126 / 131
羽馬渓谷編
第121話 ギャロ爺さん登場
しおりを挟む
羽馬湖の前で、ワタクシただいま惚けています。
遠くから見たときの第一印象は。
『あまりにビビッド過ぎて天然とは思えない、嘘みたいに強インパクトカラーの湖』、だった。
青緑の不透明な鉱石板をぺたり。
まるで貼り付けたかのように見えた湖は、こうして実際間近で見れば。
普通にちゃんと水、してる。
魔素の輝きでキラキラしてるけど、手前は僅かに薄青く見える程度の透明な水なのに、水深を深め向こうへいくほどにターコイズブルー。
太陽の光を受けて眩しさを跳ね踊らせている。
岸辺から遠く、静かに凪いだ水面は艶やかな板みたいだ。
いつぞや天然石ショップで見た、青緑瑪瑙のスライスが頭に浮かぶ。
いや、色付き鏡かな。
緑に覆われたそそり立つ崖を、反転する写真のように映しとっているから。
湖面に映る空を、ゆっくりゆっくり。
白い雲が流れていく。
じっと見ていると、水なんだか空が二つあるんだか、どっちが本物だか分からなくなって、ほわんほわんしてくる。
しまいに……
『水の中にも逆さまの世界があるんじゃないかしら?』
空想がシャボン玉みたく私を包んで、ターコイズブルーの逆さま世界に誘い始める。
「コニー、上。指差したうんと上の崖のとこ、見てみ」
ぱちんっ。
エタンの声に、見えないシャボン玉の膜が割れ、私は首をそらして崖を見上げる。
「わああ! 小さな虹だ!」
今までまったく気づかなかった。
植物に覆われた崖に小さな亀裂があって、そこから岩清水が噴き出してるのだという。
滝になるほどの大きさと水量でなく、霧状になってるせいだと教えてくれた。
「あそこは虹渡り門と言われていてね。亀裂の下、虹の裏側は大きな穴が空いていて、洞窟の入り口になっているんだよ。その中に入ることが出来るのは…」
湖面の空にサッと黒い影が映ったと同時に、クレールは話を中断して、
「ほら。コニー、来たよ!」
と、笑顔で上を指差した。
見上げると大空に翼を広げた羽馬が四頭。
ぐんぐんと凄い勢いで降下してきて、あれよあれよという間に私たちの元へ降り立った。
三頭を後ろに引き連れた先頭羽馬から、馬上の人物がひらりと飛び降り。
私の前にひざまずくというより、土下座のようにひれ伏した。
はわっ!? ひょぇぇ
「不詳ながら、王家の方々の羽馬お馬番を務めさせでいだだいだごどもあっだ老いぼれにごぜいます。
隠居した身んだども、この度はおヌル様のお馬番どして馳せ参ずますた!」
うずくまった「お爺ちゃん」って感じの小柄な男性が、いかにも「お爺ちゃん」っぽい声質で、「お爺ちゃん」らしからぬデカいボリュームの大声を張り上げて。
なんとも地方色に富んだご挨拶を、おヌル様になさった模様。
羽馬が視界に入ってからここまでに至る超スピード展開に、私の理解が追いつかない。
時代劇ファンのお父さんが観てたテレビなら、
「うむ、くるしゅうない、オモテをあげよ」って、さっきの口上の後におヌル様が言ってそうなシーンだ。
いやまてよ?
っっ! おヌル様って私じゃん!
「あわわわ、えっと普通に。普通にお立ちになって……」
慌てて私も、その方の前にペタンとしゃがんだ。
「やっぱりギャロ爺さんが一人で来ると思ってたよ!
ははは、おヌル様が困ってるぞ。いつもどおりにしてくれて構わないよ。
コニーは僕たちとも極々普通の友達として、一緒に過ごしているからね。」
クレールが男性の肩をポンポンと叩き、立ち上がるのを促す。
私もパッと立ち上がる。
「見事な素早い動きだったぜ、ギャロ爺。その年で正座できる上に、膝がポキっとならずにサッと立てるなんてたいしたもんだ」
「へっちゃまげな! エタン坊、おらはまだまだ若ぇもんには負げねぞ」
エタンに返事をしながらニヤリと立ち上がったギャロさんと目があう。
「わえぇ! しったげ可愛らしぇ童だなや!」
私を見るなり、ものすごく驚いて大声を上げた。
可愛らしぇわらし?
童……子供?
『可愛らしぇ』も、多分キュートって意味じゃなく、ちっこくてかわいいって意味だろうな、これは。
「クレ坊。ほんにこの子がおヌル様なのが?
はあ~。手紙さ読んで、おらのような背の小っせぇ大人さ来るがで思ってだ。
虹の方様は、なしてこんただ幼い嬢っこさ連れ去って……無情なごとなさる。親ど離れで寂しいべぇ。
おいだばギャロど申します、おヌル様。爺っちゃだで思って頼ってたんせ。しぇば、爺っちゃて呼んでたんせ」
心配そうな顔で遠慮がちに、私のほうへしわしわで骨ばった手を差し伸べてきた。
なんか、優しい気遣いに心が温まる。
秋田弁ふうに翻訳されて聞こえるのは、強い訛りといえば、古くから工場にいた秋田出身の年嵩のおっちゃん二人が、私の幼い記憶にあるからかな?
私はその手をそっと握り締め、
「初めまして。それでは『ギャロ爺っちゃ』って呼ばせていただきますね。
私のことは、コニーと気軽にお声かけください。
ふふ、これでももう28歳の大人なんですよ。
家族はすでに他界しておりますが、お気遣いとても嬉しかったです。ありがとうございます。
本日は羽馬乗馬のご指導よろしくお願いします」
私の年齢を聞いて、たまげたなやぁ~とか再度とても驚ていた。
少し四人で話した後、
「しぇば馬場さ行ぐべが」
ギャロ爺っちゃの掛け声で、馬場の方へ早速移動することになった。
【次回予告 第122話 まごにも乗馬服】
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
この世界の乗馬服はもちろん特別です。
ギャロ爺さんの連れてきた羽馬との触れ合いが描かれます。
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
羽馬湖に固有のモデルはないのですが。
作者がハタチのときカナダ大陸横断した際、カナディアンロッキーで見た数々の湖に影響を受けています。
参考までに写真を数点載せてみました。あくまでイメージ資料です。
(人物消し加工してます)
遠くから見たときの第一印象は。
『あまりにビビッド過ぎて天然とは思えない、嘘みたいに強インパクトカラーの湖』、だった。
青緑の不透明な鉱石板をぺたり。
まるで貼り付けたかのように見えた湖は、こうして実際間近で見れば。
普通にちゃんと水、してる。
魔素の輝きでキラキラしてるけど、手前は僅かに薄青く見える程度の透明な水なのに、水深を深め向こうへいくほどにターコイズブルー。
太陽の光を受けて眩しさを跳ね踊らせている。
岸辺から遠く、静かに凪いだ水面は艶やかな板みたいだ。
いつぞや天然石ショップで見た、青緑瑪瑙のスライスが頭に浮かぶ。
いや、色付き鏡かな。
緑に覆われたそそり立つ崖を、反転する写真のように映しとっているから。
湖面に映る空を、ゆっくりゆっくり。
白い雲が流れていく。
じっと見ていると、水なんだか空が二つあるんだか、どっちが本物だか分からなくなって、ほわんほわんしてくる。
しまいに……
『水の中にも逆さまの世界があるんじゃないかしら?』
空想がシャボン玉みたく私を包んで、ターコイズブルーの逆さま世界に誘い始める。
「コニー、上。指差したうんと上の崖のとこ、見てみ」
ぱちんっ。
エタンの声に、見えないシャボン玉の膜が割れ、私は首をそらして崖を見上げる。
「わああ! 小さな虹だ!」
今までまったく気づかなかった。
植物に覆われた崖に小さな亀裂があって、そこから岩清水が噴き出してるのだという。
滝になるほどの大きさと水量でなく、霧状になってるせいだと教えてくれた。
「あそこは虹渡り門と言われていてね。亀裂の下、虹の裏側は大きな穴が空いていて、洞窟の入り口になっているんだよ。その中に入ることが出来るのは…」
湖面の空にサッと黒い影が映ったと同時に、クレールは話を中断して、
「ほら。コニー、来たよ!」
と、笑顔で上を指差した。
見上げると大空に翼を広げた羽馬が四頭。
ぐんぐんと凄い勢いで降下してきて、あれよあれよという間に私たちの元へ降り立った。
三頭を後ろに引き連れた先頭羽馬から、馬上の人物がひらりと飛び降り。
私の前にひざまずくというより、土下座のようにひれ伏した。
はわっ!? ひょぇぇ
「不詳ながら、王家の方々の羽馬お馬番を務めさせでいだだいだごどもあっだ老いぼれにごぜいます。
隠居した身んだども、この度はおヌル様のお馬番どして馳せ参ずますた!」
うずくまった「お爺ちゃん」って感じの小柄な男性が、いかにも「お爺ちゃん」っぽい声質で、「お爺ちゃん」らしからぬデカいボリュームの大声を張り上げて。
なんとも地方色に富んだご挨拶を、おヌル様になさった模様。
羽馬が視界に入ってからここまでに至る超スピード展開に、私の理解が追いつかない。
時代劇ファンのお父さんが観てたテレビなら、
「うむ、くるしゅうない、オモテをあげよ」って、さっきの口上の後におヌル様が言ってそうなシーンだ。
いやまてよ?
っっ! おヌル様って私じゃん!
「あわわわ、えっと普通に。普通にお立ちになって……」
慌てて私も、その方の前にペタンとしゃがんだ。
「やっぱりギャロ爺さんが一人で来ると思ってたよ!
ははは、おヌル様が困ってるぞ。いつもどおりにしてくれて構わないよ。
コニーは僕たちとも極々普通の友達として、一緒に過ごしているからね。」
クレールが男性の肩をポンポンと叩き、立ち上がるのを促す。
私もパッと立ち上がる。
「見事な素早い動きだったぜ、ギャロ爺。その年で正座できる上に、膝がポキっとならずにサッと立てるなんてたいしたもんだ」
「へっちゃまげな! エタン坊、おらはまだまだ若ぇもんには負げねぞ」
エタンに返事をしながらニヤリと立ち上がったギャロさんと目があう。
「わえぇ! しったげ可愛らしぇ童だなや!」
私を見るなり、ものすごく驚いて大声を上げた。
可愛らしぇわらし?
童……子供?
『可愛らしぇ』も、多分キュートって意味じゃなく、ちっこくてかわいいって意味だろうな、これは。
「クレ坊。ほんにこの子がおヌル様なのが?
はあ~。手紙さ読んで、おらのような背の小っせぇ大人さ来るがで思ってだ。
虹の方様は、なしてこんただ幼い嬢っこさ連れ去って……無情なごとなさる。親ど離れで寂しいべぇ。
おいだばギャロど申します、おヌル様。爺っちゃだで思って頼ってたんせ。しぇば、爺っちゃて呼んでたんせ」
心配そうな顔で遠慮がちに、私のほうへしわしわで骨ばった手を差し伸べてきた。
なんか、優しい気遣いに心が温まる。
秋田弁ふうに翻訳されて聞こえるのは、強い訛りといえば、古くから工場にいた秋田出身の年嵩のおっちゃん二人が、私の幼い記憶にあるからかな?
私はその手をそっと握り締め、
「初めまして。それでは『ギャロ爺っちゃ』って呼ばせていただきますね。
私のことは、コニーと気軽にお声かけください。
ふふ、これでももう28歳の大人なんですよ。
家族はすでに他界しておりますが、お気遣いとても嬉しかったです。ありがとうございます。
本日は羽馬乗馬のご指導よろしくお願いします」
私の年齢を聞いて、たまげたなやぁ~とか再度とても驚ていた。
少し四人で話した後、
「しぇば馬場さ行ぐべが」
ギャロ爺っちゃの掛け声で、馬場の方へ早速移動することになった。
【次回予告 第122話 まごにも乗馬服】
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
この世界の乗馬服はもちろん特別です。
ギャロ爺さんの連れてきた羽馬との触れ合いが描かれます。
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
羽馬湖に固有のモデルはないのですが。
作者がハタチのときカナダ大陸横断した際、カナディアンロッキーで見た数々の湖に影響を受けています。
参考までに写真を数点載せてみました。あくまでイメージ資料です。
(人物消し加工してます)
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる