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羽馬渓谷編
第121話 ギャロ爺さん登場
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羽馬湖の前で、ワタクシただいま惚けています。
遠くから見たときの第一印象は。
『あまりにビビッド過ぎて天然とは思えない、嘘みたいに強インパクトカラーの湖』、だった。
青緑の不透明な鉱石板をぺたり。
まるで貼り付けたかのように見えた湖は、こうして実際間近で見れば。
普通にちゃんと水、してる。
魔素の輝きでキラキラしてるけど、手前は僅かに薄青く見える程度の透明な水なのに、水深を深め向こうへいくほどにターコイズブルー。
太陽の光を受けて眩しさを跳ね踊らせている。
岸辺から遠く、静かに凪いだ水面は艶やかな板みたいだ。
いつぞや天然石ショップで見た、青緑瑪瑙のスライスが頭に浮かぶ。
いや、色付き鏡かな。
緑に覆われたそそり立つ崖を、反転する写真のように映しとっているから。
湖面に映る空を、ゆっくりゆっくり。
白い雲が流れていく。
じっと見ていると、水なんだか空が二つあるんだか、どっちが本物だか分からなくなって、ほわんほわんしてくる。
しまいに……
『水の中にも逆さまの世界があるんじゃないかしら?』
空想がシャボン玉みたく私を包んで、ターコイズブルーの逆さま世界に誘い始める。
「コニー、上。指差したうんと上の崖のとこ、見てみ」
ぱちんっ。
エタンの声に、見えないシャボン玉の膜が割れ、私は首をそらして崖を見上げる。
「わああ! 小さな虹だ!」
今までまったく気づかなかった。
植物に覆われた崖に小さな亀裂があって、そこから岩清水が噴き出してるのだという。
滝になるほどの大きさと水量でなく、霧状になってるせいだと教えてくれた。
「あそこは虹渡り門と言われていてね。亀裂の下、虹の裏側は大きな穴が空いていて、洞窟の入り口になっているんだよ。その中に入ることが出来るのは…」
湖面の空にサッと黒い影が映ったと同時に、クレールは話を中断して、
「ほら。コニー、来たよ!」
と、笑顔で上を指差した。
見上げると大空に翼を広げた羽馬が四頭。
ぐんぐんと凄い勢いで降下してきて、あれよあれよという間に私たちの元へ降り立った。
三頭を後ろに引き連れた先頭羽馬から、馬上の人物がひらりと飛び降り。
私の前にひざまずくというより、土下座のようにひれ伏した。
はわっ!? ひょぇぇ
「不詳ながら、王家の方々の羽馬お馬番を務めさせでいだだいだごどもあっだ老いぼれにごぜいます。
隠居した身んだども、この度はおヌル様のお馬番どして馳せ参ずますた!」
うずくまった「お爺ちゃん」って感じの小柄な男性が、いかにも「お爺ちゃん」っぽい声質で、「お爺ちゃん」らしからぬデカいボリュームの大声を張り上げて。
なんとも地方色に富んだご挨拶を、おヌル様になさった模様。
羽馬が視界に入ってからここまでに至る超スピード展開に、私の理解が追いつかない。
時代劇ファンのお父さんが観てたテレビなら、
「うむ、くるしゅうない、オモテをあげよ」って、さっきの口上の後におヌル様が言ってそうなシーンだ。
いやまてよ?
っっ! おヌル様って私じゃん!
「あわわわ、えっと普通に。普通にお立ちになって……」
慌てて私も、その方の前にペタンとしゃがんだ。
「やっぱりギャロ爺さんが一人で来ると思ってたよ!
ははは、おヌル様が困ってるぞ。いつもどおりにしてくれて構わないよ。
コニーは僕たちとも極々普通の友達として、一緒に過ごしているからね。」
クレールが男性の肩をポンポンと叩き、立ち上がるのを促す。
私もパッと立ち上がる。
「見事な素早い動きだったぜ、ギャロ爺。その年で正座できる上に、膝がポキっとならずにサッと立てるなんてたいしたもんだ」
「へっちゃまげな! エタン坊、おらはまだまだ若ぇもんには負げねぞ」
エタンに返事をしながらニヤリと立ち上がったギャロさんと目があう。
「わえぇ! しったげ可愛らしぇ童だなや!」
私を見るなり、ものすごく驚いて大声を上げた。
可愛らしぇわらし?
童……子供?
『可愛らしぇ』も、多分キュートって意味じゃなく、ちっこくてかわいいって意味だろうな、これは。
「クレ坊。ほんにこの子がおヌル様なのが?
はあ~。手紙さ読んで、おらのような背の小っせぇ大人さ来るがで思ってだ。
虹の方様は、なしてこんただ幼い嬢っこさ連れ去って……無情なごとなさる。親ど離れで寂しいべぇ。
おいだばギャロど申します、おヌル様。爺っちゃだで思って頼ってたんせ。しぇば、爺っちゃて呼んでたんせ」
心配そうな顔で遠慮がちに、私のほうへしわしわで骨ばった手を差し伸べてきた。
なんか、優しい気遣いに心が温まる。
秋田弁ふうに翻訳されて聞こえるのは、強い訛りといえば、古くから工場にいた秋田出身の年嵩のおっちゃん二人が、私の幼い記憶にあるからかな?
私はその手をそっと握り締め、
「初めまして。それでは『ギャロ爺っちゃ』って呼ばせていただきますね。
私のことは、コニーと気軽にお声かけください。
ふふ、これでももう28歳の大人なんですよ。
家族はすでに他界しておりますが、お気遣いとても嬉しかったです。ありがとうございます。
本日は羽馬乗馬のご指導よろしくお願いします」
私の年齢を聞いて、たまげたなやぁ~とか再度とても驚ていた。
少し四人で話した後、
「しぇば馬場さ行ぐべが」
ギャロ爺っちゃの掛け声で、馬場の方へ早速移動することになった。
【次回予告 第122話 まごにも乗馬服】
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
この世界の乗馬服はもちろん特別です。
ギャロ爺さんの連れてきた羽馬との触れ合いが描かれます。
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
羽馬湖に固有のモデルはないのですが。
作者がハタチのときカナダ大陸横断した際、カナディアンロッキーで見た数々の湖に影響を受けています。
参考までに写真を数点載せてみました。あくまでイメージ資料です。
(人物消し加工してます)
遠くから見たときの第一印象は。
『あまりにビビッド過ぎて天然とは思えない、嘘みたいに強インパクトカラーの湖』、だった。
青緑の不透明な鉱石板をぺたり。
まるで貼り付けたかのように見えた湖は、こうして実際間近で見れば。
普通にちゃんと水、してる。
魔素の輝きでキラキラしてるけど、手前は僅かに薄青く見える程度の透明な水なのに、水深を深め向こうへいくほどにターコイズブルー。
太陽の光を受けて眩しさを跳ね踊らせている。
岸辺から遠く、静かに凪いだ水面は艶やかな板みたいだ。
いつぞや天然石ショップで見た、青緑瑪瑙のスライスが頭に浮かぶ。
いや、色付き鏡かな。
緑に覆われたそそり立つ崖を、反転する写真のように映しとっているから。
湖面に映る空を、ゆっくりゆっくり。
白い雲が流れていく。
じっと見ていると、水なんだか空が二つあるんだか、どっちが本物だか分からなくなって、ほわんほわんしてくる。
しまいに……
『水の中にも逆さまの世界があるんじゃないかしら?』
空想がシャボン玉みたく私を包んで、ターコイズブルーの逆さま世界に誘い始める。
「コニー、上。指差したうんと上の崖のとこ、見てみ」
ぱちんっ。
エタンの声に、見えないシャボン玉の膜が割れ、私は首をそらして崖を見上げる。
「わああ! 小さな虹だ!」
今までまったく気づかなかった。
植物に覆われた崖に小さな亀裂があって、そこから岩清水が噴き出してるのだという。
滝になるほどの大きさと水量でなく、霧状になってるせいだと教えてくれた。
「あそこは虹渡り門と言われていてね。亀裂の下、虹の裏側は大きな穴が空いていて、洞窟の入り口になっているんだよ。その中に入ることが出来るのは…」
湖面の空にサッと黒い影が映ったと同時に、クレールは話を中断して、
「ほら。コニー、来たよ!」
と、笑顔で上を指差した。
見上げると大空に翼を広げた羽馬が四頭。
ぐんぐんと凄い勢いで降下してきて、あれよあれよという間に私たちの元へ降り立った。
三頭を後ろに引き連れた先頭羽馬から、馬上の人物がひらりと飛び降り。
私の前にひざまずくというより、土下座のようにひれ伏した。
はわっ!? ひょぇぇ
「不詳ながら、王家の方々の羽馬お馬番を務めさせでいだだいだごどもあっだ老いぼれにごぜいます。
隠居した身んだども、この度はおヌル様のお馬番どして馳せ参ずますた!」
うずくまった「お爺ちゃん」って感じの小柄な男性が、いかにも「お爺ちゃん」っぽい声質で、「お爺ちゃん」らしからぬデカいボリュームの大声を張り上げて。
なんとも地方色に富んだご挨拶を、おヌル様になさった模様。
羽馬が視界に入ってからここまでに至る超スピード展開に、私の理解が追いつかない。
時代劇ファンのお父さんが観てたテレビなら、
「うむ、くるしゅうない、オモテをあげよ」って、さっきの口上の後におヌル様が言ってそうなシーンだ。
いやまてよ?
っっ! おヌル様って私じゃん!
「あわわわ、えっと普通に。普通にお立ちになって……」
慌てて私も、その方の前にペタンとしゃがんだ。
「やっぱりギャロ爺さんが一人で来ると思ってたよ!
ははは、おヌル様が困ってるぞ。いつもどおりにしてくれて構わないよ。
コニーは僕たちとも極々普通の友達として、一緒に過ごしているからね。」
クレールが男性の肩をポンポンと叩き、立ち上がるのを促す。
私もパッと立ち上がる。
「見事な素早い動きだったぜ、ギャロ爺。その年で正座できる上に、膝がポキっとならずにサッと立てるなんてたいしたもんだ」
「へっちゃまげな! エタン坊、おらはまだまだ若ぇもんには負げねぞ」
エタンに返事をしながらニヤリと立ち上がったギャロさんと目があう。
「わえぇ! しったげ可愛らしぇ童だなや!」
私を見るなり、ものすごく驚いて大声を上げた。
可愛らしぇわらし?
童……子供?
『可愛らしぇ』も、多分キュートって意味じゃなく、ちっこくてかわいいって意味だろうな、これは。
「クレ坊。ほんにこの子がおヌル様なのが?
はあ~。手紙さ読んで、おらのような背の小っせぇ大人さ来るがで思ってだ。
虹の方様は、なしてこんただ幼い嬢っこさ連れ去って……無情なごとなさる。親ど離れで寂しいべぇ。
おいだばギャロど申します、おヌル様。爺っちゃだで思って頼ってたんせ。しぇば、爺っちゃて呼んでたんせ」
心配そうな顔で遠慮がちに、私のほうへしわしわで骨ばった手を差し伸べてきた。
なんか、優しい気遣いに心が温まる。
秋田弁ふうに翻訳されて聞こえるのは、強い訛りといえば、古くから工場にいた秋田出身の年嵩のおっちゃん二人が、私の幼い記憶にあるからかな?
私はその手をそっと握り締め、
「初めまして。それでは『ギャロ爺っちゃ』って呼ばせていただきますね。
私のことは、コニーと気軽にお声かけください。
ふふ、これでももう28歳の大人なんですよ。
家族はすでに他界しておりますが、お気遣いとても嬉しかったです。ありがとうございます。
本日は羽馬乗馬のご指導よろしくお願いします」
私の年齢を聞いて、たまげたなやぁ~とか再度とても驚ていた。
少し四人で話した後、
「しぇば馬場さ行ぐべが」
ギャロ爺っちゃの掛け声で、馬場の方へ早速移動することになった。
【次回予告 第122話 まごにも乗馬服】
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
この世界の乗馬服はもちろん特別です。
ギャロ爺さんの連れてきた羽馬との触れ合いが描かれます。
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
羽馬湖に固有のモデルはないのですが。
作者がハタチのときカナダ大陸横断した際、カナディアンロッキーで見た数々の湖に影響を受けています。
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