28 / 125
ヌルッとスタート編
第28話 脳みそは糖分を欲しているようです
しおりを挟む
「ただいま~。お先にありがとう。男子たちもどーぞ」
おう、とエタンが先に立ち上がった。
「クレール。これ食べてもいい?
疲れ過ぎて脳みそが甘いもん食べたいって」
瓶を指差す。
「僕の脳みそも丁度そう騒ぎ出したところだ」
瓶を開け、チョコレートと思わしきものを焼き菓子が空になった皿へ出してくれた。
匂いからしてチョコのはず、嬉しい。
焦茶色のやつからお口にぽい。
ほわ~癒される~。
普通に美味しいよ、どんなチョコレートでもチョコは正義だよ。
冷静に職人目線で分析すれば、ふーむ…… まあまあ、といったとこか。
ちょっと甘さが突出気味だな。
次は明るい茶色いやつ。
おお、ジャンドゥーヤ!
でもこの糖度強めのヘーゼルナッツチョコの感じって……
「ねぇ、このチョコ。もしかしてイタリアのおヌル様関係じゃない?
そんでさっきのお菓子の名前は、ビスコッティかカントゥッチ」
「正解! 両方ともイタリア系の店の品で、焼き菓子の名前はカントゥッチ」
「トスカーナ地方出身のおヌル様か……」
「え? フランスに引き続き、国名だけじゃなく産地まで分かるの!?
コニーって凄いんだね……」
「いやいやいや全然全然! ほんと超たまたまだから!
常温取り扱いタイプの、可愛い包装のイタリア製チョコレートが、そんな高くない値段で日本に出回ってて、もらったり買ったりすんの。
『可愛い~甘っ、どこの? イタリア』って流れがあるあるでさ。
しかもヘーゼルナッツチョコ率異様に高し!
イタリアに詳しくないからこそ、日本で簡単に触れ合えるイタリアのチョコはまさにこんな感じってだけで」
「これエタンの贔屓にしてるレストランで売ってるやつで、差し入れに時々買ってきてくれるんだ。カントゥッチやエスプレッソ用のコーヒーもそう。
僕はチョコレートに限って言えばもう少し甘みを抑えて、蕩ける口溶けの濃厚なのが好みだ」
「ふふ分かる~。実は私もそういうチョコ大好き。
私ね、カントゥッチには思い出があるんだ~。
昔地方出身の恋人と話をしてた時にね、彼がカントゥッチって言うんだよ。ビスコッティってお菓子なのに。私はそんな言い方初めて聞いたから、インチキだ~田舎の商社が勝手につけた商品名じゃん、なーんて決めつけてさ。
あれから何年も経った後、トスカーナ地方の人間は地元に誇りを持ってビスコッティのことをカントゥッチって独自に呼んでいるのを知って、彼の地元で売ってたやつはトスカーナからの輸入菓子だったんだなって理解したわけ。
このお菓子を食べると、もう何年も会ってない別れたその彼を思い出すんだよね」
「とんでもなく忌々しい菓子だな。
エタンに持ち込み禁止って言っとかないと」
「ええ? それが原因で振られて別れたわけじゃないし、10代の頃のいい思い出だよ。
そんなところにまで気を遣ってくれるなんて、クレールは思いやりに満ち溢れた人なんだね。ありがとう」
「クレールお待たせ」
エタンが帰ってきた。
「別に待ってないし!」
エタンへ塩対応しつつ立ち上がるクレール。
「コニー、失礼。席を外すけどすぐ戻るね。
(いい思い出ってなんだよクソ)」
ブツブツ言いながらクレールは廊下へ向かった。
「?? なんだアイツ。機嫌悪いのな?」
「よく分かんないど、若かりし頃の私が振られた世間話に憤ってくれたとか? ははは。
あ、チョコとカントゥッチご馳走様でした。」
「おう。湖のあっちのほとりにある宿舎にも俺の部屋があんだけど、クレールん家の方が居心地良くてな。
転がりこむ期間分の食費と手土産ぐらいは、親しき仲にもなんとやらだ」
「うう、私どうしよう。身の振り方決まるまでクレールとエタンにおんぶに抱っこじゃん。
そう言えば……
出会いのヌルヌル保護ん時、クレールにおんぶしてもらったし、お風呂で意識が無かった時もきっと抱っこで2階の布団まで運んでくれたんじゃない?」
「まあな。2階抱っこは俺だな」
「うわあ、そっか。重かったでしょう?
ごめんね、ありがとう」
「まさか。軽くて楽勝だったぜ」
「30キロの砂糖袋を2階のケーキ工場に納品してくれる業者のおじさん、毎度しんどそうだよ。それよりも私重いし」
「オッサンと一緒にすんな。こちとら毎日鍛えてるオニーサンだぞ」
「ふふ違いない。
エタンは頼りになるね。
私さ、経済面だけじゃなくて、肉体的にもおんぶに抱っこって、どんだけ世話の焼ける重たいお荷物なのよ……はあ~」
「阿保ぅ。一体お前は自分が誰だと思ってるんだ?」
え?
「言わないでっていうからそう呼ばないが、コニーは『おヌル様』なんだぞ。
人ならざる謎の生き物に強制的に誘拐されて、縁もゆかりもない異界にぶん投げられた独りぼっちのおヌル様なんだ。
俺たちの世界に来て、最初に出会った俺たちが、コニーの縁とゆかりにならないでどうする」
「そうだよコニー」
あ、クレール……
廊下からやって来て、窓際の長いソファーに座る私の左隣へ腰掛けた。
「コーヒーを飲み尽くそう! なんてふざけて言ってみせても、コニーが何かを成そうと、短時間で意を決したことぐらい分かるよ。例え出会って間もなくたってもね」
「作戦会議すんだろ? さあ議長。始めてくれ」
エタンがドサって右隣に座った。
--------------------
次は自分で言うのもなんですが、わりといい感じの回なんです。楽しみにお待ちくださいませ。お見逃しなく!
おう、とエタンが先に立ち上がった。
「クレール。これ食べてもいい?
疲れ過ぎて脳みそが甘いもん食べたいって」
瓶を指差す。
「僕の脳みそも丁度そう騒ぎ出したところだ」
瓶を開け、チョコレートと思わしきものを焼き菓子が空になった皿へ出してくれた。
匂いからしてチョコのはず、嬉しい。
焦茶色のやつからお口にぽい。
ほわ~癒される~。
普通に美味しいよ、どんなチョコレートでもチョコは正義だよ。
冷静に職人目線で分析すれば、ふーむ…… まあまあ、といったとこか。
ちょっと甘さが突出気味だな。
次は明るい茶色いやつ。
おお、ジャンドゥーヤ!
でもこの糖度強めのヘーゼルナッツチョコの感じって……
「ねぇ、このチョコ。もしかしてイタリアのおヌル様関係じゃない?
そんでさっきのお菓子の名前は、ビスコッティかカントゥッチ」
「正解! 両方ともイタリア系の店の品で、焼き菓子の名前はカントゥッチ」
「トスカーナ地方出身のおヌル様か……」
「え? フランスに引き続き、国名だけじゃなく産地まで分かるの!?
コニーって凄いんだね……」
「いやいやいや全然全然! ほんと超たまたまだから!
常温取り扱いタイプの、可愛い包装のイタリア製チョコレートが、そんな高くない値段で日本に出回ってて、もらったり買ったりすんの。
『可愛い~甘っ、どこの? イタリア』って流れがあるあるでさ。
しかもヘーゼルナッツチョコ率異様に高し!
イタリアに詳しくないからこそ、日本で簡単に触れ合えるイタリアのチョコはまさにこんな感じってだけで」
「これエタンの贔屓にしてるレストランで売ってるやつで、差し入れに時々買ってきてくれるんだ。カントゥッチやエスプレッソ用のコーヒーもそう。
僕はチョコレートに限って言えばもう少し甘みを抑えて、蕩ける口溶けの濃厚なのが好みだ」
「ふふ分かる~。実は私もそういうチョコ大好き。
私ね、カントゥッチには思い出があるんだ~。
昔地方出身の恋人と話をしてた時にね、彼がカントゥッチって言うんだよ。ビスコッティってお菓子なのに。私はそんな言い方初めて聞いたから、インチキだ~田舎の商社が勝手につけた商品名じゃん、なーんて決めつけてさ。
あれから何年も経った後、トスカーナ地方の人間は地元に誇りを持ってビスコッティのことをカントゥッチって独自に呼んでいるのを知って、彼の地元で売ってたやつはトスカーナからの輸入菓子だったんだなって理解したわけ。
このお菓子を食べると、もう何年も会ってない別れたその彼を思い出すんだよね」
「とんでもなく忌々しい菓子だな。
エタンに持ち込み禁止って言っとかないと」
「ええ? それが原因で振られて別れたわけじゃないし、10代の頃のいい思い出だよ。
そんなところにまで気を遣ってくれるなんて、クレールは思いやりに満ち溢れた人なんだね。ありがとう」
「クレールお待たせ」
エタンが帰ってきた。
「別に待ってないし!」
エタンへ塩対応しつつ立ち上がるクレール。
「コニー、失礼。席を外すけどすぐ戻るね。
(いい思い出ってなんだよクソ)」
ブツブツ言いながらクレールは廊下へ向かった。
「?? なんだアイツ。機嫌悪いのな?」
「よく分かんないど、若かりし頃の私が振られた世間話に憤ってくれたとか? ははは。
あ、チョコとカントゥッチご馳走様でした。」
「おう。湖のあっちのほとりにある宿舎にも俺の部屋があんだけど、クレールん家の方が居心地良くてな。
転がりこむ期間分の食費と手土産ぐらいは、親しき仲にもなんとやらだ」
「うう、私どうしよう。身の振り方決まるまでクレールとエタンにおんぶに抱っこじゃん。
そう言えば……
出会いのヌルヌル保護ん時、クレールにおんぶしてもらったし、お風呂で意識が無かった時もきっと抱っこで2階の布団まで運んでくれたんじゃない?」
「まあな。2階抱っこは俺だな」
「うわあ、そっか。重かったでしょう?
ごめんね、ありがとう」
「まさか。軽くて楽勝だったぜ」
「30キロの砂糖袋を2階のケーキ工場に納品してくれる業者のおじさん、毎度しんどそうだよ。それよりも私重いし」
「オッサンと一緒にすんな。こちとら毎日鍛えてるオニーサンだぞ」
「ふふ違いない。
エタンは頼りになるね。
私さ、経済面だけじゃなくて、肉体的にもおんぶに抱っこって、どんだけ世話の焼ける重たいお荷物なのよ……はあ~」
「阿保ぅ。一体お前は自分が誰だと思ってるんだ?」
え?
「言わないでっていうからそう呼ばないが、コニーは『おヌル様』なんだぞ。
人ならざる謎の生き物に強制的に誘拐されて、縁もゆかりもない異界にぶん投げられた独りぼっちのおヌル様なんだ。
俺たちの世界に来て、最初に出会った俺たちが、コニーの縁とゆかりにならないでどうする」
「そうだよコニー」
あ、クレール……
廊下からやって来て、窓際の長いソファーに座る私の左隣へ腰掛けた。
「コーヒーを飲み尽くそう! なんてふざけて言ってみせても、コニーが何かを成そうと、短時間で意を決したことぐらい分かるよ。例え出会って間もなくたってもね」
「作戦会議すんだろ? さあ議長。始めてくれ」
エタンがドサって右隣に座った。
--------------------
次は自分で言うのもなんですが、わりといい感じの回なんです。楽しみにお待ちくださいませ。お見逃しなく!
2
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる