舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

文字の大きさ
上 下
124 / 131
羽馬渓谷編

第119話 お昼ご飯と森番の話

しおりを挟む
 しゅわわわ~。

 小粒青レモンの蜂蜜づけ、角切りにした缶詰パイン、両方のシロップ。
 一瓶にまとめて入れて持ってきたそれらを、グラスに入れ。
 水筒で持参した氷も加え、そして炭酸水を注いでま~す。

 仕上げは、エタンのとってくれたアップルミントマルバハッカみたいな味のミントと、デューベリーを。

「ピクニックにかんぱ~い!」
「「乾杯!」」

 ごくごく、ぷはっ! 甘酸っぱくて寝起きに爽快!

「ドゥーベリーをさ、こうして、ちゅいちゅいって潰すと、炭酸がほんのりピンクになって可愛いよ」
 中のパイナップルをすくって食べるために添えた、小さじでやってみせる。

「あ、ほんとだ。味も変って、これもまた美味しい。綺麗な飲み物だね、華やいだ気分になる」
 横でグラスをに透かすようにして、色合いも楽しむクレール。

 向かいでは、一番乗りにハムサンドを頬張りながら、
「美味え! 昨日のコニーお手製のマヨネーズ、マジで効果絶大だな。
こういう美味いもん食ってると、酒が飲めないのが勿体ねえ、って気分にいつもはなるんだが。
うーん。この果物入り炭酸水は、目も舌も楽しませてくれて実にいいな」
 エタンらしい嬉しい相槌をうつ。

 もう一種のサンドイッチも仕上げちゃおうっと。
 カリカリベーコンとマッシュルームの脇に、レタスを挟み。
 そんでマリネしといた、プチトマトを上に載せる。

 がぶりっ、うんま~い!!

 ハムもチーズも素材が力強くてとても美味しかったけど。
 このベーコンの塩味と旨味もすんごくいい!
 事前にオリーブオイルと酢でマセレ漬け込みしといたトマトが、我ながらいい仕事してるぜぃ。

 小麦の風味がしっかりしたこのフランスパンに、具がみーんなマッチしてる。

 今日はフランスパンが焼きたて。
クラストパンの外側がバリバリ、歯ごたえ最高!


 フランスパンの皮の美味しさについての話題をまさに皮切りに、クレールがフランセ州とおヌル様の話をいろいろしてくれた。

 クレールの実家がある場所。
 王弟であったお祖父様が、フランセ州でお祖母様と出逢って結ばれてから、そこでの暮らしが始まったこと。

 州の名前の由来は、フランス出身のおヌル様、ガスパール様が三百年前その地に住み着いたからだった。
 彼のさまざまな功績も教えてもらう。

 特にフランセ州の乳製品が美味しいのは、ガスパール様のお陰なのね、と、ハムチーズサンドを噛みしめる私。

 そして、羽馬の盟約と暗号のことも。

「今日待ち合わせ場所に馬を連れてやって来るやくを、前親方の御老体ごろうたいが買ってでてくれたらしい。いや、現役を押しやってとも言うんだけど。
あの……コニー。相談というかお願いが……。
もしも爺さんが一人で来たら、羽馬湖に手を浸して、あの光の湖のようなオパールの髪を見せてやってもらえないだろうか?
羽馬湖はねうまこの水は、光の湖に匹敵するほどの高濃度魔素でできてるから、可能じゃないかと僕は思っててね」

「うん、全然いいよ。クレールが信頼している人物なんでしょう? 羽馬湖でも、あれができるか実験してみたい」

「はあぁ、よかった。快く承諾してくれてありがとう!
ギャロ爺さんは小さな頃からの付き合いでね。今でも光の湖に散歩がてら、ときおり僕の家にお茶しに寄ったりするよ。彼は王家森番を務めたこともある男なんだ」

 片手に持っていたサンドイッチを皿に置き、クレールは身体をぐいっと、よりしっかり私に向き合うように座り直した。

「森番について少し詳しく語ってもいいかい?
森番にはね、光の湖と森の有事の際は、独断で策を発動できる権限があるんだよ。たとえそれが王や大統領の政策に対抗することになっても。
『光の湖と虹の方様を敬い、人間の欲で破壊されることがなきよう、反する意思を持つ存在を排除して護る』、それが使命だ。
そしてヌル様が現れた際には、何をおいても馳せ参じ助ける。
覚悟とこの矜持を胸に抱き、光の湖に誓いを立て湖の見える場所で暮らすんだ。
14年前に蛍様がこの世界にいらしたときは、ギャロ爺さんはとっくのとうに森番を引退してたし、蛍様は羽馬に関わらなかった。自分が生きてるときにおヌル様が現れたが縁を結べなったと、いつぞや残念そうに漏らしていたよ。
だから……僕は。森番大先輩の爺さんと、おヌル様に出逢えた喜びを分かち合いたいと思っている。光の湖の精霊みたいに神秘的なコニーの髪も、拝ませてあげたいんだ」

 ちょっとクレールさんよ。
 拝ませるって、その言い方はどうかと思うけど。

「もちろんお安い御用よ」

「ありがとうコニー! せっかくだから、目の前でして見せるのはどうだろうか。ふふ、あの華麗なる変化を見たら腰抜かすぞ爺さん」

「驚きすぎて、冥土の土産になっちまうかもな、はは」
 
 エタンのブラックジョーク、ギャロさんの年齢によっちゃ笑えないから。

 クレールから森番の心構えと決意、大先輩をねぎらいたいという願いを聞いて……。
 クレール自身の、森番の、そしておそらくこの世界の人々の。
 魔素の根源である神聖な光の湖と森。
 信仰にも似たとてつもないリスペクトに触れたような気がした。

 そしてきっと虹の方様、それに付随して多分おヌル様への特別さも……
 う~む。

「会ってすぐにお披露目といくか。コニーの神秘の変身を見たのち、乗馬の腕前を見る採点が甘くなるかもしんないからな。いや、爺さんに限ってそれはねえか」

「んー……混同することはないだろうけど。
コニーの安全が第一だから。逆に、基準が甘くならないようにするべきだ。
厳しいようだけど、ごめん、コニー。試験を実力のみで受けた後にしよう。
大丈夫だよ。もし今日の初回がダメでも、その後の指導は、そりゃあもう熱心に親身に見てくれるよ」

「うん、空を飛ぶんだから、安全面において厳しい水準が必要だと思う。私も乗馬は久しぶりだから、そっちの方がいいや。
あのさ、話は変わるけど、さっき『光の湖の精霊』って言ってたでしょ? この世界には精霊がいるの?」

「いや、いないよ。お伽話だね。実際に見たという具体例も特にない。国民にとって、虹の方様のように実在を確信してる感じじゃなくて、古い昔話に出てくる架空の存在だ」

「そっか。羽馬とかもいるし精霊が実在するのかと思った」

「地球にはいるのか?」

「うーん、地球でもこっちと同じ位置付けだねぇ」

 なるほど。
 ちょっといいアイデアのきっかけになるような……いやいや、今は羽馬に集中、集中。
 思考のすみに『精霊』の単語を追いやっとこ。






【次回予告 第120話 崖っぷち】
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...