舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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ヌルッとスタート編

第34話 桃の香りのお風呂

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 籠の中のミニタオルを手に取って浴室へのドアを開けると、湯けむりと共に桃の芳醇ほうじゅんな香りがお風呂場を満たしていた。
 すぅ~
 鼻からゆっくり吸い込む。

 ん~ん、いい匂い。

 壁は透明ではなく磨りガラスみたいな状態になっていた。
 白い壁より開放感はあるものの、一度利用しているせいか、不安は別に感じなかった。
 照明に加えて磨りガラスの壁面から差し込む自然光に溢れる浴室。
 むしろ、昼風呂か~贅沢で良いじゃな~い、って気分が上がる。

 椅子に腰掛けた時、裸の胸元のネックレスが目に留まった。

 あれ? 
 1つだったのが増えた? 色も違うような?

 乾電池の直列繋ぎみたいに3個入り。
 おんぶしてもらう前に着けたのは1個で透明だったが、今は1個は不透明なくっきり虹色、1個透明性のある気持ち薄めの虹色、1個だけ透明。
 今朝の着替えの時は全く気にも留めかったなぁ。
 寝ている間により強力なタイプに変えてくれたのかな?
 あとで聞いてみよう。
 
 前回もお借りしたシャンプーで頭を洗い、リンスをつけている間に身体を。

 あ、マイ石鹸ケース洗面台に置いたままだ。

 シャンプーリンスの横に鎮座した、石鹸置き場にふと目をやると、石鹸が2つ。
 私が借りてるのと同じタイプですでに使用された物と、新品の淡いピンクの薔薇の形の置物みたいな細工石鹸。

 わあ可愛い。
 もしかして私の為に用意してくれた?!

 なーんて何て図々しく考えちゃった。
 例えそうだったとしても、聞きもしないで勝手に使うのは躊躇われる。
 でもぶっちゃけ、取りに行くのにバスタオルで身体を拭いてから、一旦洗面所に出るのも面倒くさい。
 新品の薔薇を使うとバレるけど、こっちの使いさしのならバレないんじゃないかな?
 シャンプーとかも貸してくれるし、飲みかけコーヒーも平気そうだったから潔癖症ってわけじゃないよね? 大丈夫だよね? 
 私は全然気にしなーい。
 ちょいと拝借することにした。

 石鹸をタオルに擦り、タオルで身体をゴシゴシ。
 旅先では、何かと便利な手拭いで私は身体を洗うんだけど、あれと同じでモコモコ泡立たないから、ちゃんと落ちてんだかどーだか、何となく物足りない。
 石鹸横の水切り上に置いてある海綿みたいなのをチラリ。
 1個だけだからクレールとエタンは兼用で使っているのかな?
 流石の私もその海綿仲間に混ぜろとは言えないっす。

 あ! 石鹸が濡れちゃったから、次にすぐ入る彼らに借りたことがバレちゃう。
 かと言って薔薇のも濡らして、石鹸置き場に水かかっちゃいました偽装するのもねぇ。
 しゃ~ない、ちゃんと借りたよーって自己申告して、なんなら、え? って嫌がられるか。

 今日はパッと洗ってパッと浸かって出ようっと。

 ふはあ~気持ちいい……

 ジャクジーはつけてないので静かな普通の湯船。
 ではないか、ゴージャスだ。
 今日もクレールチョイスの入浴剤入りだ。
 若干とろみがあるテクスチャーの、桃の香りがするたっぷりのお湯。

 ふぅ……癒される~。

 この桃の入浴剤、香料の使い方がとても上手い。
 甘ったるい単純なホワイトピーチ香料じゃなくて、種の香りも感じるような、ネクタリン系というか。
 外国の市場で山積みになったオレンジと赤のグラデーションが入ったやつ。
 ちょい硬めの野生味の残る桃科のなんかを彷彿とさせる。
 
 甘くて、少し酸味があって、溌剌はつらつ
 元気を後押ししてくれる香り。

 さっぱりして、泣き顔もすっかりリフレッシュした筈だ。
 さて、出ますか。

 バスタオルで身体を拭いて、髪もざざっと拭く。
 浴室以外の場所で、人様のお家での素っ裸はまだ落ち着かないからすぐに湿ったバスタオルを巻いておく。

 まだ数時間しか経ってないから、さっきの服でも全然構わないんだけど。
 でも丸2日寝込んでいた身体につけた服だったし、新しい着替えもわざわざ用意してくれてるし、どうしよう。

 今日の着替えもまだ自分の服ではなかった。
 うーん、わざわざ度&親切度高め案件です……。
 折角ですから新しい御召し物をお借り致しませう。

 前回と同じく首がV字の新品の肌着。
 3枚1980円セットで、日本の量販店のワゴンから買うクレールの姿を妄想したら楽しくなった。
 でも肌触り良いから高そう。
 あ、クレール元王族だった。
 良いものに決まってるな、こりゃ。

 パンツもしくはパンツ代わりは、さっき借りた肉球スパッツと同素材、ちょっと光沢があって伸びるやつ。
 ピンク地に苺柄の一部丈……
 新品だし遠慮なく履く。
 まあ正直

 ??マジ??

 って感じだけど。

 こんなにもインテリアのセンスに優れた家に住み、あんなにもお綺麗で、洗練された雰囲気のハイソな美丈夫が、おズボンの下にこんなご趣味を隠されていようとは……国家機密にもあたいするわ。

 新品ってことは誰かにプレゼントされたのか?
 はっ?!
 もしやいざって時の勝負用のおとっときか?

 しばらく居候させてもらうつもりでいるから、洗濯を任せてもらう時にでも、他のコレクションも見てみたい。
 そんなよこしまな考えがもたげる。
 いやこれは「お前のパンツ見せろや」ってスケベ心からではないからね! と誰にいうでもなく、心の中で言い訳をする私。

 そんな事をつらつら考えてるうちに厚手の生地のシャツのボタンが全て止め終わる。
 両胸元にポケットがあるタイプで、その配慮が地味に恥ずかしい。
 立派な山ではなく丘程度だけど、そのてっぺんは陥没系ではないから目立つと困るからな、お互い。

 支援金でブラとパンツ買いたい……。

 こっちに来た時に着てたのは確か、風呂上がりで寝る前ちょい仕事するから、スポブラ系上下セットだったっけ?
 安モン色気なし、救いは買ったばっかで上下揃ってることかな。

 柔らかい生地のハーフパンツを私の短足をもってして、ガウチョパンツ風に着こなす。
 もちろんずり落ちない様に腰紐をぎゅうぎゅうに締め上げる。

 鏡で見ると、上も下もダブついてずろっとした印象過ぎるので、シャツのボタンの裾を開けて前で結んでみる。
 ちょろっとだけ垢抜けコーディネートになった気がする。

 髪と顔やって靴下履いて早よ戻ろう。
 湿ったバスタオルに洗い物一式包んで、これもどうしたらいいか聞かなくちゃ。






 








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