舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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光の湖畔編

第89話 行ってらっしゃい

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「なあコニー。昨日のサーモンに続いてよお。
クレールが好きなブランデーを使って、今日もクレール色のデザートを作るなんて、なあ?
クレーに対してえこ贔屓ひいきがなんか多くないか?」

「ほえ? えこ贔屓?! 
いや、いやいや、全然偶然。たまたまに決まってるじゃん。
そんなつもり全くないし、ブランデーが誰のもんで、どっちの好物とか知らんから。
んーと、えっと、そうだね……エタン色のなんか美味しいものは、次! 必ず意識して作るから!
そん時まで待っててエタン。ね?」

 エタンったらちょっと拗ねてんのかしら?
 『俺のは~』みたいな感じでさ。
 ふふ、意外と子供っぽいとこあるんだな。
 茶色と金か……茶色はすぐできるけど、金は今は閃かないなぁ。

 そのあと、紅茶を飲みながらの話題はもちろんここでの食事のことだ。

 クレールの実家からの食事は、収納箱に入れて『荷物移送魔道具』で送られてくるって話には驚かされた。
 魔道具使っての宅配便システム!
 
 ご多分に漏れず、そんな装置を設置してる一般家庭は訳もなく、湖畔のお家特別仕様であります。
 ましてやご飯のデリバリーに利用って、ないわぁレベルらしい。

 普通の人々の荷物は日本の個人向け宅配システムと同じ感じで、国営や民間業者さんを通じて、やりとりされてるそうで。
 例えば最寄りの事業所まで届いたら、業者さんに自分で取りに行くか、自宅までの人力宅配をさらにお願いするかどっちか。
 
 あとは会社・企業・大手商店にはそこそこ移送装置が普及しているとのこと。
 今日はこれから食糧がそれで納品予定なんだって。
 
 相談の結果、当面の昼夜の食事は、2人からのもらい飯をして、足りない分を私がちょい足しすることになった。
 そして王様におヌル様の存在を報告した後は、クレールとエタンが食べてるやつに、私の分を追加注文する方向で。

 つまり、私は気が向いたら作ればいいってことになった。
 逆に全面的に作ってみたい時は、宿舎や実家からの食事を、前もってキャンセル連絡すれば良い。

 なんとまあ義務感ゼロの最高の立ち位置。
 やろうと思えばぐーたらできるってことですよ。

 さすがに居候いそうろう分際ぶんざいでそれをするほどつらの皮は厚くないけど、この世界の知りたいこととか試したいこととか、なにかとあって暇じゃなさそうだから助かる!

 でも、私が作るものを、あんなに嬉しそうに『美味しい!』って食べてくれるエタンとクレールが、なんか可愛くってさ。
 いろいろ作って食べさせてあげたいなぁ~って、張り切りたくなっちゃうのよね。

 ピピピピピピピピピ

「はあーマジか……行きたくねえなあ」

「ほら、早く行けよ。
じゃあ、夕食のことジェイにテレフォンで聞いとくから。
はあー僕も忙しいなあー。
コニーとボル選んだり、コニーと食事の机選んだり、コニーと食材整理したり、コニーと」

「うっせえよ、クレール。マジ腹立つわ。
じゃあコニー 、俺は向こうの仕事に行ってくんな。
そうだ、行く前にさ。
さっきはダメって言ってたが、食事の作業は終わったんだから髪を落ろして見せてくれよ」

 そういえば物干し場から帰ってきて、後ろでゆるふわお団子にした私のオパールの髪の毛を、解いて欲しいって言ってたなあ。
 でもご飯準備中だから後で、って断ったのをしっかり覚えていたのね、はいはい、ヘアゴム取りますよ~。

「っ! 何度見てもこれは……」
「やべぇな……」

 ボートで見たとはいえ、オパールの波打つ長い髪にはやっぱり驚きを隠せない様子。
 でしょうね……私も衝撃だもん。
 2人がいろいろ言い始める前に先手必勝。

「んもう。私が一番驚いてるんだからね!
でもさ。2人にとっては見慣れた湖に似てるわけだし。ああ家の中にもちっこい湖あるなあって感じで、すぐ馴染むよ。
そうそう、エタン。はいこれどうぞ。
熱い紅茶と半分しかないけどマフィンね。おやつセット用意しといたの。
午後のお仕事頑張ってね!」

「さっき僕に水筒出してって、それでか」

「……俺に?!……あ、ああ。ありがとう。
マジでありがてえよコニー。
おかげで行く踏ん切りついたぜ。
……はあぁー。夕飯の時間待たずに、終業したら速攻こっちに帰りてえ。
クレール、ジェイに掛け合ってなんとかしてくれよ、頼む。
コニー、あの天丼は責任もって俺らで食う。でもやっぱ、コニーが作ってくれたもんも食いてえ。ダメか?」

 なにこれ。
 背がデカいから物理的には上から目線なのに、小首をかしげちゃってまるで上目遣いに見えるから不思議。
 こういうのはクレールの得意技っぽいように思ってたけど、まさかエタンまで繰り出してくるとは!

「私ならもちろんいいに決まってるよ。元々今夜はいろいろ作ろうと思ってたからね! クレールのお返事はどうかな……」
チラッと私も上目使いしちゃったりなんかして~。

「コニーにそんな目で見られたら、うんっていうしかないだろう……エタン分かったよ、僕がうまく言っとく」

 そしてエタン出発の玄関口にて。

「コニー、援護射撃ありがとな」

「ん。美味しいご馳走用意して待ってるから、早く帰って来てね。エタン、お仕事がんばって。行ってらっしゃい!」
お見送りの声をかける。

「っ! お、おう……」
エタンは面食らったように一言だけ言って、くるりと背を向け坂を走って行った。

「コニー……君、エタンを甘やかし過ぎるよ。アイツのにやけ顔見たろ?」

 ええ? そう? 驚いてはいたけどそんな顔してたかな?
「よく分かんないや。さあ、クレール、2人でどんどんやっちゃお~!」
試しに銀のプレートにタッチしたら、やはりドアは魔力登録してなくても閉まった。
 よし、こっからだな……。
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