舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

文字の大きさ
上 下
34 / 133
ヌルッとスタート編

第34話 桃の香りのお風呂

しおりを挟む
 籠の中のミニタオルを手に取って浴室へのドアを開けると、湯けむりと共に桃の芳醇ほうじゅんな香りがお風呂場を満たしていた。
 すぅ~
 鼻からゆっくり吸い込む。

 ん~ん、いい匂い。

 壁は透明ではなく磨りガラスみたいな状態になっていた。
 白い壁より開放感はあるものの、一度利用しているせいか、不安は別に感じなかった。
 照明に加えて磨りガラスの壁面から差し込む自然光に溢れる浴室。
 むしろ、昼風呂か~贅沢で良いじゃな~い、って気分が上がる。

 椅子に腰掛けた時、裸の胸元のネックレスが目に留まった。

 あれ? 
 1つだったのが増えた? 色も違うような?

 乾電池の直列繋ぎみたいに3個入り。
 おんぶしてもらう前に着けたのは1個で透明だったが、今は1個は不透明なくっきり虹色、1個透明性のある気持ち薄めの虹色、1個だけ透明。
 今朝の着替えの時は全く気にも留めかったなぁ。
 寝ている間により強力なタイプに変えてくれたのかな?
 あとで聞いてみよう。
 
 前回もお借りしたシャンプーで頭を洗い、リンスをつけている間に身体を。

 あ、マイ石鹸ケース洗面台に置いたままだ。

 シャンプーリンスの横に鎮座した、石鹸置き場にふと目をやると、石鹸が2つ。
 私が借りてるのと同じタイプですでに使用された物と、新品の淡いピンクの薔薇の形の置物みたいな細工石鹸。

 わあ可愛い。
 もしかして私の為に用意してくれた?!

 なーんて何て図々しく考えちゃった。
 例えそうだったとしても、聞きもしないで勝手に使うのは躊躇われる。
 でもぶっちゃけ、取りに行くのにバスタオルで身体を拭いてから、一旦洗面所に出るのも面倒くさい。
 新品の薔薇を使うとバレるけど、こっちの使いさしのならバレないんじゃないかな?
 シャンプーとかも貸してくれるし、飲みかけコーヒーも平気そうだったから潔癖症ってわけじゃないよね? 大丈夫だよね? 
 私は全然気にしなーい。
 ちょいと拝借することにした。

 石鹸をタオルに擦り、タオルで身体をゴシゴシ。
 旅先では、何かと便利な手拭いで私は身体を洗うんだけど、あれと同じでモコモコ泡立たないから、ちゃんと落ちてんだかどーだか、何となく物足りない。
 石鹸横の水切り上に置いてある海綿みたいなのをチラリ。
 1個だけだからクレールとエタンは兼用で使っているのかな?
 流石の私もその海綿仲間に混ぜろとは言えないっす。

 あ! 石鹸が濡れちゃったから、次にすぐ入る彼らに借りたことがバレちゃう。
 かと言って薔薇のも濡らして、石鹸置き場に水かかっちゃいました偽装するのもねぇ。
 しゃ~ない、ちゃんと借りたよーって自己申告して、なんなら、え? って嫌がられるか。

 今日はパッと洗ってパッと浸かって出ようっと。

 ふはあ~気持ちいい……

 ジャクジーはつけてないので静かな普通の湯船。
 ではないか、ゴージャスだ。
 今日もクレールチョイスの入浴剤入りだ。
 若干とろみがあるテクスチャーの、桃の香りがするたっぷりのお湯。

 ふぅ……癒される~。

 この桃の入浴剤、香料の使い方がとても上手い。
 甘ったるい単純なホワイトピーチ香料じゃなくて、種の香りも感じるような、ネクタリン系というか。
 外国の市場で山積みになったオレンジと赤のグラデーションが入ったやつ。
 ちょい硬めの野生味の残る桃科のなんかを彷彿とさせる。
 
 甘くて、少し酸味があって、溌剌はつらつ
 元気を後押ししてくれる香り。

 さっぱりして、泣き顔もすっかりリフレッシュした筈だ。
 さて、出ますか。

 バスタオルで身体を拭いて、髪もざざっと拭く。
 浴室以外の場所で、人様のお家での素っ裸はまだ落ち着かないからすぐに湿ったバスタオルを巻いておく。

 まだ数時間しか経ってないから、さっきの服でも全然構わないんだけど。
 でも丸2日寝込んでいた身体につけた服だったし、新しい着替えもわざわざ用意してくれてるし、どうしよう。

 今日の着替えもまだ自分の服ではなかった。
 うーん、わざわざ度&親切度高め案件です……。
 折角ですから新しい御召し物をお借り致しませう。

 前回と同じく首がV字の新品の肌着。
 3枚1980円セットで、日本の量販店のワゴンから買うクレールの姿を妄想したら楽しくなった。
 でも肌触り良いから高そう。
 あ、クレール元王族だった。
 良いものに決まってるな、こりゃ。

 パンツもしくはパンツ代わりは、さっき借りた肉球スパッツと同素材、ちょっと光沢があって伸びるやつ。
 ピンク地に苺柄の一部丈……
 新品だし遠慮なく履く。
 まあ正直

 ??マジ??

 って感じだけど。

 こんなにもインテリアのセンスに優れた家に住み、あんなにもお綺麗で、洗練された雰囲気のハイソな美丈夫が、おズボンの下にこんなご趣味を隠されていようとは……国家機密にもあたいするわ。

 新品ってことは誰かにプレゼントされたのか?
 はっ?!
 もしやいざって時の勝負用のおとっときか?

 しばらく居候させてもらうつもりでいるから、洗濯を任せてもらう時にでも、他のコレクションも見てみたい。
 そんなよこしまな考えがもたげる。
 いやこれは「お前のパンツ見せろや」ってスケベ心からではないからね! と誰にいうでもなく、心の中で言い訳をする私。

 そんな事をつらつら考えてるうちに厚手の生地のシャツのボタンが全て止め終わる。
 両胸元にポケットがあるタイプで、その配慮が地味に恥ずかしい。
 立派な山ではなく丘程度だけど、そのてっぺんは陥没系ではないから目立つと困るからな、お互い。

 支援金でブラとパンツ買いたい……。

 こっちに来た時に着てたのは確か、風呂上がりで寝る前ちょい仕事するから、スポブラ系上下セットだったっけ?
 安モン色気なし、救いは買ったばっかで上下揃ってることかな。

 柔らかい生地のハーフパンツを私の短足をもってして、ガウチョパンツ風に着こなす。
 もちろんずり落ちない様に腰紐をぎゅうぎゅうに締め上げる。

 鏡で見ると、上も下もダブついてずろっとした印象過ぎるので、シャツのボタンの裾を開けて前で結んでみる。
 ちょろっとだけ垢抜けコーディネートになった気がする。

 髪と顔やって靴下履いて早よ戻ろう。
 湿ったバスタオルに洗い物一式包んで、これもどうしたらいいか聞かなくちゃ。






 








しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

処理中です...