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引きこもり貴族様の裏事情
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室内には外からのいろんな音が響いてきた。
道路を走る馬車と竜荷車の音、上の階を行き来する人の足音や話し声。
それから……
物を移動したりするときの衝撃音とか、とにかく静まり返っているわけじゃない。
人の生活する音が途切れることなく聞こえてきた。
「みぃ…… 」
その音に紛れて、仔猫のかすかな声がする。
それも外からじゃなくてこの室内のどこか。
なんか、苦しそうなその声が気になって、立ち上がると仔猫の隠れていそうな物陰を覗き込んだ。
声は不規則に並んだ木箱の重なった隙間から聞こえて来る。
そっと、驚かさないように様子を探ると、小さな仔猫が三匹、重なるようにして隠れていた。
「おねえちゃん、だあれ? 」
まだ青味の抜けない大きな瞳をこっちに向けてその中の一匹が訊いてくる。
「ん~、お客さん、かな? 」
こういう時、なんて言ったらいいんだろう?
「おきゃくさん、ってナに? 」
外からの大人の猫が珍しいのか、もう一匹も訊いてくる。
えぇと、お客さんの概念って、なんだっけ?
頭の中では何となくわかっているけど、こんな小さな子供にわかるように言葉で説明しろって言われても、なんて言ったらいいんだか。
「ふみぃ…… 」
戸惑っていると、二匹の猫の後ろでなんだか凄く切ない声がする。
切ないというか、痛みに耐えかねてこぼれるうめき声か。
「ねぇ、そっちの子、どうかしたの? 」
気になったので、背後の仔猫を庇うように立ちはだかる二匹の猫の後ろに視線を送って訊いてみた。
「みーちゃんはね、おそとでがらがらばーん! ってなったの」
「でね、あし、いたいたなんだよ」
仔猫が口々に言う。
「がらがらばーん」って何だ?
ちっちゃい仔猫のボキャブラリーじゃ何言っているのかわからない。
「あし、いたいた」って、もしかして足が痛いってこと?
だとしたら、事故にでも遭って足怪我しているってことだろうか?
「大丈夫? 」
奥で前足を抱えて丸くなり、小さなうめき声をあげている仔猫にそっと声を掛けてみる。
返事が返ってこないってことは、よっぽど痛いんだろうな。
う~ん、困った。
何とかしてあげたいけど、この世界で猫の怪我治せるのってコゼットさんだけしか知らないし。
そのコゼットさんに連絡を取る術もない。
せめてどこかもっと安全で清潔なところで暫く療養させてあげたいんだけど。
考えていたら、右の前足の肉球がほわんって暖かくなる。
ごめんね、今できるのはこれだけだけど……
そっと奥へ手を伸ばして、怪我をしているらしいところ肉球を充てる。
少しでも楽になるといいんだけどな。
幸い、仔猫は嫌がるそぶりを見せなかった。
それどころか、喉をぐるぐる言わせて、もう一方の手を重ねてくる。
なんか、苦しそうだったこのこの表情が気持ち緩んだ気がする。
気持ちいいのかな?
その隙間に躯をねじ込ませ、仔猫に寄り添って丸くなった。
てしてしと、何かに額を軽く叩かれて目を開く。
目の前にここに案内してくれた黒猫の顔があった。
「ごめんなさい、待たせちゃったわね」
そっと声を潜めて言うのは、一緒に寝ていた仔猫たちを起こさない為だろう。
そう思ったから、できるだけそっと起き上がるとその場を抜け出した。
「良かったわ、よく寝てる」
残った三匹の仔猫を目に、黒猫がいう。
「あの子、一昨日馬車に跳ねられてから足が痛いって言って、ずっと眠れなかったみたいなのよね。
大人が側にいて、きっと安心できたのよね。
ありがとう、助かったわ。
さ、行きましょうか? 」
黒猫がくるんって向きを変えて、入り口へ向かう。
後を付いて外に出ると、日が傾いて暗くなり始めていた。
どれだけ寝てたんだろう?
しかも、初めてのよくわからない場所で。
自分の危機感のなさに呆れる。
馬車の通る大きな通りを避け、家と家の間へ入る。
そこから細い路地へ出て、その先の道を渡り、更にまた家と家の間を抜ける。
右と左と何回も曲がり、気がついたら自分がどこにいるのかもわからなくなっていた。
こりゃ、もう一度さっきの場所へ戻れって言われたって無理って程、複雑な通路。
正直、これで本当に王宮にたどり着けるか不安になってくる。
なんて考えていたら、急に大きな通りに出た。
……ここ、知ってる。
このまま真っ直ぐ行けば、王宮の正面に繋がっている大通りだ。
「ここまでで、いい? 」
不意に足を止めて黒猫が振り返る。
「この先、門の奥は正直良くわからないのよね。
むしろあなたのほうが知っているんじゃない?
放し飼いにされた犬にでも追いかけられたら適わないから、悪いけどここまでね」
「うん、大丈夫。
本当にありがとう。
その、何のお礼もできなくて申し訳ないけど」
黒猫の顔を見て軽く頭を下げる。
「こちらこそ。
あなたのおかげで、兄さんのこともわかったし。
わたしの子も少しゆっくり眠れていたみたいだし、助かったわ。
じゃ、また、ね。
近くに来たら寄って」
そう言うと黒猫は尻尾をピンと立てて優雅な身のこなしで走り去っていった。
その姿を見送って、王宮へと向かう。
けど、さすがにこの煉瓦を積み上げた高い塀は飛び越えられないか。
王宮を取り囲む塀を見上げて考えた。
いつもはジルさんの馬車に乗って出入りしていたからフリーパスだったんだけど、鉄柵の門扉で閉じられた門には門番がついていて、もぐりこもうとしたらきっと、止められそう。
門番の目の届かない位置で思案していると、不意に門の付近が騒がしくなる。
「あ、おい。
なんで猫がこんなところでうろうろしてるんだ? 」
「追い払えよ、庭園内を走り回られたら、また怒られるぞ! 」
なんて声が聞こえて、門番さんの足元に、猫が二三匹。
もしかして、黒猫と一緒に行動していた猫さん達?
姿はみえなかったけど、昨日黒猫さんと遭遇してから、ずっとわたし達を取り巻いていたのは気がついていた。
わざと門番さんの前に姿を現して気を引いてくれている?
考えている暇なんかない。
もぐりこむんだったら、こんないいタイミング逃すわけにはいかない。
目の前の猫に気を取られている門番さんの背後を駆け抜け、鉄柵の間をすり抜けて、一直線に建物に向かう。
猫さん達、ありがとう。
すれ違い様心の中で頭を下げた。
そして、庭園の中植え込みの下に潜り込んでようやく一息つく。
ブローチをずっと咥えたままだったから、顎が痛い。
一旦、それを地面に降ろして、何度か口をパクパクさせて顎のコリをほぐす。
さてと、どこから入ろうか。
目の前にある大きな建物を目に、また考える。
出てきた時は正面の一番大きなエントランスから、出入りする人に紛れてきたんだけど。
今度はそう言うわけに行かないわよね。
そもそも夜だから閉まっているだろうし。
仕方ない、夜が明けるのを待つしかないか。
植え込みの下から頭だけ出して、ぼんやりと目の前の建物に視線を移す。
こうしてみると、この建物綺麗だなぁ。
あちこちの窓から光がこぼれて、きらきらしている。
特に、向かって右側の棟。
左の棟は灯りが落ちた窓が多くて静まりかえった感じ。
右側が、ロイさんのお部屋がある棟で左がジルさんの執務室がある棟だよね。
あれ?
その灯りの灯る窓を辿っていたわたしの視線が、二階のひとつの窓で止った。
あそこは……
お部屋の前に聳えた大きな気の枝が窓に差し掛かって、猫なら入り込みやすくなっているあのお部屋。
留守のはずのジルさんのお部屋に灯りが点いている!
ブローチを銜えなおすと、大急ぎで立ち木の根元に走り寄る。
幹に爪を引っ掛けて、一気に駆け上がる。
枝を伝って、ベランダの床に飛び降りた。
ジルさんいるかな?
窓から中を覗き込むと、こちらに背を向けた書き物机の前の椅子にジルさんらしき人が座っているのが見える。
入れるかな?
中からなら後足で立って背伸びすればかろうじてノブに手が届くから、何とか開けられるんだけど。
表からはどうだろ?
窓の縁に爪を引っ掛けて軽く引っ張ってみる。
はぁ、ダメか。
留め金がしっかりはまっているみたいで、びくともしない。
何とか、入れないかな?
何度か、爪を引っ掛けては引っ張ってを繰り返すけど、ダメっぽいなあ。
なんて思ったら。
不意に椅子に座っていた人影が立ち上がり、こっちに来るといきなり窓をあけた。
「マリー! 」
顔を見るなり、ジルさんがわたしを抱き上げる。
「どこに行っていたの?
二日も留守にして、心配したのよぉ」
言いながら、愛おしそうに頬を摺り寄せてきた。
「なぉん! (ジルさん、お帰りなさい! )」
小さく鳴いたら、口からブローチが落ちる。
「あら、何かしら? 」
足元にコロンと落ちたものに気がついたジルさんが屈んでそれを拾い上げた。
「これ、ロイのブローチじゃない。
それも、一番大切にしている。
こんなもの、持ち出したの?
もう、悪い子ねぇ」
拾い上げたものが何なのかジルさんにはすぐにわかったみたい。
「じゃ、これを返しながら、ロイに挨拶に行きましょうか?
あなたが急に出て行って帰ってこないから、あの子責任感じてかなり落ち込んでいるのよ」
……そうだった。
勢いで飛び出してきちゃったから、ロイさんに何にも言ってなかったんだよね。
きっと、心配しただろうな。
何しろ、預かっている猫に消えられちゃったんだもん。
申し訳ないことした。
ジルさんは、わたしを抱いたまま執務室を出て、そのまま隣の棟へ向かった。
道路を走る馬車と竜荷車の音、上の階を行き来する人の足音や話し声。
それから……
物を移動したりするときの衝撃音とか、とにかく静まり返っているわけじゃない。
人の生活する音が途切れることなく聞こえてきた。
「みぃ…… 」
その音に紛れて、仔猫のかすかな声がする。
それも外からじゃなくてこの室内のどこか。
なんか、苦しそうなその声が気になって、立ち上がると仔猫の隠れていそうな物陰を覗き込んだ。
声は不規則に並んだ木箱の重なった隙間から聞こえて来る。
そっと、驚かさないように様子を探ると、小さな仔猫が三匹、重なるようにして隠れていた。
「おねえちゃん、だあれ? 」
まだ青味の抜けない大きな瞳をこっちに向けてその中の一匹が訊いてくる。
「ん~、お客さん、かな? 」
こういう時、なんて言ったらいいんだろう?
「おきゃくさん、ってナに? 」
外からの大人の猫が珍しいのか、もう一匹も訊いてくる。
えぇと、お客さんの概念って、なんだっけ?
頭の中では何となくわかっているけど、こんな小さな子供にわかるように言葉で説明しろって言われても、なんて言ったらいいんだか。
「ふみぃ…… 」
戸惑っていると、二匹の猫の後ろでなんだか凄く切ない声がする。
切ないというか、痛みに耐えかねてこぼれるうめき声か。
「ねぇ、そっちの子、どうかしたの? 」
気になったので、背後の仔猫を庇うように立ちはだかる二匹の猫の後ろに視線を送って訊いてみた。
「みーちゃんはね、おそとでがらがらばーん! ってなったの」
「でね、あし、いたいたなんだよ」
仔猫が口々に言う。
「がらがらばーん」って何だ?
ちっちゃい仔猫のボキャブラリーじゃ何言っているのかわからない。
「あし、いたいた」って、もしかして足が痛いってこと?
だとしたら、事故にでも遭って足怪我しているってことだろうか?
「大丈夫? 」
奥で前足を抱えて丸くなり、小さなうめき声をあげている仔猫にそっと声を掛けてみる。
返事が返ってこないってことは、よっぽど痛いんだろうな。
う~ん、困った。
何とかしてあげたいけど、この世界で猫の怪我治せるのってコゼットさんだけしか知らないし。
そのコゼットさんに連絡を取る術もない。
せめてどこかもっと安全で清潔なところで暫く療養させてあげたいんだけど。
考えていたら、右の前足の肉球がほわんって暖かくなる。
ごめんね、今できるのはこれだけだけど……
そっと奥へ手を伸ばして、怪我をしているらしいところ肉球を充てる。
少しでも楽になるといいんだけどな。
幸い、仔猫は嫌がるそぶりを見せなかった。
それどころか、喉をぐるぐる言わせて、もう一方の手を重ねてくる。
なんか、苦しそうだったこのこの表情が気持ち緩んだ気がする。
気持ちいいのかな?
その隙間に躯をねじ込ませ、仔猫に寄り添って丸くなった。
てしてしと、何かに額を軽く叩かれて目を開く。
目の前にここに案内してくれた黒猫の顔があった。
「ごめんなさい、待たせちゃったわね」
そっと声を潜めて言うのは、一緒に寝ていた仔猫たちを起こさない為だろう。
そう思ったから、できるだけそっと起き上がるとその場を抜け出した。
「良かったわ、よく寝てる」
残った三匹の仔猫を目に、黒猫がいう。
「あの子、一昨日馬車に跳ねられてから足が痛いって言って、ずっと眠れなかったみたいなのよね。
大人が側にいて、きっと安心できたのよね。
ありがとう、助かったわ。
さ、行きましょうか? 」
黒猫がくるんって向きを変えて、入り口へ向かう。
後を付いて外に出ると、日が傾いて暗くなり始めていた。
どれだけ寝てたんだろう?
しかも、初めてのよくわからない場所で。
自分の危機感のなさに呆れる。
馬車の通る大きな通りを避け、家と家の間へ入る。
そこから細い路地へ出て、その先の道を渡り、更にまた家と家の間を抜ける。
右と左と何回も曲がり、気がついたら自分がどこにいるのかもわからなくなっていた。
こりゃ、もう一度さっきの場所へ戻れって言われたって無理って程、複雑な通路。
正直、これで本当に王宮にたどり着けるか不安になってくる。
なんて考えていたら、急に大きな通りに出た。
……ここ、知ってる。
このまま真っ直ぐ行けば、王宮の正面に繋がっている大通りだ。
「ここまでで、いい? 」
不意に足を止めて黒猫が振り返る。
「この先、門の奥は正直良くわからないのよね。
むしろあなたのほうが知っているんじゃない?
放し飼いにされた犬にでも追いかけられたら適わないから、悪いけどここまでね」
「うん、大丈夫。
本当にありがとう。
その、何のお礼もできなくて申し訳ないけど」
黒猫の顔を見て軽く頭を下げる。
「こちらこそ。
あなたのおかげで、兄さんのこともわかったし。
わたしの子も少しゆっくり眠れていたみたいだし、助かったわ。
じゃ、また、ね。
近くに来たら寄って」
そう言うと黒猫は尻尾をピンと立てて優雅な身のこなしで走り去っていった。
その姿を見送って、王宮へと向かう。
けど、さすがにこの煉瓦を積み上げた高い塀は飛び越えられないか。
王宮を取り囲む塀を見上げて考えた。
いつもはジルさんの馬車に乗って出入りしていたからフリーパスだったんだけど、鉄柵の門扉で閉じられた門には門番がついていて、もぐりこもうとしたらきっと、止められそう。
門番の目の届かない位置で思案していると、不意に門の付近が騒がしくなる。
「あ、おい。
なんで猫がこんなところでうろうろしてるんだ? 」
「追い払えよ、庭園内を走り回られたら、また怒られるぞ! 」
なんて声が聞こえて、門番さんの足元に、猫が二三匹。
もしかして、黒猫と一緒に行動していた猫さん達?
姿はみえなかったけど、昨日黒猫さんと遭遇してから、ずっとわたし達を取り巻いていたのは気がついていた。
わざと門番さんの前に姿を現して気を引いてくれている?
考えている暇なんかない。
もぐりこむんだったら、こんないいタイミング逃すわけにはいかない。
目の前の猫に気を取られている門番さんの背後を駆け抜け、鉄柵の間をすり抜けて、一直線に建物に向かう。
猫さん達、ありがとう。
すれ違い様心の中で頭を下げた。
そして、庭園の中植え込みの下に潜り込んでようやく一息つく。
ブローチをずっと咥えたままだったから、顎が痛い。
一旦、それを地面に降ろして、何度か口をパクパクさせて顎のコリをほぐす。
さてと、どこから入ろうか。
目の前にある大きな建物を目に、また考える。
出てきた時は正面の一番大きなエントランスから、出入りする人に紛れてきたんだけど。
今度はそう言うわけに行かないわよね。
そもそも夜だから閉まっているだろうし。
仕方ない、夜が明けるのを待つしかないか。
植え込みの下から頭だけ出して、ぼんやりと目の前の建物に視線を移す。
こうしてみると、この建物綺麗だなぁ。
あちこちの窓から光がこぼれて、きらきらしている。
特に、向かって右側の棟。
左の棟は灯りが落ちた窓が多くて静まりかえった感じ。
右側が、ロイさんのお部屋がある棟で左がジルさんの執務室がある棟だよね。
あれ?
その灯りの灯る窓を辿っていたわたしの視線が、二階のひとつの窓で止った。
あそこは……
お部屋の前に聳えた大きな気の枝が窓に差し掛かって、猫なら入り込みやすくなっているあのお部屋。
留守のはずのジルさんのお部屋に灯りが点いている!
ブローチを銜えなおすと、大急ぎで立ち木の根元に走り寄る。
幹に爪を引っ掛けて、一気に駆け上がる。
枝を伝って、ベランダの床に飛び降りた。
ジルさんいるかな?
窓から中を覗き込むと、こちらに背を向けた書き物机の前の椅子にジルさんらしき人が座っているのが見える。
入れるかな?
中からなら後足で立って背伸びすればかろうじてノブに手が届くから、何とか開けられるんだけど。
表からはどうだろ?
窓の縁に爪を引っ掛けて軽く引っ張ってみる。
はぁ、ダメか。
留め金がしっかりはまっているみたいで、びくともしない。
何とか、入れないかな?
何度か、爪を引っ掛けては引っ張ってを繰り返すけど、ダメっぽいなあ。
なんて思ったら。
不意に椅子に座っていた人影が立ち上がり、こっちに来るといきなり窓をあけた。
「マリー! 」
顔を見るなり、ジルさんがわたしを抱き上げる。
「どこに行っていたの?
二日も留守にして、心配したのよぉ」
言いながら、愛おしそうに頬を摺り寄せてきた。
「なぉん! (ジルさん、お帰りなさい! )」
小さく鳴いたら、口からブローチが落ちる。
「あら、何かしら? 」
足元にコロンと落ちたものに気がついたジルさんが屈んでそれを拾い上げた。
「これ、ロイのブローチじゃない。
それも、一番大切にしている。
こんなもの、持ち出したの?
もう、悪い子ねぇ」
拾い上げたものが何なのかジルさんにはすぐにわかったみたい。
「じゃ、これを返しながら、ロイに挨拶に行きましょうか?
あなたが急に出て行って帰ってこないから、あの子責任感じてかなり落ち込んでいるのよ」
……そうだった。
勢いで飛び出してきちゃったから、ロイさんに何にも言ってなかったんだよね。
きっと、心配しただろうな。
何しろ、預かっている猫に消えられちゃったんだもん。
申し訳ないことした。
ジルさんは、わたしを抱いたまま執務室を出て、そのまま隣の棟へ向かった。
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