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光の湖畔編

第92話 茶色いおやつとディンブラ

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 クレールが備え付けの「テレフォン」で電話をかけている間にオヤツを作ろうっと。

 グラニュー糖の大瓶の奥にあった、小瓶の茶色い土塊つちくれみたいなやつ。
 マフィン作る時ついでに開けて匂いを嗅いだら絶対そうに違いないと思ってたけど、さっきクレールに確認とったら黒糖で正解だった。

 クレールのお知り合いの関係で、温かい地方の店から果物が定期的に納品される時に。
 その中にいつぞや入っていて、どうしたらいいか持て余していたそうな。
 もったいない!

 精製された砂糖と違って、黒糖には賞味期限が存在してる。
 仕事なら厳密にするけどプライベートだったら。
 消費期限じゃないから、自分の舌で見極めれば全然使えるんだよね~。

 見た目、カビなし。
 香り、真新しいものと違い芳醇なまろやかさが欠けてる、が異常なし。
 
 食べてみる。
 酸味が若干あるけど、異常性は無し。
 元々黒糖は酸味を隠し持っているから、他のふくよかな味わいが減ると酸味がちょっと突出して感じられるのか、理由がよくわかんないけど。
 腐って酸っぱいのとは違うんだけれど。
 発酵が進んだってことかな? 

 粉砕黒糖だけど、小指の爪ぐらいの大きさの小石粒状も混じっていて、古いせいか硬い。
 焦げる前にそれが溶けるかよく分からないから、グラニュー糖とブレンドしよう。

 黒糖を口に含み、味をイメージして魔素を流す。
 私の愛用している波照間産の黒糖の味に変えちゃえ。
 ツンととんがった感じと、えぐみがマイルドになったぞ。
 まあ経年劣化で華やかさが欠けたのは、やはり補えないけど。

 くるみは勿論いつものフランス・グルノーブル産の味に変える。
 素焼きローストされてるから、焼かないでも楽ちん。
 
 あ~、大好物のアーモンドが食べたいなあ。
 くるみとヘーゼルナッツがあって、この世界にまさかアーモンドが無いなんて嫌だかんね、私。

 グラニュー糖と黒糖同量ぐらい鍋に入れて。
 んー、少量だから水も加えるか……
 大さじ2ぐらい、でいっかな。

 火にかけ木ベラで混ぜつつ、沸騰してぶくぶくしてきた。
 いつもみたくグラニュー糖だけだと、常温のスプーンの背に砂糖液をつけ、火傷しないぐらいの温度で、ちょいと人差し指で触って。
 それを親指と、指2本でぱくぱく開いて閉じて。 
 1.5㎝ぐらいの糸状に砂糖液が糸ひいたらOKなんだけど。

 黒糖入りだと糸が、ぼさぼさっていうか、なんか繊維すぎてぶちって切れて綺麗に糸ができず、よく分かんないや。
 しかも黒いからキャラメル化、色つき始めてるかどうかも分からん。
  煮詰めすぎるとバラバラにほぐれにくく、足りないとくるみじゃなくて鍋のほうに砂糖衣
が着いてしまう。
 うん、もうよし! 入れちゃえ。
 火を止め、ざっとくるみを加える。

 下から掬い上げ、くるみを跳ね上げるように木ベラでカラカラ回転させ満遍まんべんなく砂糖液を手早くからめていく。
 ベタベタのくるみの黒糖合え。

 そこからさらにもっと混ぜてく。
 ん、手応えが出て、カサカサっと、白っぽくなってきたぞ。
 よっし! 無事に砂糖の再結晶化に成功だ。
 バットに開け、広ろげて冷ましとこう。
 茶色いからエタンに捧ぐつもりだったけど。
 艶消しで田舎っぽい……やっぱ言わないでおこうかな。

 コーヒー実験の次は紅茶やろうっと。
 スタンダードな紅茶。
 これをきらきら舌で、好みのお茶に変えるぞ。

 昼食後の紅茶入れで、このティーポットの湯量と茶葉の量と濡らし時間を、なんとなく掴んだからね。

 うん、さっきより美味しく淹れれるようになった。

 紅茶を口に含み、いつも取り寄せ購入している、あのスリランカ直輸入店のディンブラを脳内にくっきり想像する。
 
 ごくん。

 ああ、一発で大成功。
 今までいろんなディンブラを飲んだけど、鎌倉のあのお店のを越えるものには出会えてない。
 こっちでもいろんな美味しいお茶たちに出会えるといいな。

 それにしても、便利でありがたい能力だなあ。
 サンプルとして試飲してもらって、こんな感じのお茶知ってる? とか聞きやすいし。

 許可とらずに、缶ごと全部ディンブラにしても、クレールは叱らなそうだな~。
 今ついでにやっちゃうか?

 いや、待てよ。
 コーヒーの時は発酵の具合や焙煎とか。
 今回の紅茶にしても、茶葉の形状がこのフルリーフのものから、ディンブラのブロークンオレンジペコへは、見た目変わらぬまま味だけ変わった。
 その辺の細かいところは超越してくれるみたい……

 コーヒーだったらダークローストとかにもできるんだろうか?
 
 このスタンダード発酵の紅茶から、日本の緑茶、龍井ろんじん系緑茶、白茶、烏龍茶、プーアルとか。
 つまり無発酵にしたり熟成発酵まで進めたり。
 そこまで大きな変化には、対応してくれないかしら?

 せめてこの紅茶をダージリンに変えてから、以前飲んだことがあって味を再現できそうな『無発酵のダージリン・グリーンティー』にしたり、順を追ってやってみようかな?

 あ、そうだ。
 アールグレイ! 

 明らかに花びらとかフルーツとか、具が混じってるのはダメな気がするけど。
 単なる香料系フレーバーティーはどうよ?

 あ、待って……
 その作業は舌だけじゃなくて嗅覚がとても深く関わってくるでしょう?
 もしもできたとしても、舌の時みたく……
 クレールとエタンの前で、鼻の穴とか鼻毛も一緒に光ったら、軽く恥ずか死ねるわぁ。

 よし! それは一人っきりの時に実験しよう。

「コニー。ふふ、目を閉じて百面相しながら、なに考えてるのかな? 僕にも紅茶と茶色いお菓子をご馳走してくれる?」

「あ。クレール。もう手配とか終わった? お疲れさまです。
あのね、先にちょっと注いじゃったけど、まだ冷めてないよ。はい。こっちとそっち、飲み比べてみて?」





【次回予告 第93話 荷物が来たみたい】











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