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神話の写本と後ろ足と
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昔々この世界には神様が1人いました。神様は寂しかったので、人を作りました。ただ彼らは何もできず、飢えと暑さ、寒さに苦しんでいたので、そんな彼らを救うために4人の”始まりの王”を送ったのです。王たちはそれぞれ土地を4つに分けて、幸せな生活ができるように人々を導きました。人が増えるにつれ大気のマナが濃くなり、それを大地が吸収して領土はどんどん大きく豊かになっていきました。
そんな様子に大悪魔が目をつけます。全てを手に入れようと企んだ大悪魔は始まりの王を誘惑しました。3人の王は騙されませんでしたが、1人の王は他の領土も手に入れ、真の王になれるという悪魔の誘惑に負けてしまいます。3つの国と大悪魔のついた1つの国との戦争が始まりました。
大悪魔は人々を操り、死をも恐れない戦士にしたてあげたので、戦いは長引き、多くの血が流されました。それを嘆いた神様は聖なる乙女を遣わし、3人の王と協力して悪心に囚われた王を倒し、ついには大悪魔を封印します。1つの国は滅んでしまいましたが、その後3つの国は豊かになり土地は大きくなり、今の大陸になったのです。その後、大陸にはいくつも国ができましたが、始まりの3国は大陸の要としてその長い歴史を紡ぎ続けています。
というのがこの世界の始まりと言われている神話。
ちょっとテイストが変わったかとびっくりした?ごきげんよう。ディアナよ。実はこの神話を写本して欲しいという依頼があってね。今、図書館に通って写している最中なの。私が飾り文字で書いた文章部分と画家さんの書いた絵の部分を製本に出して、神話の絵本にして子供への誕生日プレゼントにするんだって。期限のあるものだから、朝練を短縮して早朝や授業の空き時間、夜ごはんを食べた後など時間を作って書くようにしているわ。もうちょっとで終わりそうなので、またカインに頼んでお使いにいってもらわなきゃね。
カインと言えば、マリーローズちゃん対策もあって日中学校で付いてくれるのが完全にケイトの役割になっていて、ちょっとおかんむりになっている。この前は「俺がもっともっと鍛えて、あのイカレピンクの意識をコントロールしてしまえば全て解決するんじゃないか……?」と恐ろしいことをつぶやいていたので「そんなことしてバレでもしたら……カインと一緒にいられなくなるのは嫌よ!」と全力で止めた。ただ、授業のある日は本当に暇らしい。自由に過ごせばいいのに、今では私が侯爵家を出た後に暮らすための家など、今後のために色々と準備してくれている。本当にありがたいわ。
ミシェル達との放課後練習も続いているわよ。最近は大型の魔獣の仕留め方のトレーニングに励んでいるの。元はミシェルの進路のためだったけど、案外ジェーンも訓練に前向きで今では「私も魔法省目指してみようかな」なんて言ってる。「ベルナールが近衛騎士団に入れたら、一緒に通勤できるしね……。」ってつぶやいているのを私は聞き逃さなかったわ。
そうそう、殿下によればマリーローズちゃんは治癒魔法の練習にかなり積極的になったらしい。ただ、魔獣討伐訓練には殿下とシュルトナム様と彼女と、3年の首席の女の先輩と出る予定だったのが首席の先輩が出場辞退。その次に3年の次席の女の先輩が入ったんだけど、その人もこの前辞退して、仕方なく3年の3番目に強い騎士団志望の男の先輩が入ることになったんだって。女性2人への態度は殿下の目から見てもだいぶヒドかったらしい。
ちなみにゲーム通りならハーモン様が入って、みんなで数百年ぶりに現われたワイバーンを倒していたはず。まさか、ゲーム通りにそんな物凄い魔獣が出るとは思えないけど……。
無理に魔獣討伐に出ようとしたティモシー君にヒロインが「男の子だからって戦う必要はないわ。自分が一番輝けるところで頑張ればいいのよ。」と言って、ティモシー君は訓練の後方支援でその才能を開花させる……みたいなくだりがあると、前世の友達が言ってたなあ。
マリーローズちゃんのわがままっぷりたるや、ゲームや小説の悪役令嬢顔負けなのよ。学園祭も自由参加のはずだけど、彼女の鶴の一声で演劇をやることに。しかもメンバーは指名制。イヤな予感しかしなかったけど、私も選ばれてしまった。
配役も彼女とその取り巻き君達が決めたようで、天真爛漫なプリンセスをマリーローズちゃん、外国から留学にやってきた身分を隠しているプリンスをシャルル殿下、プリンセスに思いを寄せる騎士役にハーモン様(これからは逃げられなかったって、放課後練習の時嘆いてたわ)、同じくプリンセスに思いを寄せる幼馴染の公爵令息にシュルトナム様とオールスターでお届けするらしい。
私はというと……ロバの足。もう一回言うわねロバの足よ。プリンセスが騎士を連れて下町にお忍びに行った時に、訪れるカフェの近くの宿屋にロバがいるの。別にストーリーとの絡みもないから背景に描いちゃえばいいじゃんと思ったけど、リアリティを出すために立体感のあるロバがいいんだって。知らんけど。ちなみに相棒の前足はティモシー君。彼はマリーローズちゃんのお眼鏡にかなわなかったようで、今ではほぼパシリみたいな扱いを受けているみたい。
始めは彼が恐縮して後ろ足をやるって言ってたけど、90度お辞儀状態で20分耐えないといけなくなるから、私が引き受けたわ。もちろん色々理由をつけて演劇自体を欠席する子も多かったし、私もそうしてもよかったけど……
「ディアナ……断ったっていいんだよ。麗しい君が、よりによってロバの後ろ足だなんて……やっぱり僕が交渉して外してもらおうか?」と1週間ぶりに会ったシャルル殿下。疲労の度合いとしてはチョイくたびれってかんじかな。
「いいえ。ここで波風を立てては、せっかく殿下方が彼女の機嫌を取っているのが台無しになります。 私腹筋と背筋には自信がありますから、必ずや立派に後ろ足を務めあげて見せますわ!」と高らかに宣言したら、何でか殿下は爆笑していた。
「ほんとに君は変わったね。」と笑いすぎて涙まで流している。そりゃあ、中の人が替わってますから。ただ殿下、疲れすぎて笑いの沸点が下がってないですか?
「それはそれとして。各部の前期活動報告の精査は私がやっておきますから、殿下はしっかりと仮眠を取ってくださいね。」と私はサロンの仮眠室の方を指し示す。学校外の公務が忙しすぎる殿下やその側近たちのために、生徒会の仕事を代行できるよう全校集会で正式に承認をもらったの。マリーローズちゃんのことも含め、彼らは今大変な時だから、私にもできることをやりたいからね。
こうやってできるだけのことをやって、精一杯学生生活を過ごしていたけれど。
ゲーム通りには行かないし、それよりもとんでもない事態になる時もある、っていうのをこの後の私は身をもって知ることになる。
そんな様子に大悪魔が目をつけます。全てを手に入れようと企んだ大悪魔は始まりの王を誘惑しました。3人の王は騙されませんでしたが、1人の王は他の領土も手に入れ、真の王になれるという悪魔の誘惑に負けてしまいます。3つの国と大悪魔のついた1つの国との戦争が始まりました。
大悪魔は人々を操り、死をも恐れない戦士にしたてあげたので、戦いは長引き、多くの血が流されました。それを嘆いた神様は聖なる乙女を遣わし、3人の王と協力して悪心に囚われた王を倒し、ついには大悪魔を封印します。1つの国は滅んでしまいましたが、その後3つの国は豊かになり土地は大きくなり、今の大陸になったのです。その後、大陸にはいくつも国ができましたが、始まりの3国は大陸の要としてその長い歴史を紡ぎ続けています。
というのがこの世界の始まりと言われている神話。
ちょっとテイストが変わったかとびっくりした?ごきげんよう。ディアナよ。実はこの神話を写本して欲しいという依頼があってね。今、図書館に通って写している最中なの。私が飾り文字で書いた文章部分と画家さんの書いた絵の部分を製本に出して、神話の絵本にして子供への誕生日プレゼントにするんだって。期限のあるものだから、朝練を短縮して早朝や授業の空き時間、夜ごはんを食べた後など時間を作って書くようにしているわ。もうちょっとで終わりそうなので、またカインに頼んでお使いにいってもらわなきゃね。
カインと言えば、マリーローズちゃん対策もあって日中学校で付いてくれるのが完全にケイトの役割になっていて、ちょっとおかんむりになっている。この前は「俺がもっともっと鍛えて、あのイカレピンクの意識をコントロールしてしまえば全て解決するんじゃないか……?」と恐ろしいことをつぶやいていたので「そんなことしてバレでもしたら……カインと一緒にいられなくなるのは嫌よ!」と全力で止めた。ただ、授業のある日は本当に暇らしい。自由に過ごせばいいのに、今では私が侯爵家を出た後に暮らすための家など、今後のために色々と準備してくれている。本当にありがたいわ。
ミシェル達との放課後練習も続いているわよ。最近は大型の魔獣の仕留め方のトレーニングに励んでいるの。元はミシェルの進路のためだったけど、案外ジェーンも訓練に前向きで今では「私も魔法省目指してみようかな」なんて言ってる。「ベルナールが近衛騎士団に入れたら、一緒に通勤できるしね……。」ってつぶやいているのを私は聞き逃さなかったわ。
そうそう、殿下によればマリーローズちゃんは治癒魔法の練習にかなり積極的になったらしい。ただ、魔獣討伐訓練には殿下とシュルトナム様と彼女と、3年の首席の女の先輩と出る予定だったのが首席の先輩が出場辞退。その次に3年の次席の女の先輩が入ったんだけど、その人もこの前辞退して、仕方なく3年の3番目に強い騎士団志望の男の先輩が入ることになったんだって。女性2人への態度は殿下の目から見てもだいぶヒドかったらしい。
ちなみにゲーム通りならハーモン様が入って、みんなで数百年ぶりに現われたワイバーンを倒していたはず。まさか、ゲーム通りにそんな物凄い魔獣が出るとは思えないけど……。
無理に魔獣討伐に出ようとしたティモシー君にヒロインが「男の子だからって戦う必要はないわ。自分が一番輝けるところで頑張ればいいのよ。」と言って、ティモシー君は訓練の後方支援でその才能を開花させる……みたいなくだりがあると、前世の友達が言ってたなあ。
マリーローズちゃんのわがままっぷりたるや、ゲームや小説の悪役令嬢顔負けなのよ。学園祭も自由参加のはずだけど、彼女の鶴の一声で演劇をやることに。しかもメンバーは指名制。イヤな予感しかしなかったけど、私も選ばれてしまった。
配役も彼女とその取り巻き君達が決めたようで、天真爛漫なプリンセスをマリーローズちゃん、外国から留学にやってきた身分を隠しているプリンスをシャルル殿下、プリンセスに思いを寄せる騎士役にハーモン様(これからは逃げられなかったって、放課後練習の時嘆いてたわ)、同じくプリンセスに思いを寄せる幼馴染の公爵令息にシュルトナム様とオールスターでお届けするらしい。
私はというと……ロバの足。もう一回言うわねロバの足よ。プリンセスが騎士を連れて下町にお忍びに行った時に、訪れるカフェの近くの宿屋にロバがいるの。別にストーリーとの絡みもないから背景に描いちゃえばいいじゃんと思ったけど、リアリティを出すために立体感のあるロバがいいんだって。知らんけど。ちなみに相棒の前足はティモシー君。彼はマリーローズちゃんのお眼鏡にかなわなかったようで、今ではほぼパシリみたいな扱いを受けているみたい。
始めは彼が恐縮して後ろ足をやるって言ってたけど、90度お辞儀状態で20分耐えないといけなくなるから、私が引き受けたわ。もちろん色々理由をつけて演劇自体を欠席する子も多かったし、私もそうしてもよかったけど……
「ディアナ……断ったっていいんだよ。麗しい君が、よりによってロバの後ろ足だなんて……やっぱり僕が交渉して外してもらおうか?」と1週間ぶりに会ったシャルル殿下。疲労の度合いとしてはチョイくたびれってかんじかな。
「いいえ。ここで波風を立てては、せっかく殿下方が彼女の機嫌を取っているのが台無しになります。 私腹筋と背筋には自信がありますから、必ずや立派に後ろ足を務めあげて見せますわ!」と高らかに宣言したら、何でか殿下は爆笑していた。
「ほんとに君は変わったね。」と笑いすぎて涙まで流している。そりゃあ、中の人が替わってますから。ただ殿下、疲れすぎて笑いの沸点が下がってないですか?
「それはそれとして。各部の前期活動報告の精査は私がやっておきますから、殿下はしっかりと仮眠を取ってくださいね。」と私はサロンの仮眠室の方を指し示す。学校外の公務が忙しすぎる殿下やその側近たちのために、生徒会の仕事を代行できるよう全校集会で正式に承認をもらったの。マリーローズちゃんのことも含め、彼らは今大変な時だから、私にもできることをやりたいからね。
こうやってできるだけのことをやって、精一杯学生生活を過ごしていたけれど。
ゲーム通りには行かないし、それよりもとんでもない事態になる時もある、っていうのをこの後の私は身をもって知ることになる。
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