舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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光の湖畔編

第67話 ダブル掛けに挑戦 

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 気を取り直して、実験再開!

 今度はマフィンにかぶり付いて、レーズン、胡桃を順に追って、重ねがけができるかの実験。
 実際には、素材1つ1つ魔力をあらかじめ流して、それを用いて作れば事足りるように思うんだけどね。
 活用するかどうかは置いといて、まあ、なにが、どこまでできるか把握しておきたいのよ。

 まずレーズンは師匠が直輸入してる、いつものトルコ産サルタナレーズンを思い描く。
 2口分くちぶん失敗したけど、3口目で成功。
 その定着した舌を持って、クレールエタン用の残りの2つも魔素を流しピカらせた。

 次に。
 上掛けするように、もぐもぐしながら胡桃の味だけを追う。
 やはり師匠直輸入、フランス・グルノーブルの渋みのないやつを強くイメージ。
 1口目失敗したけど、2口目で成功。
 つまり上掛けできたってことは2種の素材の味が、段階を経て変えられたってこと。

 その舌で、今度は1個のマフィンだけに魔力を流し、ダブル掛けを1個作った。

「さあできたよ、召し上がれ~」

 レーズンのみ魔素で変化させたマフィン。
 魔素の2段階重ね掛けで、両素材とも変化させたレーズン胡桃マフィン。
 半分づつ切って、両方をお待ちかねの2人に差し出す。

 ふふ、クレールもエタンも、わくわくの良いお顔。
 味の違う両方を食べ比べてもらい。
 結果、満場一致で「驚くほどさらに美味しくなった」のお墨付きを無事もらえました。

「最初からとても美味しいマフィンだったのに。さらにもともっと美味しくなるなんて、本当にびっくりだよ!」

「食い物なんて素材次第だって、分かっちゃいたが。こうも何段階も変わっていくのを、目の当たりにできるなんてな。スゲぇ体験だった。マジで面白いな!」

「そうなんだよね。作り手の技術に並んで、素材の味は重要。
師匠がね、美味しい素材を求めて世界を旅してさ。元々、ナニナニが美味しいと言われてる場所に目ぼしを付けての、狙い打ちだけど。
食べ比べて、これぞという味を見つけて、直輸入契約に漕ぎ着て」

 師匠の店のことを、私は話し始める。

「師匠のケーキは、手間暇かけまくった凝った物凄いおいしいお菓子なの。
もちろん良い材料を惜しみなく使ってね。だから有名店で売れてはいるんだけど、儲けは多くはなくて。
ケーキ販売製造業部門とは別に教室部門もやっててね。お店で売ってるまんまのお菓子が作れる本格派だから。全国から生徒さんが通ってくるぐらい大人気なんだよ」

 あの偉大な師匠に思いを馳せる。

「そんでさっきの話に戻るんだけど、輸入業も始めたってわけ。
教室部門で得た資金を他部門に回して、いつだって自転車操業で、ヒーヒーしてたよ。
私たちに、本当に心から美味しいと思えるそれらの存在を、味を、教えてくれたの。素晴らしい才能と、菓子や食に対する情熱たぎらせた、鬼のような苛烈な人だったな。」

 あの人みたいに狂気の猛烈さは、わたしには無いんだけれど。
 それでも。
 クレールとエタンに、やってみたいこと伝えよう。
 
「私のお店で作るケーキは、師匠が輸入した一流の素材を使っててね。
私はただお金を払えば、それが使えたのよ。
だから今度は、この世界では。
自分自身で、リンゼル島の美味しい素材を見つけたい。
っていうか、必然的にそっからのスタートになっちゃうんだけど」

 エタンは勿論のこと、クレールはいつもの画板ファイルに、いろいろ書きつけながら、私の話を真剣に聞いてくれていた。

「うん。分かった。素材探し、協力するよ。
より良いやり方も考えてみるから。
コニーは、その素晴らしい舌や、この世界がまだ知らないような美味しいもの、豊富な食の知識を確かに持っている。
でも、リンゲル島の情報やコネが皆無だ。
そこを僕らが上手くサポートする方向で動いていこう。
虹の院、僕ら個人の総力をあげてね」

 クレールの前向きで素晴らしい提案で、話が締めくくられた。

 そして……

 美味しかったね
 今日はこれで実験お仕舞いにしようか?

 3人の間にそんな空気が確実に流れてんのを。
 じゃあ散歩行こっか、って雰囲気が漂ってんのを。
 私、ただいましっかり肌身に感じてまっす!

 だがしかし!
 私はこのまま勢いに乗って、カフェティエール・ア・ピストンで淹れたコーヒー実験も、一気にやりたい! と思っているのですよ。

 ええ、ここは一つ。
 副組織長をヨイショと持ち上げてだね。
 おヌル様からのお願い攻撃大作戦、レッツ・スタートとまいりましょう!

「ねえ、エタン。
私やっぱりラストもう1回だけ実験続けたい。
ピストンのコーヒー実験。
でもね……私ピストンでコーヒー淹れたこともないし、飲んだこともないのよ。
だからね。
やっぱり初めての経験は手慣れたエタンがいいかなって。
エタンに私、淹れて欲しいの。
私の初めてエタンに頼みたい。
今したいんだけど……ダメ?」

 え?! って一瞬驚いたような顔をして、顔をばちんと片手で覆い
「マジか……」
一言呟いたのち、エタンが机に突っ伏した。

 おぉ?! 名指しで熱心にコーヒー淹れてくれって頼られたのが、よっぽど照れたのか?
 ふふ、もう一押しだな!

 昨日クレールがふいに私の髪に触れ、それを耳にかけてきたのを、ふと思い出した。
 仕上げに耳元で話しかけられた時は、ドギマギして心にすんごく響いたわぁ。
 髭は剃ってあったけど、今朝はまだ髪を結んでいないエタン。
 髪が突っ伏した腕と顔を覆ってる。
 よし! それだ!

 エタンの私側の髪を耳にかけ……
 あ、耳がちょっと赤い。
 口元を近づけてこしょっと……
 もう一押しおねだりする。
 
「次まで待ちきれないから今すぐ淹れて? 
勢いに乗って最後まで一緒にやりたいの。
どこまで通用するか、私ね、舌技試したい。
エタンだって知りたいでしょう?
ねえ、いつもみたく甘やかして? お願い」

「……コニー……もう勘弁してくれ……
おう、カフェティエール・ア・ピストン……コーヒー……俺が淹れる……
ちょい、ま、待ってな……
……コーヒーだろ、ガラスのでな……ああ、うん、大丈夫……俺に任せろ」
突っ伏したまま何度もうなづくエタン。

「ぶふっ!!! めちゃくちゃウケる!!」

 クレールは1人大爆笑で、笑いすぎて涙目になってるのか目元を擦ってる。
 やおら立ち上がり、冷凍庫から氷を2つ手に取り、エタンの手に握らせた。

「ちょっとね、エタンね、お腹の下のほうの調子が変みたい。
 僕、ピストン用のお湯沸かしたり、エタンの様子見てるから。
 コニーは休憩っていうか、区切りが丁度いいから、ちょっとお手洗いにでも行ってきたらどうかな?」

 ん? 
 下世話な話、腹痛なら先にトイレ使いたいんじゃぁないのかな?
 氷の冷えもどうかと思うよ?

「で、でも……エタンこそ今すぐ行った方が……」

「コニー大丈夫だ……俺ならすぐ治るから。いってらっしゃい……」
 
 そうね。いっぱいコーヒー飲んだし。
 そうさせてもらうわ。
 恥ずかしながら水分多く摂ると、私トイレ近いから。

「そぉ? じゃあちょっとお先に失礼するね」
エタンの背中を撫でようと触れた瞬間、ビクッっとエタンがした。
 優しくそうっと、数回手のひらで撫で撫でさすって、その場を離れた。

「エタン……気にすんな。コレは仕方ないよ。
中坊みたいだけど、ぷっ……ぐっ、くくっ! 
オマエの気持ち、僕もすんごくよく分かるから……」

「ウッセェ! こっち見んな! あと5秒でもうなんとも無ぇ!」

 廊下へに向かう私の背に、なにか言い合う男子の笑い声と怒鳴り声が届いた。

 あ、エタンの腹痛って……
 もしかして、コーヒー飲み過ぎの胃痛っだったりして。
 無神経におねだりしちゃって悪かったかしら……
 私がトイレから帰ってきてもまだ痛そうなら、我儘言ってごめんなさい、今度にしようねって、ちゃんと謝ろう。





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 まさかの後半はぷちっと下ネタ風味(*´Д`*)
 前号からの予告の答えは
「エタンの脳内がR1◯」でした。

コニーはちっとも悪くありません。
ごちそうさま雰囲気を唾棄し、飲んだこともないピストンコーヒーをエタンに淹れさせ、実験を今すぐやり通したくて、おねだり頑張っただけですから。
なんらおかしなことは、一言も発しておりません(*´꒳`*)

【次回予告 第68話 実験終了と箱】
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