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世界の危機のその理由は
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それから二週間。
仲良しの従兄弟同士の子供が手を繋いで眠るように、同じベッドで手を繋いだまま眠る事にようやく慣れた。
「どう? 今度のクッキー。
なかなかいいできだと思うんだけど? 」
四苦八苦して焼いたクッキーを出してお茶を入れながら、フェリクスに訊く。
正直薪オーブンは難しい。
お鍋をかけっぱなしでも煮えるスープとか、炒めるだけの炒め物とかは何とか作れるようになったんだけど。
微妙な温度調整の必要な焼き菓子とかお肉のローストみたいなお料理は未だ失敗続き。
「……無理に甘いもの作らなくても、街で買ってくればいいだろう」
一口食べてむすっと言われる。
あんまりこげるから、開き直ってお砂糖控えたのが敗因かな。
焦げてはいないけど、明らかに甘味が足りない。
この分だとパンが焼けるようになるには何時まで掛かるか。
ジルさんのお家のメイドちゃんの苦労が今更ながらに身にしみた。
「こんにちは。
ご領主様はご在宅ですか? 」
甘味のほとんどないクッキーを口に放り込むと、エントランスで声がする。
「あ、はいっ! 」
口の中のクッキーを無理にお茶で喉の奥に流し込んで、慌ててエントランスに向かう。
「先日ご注文に預かりましたものが仕立てあがりましたので、お届けにあがりました」
大きな箱を二つほど抱えて頭を下げているのは、この間初めて町に出た時にドレスを作ってもらった仕立て屋さん。
ドレスと言っても丈の長いワンピに近いのを二枚ほど見繕って、仕立ててもらった。
それから下着類とエプロンを数枚。
さすがに着替えがないとお洗濯もままならないし。
この世界、身につける衣類は既製品ってものがなくて仕立て屋さんに頼むか自分で縫うかしなくちゃならないんだって。
当然お裁縫なんてわからないから、お願いしてしまった。
「……が、三枚。
以上でございます」
仕立て屋さんが枚数を確認するように言う。
「ありがとう、助かりました」
うん、これで暫くお洗濯時に困らない。
そう思うと顔がにやける。
「こちらこそ、ありがとうございました。
また何かございましたら、何なりとお申し付けください」
持ってきた荷物を残して仕立て屋さんは帰り支度をはじめる。
「それから、こちらを…… 」
明らかに仕立物とは違う紙袋を引っ張り出して差し出した。
「お嫌いでなければどうぞ、最近出回っている乳製品です。
値段の割に質がいいと評判ですので、一度ご領主様にも味わっていただきたいと思いまして」
「ありがとう。
バターもチーズも大好きよ」
やたっ!
何回かクッキーに挑戦したからもうバターの残りが少なくなっていたんだよね。
これでまた、クッキーに挑戦できる。
なんて思いながら差し出された袋を受け取ると、みたことのあるロゴマークが目に入った。
これ、イヴェットちゃんの工房の乳製品だ。
そういえば、何時かまたイヴェットちゃんの所に行こうねって、前にジルさん話していたんだよね。
なんか切なくなって、そっと目を伏せる。
「どうか、なさいましたか? 」
仕立て屋さんに訊かれて慌てて首を横に振る。
「えっと、前に一度ここのチーズ食べた事があったんだけど、凄く美味しかったから……
また食べられると思うと嬉しくて」
無理に笑顔を浮かべた。
「では、これで」
会釈をして帰ってゆく仕立て屋さんを見送っていると、もそっとリビングからフェリクスが出てくると、抱いてきた猫をわたしに押し付ける。
「……客人だ」
ぼそりと耳もとで囁かれた。
「お客様なら今帰ったけど? 」
「違う、仕立て屋じゃなくて」
ぶわって風が立ったと思ったら、玄関先でフェリクスが鳥になっている。
「行くぞ! 」
有無を言わせずに両肩をつかまれて宙に浮かび上がる。
そのまま一直線に目の前の山の頂まで連れてこられた。
空中から見ると、火口の縁に四・五人の人がうろうろと歩いているのが見て取れた。
フェリクスは祭壇に作ってある石の上に舞い降りる。
「! マリー! 」
わたしの姿を目に、その中の一人がものすごい勢いで駆け寄ってくると、抱きしめる。
「えっと、ジルさん? 」
「よかった、無事だったのね。
それも、自分の躯に戻って…… 」
抱きしめたままで言われる。
「何故わかるの? 」
「一年以上も一緒に暮らしたんですもの。
わからないわけないでしょう? 」
「どうして? ここに? 」
「魔女シャンタルが教えてくれたのよ。
使い魔としての契約が切れていないから、マーサかマリーかどっちかは食われないで残っているはずだって。
だから迎えに来たの」
……そうだった。
シャンタルさんとの使い魔契約、解除してもらっていなかったんだよね。
そんなのまるっと忘れていたわ。
「さぁ、帰りましょうか? 」
当たり前のように言われる。
「えっと、ごめんなさい。
わたしここにいなくちゃいけないみたいで…… 」
迎えに来てもらったのは嬉しいけど、フェリクスさん残して帰れないよね。
そのためにここに来たんだし。
「……ペットと一緒に来た奴も初めてだったけど、迎えに来られた奴も初めてだ。
帰ってもいいぞ」
何時の間にか人の姿に戻っていたフェリクスが言う。
「帰って、いいの? 」
思いもかけない言葉に睫を瞬かせる。
だって確か、離婚しなければ実家には帰さないとか何とかって……
「最初に言ったと思うけど、定期的に俺に溜まった魔力を消化してくれれば後は自由にしてくれていいから。
前の前の奴も、ここに来て早々にこの先の村で仕事をはじめて、毎日通うのは面倒だって村に居ついたし。
但し定期的、二三ヶ月に一度、ここに通って来てくれるのが前提だけどな。
どうする? 」
……帰る場所なんてないと思っていた。
道すらない異世界に強制的に召還されて、戻る術なんてなくて。
だけど、知らないうちに帰りたいって思える場所と人を手に入れていた?
「もちろん帰るわよね? マーサ。
通えばいいって言ってくれているんですもの」
ジルさんに決まったように言われてしまった。
だけど……
フェリクスここに残していっていいのかな?
「俺のことなら気にしなくていい。
用があれば呼び寄せるし、俺の方から王都に行くから」
少し淋しそうな笑顔を浮かべて言ってくれる。
「じゃぁ、フェリクスも行かない? 」
申し訳なくて思わず言っていた。
「は? 」
「だって、ここで一人じゃ不便でしょう?
淋しくない?
暇持て余してるのはここ数日でわかってるもの」
「おい、そんなの人間に迷惑だろうが」
「あら、こっちは構わないわよぉ。
どうやら、こちらが鳳の王らしいけど、どうしてマーサもマリーも食べないで落ち着いているのかとか、事情を説明してもらいたいことはたくさんあるし。
支障がないんなら、一緒にいらっしゃいな」
ジルさんが言う。
「残念だけど、な。
俺は火山の側でないと生活できないの。
誘い言葉だけはありがたく貰っておくよ」
そういいながらわたしの背中を軽く押した。
「じゃぁな、次は三ヶ月後って、事でよろしく! 」
思わずよろけたところをジルさんが抱きとめてくれるわたしの背後で、フェリクスは鳥の姿に変化したと思ったらそのまま大空へ舞い上がった。
「お帰りなさい、マーサ。
もう勝手に家出なんかしちゃ駄目よ」
抱きしめたままでジルさんが耳もとで囁いた。
FIN
仲良しの従兄弟同士の子供が手を繋いで眠るように、同じベッドで手を繋いだまま眠る事にようやく慣れた。
「どう? 今度のクッキー。
なかなかいいできだと思うんだけど? 」
四苦八苦して焼いたクッキーを出してお茶を入れながら、フェリクスに訊く。
正直薪オーブンは難しい。
お鍋をかけっぱなしでも煮えるスープとか、炒めるだけの炒め物とかは何とか作れるようになったんだけど。
微妙な温度調整の必要な焼き菓子とかお肉のローストみたいなお料理は未だ失敗続き。
「……無理に甘いもの作らなくても、街で買ってくればいいだろう」
一口食べてむすっと言われる。
あんまりこげるから、開き直ってお砂糖控えたのが敗因かな。
焦げてはいないけど、明らかに甘味が足りない。
この分だとパンが焼けるようになるには何時まで掛かるか。
ジルさんのお家のメイドちゃんの苦労が今更ながらに身にしみた。
「こんにちは。
ご領主様はご在宅ですか? 」
甘味のほとんどないクッキーを口に放り込むと、エントランスで声がする。
「あ、はいっ! 」
口の中のクッキーを無理にお茶で喉の奥に流し込んで、慌ててエントランスに向かう。
「先日ご注文に預かりましたものが仕立てあがりましたので、お届けにあがりました」
大きな箱を二つほど抱えて頭を下げているのは、この間初めて町に出た時にドレスを作ってもらった仕立て屋さん。
ドレスと言っても丈の長いワンピに近いのを二枚ほど見繕って、仕立ててもらった。
それから下着類とエプロンを数枚。
さすがに着替えがないとお洗濯もままならないし。
この世界、身につける衣類は既製品ってものがなくて仕立て屋さんに頼むか自分で縫うかしなくちゃならないんだって。
当然お裁縫なんてわからないから、お願いしてしまった。
「……が、三枚。
以上でございます」
仕立て屋さんが枚数を確認するように言う。
「ありがとう、助かりました」
うん、これで暫くお洗濯時に困らない。
そう思うと顔がにやける。
「こちらこそ、ありがとうございました。
また何かございましたら、何なりとお申し付けください」
持ってきた荷物を残して仕立て屋さんは帰り支度をはじめる。
「それから、こちらを…… 」
明らかに仕立物とは違う紙袋を引っ張り出して差し出した。
「お嫌いでなければどうぞ、最近出回っている乳製品です。
値段の割に質がいいと評判ですので、一度ご領主様にも味わっていただきたいと思いまして」
「ありがとう。
バターもチーズも大好きよ」
やたっ!
何回かクッキーに挑戦したからもうバターの残りが少なくなっていたんだよね。
これでまた、クッキーに挑戦できる。
なんて思いながら差し出された袋を受け取ると、みたことのあるロゴマークが目に入った。
これ、イヴェットちゃんの工房の乳製品だ。
そういえば、何時かまたイヴェットちゃんの所に行こうねって、前にジルさん話していたんだよね。
なんか切なくなって、そっと目を伏せる。
「どうか、なさいましたか? 」
仕立て屋さんに訊かれて慌てて首を横に振る。
「えっと、前に一度ここのチーズ食べた事があったんだけど、凄く美味しかったから……
また食べられると思うと嬉しくて」
無理に笑顔を浮かべた。
「では、これで」
会釈をして帰ってゆく仕立て屋さんを見送っていると、もそっとリビングからフェリクスが出てくると、抱いてきた猫をわたしに押し付ける。
「……客人だ」
ぼそりと耳もとで囁かれた。
「お客様なら今帰ったけど? 」
「違う、仕立て屋じゃなくて」
ぶわって風が立ったと思ったら、玄関先でフェリクスが鳥になっている。
「行くぞ! 」
有無を言わせずに両肩をつかまれて宙に浮かび上がる。
そのまま一直線に目の前の山の頂まで連れてこられた。
空中から見ると、火口の縁に四・五人の人がうろうろと歩いているのが見て取れた。
フェリクスは祭壇に作ってある石の上に舞い降りる。
「! マリー! 」
わたしの姿を目に、その中の一人がものすごい勢いで駆け寄ってくると、抱きしめる。
「えっと、ジルさん? 」
「よかった、無事だったのね。
それも、自分の躯に戻って…… 」
抱きしめたままで言われる。
「何故わかるの? 」
「一年以上も一緒に暮らしたんですもの。
わからないわけないでしょう? 」
「どうして? ここに? 」
「魔女シャンタルが教えてくれたのよ。
使い魔としての契約が切れていないから、マーサかマリーかどっちかは食われないで残っているはずだって。
だから迎えに来たの」
……そうだった。
シャンタルさんとの使い魔契約、解除してもらっていなかったんだよね。
そんなのまるっと忘れていたわ。
「さぁ、帰りましょうか? 」
当たり前のように言われる。
「えっと、ごめんなさい。
わたしここにいなくちゃいけないみたいで…… 」
迎えに来てもらったのは嬉しいけど、フェリクスさん残して帰れないよね。
そのためにここに来たんだし。
「……ペットと一緒に来た奴も初めてだったけど、迎えに来られた奴も初めてだ。
帰ってもいいぞ」
何時の間にか人の姿に戻っていたフェリクスが言う。
「帰って、いいの? 」
思いもかけない言葉に睫を瞬かせる。
だって確か、離婚しなければ実家には帰さないとか何とかって……
「最初に言ったと思うけど、定期的に俺に溜まった魔力を消化してくれれば後は自由にしてくれていいから。
前の前の奴も、ここに来て早々にこの先の村で仕事をはじめて、毎日通うのは面倒だって村に居ついたし。
但し定期的、二三ヶ月に一度、ここに通って来てくれるのが前提だけどな。
どうする? 」
……帰る場所なんてないと思っていた。
道すらない異世界に強制的に召還されて、戻る術なんてなくて。
だけど、知らないうちに帰りたいって思える場所と人を手に入れていた?
「もちろん帰るわよね? マーサ。
通えばいいって言ってくれているんですもの」
ジルさんに決まったように言われてしまった。
だけど……
フェリクスここに残していっていいのかな?
「俺のことなら気にしなくていい。
用があれば呼び寄せるし、俺の方から王都に行くから」
少し淋しそうな笑顔を浮かべて言ってくれる。
「じゃぁ、フェリクスも行かない? 」
申し訳なくて思わず言っていた。
「は? 」
「だって、ここで一人じゃ不便でしょう?
淋しくない?
暇持て余してるのはここ数日でわかってるもの」
「おい、そんなの人間に迷惑だろうが」
「あら、こっちは構わないわよぉ。
どうやら、こちらが鳳の王らしいけど、どうしてマーサもマリーも食べないで落ち着いているのかとか、事情を説明してもらいたいことはたくさんあるし。
支障がないんなら、一緒にいらっしゃいな」
ジルさんが言う。
「残念だけど、な。
俺は火山の側でないと生活できないの。
誘い言葉だけはありがたく貰っておくよ」
そういいながらわたしの背中を軽く押した。
「じゃぁな、次は三ヶ月後って、事でよろしく! 」
思わずよろけたところをジルさんが抱きとめてくれるわたしの背後で、フェリクスは鳥の姿に変化したと思ったらそのまま大空へ舞い上がった。
「お帰りなさい、マーサ。
もう勝手に家出なんかしちゃ駄目よ」
抱きしめたままでジルさんが耳もとで囁いた。
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