上 下
27 / 125
ヌルッとスタート編

第27話 瞑想もどき

しおりを挟む
「ふぅぅうう。何も考えずにじっくりコーヒーでも飲んで、まずは一息入れよっか」

 一くち飲む。目を閉じる。
 鼻から息を吸ってゆっくり鼻から出す。
 少し冷めちゃったな、ちょっと酸味が強まったな。
 何にも考えないって言ったけど、何かは考えちゃうよな。
「な」ばっかりだな、あ、また「な」だ。
 突っ込みくだら「な」過ぎる、その調子、リラックス。

 一口また口に含む。
 もう少し酸味がないほうが好き。
 焙煎も炭火っぽい感じをなくして深みのある、さりとてお菓子にも合うまろやかな丸みを帯びた、いつものオーガニックペルー産のやつ。
 マンデリンも好みのタイプ。
 ごくり。
 華やかなのも嫌いじゃなんだけど酸味がどうもねぇ。
 もう一口。
 酸味を出さずしてもっと香りを豊かにするのって難しいよね。
 これブレンド豆か? 単一豆か?

 目を閉じたままの瞼に眩しさを急に感じる。
 ふぁ?! 何?
 ごくり。
 そうそう、こんな味超好き。

 ん? これ?

「ねぇ、何か光った?」
 瞑想にまるでなってない、コーヒー煩悩で満ち溢れた瞑想もどきを3くち分で終え、瞼を開けながら2人に声かける。

 すると、これでもかってぐらいに丸く見開いた目で、私を食い入る様に見つめる2人が居た。

「なあに?」

「光った」

「うん、目瞑ってても眩しかったもん。何かあったの?」

「光ってる」

 だ、か、ら、何がじゃ?

「コニー……君、口の中が光ってる」

 …………

 はあああ?
 何言ってんの?

 自慢じゃ無いが私、実は短気なんですよ。
 せっかくの瞑想もどきで手に入れたプチリラックスが霧散したやんけ。

 落ちつけ~
 鼻から息を吸って、吐いて~。
 コーヒーをごくり。

 んんんん??!
 やっぱり気のせいじゃなくて、3口目からコーヒーの味が変わった……

 プチリラックスどころか、クレールの与太話よたばなしも爆発四散する。

「クレールのちょっとちょうだい」
 返事も待たず、勝手にごくり。
「エタンのは!?」
 エタンのちょっとしか残ってないやつを、奪うようにごくごくり。

 2人のは一緒。二口までの私のと一緒。

 自分のをもう一度ごくり。
 絶対に違う。

「これ飲んでみて」

 間接キス? セクハラ?
 ティーンエイジャーでも潔癖でも無いなら飲めや。
 いえ、飲んで下さいませ。

 勢いに押されてか、エタン、クレールと回し飲んだ。

「華やかな感じで酸味が無い?」

「さっきより美味いね……? コニーが口つけたカップだから?」

 ちょっ、クレール!
 赤面してる上に言い方がキモい、でも顔がうるわしいから判定は乙女!

「コニー、あーってして」

 何?
 コーヒーで舌が茶ばんでたら恥ずいが、言われた通り、あーってする。

「やっぱり光ってる」
「ベロ……マジか……」

 光ってる? 茶ばんでるの間違いでは?
 彼らの顔つきは至って大真面目だった。

 もしや与太話じゃなくガチもんだったのか?
 マジで???

「鏡見てくる!!!」

 廊下をダッシュ。
 洗面所に慌てて駆け込み、鏡に向かって口を開ける。
 なるほど。

 舌が光ってる。

 男子2人も後からやってきて
「コニー来たよ、入るよ?」
 開け放たれたドア近辺から声がかかる。
 私の後ろで立ち止まった、鏡越しの彼らと目が合う。

 口開けたままべーって舌をだす。
 根本から先までの8センチ~10センチ程度、まるまるキラッキラに光ってる。
 ちなみに舌の裏側も抜かりなくキラキラ。

「いつから光ってた?」
 鏡越しの彼らに話しかける。
 口の中の事は、自分じゃ言われない限り気がつかない、分からない。

「多分コニーも感じたあのピカって光った時から……」

 「はは。ありえなさ過ぎて、脳が与太話として処理してたわ」

 見た目の違和感すごっ。
 いつまでこの舌光ってんだろう。
 クレールやエタンの瞳や髪みたくそういう風になったってこと?
 ずっとこんなんなの?
 はあああ~何か嫌すぎてげんなりしてきた。

 気休め程度に一応うがいしてみる。
 ぶくぶくぶくぶく、ぺっ。
 鏡を見据えて、あー&べー。

 舌のキラキラが消えてる……

 背後で息を呑む2人とまた目が合う。

 ぐいぃっと乗り出し鏡で舌をまじまじ見ても、何の変哲もないいつも通りの舌だった。

「居間に戻ろっか」

 私の呟きに、黙ったままクレールは手を差し出してきた。
 でも私はふるふると首を横に振って、2人の横をすり抜け、廊下を1人先に歩いていった。
 漫画であるならば『とぼとぼ』ってオノマトペを確実に背負って。

 ドスン。

 もう疲れた……

 ソファーに勢いよく奥まで座り、膝を抱えて丸くなった。
 また目を瞑る。

 あの時は、コーヒー飲みながら瞑想っていってもただ目を閉じて、いつも飲むコーヒーや理想の味を空想して……

 ふと、そのちょっと前に起きたワンシーン、クレールの姿が脳裏に浮かんだ。

 するように目を閉じて銀の枠に触れ、回路を光らせたあの光景。

 点と点が繋がり線になるような感覚が頭をかすめ、ガバッと跳ね起きて、ソアファーにちゃんと座り直す。
 
 冷め切ったコーヒーがまだ残ってるクレールのコーヒーカップ。

 2人が居間に帰ってくる気配で、ハッと顔を上げる。
 また目が合った。

 無言

 なるほどね。
 かける言葉も無いってか。
 この様子じゃ彼らも私同様、なにが起きてるのか皆目見当がつかないのだろう。

 しからば我究がきゅうあるのみ。

「さあ! 2人とも! 酒の前にコーヒーをとことん飲み尽くそうではないか! お付き合いあ~れ~」

 立ち上がってわざとらしく、それっぽく、おどけて2人に向かってお辞儀をした。

「その前に作戦会議ね。の、前に、ちょっとご不浄へ」

『すたすた』のオノマトペを背負って、私はトイレに向かって廊下を歩いていった。





















しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...