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光の湖畔編

第81話 ご挨拶  

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 クレールもエタンも、それにならうように、私よりうんと遠くに投げ入れた。

 ぽちゃん……3つの音に、それぞれ生まれたまあるい波紋。

 私たち3人は、特に示し合わせるわけでもなく、黙祷もくとうした。
 2人も私同様、虹の方様に、なにか語りかけているのだろう。


『虹の方様、初めまして……ではありませんよね? でもちゃんとご挨拶するのは初めてですから。

ヌルヌルの卵白にまみれた私がこちらに呼ばれたのは、単なる偶然か意味のあることなのか、私には全然分かりません。
でも。
悲しい別れをいっぱい経験してからは、『出来事には意味なんてあってないようなもんだろう』って。
そんなふうに今は思っています。

なにかをやる前に立てる、目標のような……
終わったあとに、つけたい人がつける題名のような……
だから私がこの世界に呼ばれた理由なんか、分かんなくたって別にいいのです。

私の願いは、いつも私は私でいたいです。
どこにいようとも。
地球でも、そしてリンゲル島でも。

七色の魔素は虹の方様が私に授けてくれたもの、全部の不思議の源なのだと思っています。
この世界の言葉が理解できる力も。
この髪の色や瞳の色も。
舌が光って、素材の味のイメージを再現できる力も。

丘から湖を見た瞬間。
直接水に触れた時。
私、歓迎されたるって、私が湖に会いに来たことを、あなたが喜んでくれてるって。
なぜか伝わってきました。
だから、自分にまつわる不思議なこと全て。
私のためにあなたがくださった「良きもの」なんだろうって、素直に迷いなく受け取れました。
驚きの連続ですが、全部受け入れて前向きな自分になれました。

リンゲル島で生きていくことをちゃんと自分の意思で選んだので、ここにご挨拶に上がったのですが、湖に触れてその思いがより確固としたものになりました。
 
この度一緒にボートで参りました2人は、こちらの世界で初めて出会った人達です。クレールとエタンセルと申します。
まだ出会って間もないのですが、私のとても大事な仲間です。
3人共々温かく見守っていただけたら幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします』

 長い心の語り掛けを終え、目を開けて顔を上げると、二人が静かに私を見つめて、待っていてくれたことに気がく。

『心から魔石を生み出したいと願う』
 この真理への最短ルートは、この世界で生きる、自分自身で生き方を決める、その決意だと私は思ってる。
 自分で選んで決めたからのその道を行く。
 いつだってそうやって生きてきたんだもの。
……でもそれは家族の支えや応援があって……友達も……

「お待たせ、ありがとう。
あのね、この世界に連れてこられてすぐに、クレールとエタンに助けてもらったでしょう?
これはもう天啓並みに素晴らしき出会いだと思うの。2人との出会いが、ここで生きる即決の後押しになったんだよ。
私、閃きには自信があるんだ。
クレール、エタン。
私と出会ってくれて……
縁とゆかりになってくれて、どうもありがとう」

「「コニー……」」

「さ、マフィンもお供えしようよ。エタン、ちょうだいな」

「あ! やべぇ。 魔石は防護服のポケットに移動させたんだが、マフィンはカーゴのでかいポケットのまんまだ。
ちょい待ち、バリア解除して出す」

 え? や、やだっ……なんかあったら怖い……

「そんなら、今度にするよぉ。ね、またの機会にしよう」

「大丈夫だって。2人とも動くなよ」

 で、でも……

 すぐにエタンは、防護服の中からマフィンを取り出しにかかった。

 うう……
 よし! 絶対に動かないぞ、と固まる私。



 ぽちゃん……


 
 ん????
 なんか音がしたように思って、その方向をパッと見たが、よく分からなかった。


 ぽちゃん

 あ! 遠く水面から何か飛び跳ねた!

「クレール。ここって魚とか、なんか生き物住んでる?」

「え? 何も住んでいないよ?」
エタンがポケットから取り出したマフィンを彼から受け取り、私の手に握らせつつクレールはそう答えた。

 ぽちゃんっ

 ふぁ! さっきよりこっちに近付いた箇所で跳ね、水面に落ちる。

「見た!?」
「見た……」

 ぽちゃんっ!

 もう1度。
 高く、そいつは跳ね飛び……
 確実に近づいてる?!

 怖くなったのは私だけじゃなく、クレールも同じだったようで。
 2人顔を見合わせ、隣り同士にあった手をどちらからともなく繋いだ。

 さっきの儀式で船首を横にしたため、魔石を投げた方向、つまり跳ねる物体に対して船は横付け状態。

「うおっし! できた。
んん? なんだよ2人とも。変な顔して、手なんか繋いじゃって?」
防護服に集中していたエタンが顔を上げ、私たちを見て、その視線を追うように、右側を見た。

 ぱしゅっ!! ぽちゃんっ!!
 迫り来ることあと1馬身。

 こ、怖い……ボートに飛び込んで来たらどうしよう……
 水面を3人、茫然と見つめる。
 心臓がばくばくしてる……

 ぱしゅんっ!!

 ついにボートの真横で派手な水飛沫と共に、何かが高く勢いをつけて飛び出し
「うひあぁ!!」
思わず驚きの声をあげたその瞬間。

 かぽっ

 私の口に、その物体は飛び込んだ。

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