舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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ヌルッとスタート編

第21話 食後の一服

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 ヤカンに水を入れ火にかけてる間に、エタンさんとクレールさんが準備をするにあたって、なにやかやと話をしている。

「なあ、今日は3人だから、魔道具ミル使っていいだろ?」

 どうやら普段は手動式のミルでのんびりと、お湯が沸く間にカリカリくるくるくらしい。
 2人前分のコーヒー豆しか入らないそうだ。
 魔道具を使うときは、時短のためにあらかじめまとめて挽いておく時や、3人以上の時だけ使うらしい。

 下の戸棚を開けると、キッチンで使う家電系の道具類っぽいものが、いろいろしまわれていた。
 ここもどんな物があるのか、あとでじっくり見せてもらおうっと。

「そういえばエスプレッソか普通のドリップコーヒーか、どっちがいいか聞いてなかったな。コニーどうする?」

「へ~。両方淹れれるんだね。うーん、今は元気だけど寝込んでて起きたばっかりだから、普通のドリップで!」

「了解。豆は俺の好みのやつで、ミルクないほうが旨いやつなんだがそれでいいか?」

「私も基本的にはミルク入れない派だから。おススメ楽しみ」

 今度は上の棚から取り出したのは、コーヒーサーバーとドリッパー、そしてコーヒーフィルターは麻っぽいものが三角に縫われたものだった。
 麻袋的なのじゃなくて、洋服や布巾ふきんに使うようなフレンチリネンみたいなタイプ。

「布洗って干すのがめんどくさい時とか時間ない朝とかはこれで淹れてる」
エタンさんが棚の中を指差す。

どれどれ? 何々?
「カフェティエールアピストンか。私これで淹れたの飲んだことないや」

 日本だと喫茶店とかで紅茶頼むと出てくることがあるガラスの筒形のやつで、抽出時間が過ぎたら上からピストン部分を下に押し込み、下から茶葉が出ないようにして注ぐあれだ。
 元々コーヒー用だけどなぜか日本は紅茶の道具ってイメージだよね。

 フランス人ってエスプレッソばっかりで、いまはこれほとんど使われて無いけど、歴史的背景からフレンチプレスと呼ばれてる。

「コーヒーも好きだけど、僕は自分で入れるなら紅茶が多いかな。それかこっち」
直火じかび式エスプレッソメーカーを指差すクレールさん。

「3種の器具とも見た感じ地球とほぼ変わらないね」
これもおヌル様達が一枚んでる案件かな?

 ガーっと3杯分の豆を機械挽きしていく。
 電動ミル(魔道具ミル)コンセントいらないんだ? ふーん。

「出しっぱなしでいいか?」

「そうだねそうしよう。このまま続くといいなぁ」
 チラッとクレールさんが私のほうを見た。

 掃除が意外と大変なのよね。
 1回でしまうのは勿体ないというか、毎日使うなら1週間ごとの掃除で十分だし、そん時は私がやるよ!

 麻フィルターにコーヒーをあけ、ヤカンからお湯を注いでいく。
 おっと、細口のコーヒーポットはないんかい?
 面倒臭いのかな? どっちだろう。

 エタンさんがさっきクラッカーを出してきた棚を、今度はクレールさんがガサゴソしてお皿に何か載せた。
 ビスコッティみたいな感じ。
 瓶からは胡桃くるみを少し。

「エタン食い過ぎ! クッキーとかもう無いし! あとチョコが少しだけ」
そう言って瓶をそのまま机に置いた。

 中身は焦茶色と、もう少し明るい茶色の2種の丸い物。
 きっとチョコレートだ、やった!

 ソファーにコーヒーとそれらを持って移動する。

「いただきます」

「「いただきます」」

 おお、2人とも『いただきます』に早速付き合ってくれた。

 みんなで熱々のコーヒーをすすって思わず、ふ~って、やっぱり3人とも自然にでちゃた。

 そしてみんなお菓子に手を伸ばす。

「ふふふ、気が合うね。2人とも甘い物は好きなの?」

 クレールさんはビスコッティみたいなのをコーヒーにひたして、エタンさんはガリガリそのままかじり付き、私もガジガジしながら話し出した。

「おう。俺は甘い物はなんでも大好きだ。クレールはそうだなあ……。美味い甘いものしかあんま食わねえ」

「うん、そうだね。頂いた物ならいざ知らず、自腹切って買った物が不味いと腹たつなぁ。自分で言うのもなんだけど、僕わりと穏やかほうなんだけどさ、これにはちょっとイラッとしちゃうね。
そういうイマイチなのはエタンにあげると消費してくれるから、無理して食べなくて済むんだけど、僕の大事に取っておいた気に入ってるお菓子もたまに勝手に食べたりすんだよ。めちゃくちゃ腹たつ。」

「日本には『食い物の恨みは恐ろしい』って言葉があるくらいだよ。もしも私の分やったら、エタンさん。『メッ!』ってゴチンしちゃうから。」

「なにそれ……可愛いんですけど……ちょっとやってみて欲しい……」
クレールさんが両手で顔を隠しながら小声で呟いた。

 ど、どエム???
 不思議な人だ。
 聞かなかったことにしよう

「えっと、あのね、甘いもののこと聞いたのはね、実は私の仕事がケーキ屋だからなんだ~」

 そこを皮切りに、今28歳で、3年前25歳の時に立ち上げた工場改造ケーキ店の話をし始めた。

 作ってるお菓子はフランス菓子で、ショーケースを持たずに冷蔵庫や冷凍庫にカットしてしまってあり、写真や実物をお客さんに見せて選んでもらうこと。

 全て1人でなにもかもやっていて、仕入、製造、お持ち帰り販売、工場内のカフェスペースでの給仕、後片付け、多岐《たき》に職務が渡ること。

 夏はおもち帰りのお客さんが少し減るので、ちょっとした食事やトゥレトゥール(フランスのお惣菜屋さんで扱うもの)なんかを週末限定でカフェご飯と称してやったりすること。

 そんなことを彼らからの質問を受けつつ説明した。

 1番の食いつきは年齢。

「28!? マジか! 俺らの1こしたじゃん。見えね~!」

「僕らと話をする時の言葉や態度がね、気軽に見えるけど丁寧というか、社会通念のしっかりした受け答えしてるから、小さな子じゃ絶対にないなとは思ってたけど。
会社の近くのパン屋なんて言ってたし、もしかして10代じゃなくて20代になったぐらいなのかな? って。想像を遥かに超える……。
日本人のおヌル様、蛍様がいらした時は15歳で僕らと同い年だから、今は29歳なんだけど、正直当時の彼女と同じぐらいに見えたよ」

 それはちょっと言い過ぎなのでは?
でもさ~そんな事言われたらなんだか嬉しくなっちゃう~、のはオバチャンの証なんだろうなあ……と1人心の中でツッコむ。

「もうさ、正直若過ぎないから、そう言っていただけるとちょっと嬉しいデス。
日本人とか、その周辺国の人種って、若く見えると世界でも言われてるんだけどね。その中においても、私なぜかいろんな人たちから年齢不詳って揶揄からかわれるんだよねー」

 クレールとエタンをチラッと見ると、私の長話に飽きることなく付き合ってくれているのを確認して、そのまま話を続ける。

「一昨年友人と2人でフランス旅行に行ってさ。レストランで飲み物込みのランチを頼んだら、友人には赤ワインと白ワインどっちがよいか聞いてたのに、私には勝手に葡萄ジュースが出てきてさ。
お店のおじちゃんがフランス語で、似てないから姉妹じゃないのか聞かれて、違うって言ったら、友人には仕事なにやってるの? って。そんで私にはお父さんの仕事は何だい? って。
私そこまでちゃんとフランス語上手く喋れないから、まいっかって訂正せずで。そんなんあったな~」

「僕もレストランのおじさんの気持ちなんだか分かるよ。コニーは見た目も雰囲気も可愛らしいから」

「だな。指でぷらーんって摘んで可愛がりたくなる系だ」

「ん? 可愛らしいなんて嬉しいことを、と思わせてエタンさんの話のオチが……。でもまあとにかく光栄です、ありがと」

「コニーはフランス菓子を作ってるからフランス語を勉強したの?
 実は何回か、わざとコニーにフランス語の名詞で話しかけたんだよ? 気づいてた?」

「何のこと? 全然?」










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