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ヌルッとスタート編

第38話 乾杯!

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「うーん……。あのさ、さっきね。
クレールが人には得手不得手があるって言ってくれたでしょう?
これから行動を共にする人にそう言ってもらえて、私とても肩の荷が降りたんだよ」

 思案しながらゆっくり私は続きを話す。

「えっと、うぅんと……私ね……
他の人と比べて自分がそういうかたよりの激しい不完全な人間なんだって、ある旅をきっかけにやっと気がついてさ。

それまでは自分は普通にいろいろやれる、やればできる子だと思って生きてきたの。
でも実際はみんなと同じことがちっとも普通に出来なくて、平均以下ばっかりのくせに……。
ものすごく頑張って努力して無理して『普通』になってたんだって気がついてね。

私の短い脚で、ちゃんと脚の長いみんなと同じ速度で走るためにはさ。
回転数をうんと上げて、倍ぐらい動かさなきゃなんないわけでさ。そうやって頑張ってる自分に気がついちゃったの。
それじゃあ生きるのしんどいよね、なるほどねって。

必要最低限でも大丈夫、出来ないことはしゃあないじゃんって、たまにね、あえて自分に言ってあげるんだ。勿論怠ける免罪符めんざいふではないよ。

そんで得意なこと、好きなことはね。うんと積極的に伸ばして、誉めてやろうと思ってさ。
『やりたい事は夢中でやったら良いよー』
『自分が応援しないで誰がすんのさ!』ってね」

 クレールの腕を軽くぽふぽふ叩く。

「多分クレールは学者肌で、私は職人肌なんだよ。分類は違うけどなんか似たもの同士っていうの?
他をほっぽらかして、しつこいぐらい突き詰めたり夢中になちゃうのとてもよく分かる。気になったら止まらない、ってやつでしょ?
だから、同じたぐいの人間にブレーキかけられるなんて、私ったらよっぽどはたから見てられない勢いで猛進してたんでしょうねぇ。

そんでね、実はさ、私……ちょっと身体が弱いんだよね。あ、いや、何かの病気を持ってるとかじゃなくて。
虚弱体質というか、疲れ過ぎるとすぐ熱が出たり風邪ひいたり。あっけなく寝込んでしまうの。
気持ちに身体がついていかない、そんな感じ。

冷静に考えれば、丸2日寝込んで起き抜けのコーヒーがぶ飲み企画は、胃の負担が結構大きい実験だと私も思う。

だから、えっと、そんなワケで、お互い様っていうか、自分の事を棚に上げてさ。ここは互いを思いやって言い合うのが正解なんだよ、きっと。
うん。
今日は2人の提案通りにする」

 クレールの、キラキラする虹彩に映った自身をしっかり見据え、宣言する。

「私、この世界でね。

なるべく頑張らないを頑張るから。

だから、ねぇ。これからも甘やかしてくれる?」

「コニー……」

 手をギュッとクレールに握られた瞬間。

「甘やかすに決まってんだろ。じゃあ早速乾杯しようぜ!」

 ズダンッ!!
 後方にエタンが突然降ってきた?!

 振り向くと金属棒に掴まって
「よぉ、ただいま」
ニカっと笑うエタンがいた。

「いつ帰ってきたんだ?!」

「上に居たの?!」

「多分クレールが貯蔵庫に降りている間。
ビール冷蔵庫にしまって上でくつろいでたら、コーニーが風呂出てきて、2人のやりとりをそのまま寝っ転がって聞いてた」 

 答えながら、質問する私達の横を素通りし、冷蔵庫から350ccサイズぐらいのビール瓶を3本取り出して、自身のポケットの万能ナイフパーツを使って素早く栓を開けていく。

「ふふん。自分を棚に上げて言い合っていくトリオか……。俺も賛成だ。
ほら、これ持って。
コニー、クレール。いいか?」

 唐突な展開に、私とクレールは思わず顔を見合わせてしまったが、ビール瓶を受けとって、うなづいた。
 エタンがビール瓶を掲げ、

「頑張らないを頑張る3人に乾杯!!」

「「乾杯!!」」

 ぷは~! 久しぶりのビール、美味しい。

「風呂上がりのビール美味ぇ! 上でお預け状態で良い子にしてたんだぜ? 俺偉くない?」

「ふふ、そうだね。いい子いい子」
背伸びをしてエタンの頭をナデナデしてあげたら
「ん? マジか。じゃあ、はい」
口元を片手で覆い照れながらも、横にかしいで頭を撫でやすく、ずいっとしてきた。

「甘えんな、でかい図体して」
とクレールが腹パンを入れた。
「風呂上がりだからって、全くお前はいつも勝手に俺の布団に入りやがって」

「コニーだけじゃなくて、俺も甘やかしてくれよ、クレール
布団な、今日はお前の匂いじゃなくて、ことさら快適だったぞ」

 んん? クレールのお布団って……。
もしかして……丸二日占拠していた私の匂いが付いてるってこと?!

「エタン! そーいうこと大きい声で言うのやめて~。っていうかクレール! お布団臭くしてごめん!! 
エタン……あのぅ……寝汗臭いって感じ? 
シーツ替えとか気が回んなくて本当ごめん。でもでもシーツ変えても無理なくらい染み込んでる系だったらどうしよう……」

「エタンお前。女の子の匂い吸って変態じみた感想言うな」

「嫌~! クレールの言い方! やめて~」

「え? 僕?」

「はは、すまんすまん。冗談だコニー」

 うう~エタン!
 フグみたいなほっぺ顔で睨んでやる。
 匂いネタは焦るし、本当に臭い場合は傷つくから、取り扱い注意なのよ!

「叱りつけたいけど、シーツ替えに気づかせてくれたから許す。
クレールごめんね。後でシーツ替え手伝ってくれるかな?」

「ああ、手が空いた時に自分でやっとくから平気だよ。
それよりも今後コニーが使う部屋に今から案内するよ。」

「こっち。俺の部屋の隣」

 ビール瓶を持ったまま、ピアノの奥に2人は向かった。
 私も持ったままついて行く。
 こっちの壁のドア、客室になってたんだ。
 1番左手、かど部屋のドアを開ける。

「わあ、日差しがいっぱいで気持ちのいい部屋だね」
 リビング同様、ベッドサイドの湖に面した壁には大きな窓が採られていた。
 これも風呂のガラスみたいな壁と同じで、磨りガラス状、壁状、クリアと、スイッチで切り替えられるとのこと。
 入口とベッド脇に操作パネルがあった。

 パネルにはスイッチが4つあって、1つは大きな窓ガラスの切り替え。
 2つ目はドア真向かい壁頭上のにある、明かり取りの丸窓の切り替え。
 3つ目は部屋全体を照らす頭上の照明。

 4つ目は調光機のようなダイヤルで、なんと大きな窓の網戸機能だそうな。
 クリア状態でオフから時計回りにつまみを回すと、空気を透過する素材に変わり、つまみを動かすほど透過性が上がって、マックスまで回すと窓全開の8割程度の透過率。
 見た目の形状はガラスと変わらないが、色味が若干青くなる。
 なので、網戸機能にしていることがちゃんと分かる仕組みだ。

 ベッドの脇のチェストにはステンドグラスのような美しい小ぶりのアンティークランプが置かれている。
 その並びにはシンプルなアンティークの木製テーブルと椅子。
 テーブルには薄型の引き出しが、横に並んで大小中とついており、右の脚下空間には揃いの木で作られたキャビネットが置いてある。
 その横つまりベッドと並行の壁、多分エタンとの部屋を仕切る壁は、括り付けクローゼットとニッチな空間。
 あ、この家基本的には白い漆喰みたいな壁なんだよね。

「ねえ、この空いている部分、左のクローゼットと右の壁、どうして横木が等間隔で縞々に貼ってあるの?」

「ああこれね。使う人が決まっている部屋ではないでしょう?
単純にこの空間に物や家具を置けるけど、いつか誰か長期で使いたい人が、この左右の横木を利用して棚とか横棒とか釘で打って設置したり、自由に利用できるように設計されてるんだ」

 なるほど~、よう考えられとる。
『使う人が決まっていないない部屋を想定して設計する』そんなくだりに胸がズキンとした。
 もう私には関係ないことだけれど……。








































 
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