舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

文字の大きさ
上 下
22 / 133
ヌルッとスタート編

第22話 自動翻訳機能

しおりを挟む
「簡単に言うとね、虹の方様のもたらす言語の親和性だけど、確か『自動翻訳機能』って表現したおヌル様がいらしたかな。
この世界には無い物や概念を表す言葉、名前などの固有名詞、そういった言語は、そのおヌル様のお国言葉くにことばのまま発せられるんだ。
あとは意識的にその言語で言いたい表したいって本人が望んだ場合もね。これは例で言うなら蛍様の〈イケメン〉かな。僕とエタンにとっては異界の日本語の単語としてもう馴染んだよ」

 なるほどね~、外来語的な感じね。

「そんでコニーが〈ルセット〉って言ったのが最初気になって。あえてのフランス語だから。この世界では『調理表』とかおヌル様達が定着させた『レシピ』が定番の言い方で、フランス人のおヌル様でさえ調理表って自動翻訳されてたようだし。
つまりコニーにとって〈ルセット〉って言葉に特別な思いが込められてるんでしょう?」

「特別って言うか、うーん……多分私にとって固有名詞なんじゃないかな。
私の作るお菓子は全部師匠から習ったものだから。師匠も、周りの人達もみんなルセットって言うし。
あの赤いファイルには師匠の新作発表会のルセットが沢山詰まってるの。意識した事はなかったけど、あれは『師匠のルセット』と言う名前の調理表だと、私はとらえているんだと思う」

「そうだったんだね。僕の家族にはフランスのおヌル様の研究をしている人間が何人かいて、僕もそうなんだ。だからコニーの口からフランス語の単語を聞いた時、共通項があるみたいでとても嬉しくなってしまったんだよ。
食事準備の時にわざと『〈キュイエール〉お願い』って言ったら引き出しからスプーンを出してくれたし、その後も〈フルシェットゥ〉〈アスィエットゥ〉って言っても、順番にフォーク、小皿を出してくれたでしょ。
さっきもカフェティエール・ア・ピストンって正式名称、久しぶりに聞いたよ。普段はプレスって呼ばれてるから。
……別に試そうなんて気持ちはこれっぽっちもなかったんだよ……。信じて? あの……嫌な気持ちになった? ごめんね。」

「え? 全然? なんも思ってないからそんなそんな。
てゆうか、フランス語って言っても高校の選択授業で勉強した程度だし、フランス映画が好きでちょっと興味があったり、食べる周辺のことぐらいしか知らないよ。
えっと、逆にご期待に添えず、私のほうこそごめんなさいって先に謝っとくわぁ」

 お互いにわちゃわちゃと謝りつつ、にっこりし合った。

 あと追加で彼が教えてくれたのは、虹の方様による翻訳能力の精度のことだった。

 蛍様のヌルヌルがかかった場所は足腰だったせいか、親和性はそれ程高くなく、ただ、短いスカートを履いてたことから、素肌の脚の露出が多く、皮膚からの浸透? 侵入? (この部分の表現は研究者の間でも見解が分かれるんだってさ)がわりとあって、異界の言葉もゆっくりなら相手がなにを言ってるか、なんとなくは理解ができたそうだ。

 ただし自分で発するとなると難しく、カタコト喋るところから始まり、流暢りゅうちょうに喋れるまで1~2年を要したそうだ。
 文字に至ってはからきしで、ゼロからのスタートとのこと。

 ほええええ~! マジで真面目にヤバかった!!!

「あん時、私苦しくって死ぬかと思ったけど、語学習得が壊滅的超超苦手だから! 違う意味でこの世界で死ぬ思いで勉強しなきゃならない可能性があったってことか……。
今こうして言葉に何の苦労もせず過ごせるのは、私にとってホント不幸中の幸いだったかも」

 一発死の縁ギリギリ体験か、日々死にそうか。
 後遺症もなく終わった今なら言えるけど、断然一発派だな。

 同じ日本人の蛍様。
 しかも15歳の時って……。

 自分の15歳の頃を鑑《かんが》みる。
 言葉も不自由で一人ぼっちで見ず知らずの別世界に突然引き抜かれて、どんなにか心細かっただろう。

 ご家族は彼女が忽然と消えてどうされたんだろうか……父と母がもういない30間まぢかの私とはわけが違うよね……。

 私の1つ年上のママさん。
 いま妊婦さんてことは、旦那さんにもお子さんにも恵まれて、ずっともしくは現在は大切にされて、幸せにこの地で過ごしてるんだよね……。

 彼女の苦労と頑張りが報われてるようで、勝手な想像ながら少しホッとする。

 遠からず会えるといいなあ。
 私は同じ異界の人間おヌル様仲間だから、蛍さんとか蛍ちゃんとか気安く呼んでもいいのかな?

「あ、ねえ。この世界の字が読めるか書けるかどうか、私試したいな。もしできれば、なんかノートと書くものを貸していただけると……。
この世界での色々を書き留めたり、あと『こんなの存在するかな?』的なものを思いついた時、絵で書いた方が説明が早かったりする場合もあるかな~なんて」

「うん、分かった。じゃあ2階で未使用のノート探してくるから。ちょっと待ててね」

「ならその間に俺はお代わりをもう一杯づつ入れようかな」

「ねえ! それなら今度は私がチャレンジしたい。エタンさん。私にやらせて」

「ん? そうか。もしかしてちょっと淹れ方が違うのか?」

「うん。少しね。ケーキ作りと違って自己流だったけど、一応プロの端くれ、どんだけ差が出るか試してみよう」

「マジか。面白そうだな。ぜひやってみてくれ」

 おう! まかしとき! なんて笑って2人で立ち上がった


--------------------


こんなにも沢山の方々が見続けて下さってるのかと思うと、いつも胸が熱くなります。心から感謝を捧げます。本当にありがとうございます。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

処理中です...