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光の湖畔編

第104話 はぐっ!!

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「そ、そうなんだね。
まあ、これからの王様へのおヌル様報告とか、いろんな作戦とかは三人で打ち合わせするとして……現地のかた対策はお任せするよ。
出会っちゃったら出会ったで、私なんとか上手くお相手するから、多分大丈夫よ」

 あ、でも。

「ねえ、さっきのエタンも、昨日のクレールもさ。なんか嬉しかったことがあったら、私に突然ガバッって抱きついたりしたじゃん?
こっちの人ってみんなそんな感じ?
もしもその人に『魔素少女だ!』とかいきなり抱きつかれんのとかは、さすがに困るんだけど……」

 クレールとエタンが面食らった顔つきでお互いに見合ったあと、慌てて思いっきり否定してきた。

「いや! 違う! いやでも、そ、そうかな? いいや、特別な場合だけだ!
僕にとってこれまでは、急に抱きつく対象は家族とエタンぐらいだ。
ましてや女性になんて、母親と姉以外はコニーの他には断じて。誓って今まで一度たりともしたことなかった、僕は!」

「俺だって、ガキの頃以降は、酔っ払ったときに俺を狙ってない仲間と、クレールにやるぐらいだぜ。
そんで久々に昨日、コニーを挟んでクレールに抱きついちまったのと、あー、さっきのだな」

 ちゃんと説明するから、と落ち着いたクレールが話し始めた。

「恋愛感情に限らずね、『特別に親しい間柄』って認識が双方にあった上で。
その相手から愛情を与えられたと、確実に実感したときね。
爆発的に喜びの感情が抑えきれなくなって、思わず抱きついてしまうことを『歓喜抱擁かんきほうよう』と、この国では呼んでいる。
そして、婚姻関係や恋人関係にない、僕たち異性愛者でいうなら異性に対して。断りもなく抱きつくのは破廉恥ハレンチ行為だと教育を受けているんだけど……」

 二人とも断りもなく私にやったもんで、ちょっとバツが悪そうだ。

「その、言い訳するつもりはねえんだけどよ。魔素体質の人間は、『歓喜抱擁』欲求が強いとされてんだ。
しかも髪や瞳が煌めいたやつはことさら、この行動を取る傾向が著しいっつーか……。
とはいえ、通じ合う相手の好意に、爆裂感激してってことが大前提だからよ。
しかも家族や恋人以外の異性にはお伺いが礼儀だ。
俺らが言うと説得力ないが、誰も彼もが抱きついてくる恐ろしい世界ってわけじゃねえよ」

「それでね、実はコニー……。
魔素体質の人間は、『特別な好意を抱く』相手に触れたり触れてもらうと、心身共に癒されるというか、体内魔素が格段に安定するんだ。
例えばエタンだったら魔素の抜けが良くなるとか、僕だったらもっと吸収排出値が上がるとか。
だから家族の仲はどこもわりと良く、幼い頃から身体への何気ない接触や触れ合いも多かったりするね。実際、親が膝の上に小さな子を載せて魔石生みするといい結果が出るよ」

 な、なるほど。

 もしや、クレールが私を、いつもどこへでもエスコートしてくれるっていうか、したがるのは……。

 クレールのお祖父様からして、おヌル様一筋家系っぽいし、本人もフランスのおヌル様研究者で、光の湖と森の王家番人だし。
 初対面から無意識下の好意の働きかけで、おヌル様の私と手を触れ合って、癒されたかったのかもしれない。

 エタンが私の頭を何かっていうと撫でてくるのも、きっとそうなのかもしれない。

 いや、待てよ。
 昨日、エタンの頭をちょこっと撫でた私に、腰を屈めて撫でやすいように頭を差し出してきたり。
 酔っぱらって、ばすっと頭を痛くしても怒らなかったり。
 そんで今日の仕事行く前。
 数々の意外な可愛らしい甘え発言は……。
 私を撫でたいというより、むしろ俺を撫でろ?

「特に魔素で煌めいてる箇所が、髪の毛や瞳に現れているやつは……あー、自分で言うの非常にずいんだが。
まあ、なんだ。……総じて……ツラが良い。
んで、魔素体質の奴は魔素が濃いとこに住みたがるから、条件的な意味で相手の幅も狭まる。だから積極的な子孫繁栄本能じゃないかっていう定説もあってだな……
無論、家族間や俺とクレールのような親友同士の接触は、性的な意味は皆無だが」

「エタン! 子孫繁栄なんて生々しいこと言うな。コニー、僕らの咄嗟とっさの行為にはいやらしさとか潜んでないんだ、お願い、信じて。
僕も、エタンもさっき言ったけど、今までコニー以外の女性にね、ほんと抱きついたりね、してないから。
それと抱きつかれる側は、やられて嫌な時は堂々とキッパリした拒否の言葉と共に突き飛ばして拒絶していいんだからね。
きっと慣れてくると抱きつかれる前に、『もしや、くるかも?』って、気配を察知してパッとかわせるようになるから」

 えええええ~。
 いや、察知できないし、避けれるスピードじゃなかったよ、あの時のクレールもエタンも。
 そんで二人とも、もしかして抱きつかれ慣れててしかも、避け慣れてる?!

「自分が好きだからって癒されようと勝手に触れても、相手が嫌だと思ってたら、全くその効果は生じねえの。つまり癒しとお触り一石二鳥犯罪は成立せずってわけだ。まあ、ただの痴漢野郎はいるけどよ。
だが、『双方の認識』がぶっ壊れてる一方的妄想や執着系の病んでる人間もいるから、許されざる勘違い『歓喜抱擁』犯罪は、残念ながら起こりうる。
そんなときゃ公安局の『付きまとい対策課』で随時相談も受け付けてるから、深刻化していく犯罪を、未然に防げる場合もかなり多い」

「蛍様いわく、その性質の存在のおかげで早期に表面化し、行政がそれを些細なこととせず真剣に民事介入してくれるから、とは言ってもらったことがあるけど」

 うぬぬ。
 クレールやエタンならまだしも、これから出会う男性とは、あんま深く友達付き合いしたくないなあ。





【次回予告 第105話 ニガヨモギ】

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