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光の湖畔編

第97話 森林の王子様

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 大きいお鍋にふるいを下向きに入れる。
 水を張って火にかける。
 ふきんの上に蓋を載せ、下から包むように上で縛っておこう。
 水滴ぽたぽた防止だ。
 天丼をグラタン皿にあけて、沸騰したらふるいの上へ。
 即席蒸し器の出来上がり。

 油っぽさはどうしようもないけど、レンジより美味しく、ふっくら温めなおしたい。
 

♦︎


 目星をつけていた大きめの柑橘は、剥いたら赤みの濃いピンクグレープフルーツだった。
 オレンジ同様カルティエくし型に切り出す。
 この赤色ならデザインとして、トマトを使わないで済むぞ。

 昨日の半分残したアボカドも茶色いとこを落としスライス。
 果肉を切り出した、グレープフルーツの皮の真ん中芯というか、べろべろのやつをぎゅっと握って、果汁を余すことなく搾り出す。
 その汁をアボカドに塗り、酸で茶ばまないよう色止めをしておく。
 薄くスライスした、白マッシュルームにも塗る。

 大皿に、ピンクグレープフルーツ、アボカド、白マッシュルームを交互に、真ん中を開ける円形に並べていく。
 
 ボウルにセルフィーユを全部入れ、パロミノビネガーとオリーブオイルと塩胡椒で味付け。

「ん? それ俺が昨日モサッと取ってきたやつか? ミントも糸ネギも使ってくれたし。気に入ってもらえて何よりだ」

「うん、そうなの。便利で美味しくて良いね。エタンありがとう」

「おう、また取ってくるぜ」

「あ、それなら今度連れてってよ」

「……クレールと相談してからな」

「は~い」
 そっか……まずは私のことを王様に報告して、早く日陰のオンナから脱したいなあ~。



 クレールもお風呂上がり合流して、酒モヒートを出すと、褒め褒めシャワーを私に浴びせてくれた。

 クレールに出す前に同じように味見させてもらったけど、アルコール自分の分は作っていない。
 さっきのグレープフルーツと、昼に取っておいたオレンジのぴろぴろの絞り果汁を酒の代わりに入れて、ノンアルコール・モヒートしゅわしゅわを、楽しんでます。

「コニーは今日は飲まないのか?」

「ん。そういうわけじゃないんだけど……天丼食べてもらってる間にサッと作りたい料理あるし、お風呂もまだだから、酔っぱらいたくなくてね。
なんかね、私すごくお酒に弱くなってるみたい。
やっぱり元々普通よりはちょっと弱めなのかも。
酒好きだった恋人と別れて、飲む機会がほぼなくなったし。家族のことがあって、友達と遊びとかご飯食べに行く時間もなかったし。独りでお酒を飲む趣味は無いしなあ。
全然飲んでないから、ちょっとでも酔いがまわる感じね。こっちの酒精が強いのか、私との相性問題なのかは、分かんないや。
今も日本酒試飲とモヒート作るのに味見して、ちょっとふわっと感あるよ、ほっぺ赤くない?」

「そういや頬が色付いてるな、うん、可愛いぞ」

「ぽっと頬に薄紅花が咲いたみたいで、可愛いいよ、コニー。
ふふ、僕らが可愛いって言ったら、可憐な花の赤みが増したよ」

 や、……その辺で堪忍しておくれやす……

「ねえ、そのお酒が好きな恋人ってどんな人だった?」
と、突然のクレールからの質問。

 え? シラフな上にこのメンツで恋バナとか、普通に嫌なんですけど? 女子会ならいざ知らず。
 クレールってば、また私より女子ぽさ発動。

「んー。変わった人だったね。
……まあそんな済んだことより、そうそう、このチーズのパリパリ気に入った?」

「ああ、もちろんだ! シンプルだが、クラッカーなんかより旨味があって断然美味えな。作るの大変だったろう?」

 お、グルメエタンが釣れて話がそれた。
 簡単に作れるよ、とか言いつつ、今度はすかさずクレールに話を振る。
「前菜と合わせる食前酒のパロミノ種用のちっこいグラス出しを、クレール頼んでもいいかな?」

 クレールは気持ちよく引き受けてくれて、すぐに席を立った。
 ふう、これで今日の夜ご飯が無事始められますよ~。

「今日の夕飯はエタンぽいもの作ってみました! なんか食材とかエタンからの提供って、イタリア系多いから。
このサラダね、マシュルーム、アボカド、赤いグレープフルーツで、イタリアの国旗を表して見たの。
さあ、目の前で仕上げていきますよ~」

 そんでもって、今度は販売で鍛えた舌技も御覧ごろうじろだい。

 油紙を大きめ三角に切ってそれをくるくる巻いてコルネ絞り袋を作る。
 カクテルソースをスプーンで入れ、口を閉じておく。

 セルフィーユのビネグレットサラダが真ん中にこんもり盛ってあるのを指差し、
「これはね、森なんだよ。エタンの名前のドゥボワってフランス語の森林って意味でしょう?
そして、これがお城」

 カクテルソースでえたエビとカニを、セルフィーユの上に一塊にして、ぽてんと載せた。

「エタンはね、なんだか赤がとっても似合と思うの。焦茶と金色に、赤い差し色使うと華やぐからかなぁ。
それにね、エタン自体がなんだか赤いイメージもあるんよね。
ってことで、さあ、私の作ったお城に素敵な王子様をお迎えしま~す」

 そう言いながら、プチトマトをてっぺんに載せる。

「あ? それが俺か?」

「うん。まあ、ちいちゃくてまん丸体型はご愛嬌だけど、トマトが大好きな私にとっては、ピカピカ魅力的な王子様だよ!」

 コルネの先をハサミで切り、ささっと全体に細く線を描くように、カクテルソースをかけてゆく。

「これはお城を建てた魔女からの、美味しくてまろやかだけど、ピリッとした刺激も隠れてる、たっぷりの愛情です~。イタリアの旗で飾った森のお城と王子様に降り注ぎます」

 そして最後仕上げに、
「夕焼け色国から友好のプレゼントが届いてるので」
 昼間仕込んだオレンジの針切りジュリエンヌもちょっぴり散らす。

「イタリアン配色シーフードサラダの完成です! どうぞ召し上がれ」

 多分、私は得意げに、「ふふん、どーよ?」って顔してたと思う。
 そんでもって、カウンター席から急に立ち上がったエタンを、え? なに?って見上げ……
 た瞬間。

 ワープと見まごう早業でこっちに回り込んだエタンに、ガバっと抱きつかれて。

 私のドヤ顔は、瞬時に霧散したと思う。




【参考文献】


*椎名 眞知子著
「ちょっと正しく頑張ればこんなにおいしいフランスの家庭料理 ~ドゥニさんと築いた真の味わい~ (嘘と迷信のないフランス料理教室)」


*ドゥニ・リュッフェル著「感動の味わい」
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