舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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光の湖畔編

第71話 ピアスと時計

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 クレールのピアスは、透明感のあるスペアミント色の宝石みたいな魔石のリングと、水晶みたいに透明なリングでできている。
 知恵の輪みたいに重なった組み合わせ。

 フル充電の不透明な魔石は少し魔素を抜いて、好みの透明感を引き出して固定する加工がしてあるんだって。

 透明なリングは、特殊な樹脂みたいなものに魔石の粉を混ぜ合わせて開発された、エネルギーを貯めるのに特化した人工水晶とのこと。
 プロにとっては加工がしやすい素材らしい。
 こっちのほうに回路の仕込みをするそうな。

 装着してエネルギーが溜まってくると、透明なリングが、回路の起動や増幅のために配した魔石と同じ色に染まってくる仕組み。
 回路に使うその魔石はごく少量でもイケるけど、大きければそれだけ充力速度も増すんだって。

 エタンのピアスは金色の平たいリングの真ん中に透明なリングがサンドされてるみたいなデザイン。
 クレールの細身のに対して、円形が耳にフィットするみたく小ぶりだけど幅広ゴツめ。

 結局、私は今どんなピアスを付けてるかというと……。

「ねえ、左右違くてもおかしくないかな?」

「いいな、金の似合ってる」
「うんいいね、コニーの髪色に緑、可愛い」

 私を見て、満足そうに答える2人。
 いまいち聞いたことへの返事になってないなあ……。

 まぁいいや、じゃ、2人とも1個づつお借りしまーす。
 お高い物でしょうから、失くしたりしないようにしなくっちゃ。

 指輪はサイズが合わなすぎて私はつけなかった。
 アクセサリーは面倒くさいし指輪は邪魔くさいから好きじゃない、と2人は言いつつ。
 これからはつけるそうな。

 指輪は地球と同じく、既婚者は薬指に付けたり、恋人同士で贈りあったりする習慣がこの世界にも存在していて。

 だから恋愛的アプローチけ効果があるんだって。

 おうおう、避けなきゃいけない程モテるのねえ。
 豪勢なことですねえ。

 お互いの瞳や髪色の魔石を交換したり。お揃いのものを選んだり。
 エタンみたく金色の魔石は、シンプルで揃いの指輪を作るのに人気があるそう。 

 そして、クレール所有の腕時計はというと。
 男の人らしいゴツい、モノ紹介雑誌に載ってそうな、いかにも超高級感漂う艶消し金属系のものがあった。
 他2つ、シンプルな薄い丸型と四角い形。
 両方とも男性的。

 クレールの時計コレクションの全てが、私がナマでお目にかかったこともない相当高級なもんであるのは一目瞭然。
 そんな中においてその上を、いや雲を突き抜けるぐらい上をいくような、あまりにも段違い過ぎて、とんでもないオーラを放つ存在の時計があった。

 その時計はカラクリがそのまま見える円形のもので、銀色の金属で枠が取られていて。
 背景はクレールの魔石なんだと思うけど……

 濃いところと、透け感がでるほど爽やかな色合いの緑だったり。
 いろんな緑の色味がキラキラとグラデーションになって、濃淡の違う緑ジェルを垂らしてゆっくり混ぜたような広がりをみせていて。

 ほわぁ……なんだか魅入られちゃう……

 息を呑むほど神秘的で、それはそれは語彙力を奪うほど麗しい色合いだった。

 バンドは多分、重さを感じさせなくするあの透明な糸を、幾重にも丈夫に、美しい紋様で編んだんだか織ったかしたものかしら?

 そんな博物館展示級の時計が、ベッドの上にぽてんと。
 繊細な細工の施された、それ自体が宝物みたいな美しい箱に、なんと大小揃いで入っていた。

「はいコレ。小さいほう付けてみてよ」

「は? なにを? めちゃくちゃ特別な物なんじゃ……それにこれって夫婦時計……」

「そうだね。さっき話した蛍様たちの結婚祝いのお礼に貰ったんだ。
ほら、旦那は僕の親戚だし、選び抜いた僕の緑の魔石を、贈り物にたっぷり張り込んだから」

「あん時のか……マジか……マジなんだなクレール……」

「ああそうだよ、エタン。僕はマジだ」

 何やら真面目というか緊張感ある空気。
 ナニコレ? いわく付き? 高級の極みって感じではあるだけど……

ハッ!!!

「クレールの親戚って王族……
まさかバリバリ継承権があるド真ん中の人……」

「正解だ、コニー。現国王の息子。
次男のリュシオル様と蛍様より賜った物だ」

 どひええええ!!!
 ますます借りれないよぉぉ!!!

「ふふ、コニー。顔に『そんなの借りれませんっ』て、分かりやすく書いてあるよ。
これさ、プレゼントではあるけど、僕も魔道具回路付与で携わってるんだ。
盗難や紛失防止、水や傷などから守る強度のバリア、防犯対策、こっちの大きいのと連絡も取れる仕様で。
まあ盛りだくさんの対策がされてるから。安心して普段に使って。
しまってあったけど、僕も今日からつけるから。お揃いだよコニー。はいどうぞ」

 クレールは話ながら、自分の腕に大きい時計をつけ終わると、あわあわしてる私の左手をさっと取り。
 私が呆然としてるうちに、左腕へ、ちょちょいと腕時計を付けてくれた。

「コニー、遠慮せず付けとけよ。
さっき女避けの話が出たけど、そんな話じゃねえぜ。
ちっちぇえけどここんとこのコレ、王家紋章な。
虹の院、王家サイドの人間が見たら、魔石の特徴で、クレールの保護下にあることが一発でお分かりだ。
市井では、なんかどえらい金持ちの関係者が、背後に付いてる感が醸し出されるから、雑魚ザコ避けになるかもな」

 うぇえ??
 いやぁ、コレ多分そういう意味でくれたんじゃないことぐらい、私にだった分かるよ……。

「クレールこれってさ……
クレールの生涯にとって大事な女性に用意されたものなんでしょう? 結婚したら奥さんとかを護るための、お揃いの時計なんじゃない?
そんなものいくらおヌル様だからって、組織長だからって、私に貸しちゃダメだよ……
あのさ、例えが絶対間違ってるけど。さっきのスパッツみたく一度使ったら返されたって困る案件のブツだよ。
いくらすんごい宝物だって、違う女性が先につけたものなんて、奥さん、絶対に嫌だよ。
今回のは試着だから〈ノーカン〉! セーフ!
ね、ほら、返すからしまっといて」

「そんなの分かってるよ!
僕はそんな鈍感な男じゃない。
鈍感は君の方だ。
貸すんじゃない。おヌル様だからじゃない。
コニー……君に付けて欲しいんだ」

 え……それって……どういう……

「よかったな! コニー。もらえるもんは貰っときな!
いつかクレールに結婚相手が現れたら、コニーが魔石で儲けた金で新しいやつを発注したらいいじゃないか。
コニーこそイイ男が現れたら、そん時は自分の虹色魔石でお揃いを新調してさ。
そんで王宮や虹の院での任務っつうか。仕事絡みでそういう場に出る時だけこれを付けろよ、便利だしな。
昔組織長として世話になったクレールの顔をたてて付けるんだから、クレールの嫁にも、コニーの相手にも波風も立たないと思うぜ?」

 さっと私とクレールの間に入るように。
 エタンが私の背中をぽんぽんと優しく叩いて、覗き込むようにそう言った。

「エタン!! おまっ邪魔すん」
「クレール。早すぎだって。全然ダメだ。今じゃ無理だって。1ミリも伝わんない上に、伝わったらドン引かれて友達の立ち位置すら危ういぜ。
まずは付けてもらうとっからな」
「……」

 ぐっとエタンの肘を引いて、クレールがエタンに言いかけるも。
 何やらボソボソとエタンが切り返し、2人の会話が終了したようだ。

「ということでどうだコニー? 気軽にいっとけよ。納得?」

「コニー……。これだけは言わせて。

コニーが魔石とか作れなくて、特別な力がなにもなくっても。

そもそも君がおヌル様じゃなくて……
あの日、光の湖のほとりに迷い込んだ、ただの身寄りのないリンゼル島民だとしても。

僕にとっては大事な出会いだった……
大事な女の子だよ、コニーは。
……だから護らせて。お願い。

僕はね。お揃いの時計が付けられてとても嬉しいよ。
コニーもそう言ってくれると、僕も嬉しいんだけどな」

「クレール……」




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うっひょー( ˊ̱˂˃ˋ̱ )なクレールであります

【次回予告 第72話 ブリンブリン】













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