65 / 133
光の湖畔編
第64話 カフェオレを飲みながら
しおりを挟む
私は残ってるコーヒー、もったいないからミルクたっぷりカフェオレにするけどどうする? そう聞くと、2人もそれで、と答えた。
あんだけ回し飲みしてるんだから、誰がどれとかもうないよねえ。
カパカパっと残りを鍋に開けてミルクを注ぎ温める。
何もしてないクレールコーヒー1杯だけ残して。
かき混ぜてると、ふと。
初めてお呼ばれした「夜咄の茶事」で、カラスミを食べて、濃茶の回し飲み初体験をした、あの日の思い出が脳裏に蘇った。
重箱みたいな縁高から菓子をとって、緊張しながらみんなで食べたことも。
ああ、回し飲み繋がりか……
今までとりわけ思い出したこともない記憶が。
こうやって、びっくり箱のように突然ぱかりと開いて、これからも度々、私を驚かせるんだろうなぁ。
過ぎた日々の思い出は、誰にとっても鮮やかで、胸を締め付けるもの。
帰れない故郷の残像。
センチメンタル・ブーストがかかって、ことさら私には眩し過ぎるだけ、それだけ。
あの日、お母さんにお着物を着せてもらって、待ち合わせたみんなと電車に乗って。
駅から智子の家の茶室に向かう途中、冬の夕暮れはつるべ落としで、あっという間に外が暗くなってきて。
夜の茶会にわくわくする私たちから吐かれる白い息、道すがらの垣根に咲いた椿の赤……
「コニー? 吹き溢れんぞ」
「あ! ぼんやりしてた。ごめんごめん、ありがとう」
「はい。ここに入れて」
クレールが、なんとも小粋なカフェオレボウルを用意してくれてた
「わあ~! 可愛いボルだね!」
「祖母は趣味が食器コレクションだったから。〈プティ・デジュネ・ボル〉奥にいろいろしまってあるよ。散歩から帰ったら午後ゆっくり一緒に見てみようか。コニーのお気に入りのを専用に決めたりしようよ、きっと楽しいよ?」
「え?! いいの? やった~! めちゃくちゃ楽っしみ! わくわくするぅ。クレール大好き!」
「……俺は?」
へ? あ、そっか……
「ご、ごめん……エタンは午後から仕事だったもんね。
あのさ、やっぱエタンがいる時にやろうか?」
「違ぇえし……」
「ほんとごめんったら~。すねないで。ね、ほら、マフィン食べよ? 座ってエタン」
(「ぷっ! だっさ! 羨ましいだろう」)
(「アホ! うっせ!」)
クレールとエタンがなにやら肘で小突きあって、こしょこしょ喋っている。
午後の予定調整か? まあお任せするよ。
みんなで食べながら、さっきの実験結果の取りまとめをしようね。
「つまりだな、口に含みつつ明確に味を思い描いて魔素を流す。
舌が光って瞳が群青色になってキラキラしたら成功。
で、持ってるものの味が再現されると」
「さっき話した通り、それでうん合ってるよ。
で? 目と口を閉じておけば光は外からは分かんないのね。初回分かったのは、私がすぐ喋って口ん中が光ってんのが見えたからってわけで」
人前でやんないことが前提だけど、万が一の時も目と口を閉じとけばなんとかやりすごせそうだ。
んっと、最初の問題はこれだ。
「ピカっと宿舎コーヒーはさ~、ピカっとクレールのなんか劣化版って感じなんだよね~」
「ああ、分かるぜ。似てんだけど、底が浅いって言うか……」
「僕が思うに、グレードじゃないか? 魔道具だって、なにもないところから生み出したり、あるものを消したりは出来ないんだ。
僕は食べ物のことはよくわからないけど、無い旨味はひねり出せないって感じで……」
思わず私ガタンと椅子から立ちあがる。
「それ! それだ! おそらくそう。微量栄養素とかミネラルとか、味の濃さとか。
持ってるエネルギーっていうの? 味を決めてくなにか、パワーの含有量が違うんだよ」
うん、無い袖は振れないってやつなのよ!
となると、その辺の安い食材が、黄金の味に変わるってわけにはいかないんだな?
最低原価の食材仕入れで、高級食材思いのままでボロ儲け! ってウマイ筋書き方面にはいかんのね……。
「コニーどうしたの? 急にがっかりしたような顔になったけど」
さっき思ったことを説明すると、エタンが笑いながら、
「はは! そんなこと考えてたのか! さすが立派な職人兼経営者だ。金の心配はしなくても大丈夫って昨日言ったろ?
それに多分魔石があの調子で作れたら、相当なもんだぜ?」
あ、そうだった。
「昨日のアレね。半分当面の生活資金に充ててもらえるかな? もう半分は3人でお小遣いとして山分けしようよ。お礼というかご挨拶のお品というか……。まあ綺麗だし、好きに使って?」
「いや。あー。話が長くなるから、説明はまた今度にしようか。うん。とりあえず大事に預かっとくね。ほら、あそこ」
キッチン奥の作業台端っこをクレールが指差した。
そこには大きなアンテイークっぽい、ガラスの丸みを帯びた四角いキャニスターがあった。
そして中に私の虹の球が入っていた。
フル充電の魔石は透明感がないから、キラキラ光るスーパーボールみたいだな~。
魔石の取り扱い。
その辺の説明はおいおいね、はーい。
支援指導係って、芸能人のマネージャーさんみたいだなぁ。
なんでもお任せ~ってね。
当面こっちに慣れて目処がつくまでは、素直に甘えさえてもらおうっと。
「じゃ、話の続きしよっか。んーざっくりだけど、グレードが関係ありそう、に私も同意。
あ、ちょっとやりたいことあるんだ。見ててね」
あんだけ回し飲みしてるんだから、誰がどれとかもうないよねえ。
カパカパっと残りを鍋に開けてミルクを注ぎ温める。
何もしてないクレールコーヒー1杯だけ残して。
かき混ぜてると、ふと。
初めてお呼ばれした「夜咄の茶事」で、カラスミを食べて、濃茶の回し飲み初体験をした、あの日の思い出が脳裏に蘇った。
重箱みたいな縁高から菓子をとって、緊張しながらみんなで食べたことも。
ああ、回し飲み繋がりか……
今までとりわけ思い出したこともない記憶が。
こうやって、びっくり箱のように突然ぱかりと開いて、これからも度々、私を驚かせるんだろうなぁ。
過ぎた日々の思い出は、誰にとっても鮮やかで、胸を締め付けるもの。
帰れない故郷の残像。
センチメンタル・ブーストがかかって、ことさら私には眩し過ぎるだけ、それだけ。
あの日、お母さんにお着物を着せてもらって、待ち合わせたみんなと電車に乗って。
駅から智子の家の茶室に向かう途中、冬の夕暮れはつるべ落としで、あっという間に外が暗くなってきて。
夜の茶会にわくわくする私たちから吐かれる白い息、道すがらの垣根に咲いた椿の赤……
「コニー? 吹き溢れんぞ」
「あ! ぼんやりしてた。ごめんごめん、ありがとう」
「はい。ここに入れて」
クレールが、なんとも小粋なカフェオレボウルを用意してくれてた
「わあ~! 可愛いボルだね!」
「祖母は趣味が食器コレクションだったから。〈プティ・デジュネ・ボル〉奥にいろいろしまってあるよ。散歩から帰ったら午後ゆっくり一緒に見てみようか。コニーのお気に入りのを専用に決めたりしようよ、きっと楽しいよ?」
「え?! いいの? やった~! めちゃくちゃ楽っしみ! わくわくするぅ。クレール大好き!」
「……俺は?」
へ? あ、そっか……
「ご、ごめん……エタンは午後から仕事だったもんね。
あのさ、やっぱエタンがいる時にやろうか?」
「違ぇえし……」
「ほんとごめんったら~。すねないで。ね、ほら、マフィン食べよ? 座ってエタン」
(「ぷっ! だっさ! 羨ましいだろう」)
(「アホ! うっせ!」)
クレールとエタンがなにやら肘で小突きあって、こしょこしょ喋っている。
午後の予定調整か? まあお任せするよ。
みんなで食べながら、さっきの実験結果の取りまとめをしようね。
「つまりだな、口に含みつつ明確に味を思い描いて魔素を流す。
舌が光って瞳が群青色になってキラキラしたら成功。
で、持ってるものの味が再現されると」
「さっき話した通り、それでうん合ってるよ。
で? 目と口を閉じておけば光は外からは分かんないのね。初回分かったのは、私がすぐ喋って口ん中が光ってんのが見えたからってわけで」
人前でやんないことが前提だけど、万が一の時も目と口を閉じとけばなんとかやりすごせそうだ。
んっと、最初の問題はこれだ。
「ピカっと宿舎コーヒーはさ~、ピカっとクレールのなんか劣化版って感じなんだよね~」
「ああ、分かるぜ。似てんだけど、底が浅いって言うか……」
「僕が思うに、グレードじゃないか? 魔道具だって、なにもないところから生み出したり、あるものを消したりは出来ないんだ。
僕は食べ物のことはよくわからないけど、無い旨味はひねり出せないって感じで……」
思わず私ガタンと椅子から立ちあがる。
「それ! それだ! おそらくそう。微量栄養素とかミネラルとか、味の濃さとか。
持ってるエネルギーっていうの? 味を決めてくなにか、パワーの含有量が違うんだよ」
うん、無い袖は振れないってやつなのよ!
となると、その辺の安い食材が、黄金の味に変わるってわけにはいかないんだな?
最低原価の食材仕入れで、高級食材思いのままでボロ儲け! ってウマイ筋書き方面にはいかんのね……。
「コニーどうしたの? 急にがっかりしたような顔になったけど」
さっき思ったことを説明すると、エタンが笑いながら、
「はは! そんなこと考えてたのか! さすが立派な職人兼経営者だ。金の心配はしなくても大丈夫って昨日言ったろ?
それに多分魔石があの調子で作れたら、相当なもんだぜ?」
あ、そうだった。
「昨日のアレね。半分当面の生活資金に充ててもらえるかな? もう半分は3人でお小遣いとして山分けしようよ。お礼というかご挨拶のお品というか……。まあ綺麗だし、好きに使って?」
「いや。あー。話が長くなるから、説明はまた今度にしようか。うん。とりあえず大事に預かっとくね。ほら、あそこ」
キッチン奥の作業台端っこをクレールが指差した。
そこには大きなアンテイークっぽい、ガラスの丸みを帯びた四角いキャニスターがあった。
そして中に私の虹の球が入っていた。
フル充電の魔石は透明感がないから、キラキラ光るスーパーボールみたいだな~。
魔石の取り扱い。
その辺の説明はおいおいね、はーい。
支援指導係って、芸能人のマネージャーさんみたいだなぁ。
なんでもお任せ~ってね。
当面こっちに慣れて目処がつくまでは、素直に甘えさえてもらおうっと。
「じゃ、話の続きしよっか。んーざっくりだけど、グレードが関係ありそう、に私も同意。
あ、ちょっとやりたいことあるんだ。見ててね」
11
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる