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試験と偶然見かけた彼女1

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今日の私は「アンディ・シュタインガー」。家のために働く訳アリ令嬢だ。あれでもないこれでもないと迷った服装は、結局、上は白のシャツに、下は濃いグリーンのドレープ状になっているロングスカートにした。大人っぽく見えて、結構気に入ってる。
そんな私の隣に立つのが、白いシャツにクラバット、濃いグリーンのフロッグコートで決めたカイン。なんだかお揃いみたいで、照れる。
カインはもちろんケイトに勝てなかったけど、ケイトもエプロン端を焦がしていたので、いい勝負だったのだろう。デートというのは冗談だからと取りなして、同行はカインということになった。

「お嬢、今日のその服新鮮だな。よく似合ってる。」とカインが私の緑の髪に触れながら、優しくささやく。
「っありがとう!あなたもよく似合ってるわよ!なんだか同じ色で私たち恋人みたいね、あはははは。」と誤魔化すように私が言うと、珍しく彼が顔を赤くした。可愛いね。

今回は行きも帰りも侯爵家の馬車にした。目的はふせて、ただおしのびだと言ってはいるんだけど、彼と車に乗り込む私たちを見て、使用人たちはなまあたたかい視線で見送ってくれた。なんでだろう?

前と同様、庭園そばに馬車を停め、私とカインは街に繰り出した。

今日は、私が代筆ギルドで試験を受けている間カインが用事をすませ、少し時間をつぶしてから結果を聞いて帰る予定だ。

代筆ギルド前で彼と別れ、試験を受けに入る。本日も代筆ギルドは大盛況!今日もなんとなく所在なさげなギルド長に試験を受けに来た旨を伝えると、ギルドの奥へと案内された。どうやら、前に来たお使いの少年とはバレてないみたい。良かった。

普通の教室の半分くらいの大きさの部屋に、8個の机といすがセットで並んでいる。今日は私以外にも試験を受ける人がいるようで、すでにちょっぴり神経質そうな青年や、上品なおばあさんが席についていた。私は空いていた隅っこの席に腰かける。

今日の試験は、仕様書を元に恋人への別れの手紙を書くことと、1000文字程度の文章を繰り返し10回書くこと。試験は3時間で、どちらにどれだけ時間をかけるかは自由。

これに通ったら、写本などもっと高度な依頼を受けられるし、収入だって上がって自立の道がより明るくなる。頑張ろうの決意を持って、私は配られた試験用紙に取りかかった。


「うーん……繰り返しの方は自信があるけど、別れの手紙って難しかったわ……。」
試験を終え、ギルドを出た私はグーっと伸びをした。王太子殿下の婚約者としては、はしたない姿だけど、今の私はアンディだもの。

待っててくれたカインと合流すると、ちょっぴり服が乱れているようで、クラバットが歪んでいたから直してあげた。
「ふふ、何だか本当に恋人みたい。」
「……今日はそういう体でいいんじゃないか?その方がお互いバレる確率が下がるだろ?」とカインが腕をスッと曲げて差し出すので、私はおずおずと彼の腕に自分の腕を絡めた。

ギルドのあたりを離れ、王都の比較的開けたお店の多い方へ連れ立って歩いていく。腕を組んでいる部分から、体が熱くなっていくのがわかる。こんなにドキドキしているのがカインにバレたらどうしようと不安になるのに、彼から離れがたい。
今の時間は午後3時をちょっと過ぎたところ。目的地もないままに歩いていると、「頭使ったんだから腹減ったろ?どっかカフェでも入るか?」とカイン。余裕がないのは私だけ、彼はいつも通りだ。
「そ、そうね……。」お店に入ったら、この時間は終わりだ。でも今はまだ、このままがいい。そう思った私は、庭園付近の屋台街を提案した。も、元々侯爵令嬢だからっておしのびでも行かせてもらえないからっていうのが、主な理由だからね。

屋台には香ばしく焼きあがった串焼肉や、パンにソーセージと野菜を挟みこんだホットドックなど色々と並んでいるけど、侯爵家で少し食べてきているし、カインは甘いものが好きだから……あ、クレープとか棒状のドーナツとか、スイーツゾーンもあるのね。

「あのドーナツとかどうかしら?フルーツ飴もあるわ!何個か買って、食べ比べしましょう。」と私。そのままドーナツ3つと、フルーツ飴も3つ購入した。「お、にいちゃんねえちゃん、ぴったりくっついてアツアツだねえ!」なんて冷やかされながら。そのまま庭園の方に移動して、気持ちのいい木陰のベンチに腰かける。さすがに立ち食いはマズいから。

「ん、こっちはチョコレートクリームだわ。生地は軽い感じでいくらでも食べられちゃいそう!」いつも食べているようなショコラとは違うけど、ふわっさくっとした生地にちょっともったりとしたココアのクリームがあって美味しい。
「俺の方はチーズクリームだな。ちょっと酸味があってうまいぞ。」そうやってワイワイ言いながら、小春日和の中、まだちょっと寒さもあるから私と彼はぴったり横並びにくっついて、屋台スイーツに舌鼓をうつ。転生してからはあまり屋敷や王宮以外で食事をとらないようになっていたから、とっても新鮮だ。フルーツ飴は、前世と同じようにフルーツに薄く飴掛けされたもので、なんだか懐かしい。ちょっぴりお腹いっぱいになった私の代わりに、主にカインが食べてくれた。

食べ終わったら、そのままおしゃべり。最近ではウィルがべったりだったし、仕事もあって、こんな風に2人だけで話をするのは久々だ。
「お嬢、試験受かってるといいな。」
「ちょっと自信ないかも……恋人からのさよならの手紙ってハードル高すぎよねーこっちは恋愛なんて未経験なのに。」
「お嬢は、婚約者サマのことは好きじゃないのか?」
「あーシャルル様ねえ。確かにかっこいいし、優秀だけど……国内貴族のパワーバランスと権力闘争のはてに結ばれた婚約だし、またそれが元で解消されるわけだから、そういう目で見られないっていうか、なんだかね……。」
「そんなもんなのか。」
「きっと私には恋愛とか結婚とかは縁がないのよ。平民になったら、1人でこじんまりとした小さな家に住んで、猫を2匹飼って、のんびり丁寧に暮らしていきたいわ。」そのときは、ケイトと一緒にたまには遊びに来てね、と私。
「俺はお嬢について行くつもりだし、元々そう言ってるだろ?」とちょっと悲しそうにカインが言う。
「そうしてくれたらとてもうれしいけど……私も自分の腕だけで食べていかなきゃならないし、あなたを雇うほどの余裕があるかどうか。あなたは侯爵家に残った方がいいわよ。」自慢じゃないけど福利厚生はバッチリだものウチって。
「そこらへんは俺がどうとでもするから。それともお嬢は俺が邪魔なのか?」
「そんなわけないでしょう。私はあなたのこと誰よりも大事に思ってるわ。」だからこそ侯爵家に残って、メイドたちの誰かと恋愛して結婚して幸せになって欲しい……でも想像するだけで、胸が苦しい。
そんな先のことを話していたら、合否結果の発表の時間になったので、代筆ギルドに戻って結果を聞く。

結果は合格だった。

「お嬢おめでとう!」
目を輝かせながらギルドを出てきた私に、カインがお祝いの言葉をくれる。ベースの文字単価も0.4上がったし、もっと頑張って上に上がれたら、私自身でカインを雇うこともできるかもしれない。

1個昇進したくらいで大げさな、と思われるかもしれないけど、とにかく私はうれしかった。
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