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羽馬渓谷編
第114話 本日の予定
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三日月パン。
大好物のクロワッサンに、似て非なるものだった。
見た目はよく似てるけど、ふかっとしてあまり層になってなくて、バターの味もとりわけしない。
中身もいろんなパターンがあるらしく、今回納品されたのは二種類。
あんま~い苺みたいな赤いジャム。
あんま~いココア風味のヘーゼルナッツクリームみたいなのが、それぞれたっぷり詰まってた。
昨日クレールと選んだカフェオレボウルで、エタンの入れてくれたカフェオレをお供に。
一個がでっかくて、お腹の満腹度というより、単純な甘さだからちょっと飽きるというか。
それを半分づつ食べた。
もうちょっとなんか食べたい気分は、フランスパンの尖った端っこを切り落として、何にもつけずにかじって満たす。
焼きたてカリカリ、美味しい!
食べながら聞かされた、今日の決定したスケジュール。
ここからプランシュに乗って一時間もかからない場所にある、羽馬渓谷に13時に行くこと。
牧場主さんと待ち合わせしていて、羽馬を連れてきてくれるらしい。
おそらく地上で乗馬技術の練度を見て判定し、合格をもらえれば空へ。
まだ、と判定されても、クレールと二人乗りでちょっとだけ試しに飛ぶ許可はもらえると思うとのこと。
それまでの時間は、裏庭でプランシュの練習をしないか、と提案される。
確かに。
羽馬渓谷まで移動しなきゃなんないし。
森での移動手段は、今のところこれが一番手軽だもんね。
気軽に自分で乗れるに越したことはない。
早々に朝食を済まし、早速裏口のドアから外へ向かう。
あらかじめ私の靴も移動してくれたのね、気が利いてて素晴らしいわぁ。
そして、初日クリアにしてあったお風呂場から見えた裏庭に、あの時の乗り物が三台置いてあった。
出会の時はちゃんと見てなかったけど、がっしりとした作りで、これなら長距離もハイスピードもお手のものだろうね、すごくカッコいい!
車の運転はそう得意じゃないけど。
一応マニュアルで免許とったんだかんね、十年前の高校卒業の春に。
よっし、頑張るぞ~!
……うん、今ね、三人で四阿にいるの。
出会って以降未だかつてない、沈黙でね。
あれから私たちプランシュ教習を、一時間ぐらい頑張ったんじゃないかな。
二人は丁寧に、とっても親切に教えてくれて感謝してる。
——目を閉じて一人回想する。
「おわぁ!! あれっ?! ぎゃ~!!」
ブオウン、ブオオオオン
「コニー! 右手! ふかし過ぎ!」
「左手、握って減速、って! 強すぎ! 右手のそれ離したらダメだ!」
「えっ?! わ?! ひゃっっ」
「「危ない!!!!!」」
はは、と、停まった……こ、怖かった……
なんか私ってば。
プランシュの運転は……
しばしの休憩終わり。——
「あのさ、ちょっと思ったんだけど。
二人には申し訳ないんだけどさ。
習ってまだ最初の段階で、なんなんですが。
命懸けの無理はしない主義ってことでね、プラ」
「そうしよう!」
「そのとおりだ!」
ふっ、返事早っ。
最後まで言わせるまでもないってかい?
まあね、言い出しづらかったんだろうよ。
センスなさ過ぎて危なっかしくて、恐ろしくて見てられないからもうやめようってね……
もろもろすまないのぉ、二人とも。
「それにしても、プランシュってさ。空中に浮いてるんだね。驚いたよ」
「ああそれはね」
と、喋り出したクレールに向かって、ちょっと待ってサイン、無言でパーの手をクレールの顔のほうに差し出したのち。
すぐさま私は自分の口と鼻の前で両手を合わせ隠すようにしながら、首をこてんとする。
そんでなるべくキュルルンとした瞳になるよう意識して、クレールを見つめてみた。
「ん? 可愛い仕草でこっち見てきて、コニーなんだい?」
「ごめんねクレール。私アホだから、詳しい機械構造の専門説明聞いても、ちんぷんかんぷんなの。
お店でお客様との会話のときは、聴き役もお仕事のひとつであるからね。いつも丁寧に聴くよう心掛けてるし、難しいお話の場合は集中力も駆使するよ。
でも……クレールとはお友達だから。
私、仲間との何気ない日常会話を、無理して頑張りたくないの。聞いてるフリもしたくないし。
だから今、先に言っとこうかなって。
そこんとこちょっと手加減してもらって、お手柔らかに頼みますよ宣言です。
そんでクレールが専門話を暴走しちゃったら、私このポーズをすかさず出すから、覚えておいてね」
「はっ、やっぱすげえなコニーは。こんな付き合い初っ端からよくぞ気付いた、そんでよくぞ面と向かって言った!
そうなんだよ、クレールの息継ぎしないで語ってくる口撃やばいよな。半分聞いてないとき俺はしょっちゅうだぜ」
エタンは私のこのストレートな発言に対して悪く思っていないようだけど、クレールは傷ついてないかな……
「ふふ、そんな心配そうな顔で僕を見ないでも大丈夫だよ。むしろ最初にそう言ってくれた君の誠意に感動してる。ありがとう。僕にちゃんと向き合ってくれて。
僕と長く付き合う気満々な提案だからね、それ。
コニー、今すぐ歓喜抱擁しても?」
え? 歓喜抱擁?
あ、昨日言ってた抱きつき衝動か。
ん~、どうぞ、ってわけじゃないけど、やめて、って程ではないかな。
難しい専門用語てんこ盛り話への、手加減要請を飲んでくれたんだしね。
とりあえず無言でこくん、と頷いてみる。
ぎゅう
さあクレール、私からの背中とんとんサービス付きだよ、ぽふぽふ、はい、おしまい、離れてね。
んん? まだ?
ぎゅう
ひゃっ? てか、う、後ろからも?!
「クレールちょっと長いよ、三秒まで。
それにエタン。どさくさで便乗しないの!」
「はは、ついな」
「オマエ『ついな』じゃないよ! コニーお名残惜しいけど、ありがとう」
前も後ろも、早よ散った散った。
はあぁ……この国の友情は。
まったくもって、暑苦しくて恥ずかしいことこの上ない!
【次回予告 第115話 見切って余った小一時間】
大好物のクロワッサンに、似て非なるものだった。
見た目はよく似てるけど、ふかっとしてあまり層になってなくて、バターの味もとりわけしない。
中身もいろんなパターンがあるらしく、今回納品されたのは二種類。
あんま~い苺みたいな赤いジャム。
あんま~いココア風味のヘーゼルナッツクリームみたいなのが、それぞれたっぷり詰まってた。
昨日クレールと選んだカフェオレボウルで、エタンの入れてくれたカフェオレをお供に。
一個がでっかくて、お腹の満腹度というより、単純な甘さだからちょっと飽きるというか。
それを半分づつ食べた。
もうちょっとなんか食べたい気分は、フランスパンの尖った端っこを切り落として、何にもつけずにかじって満たす。
焼きたてカリカリ、美味しい!
食べながら聞かされた、今日の決定したスケジュール。
ここからプランシュに乗って一時間もかからない場所にある、羽馬渓谷に13時に行くこと。
牧場主さんと待ち合わせしていて、羽馬を連れてきてくれるらしい。
おそらく地上で乗馬技術の練度を見て判定し、合格をもらえれば空へ。
まだ、と判定されても、クレールと二人乗りでちょっとだけ試しに飛ぶ許可はもらえると思うとのこと。
それまでの時間は、裏庭でプランシュの練習をしないか、と提案される。
確かに。
羽馬渓谷まで移動しなきゃなんないし。
森での移動手段は、今のところこれが一番手軽だもんね。
気軽に自分で乗れるに越したことはない。
早々に朝食を済まし、早速裏口のドアから外へ向かう。
あらかじめ私の靴も移動してくれたのね、気が利いてて素晴らしいわぁ。
そして、初日クリアにしてあったお風呂場から見えた裏庭に、あの時の乗り物が三台置いてあった。
出会の時はちゃんと見てなかったけど、がっしりとした作りで、これなら長距離もハイスピードもお手のものだろうね、すごくカッコいい!
車の運転はそう得意じゃないけど。
一応マニュアルで免許とったんだかんね、十年前の高校卒業の春に。
よっし、頑張るぞ~!
……うん、今ね、三人で四阿にいるの。
出会って以降未だかつてない、沈黙でね。
あれから私たちプランシュ教習を、一時間ぐらい頑張ったんじゃないかな。
二人は丁寧に、とっても親切に教えてくれて感謝してる。
——目を閉じて一人回想する。
「おわぁ!! あれっ?! ぎゃ~!!」
ブオウン、ブオオオオン
「コニー! 右手! ふかし過ぎ!」
「左手、握って減速、って! 強すぎ! 右手のそれ離したらダメだ!」
「えっ?! わ?! ひゃっっ」
「「危ない!!!!!」」
はは、と、停まった……こ、怖かった……
なんか私ってば。
プランシュの運転は……
しばしの休憩終わり。——
「あのさ、ちょっと思ったんだけど。
二人には申し訳ないんだけどさ。
習ってまだ最初の段階で、なんなんですが。
命懸けの無理はしない主義ってことでね、プラ」
「そうしよう!」
「そのとおりだ!」
ふっ、返事早っ。
最後まで言わせるまでもないってかい?
まあね、言い出しづらかったんだろうよ。
センスなさ過ぎて危なっかしくて、恐ろしくて見てられないからもうやめようってね……
もろもろすまないのぉ、二人とも。
「それにしても、プランシュってさ。空中に浮いてるんだね。驚いたよ」
「ああそれはね」
と、喋り出したクレールに向かって、ちょっと待ってサイン、無言でパーの手をクレールの顔のほうに差し出したのち。
すぐさま私は自分の口と鼻の前で両手を合わせ隠すようにしながら、首をこてんとする。
そんでなるべくキュルルンとした瞳になるよう意識して、クレールを見つめてみた。
「ん? 可愛い仕草でこっち見てきて、コニーなんだい?」
「ごめんねクレール。私アホだから、詳しい機械構造の専門説明聞いても、ちんぷんかんぷんなの。
お店でお客様との会話のときは、聴き役もお仕事のひとつであるからね。いつも丁寧に聴くよう心掛けてるし、難しいお話の場合は集中力も駆使するよ。
でも……クレールとはお友達だから。
私、仲間との何気ない日常会話を、無理して頑張りたくないの。聞いてるフリもしたくないし。
だから今、先に言っとこうかなって。
そこんとこちょっと手加減してもらって、お手柔らかに頼みますよ宣言です。
そんでクレールが専門話を暴走しちゃったら、私このポーズをすかさず出すから、覚えておいてね」
「はっ、やっぱすげえなコニーは。こんな付き合い初っ端からよくぞ気付いた、そんでよくぞ面と向かって言った!
そうなんだよ、クレールの息継ぎしないで語ってくる口撃やばいよな。半分聞いてないとき俺はしょっちゅうだぜ」
エタンは私のこのストレートな発言に対して悪く思っていないようだけど、クレールは傷ついてないかな……
「ふふ、そんな心配そうな顔で僕を見ないでも大丈夫だよ。むしろ最初にそう言ってくれた君の誠意に感動してる。ありがとう。僕にちゃんと向き合ってくれて。
僕と長く付き合う気満々な提案だからね、それ。
コニー、今すぐ歓喜抱擁しても?」
え? 歓喜抱擁?
あ、昨日言ってた抱きつき衝動か。
ん~、どうぞ、ってわけじゃないけど、やめて、って程ではないかな。
難しい専門用語てんこ盛り話への、手加減要請を飲んでくれたんだしね。
とりあえず無言でこくん、と頷いてみる。
ぎゅう
さあクレール、私からの背中とんとんサービス付きだよ、ぽふぽふ、はい、おしまい、離れてね。
んん? まだ?
ぎゅう
ひゃっ? てか、う、後ろからも?!
「クレールちょっと長いよ、三秒まで。
それにエタン。どさくさで便乗しないの!」
「はは、ついな」
「オマエ『ついな』じゃないよ! コニーお名残惜しいけど、ありがとう」
前も後ろも、早よ散った散った。
はあぁ……この国の友情は。
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