舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

文字の大きさ
上 下
73 / 131
光の湖畔編

第71話 ピアスと時計

しおりを挟む
 クレールのピアスは、透明感のあるスペアミント色の宝石みたいな魔石のリングと、水晶みたいに透明なリングでできている。
 知恵の輪みたいに重なった組み合わせ。

 フル充電の不透明な魔石は少し魔素を抜いて、好みの透明感を引き出して固定する加工がしてあるんだって。

 透明なリングは、特殊な樹脂みたいなものに魔石の粉を混ぜ合わせて開発された、エネルギーを貯めるのに特化した人工水晶とのこと。
 プロにとっては加工がしやすい素材らしい。
 こっちのほうに回路の仕込みをするそうな。

 装着してエネルギーが溜まってくると、透明なリングが、回路の起動や増幅のために配した魔石と同じ色に染まってくる仕組み。
 回路に使うその魔石はごく少量でもイケるけど、大きければそれだけ充力速度も増すんだって。

 エタンのピアスは金色の平たいリングの真ん中に透明なリングがサンドされてるみたいなデザイン。
 クレールの細身のに対して、円形が耳にフィットするみたく小ぶりだけど幅広ゴツめ。

 結局、私は今どんなピアスを付けてるかというと……。

「ねえ、左右違くてもおかしくないかな?」

「いいな、金の似合ってる」
「うんいいね、コニーの髪色に緑、可愛い」

 私を見て、満足そうに答える2人。
 いまいち聞いたことへの返事になってないなあ……。

 まぁいいや、じゃ、2人とも1個づつお借りしまーす。
 お高い物でしょうから、失くしたりしないようにしなくっちゃ。

 指輪はサイズが合わなすぎて私はつけなかった。
 アクセサリーは面倒くさいし指輪は邪魔くさいから好きじゃない、と2人は言いつつ。
 これからはつけるそうな。

 指輪は地球と同じく、既婚者は薬指に付けたり、恋人同士で贈りあったりする習慣がこの世界にも存在していて。

 だから恋愛的アプローチけ効果があるんだって。

 おうおう、避けなきゃいけない程モテるのねえ。
 豪勢なことですねえ。

 お互いの瞳や髪色の魔石を交換したり。お揃いのものを選んだり。
 エタンみたく金色の魔石は、シンプルで揃いの指輪を作るのに人気があるそう。 

 そして、クレール所有の腕時計はというと。
 男の人らしいゴツい、モノ紹介雑誌に載ってそうな、いかにも超高級感漂う艶消し金属系のものがあった。
 他2つ、シンプルな薄い丸型と四角い形。
 両方とも男性的。

 クレールの時計コレクションの全てが、私がナマでお目にかかったこともない相当高級なもんであるのは一目瞭然。
 そんな中においてその上を、いや雲を突き抜けるぐらい上をいくような、あまりにも段違い過ぎて、とんでもないオーラを放つ存在の時計があった。

 その時計はカラクリがそのまま見える円形のもので、銀色の金属で枠が取られていて。
 背景はクレールの魔石なんだと思うけど……

 濃いところと、透け感がでるほど爽やかな色合いの緑だったり。
 いろんな緑の色味がキラキラとグラデーションになって、濃淡の違う緑ジェルを垂らしてゆっくり混ぜたような広がりをみせていて。

 ほわぁ……なんだか魅入られちゃう……

 息を呑むほど神秘的で、それはそれは語彙力を奪うほど麗しい色合いだった。

 バンドは多分、重さを感じさせなくするあの透明な糸を、幾重にも丈夫に、美しい紋様で編んだんだか織ったかしたものかしら?

 そんな博物館展示級の時計が、ベッドの上にぽてんと。
 繊細な細工の施された、それ自体が宝物みたいな美しい箱に、なんと大小揃いで入っていた。

「はいコレ。小さいほう付けてみてよ」

「は? なにを? めちゃくちゃ特別な物なんじゃ……それにこれって夫婦時計……」

「そうだね。さっき話した蛍様たちの結婚祝いのお礼に貰ったんだ。
ほら、旦那は僕の親戚だし、選び抜いた僕の緑の魔石を、贈り物にたっぷり張り込んだから」

「あん時のか……マジか……マジなんだなクレール……」

「ああそうだよ、エタン。僕はマジだ」

 何やら真面目というか緊張感ある空気。
 ナニコレ? いわく付き? 高級の極みって感じではあるだけど……

ハッ!!!

「クレールの親戚って王族……
まさかバリバリ継承権があるド真ん中の人……」

「正解だ、コニー。現国王の息子。
次男のリュシオル様と蛍様より賜った物だ」

 どひええええ!!!
 ますます借りれないよぉぉ!!!

「ふふ、コニー。顔に『そんなの借りれませんっ』て、分かりやすく書いてあるよ。
これさ、プレゼントではあるけど、僕も魔道具回路付与で携わってるんだ。
盗難や紛失防止、水や傷などから守る強度のバリア、防犯対策、こっちの大きいのと連絡も取れる仕様で。
まあ盛りだくさんの対策がされてるから。安心して普段に使って。
しまってあったけど、僕も今日からつけるから。お揃いだよコニー。はいどうぞ」

 クレールは話ながら、自分の腕に大きい時計をつけ終わると、あわあわしてる私の左手をさっと取り。
 私が呆然としてるうちに、左腕へ、ちょちょいと腕時計を付けてくれた。

「コニー、遠慮せず付けとけよ。
さっき女避けの話が出たけど、そんな話じゃねえぜ。
ちっちぇえけどここんとこのコレ、王家紋章な。
虹の院、王家サイドの人間が見たら、魔石の特徴で、クレールの保護下にあることが一発でお分かりだ。
市井では、なんかどえらい金持ちの関係者が、背後に付いてる感が醸し出されるから、雑魚ザコ避けになるかもな」

 うぇえ??
 いやぁ、コレ多分そういう意味でくれたんじゃないことぐらい、私にだった分かるよ……。

「クレールこれってさ……
クレールの生涯にとって大事な女性に用意されたものなんでしょう? 結婚したら奥さんとかを護るための、お揃いの時計なんじゃない?
そんなものいくらおヌル様だからって、組織長だからって、私に貸しちゃダメだよ……
あのさ、例えが絶対間違ってるけど。さっきのスパッツみたく一度使ったら返されたって困る案件のブツだよ。
いくらすんごい宝物だって、違う女性が先につけたものなんて、奥さん、絶対に嫌だよ。
今回のは試着だから〈ノーカン〉! セーフ!
ね、ほら、返すからしまっといて」

「そんなの分かってるよ!
僕はそんな鈍感な男じゃない。
鈍感は君の方だ。
貸すんじゃない。おヌル様だからじゃない。
コニー……君に付けて欲しいんだ」

 え……それって……どういう……

「よかったな! コニー。もらえるもんは貰っときな!
いつかクレールに結婚相手が現れたら、コニーが魔石で儲けた金で新しいやつを発注したらいいじゃないか。
コニーこそイイ男が現れたら、そん時は自分の虹色魔石でお揃いを新調してさ。
そんで王宮や虹の院での任務っつうか。仕事絡みでそういう場に出る時だけこれを付けろよ、便利だしな。
昔組織長として世話になったクレールの顔をたてて付けるんだから、クレールの嫁にも、コニーの相手にも波風も立たないと思うぜ?」

 さっと私とクレールの間に入るように。
 エタンが私の背中をぽんぽんと優しく叩いて、覗き込むようにそう言った。

「エタン!! おまっ邪魔すん」
「クレール。早すぎだって。全然ダメだ。今じゃ無理だって。1ミリも伝わんない上に、伝わったらドン引かれて友達の立ち位置すら危ういぜ。
まずは付けてもらうとっからな」
「……」

 ぐっとエタンの肘を引いて、クレールがエタンに言いかけるも。
 何やらボソボソとエタンが切り返し、2人の会話が終了したようだ。

「ということでどうだコニー? 気軽にいっとけよ。納得?」

「コニー……。これだけは言わせて。

コニーが魔石とか作れなくて、特別な力がなにもなくっても。

そもそも君がおヌル様じゃなくて……
あの日、光の湖のほとりに迷い込んだ、ただの身寄りのないリンゼル島民だとしても。

僕にとっては大事な出会いだった……
大事な女の子だよ、コニーは。
……だから護らせて。お願い。

僕はね。お揃いの時計が付けられてとても嬉しいよ。
コニーもそう言ってくれると、僕も嬉しいんだけどな」

「クレール……」




------------------------------


うっひょー( ˊ̱˂˃ˋ̱ )なクレールであります

【次回予告 第72話 ブリンブリン】













しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...