慌てて言い訳をするなど、何と情けないことか。普段ならば御免被りたいところだが、最早そんなことは言っていられない。どんなにみっともなくとも、例え自分らしからぬことだったとしても、何とかすがりついて足掻くしかないのだ。
八雲を手放したくないのだから。
「クソだせぇな」
独りごちて、自嘲気味に笑う。
八雲は今頃仕事だろうか。それとも、またあの男の傍に居るのだろうか。どっちだって構わない。一臣の気持ちは決まっている。
選ぶのは八雲だ。
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