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ヌルッとスタート編
第35話 クレール安堵エタンセル (第三者視点)
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******(第三者視点)
居間に残された男達はコニーを見送ったあと、互いの定位置の1人掛けソファーにドサッとそれぞれ腰掛けた。
「サクサク決まったな」
「ああ。いささか拍子抜けなぐらい」
彼女から組織長任命の言質を取ったことで、これから格段に動きやすくなる、と2人は心の底より安堵した。
14年前に蛍様が現れた時の、王族や政府官僚どもの恋のから騒ぎたるや凄まじいものであった。
7代目のイタリアおヌル様は夫婦でこの世界に招かれ、初の女性の登場であったが、それ以前も以降も女性の地球人は現れなかったからだ。
ましてや彼女は年若いおぼこ。
自分の息子に、未婚の自分自身がと、誰も彼もが躍起になって支援指導係に名乗りを挙げた。
また、従来のように男性のおヌル様であれば限られる役職も、同性であるが故に需要もチャンスも増え、ご学友から侍女に至るまで多くの婦女子も殺到した。
そこへ当時本人が望んで得た訳ではないが、組織の一員に抜擢されたクレール。
彼のご学友並びに護衛として付随し関わったエタンセル。
図らずも渦中に巻き込まれた2人にとって、その騒動は記憶に新しかった。
『何人たりともおヌル様の自由を侵すことは許されない』
地球からやってきてリンゲル島の国家統一を成し遂げた英雄、初代大統領の発令は王家と虹の院によって固く守られ、国民にも深く浸透している。
地球人によって100年ごとに新しい知識や概念がもたらされる、この影響の波及効果は計り知れない。
例え彼らが「こんな物があると便利なのだが、こんな制度があると良いのだが、この世界には無いのか?」と言った単なる問いかけに過ぎないものであったとしても。
そう発言した本人とて、その道に深く通じている訳ではない。
それを元にこの国の人間の粋を集め、喧々諤々とツノ突き合わせ、思考錯誤を繰り返し成し得ていくのだ。
「知能」とは、獲得した知識を使って、観測事実との比較、未来の予測、仮説の起案を行う能力。
すなわち、明白な答えがある問いに対して、素早く適切な答えを導く能力。
そこに未知の課題が課される。
「知性」とは、明白な答えがない問いに対して、その答えを探求する能力。
異界の地球人がもたらす具体的な文化文明の発展は、偉大なる結果である事は明白だ。
そればかりか、おヌル様の自由な好奇心や行動言動が雨のようにこの世界に降り注ぎ、その一粒一粒の雫こそが、「知能を駆使した知性を」「より精神的な知力・智慧を」その発芽、育成、へと繋がっていく。
それこそがおヌル様のもたらす真の功績であると言えるであろう。
この認識を時の知識人と権力者が明確に有する事で、先のおヌル様保護の発令が、虹の院を旗頭に遵守され続けるのだ。
ただし、友情や敬愛で繋がったり、恋をして愛を育むその伴侶ともなれば、自由を害する者にあらず。
人生を共に歩む親しき者として、有り余る恩恵を享受するに難くない。
本人が心より望み結んだ絆であれば、それは搾取とは言えないであろう。
そこで巻き起こるのが、最も重要で、誰よりも何よりも先んじておヌル様の側に侍る立ち位置。
「支援指導係の組織長」「組織の構成員の席」この争奪戦である
この度その争いを他と戦わずして、クレールとエタンが勝利を手中に収めたのだ。
しかも瞬殺に近い形で。
さらには本人から望まれるという最高の形で。
安堵の余りに力が抜け切っても仕方あるまい。
「なぁ、クレール。コニーのコーヒー飲みまくろう発言って、舌が光ったことの再現つうか検証したいってことだろ。なんか知らんが味も変わった関連性をさ。
だったら、コーヒーじゃなくて酒でも良くね?
コニーも夜飲みたいっ言ってたしさ。
夜じゃなくて今。俺が3人で今すぐ祝杯を挙げてぇんだ。
お前もそうだろ?」
「それだな!まさに僕もそう思ってた!
それにコニーにとってもそのほうが良いのかも知れない。
おそらく彼女は真面目というか、根を詰めるタイプのように思える。
昼食を摂ってそこまで時間を空けずに、菓子を食べながらコーヒーを2杯飲んだあとでのあの発言。
俺らの腹具合からいっても、コーヒー飲み尽くしは楽しいとは言えない提案だった。女性の腹なら尚更だ。きっと解明に気が急いたんだろう。
とは言え、彼女の気持ちを尊重してやるべきではあるから、どっちに転んでもいいように両方用意しておこうか?」
「それなら一度宿舎にいろいろ取りに行ってくるわぁ。そのままお前と呑んだくれて寝ちまってもいいように、シャワーもあっちで浴びてくる。
あー、明日の午前も半休取って良いか?
同僚にはまた単に私用でって言っときゃいいだろう」
「じゃあ宿舎の脇のハーブ畑から適当に見繕って持ってきてくれるか? コニー料理好きみたいだから喜ぶかも知んない。
明日の午後は彼女の体調をみて、3人揃ってお前を職場に連行しがてら、湖の散歩に出るとするか」
「うへーい。二日酔い明け俺だけ肉体労働か、キチぃぜ、はは」
「……なぁエタン。外から眺めていただけのあの頃とは違って、もうガキじゃないんだ。
僕ら2人。ちゃんと護れるよな……」
「ああ。俺ら2度目のおヌル様経験者だ。
最強の2人で最高にご機嫌な3人組でイこうぜ。ゴミみてーな野郎を蹴散らしながらな」
「だな。僕たちのおヌル姫は、あんなにも人懐っこくて小さくて可愛らしいのに、そのクセなんか漢らしいとこあるしね」
立ち上がり、互いの胸元をグーパンで小突き合う。
「王子様、あとでな」
「は、ぬかせ。……いろいろ、忙しくなるな」
玄関へと向かうエタンに、ニヤリとするクレールだった。
******
居間に残された男達はコニーを見送ったあと、互いの定位置の1人掛けソファーにドサッとそれぞれ腰掛けた。
「サクサク決まったな」
「ああ。いささか拍子抜けなぐらい」
彼女から組織長任命の言質を取ったことで、これから格段に動きやすくなる、と2人は心の底より安堵した。
14年前に蛍様が現れた時の、王族や政府官僚どもの恋のから騒ぎたるや凄まじいものであった。
7代目のイタリアおヌル様は夫婦でこの世界に招かれ、初の女性の登場であったが、それ以前も以降も女性の地球人は現れなかったからだ。
ましてや彼女は年若いおぼこ。
自分の息子に、未婚の自分自身がと、誰も彼もが躍起になって支援指導係に名乗りを挙げた。
また、従来のように男性のおヌル様であれば限られる役職も、同性であるが故に需要もチャンスも増え、ご学友から侍女に至るまで多くの婦女子も殺到した。
そこへ当時本人が望んで得た訳ではないが、組織の一員に抜擢されたクレール。
彼のご学友並びに護衛として付随し関わったエタンセル。
図らずも渦中に巻き込まれた2人にとって、その騒動は記憶に新しかった。
『何人たりともおヌル様の自由を侵すことは許されない』
地球からやってきてリンゲル島の国家統一を成し遂げた英雄、初代大統領の発令は王家と虹の院によって固く守られ、国民にも深く浸透している。
地球人によって100年ごとに新しい知識や概念がもたらされる、この影響の波及効果は計り知れない。
例え彼らが「こんな物があると便利なのだが、こんな制度があると良いのだが、この世界には無いのか?」と言った単なる問いかけに過ぎないものであったとしても。
そう発言した本人とて、その道に深く通じている訳ではない。
それを元にこの国の人間の粋を集め、喧々諤々とツノ突き合わせ、思考錯誤を繰り返し成し得ていくのだ。
「知能」とは、獲得した知識を使って、観測事実との比較、未来の予測、仮説の起案を行う能力。
すなわち、明白な答えがある問いに対して、素早く適切な答えを導く能力。
そこに未知の課題が課される。
「知性」とは、明白な答えがない問いに対して、その答えを探求する能力。
異界の地球人がもたらす具体的な文化文明の発展は、偉大なる結果である事は明白だ。
そればかりか、おヌル様の自由な好奇心や行動言動が雨のようにこの世界に降り注ぎ、その一粒一粒の雫こそが、「知能を駆使した知性を」「より精神的な知力・智慧を」その発芽、育成、へと繋がっていく。
それこそがおヌル様のもたらす真の功績であると言えるであろう。
この認識を時の知識人と権力者が明確に有する事で、先のおヌル様保護の発令が、虹の院を旗頭に遵守され続けるのだ。
ただし、友情や敬愛で繋がったり、恋をして愛を育むその伴侶ともなれば、自由を害する者にあらず。
人生を共に歩む親しき者として、有り余る恩恵を享受するに難くない。
本人が心より望み結んだ絆であれば、それは搾取とは言えないであろう。
そこで巻き起こるのが、最も重要で、誰よりも何よりも先んじておヌル様の側に侍る立ち位置。
「支援指導係の組織長」「組織の構成員の席」この争奪戦である
この度その争いを他と戦わずして、クレールとエタンが勝利を手中に収めたのだ。
しかも瞬殺に近い形で。
さらには本人から望まれるという最高の形で。
安堵の余りに力が抜け切っても仕方あるまい。
「なぁ、クレール。コニーのコーヒー飲みまくろう発言って、舌が光ったことの再現つうか検証したいってことだろ。なんか知らんが味も変わった関連性をさ。
だったら、コーヒーじゃなくて酒でも良くね?
コニーも夜飲みたいっ言ってたしさ。
夜じゃなくて今。俺が3人で今すぐ祝杯を挙げてぇんだ。
お前もそうだろ?」
「それだな!まさに僕もそう思ってた!
それにコニーにとってもそのほうが良いのかも知れない。
おそらく彼女は真面目というか、根を詰めるタイプのように思える。
昼食を摂ってそこまで時間を空けずに、菓子を食べながらコーヒーを2杯飲んだあとでのあの発言。
俺らの腹具合からいっても、コーヒー飲み尽くしは楽しいとは言えない提案だった。女性の腹なら尚更だ。きっと解明に気が急いたんだろう。
とは言え、彼女の気持ちを尊重してやるべきではあるから、どっちに転んでもいいように両方用意しておこうか?」
「それなら一度宿舎にいろいろ取りに行ってくるわぁ。そのままお前と呑んだくれて寝ちまってもいいように、シャワーもあっちで浴びてくる。
あー、明日の午前も半休取って良いか?
同僚にはまた単に私用でって言っときゃいいだろう」
「じゃあ宿舎の脇のハーブ畑から適当に見繕って持ってきてくれるか? コニー料理好きみたいだから喜ぶかも知んない。
明日の午後は彼女の体調をみて、3人揃ってお前を職場に連行しがてら、湖の散歩に出るとするか」
「うへーい。二日酔い明け俺だけ肉体労働か、キチぃぜ、はは」
「……なぁエタン。外から眺めていただけのあの頃とは違って、もうガキじゃないんだ。
僕ら2人。ちゃんと護れるよな……」
「ああ。俺ら2度目のおヌル様経験者だ。
最強の2人で最高にご機嫌な3人組でイこうぜ。ゴミみてーな野郎を蹴散らしながらな」
「だな。僕たちのおヌル姫は、あんなにも人懐っこくて小さくて可愛らしいのに、そのクセなんか漢らしいとこあるしね」
立ち上がり、互いの胸元をグーパンで小突き合う。
「王子様、あとでな」
「は、ぬかせ。……いろいろ、忙しくなるな」
玄関へと向かうエタンに、ニヤリとするクレールだった。
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