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ヌルッとスタート編
第9話 今更ながらの自己紹介
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「……。……ル様」
「お風呂が沸いてるぜ。そろそろ起きて入るか?
おおぅわかったよ、睨《にら》むなよクレール。ちゃんと丁寧に喋っから」
「んん。お風呂が沸いております。お風呂に入って温まれてはいかがでしょうか?」
う…うう~?
うん、入る……その前のおしっこ……
「はははい! ご案内します!」
ほえ?
男の大きな声に、ここどこだ?
からのぉ、自分の状況つまり非現実な現実に引き戻され、一気に目が覚めた。
真っ赤な顔のミスター杏と、片手で目元を覆って髪の生え際をぽりぽりと掻いてるミスター髭。
もしやさっきのって……
まさか全て声に出てた?
あわわわ恥ずかしい!!
「ごめんなさい。私寝ぼけていて……」
あ。
私いつの間にか背中で眠っちゃって、そんで横に寝かせてくれたんだ。
起き上がると、掛けてくれていたバスタオルと纏ったままの救護背負子が肩からぱらりと落ちた。
ソファーで寝てたのか。
「急いで先にトイレのほうへご案内を」
「あ。別に漏れそうって訳じゃないので、急がなくても……」
しまった。
余計な事言っちゃった。
「おしっこ」とか「漏れる」とかレディーは口にしないよね、おほほほ。
案の定気まずさ増し増しだ。
誤魔化すように話題を逸らす。
「この部屋はとても開放感があって居心地良いですね。どういった場所なんですか?」
顔の赤みのひいた杏色の髪の男が口を開く。
「ありがとうございます。ここは私の自宅です。元々は祖父の建てた別荘のようなものでして。
祖父は建築にあたり、万が一、滞在中におヌル様が出現した際は自分が真っ先に駆けつけたいと考えて、湖側壁面と天井をクリア素材にし、吹き抜けに設計したそうです」
ん? おヌル様?
もしや聞き慣れぬ変な名称って……
「こうして孫の私がおヌル様出現の際に、真っ先に駆けつけられたことを、祖父も草葉の陰から羨ましく思っていることでしょう」
うへぇ! やっぱりぃぃ!!
会った時から何度も、そのヘンテコな名称口にしてるけど、聞き間違いかと思ってた。
そんな訳あるかいなと耳が受け付けなかったともいうが。
「あの……。私のことをもしかしておヌル様って呼んでます? えっと、いったいなんなんですかねその呼び名って……」
「ええ、もちろんそうお呼びしています」
と、にこやかに詳しく由来まで教えてくれた。
つまり……。
私をこの世界に連れ込んだ謎の生物が『虹の方様』。
連れてこられた私のほう、地球の人間が『おヌル様』。
なんじゃそりゃ!?
おヌル様って……アンタら……
とてつもなくセンスないな!!
そこはかとなく卑猥《ひわい》さを感じるのは私だけ!?
くぅぅ汚れちまった悲しみに、曇りあり眼《まなこ》の28歳女子だよぅ。
「はぁ~そうですか……。
うーん、私はちょっとその名で呼ばれるのは好みじゃないというか、むしろご遠慮願いたいというか……。
名前で! 普通に名前で呼んでください。ていうか私まだ自己紹介もしておりませんでしたね!」
「そういやそうだったな。痛っ。そうでしたね。
私はエタンセル・ドゥボワと申します。エタンと呼ばれる事が多いのでそのようにお呼び下さい」
ふふ、エタンさん、丁寧語じゃなく私に話しかけると相方に注意されてるし。
別に全然いいんだけどね。
「私も改めてもう一度。クレール・アルコンスィエルと申します」
「エタンさんもクレールさんも煌めいたお名前でぴったりですね。どうぞよろしくお願いします。
私の名前は〈小西 紫〉です」
「ん?」
「え?」
そっか。日本語名は聞き取りも発音も難しいかな?
じゃあいつものあだ名なら外国チックだから言いやすいかもね。
「あー、コニーって呼んで下さい。
それと、私には丁寧語とか敬語とか別にいいですよ。普通にお友達みたく接してもらえたら嬉しいです」
「お、そっか。救出時はめちゃくちゃ気ぃ貼ってたから敬語は完璧だったが、家だとついうっかりなぁ。気安く喋っちまうから、助かったぜ。
コニーも俺たちへは普通に話しかけてくれ」
「言葉遣いもコニーがそう言うなら、これからは丁寧語じゃなくて気軽な感じで話しかけるよ。
それにおヌル様って名称……。好きじゃないんだね、分かった。何度も呼びかけてごめん。今後は言わないように気をつけるから。
お互い話は山のようにあるけど、まずは早くお風呂に入って温まらないと。
濡れた服や頭でいるのは気持ち悪いだろうし。風邪引いたら大変だからね」
そう言ってトイレや風呂場へとクレールさんが案内してくれるために席を立ったので、私も急いで立ち上がり二人に向け、
「この度は助けに来てくれて本当にありがとうございました。ここでお二人に出会えたのは不幸中の幸いです。優しくしてくれて嬉しかったです。ありがとうございます!」
深々と頭を下げて、ちゃんと感謝とお礼を伝える。
お店を始めて以来、相手にとって言われて悪いことじゃない言葉は敢えて口に出して、湧き上がった心の中の好意を、するりと表現するようにしてるんだ。
お礼は勿論のこと、気軽なことも。
例えば「そのお財布可愛いですね」とか。
今回はめちゃくちゃ大事なことだからね、しっかりと伝えなくちゃ!!
【予告 第10話 トイレとお風呂場ご案内】
「お風呂が沸いてるぜ。そろそろ起きて入るか?
おおぅわかったよ、睨《にら》むなよクレール。ちゃんと丁寧に喋っから」
「んん。お風呂が沸いております。お風呂に入って温まれてはいかがでしょうか?」
う…うう~?
うん、入る……その前のおしっこ……
「はははい! ご案内します!」
ほえ?
男の大きな声に、ここどこだ?
からのぉ、自分の状況つまり非現実な現実に引き戻され、一気に目が覚めた。
真っ赤な顔のミスター杏と、片手で目元を覆って髪の生え際をぽりぽりと掻いてるミスター髭。
もしやさっきのって……
まさか全て声に出てた?
あわわわ恥ずかしい!!
「ごめんなさい。私寝ぼけていて……」
あ。
私いつの間にか背中で眠っちゃって、そんで横に寝かせてくれたんだ。
起き上がると、掛けてくれていたバスタオルと纏ったままの救護背負子が肩からぱらりと落ちた。
ソファーで寝てたのか。
「急いで先にトイレのほうへご案内を」
「あ。別に漏れそうって訳じゃないので、急がなくても……」
しまった。
余計な事言っちゃった。
「おしっこ」とか「漏れる」とかレディーは口にしないよね、おほほほ。
案の定気まずさ増し増しだ。
誤魔化すように話題を逸らす。
「この部屋はとても開放感があって居心地良いですね。どういった場所なんですか?」
顔の赤みのひいた杏色の髪の男が口を開く。
「ありがとうございます。ここは私の自宅です。元々は祖父の建てた別荘のようなものでして。
祖父は建築にあたり、万が一、滞在中におヌル様が出現した際は自分が真っ先に駆けつけたいと考えて、湖側壁面と天井をクリア素材にし、吹き抜けに設計したそうです」
ん? おヌル様?
もしや聞き慣れぬ変な名称って……
「こうして孫の私がおヌル様出現の際に、真っ先に駆けつけられたことを、祖父も草葉の陰から羨ましく思っていることでしょう」
うへぇ! やっぱりぃぃ!!
会った時から何度も、そのヘンテコな名称口にしてるけど、聞き間違いかと思ってた。
そんな訳あるかいなと耳が受け付けなかったともいうが。
「あの……。私のことをもしかしておヌル様って呼んでます? えっと、いったいなんなんですかねその呼び名って……」
「ええ、もちろんそうお呼びしています」
と、にこやかに詳しく由来まで教えてくれた。
つまり……。
私をこの世界に連れ込んだ謎の生物が『虹の方様』。
連れてこられた私のほう、地球の人間が『おヌル様』。
なんじゃそりゃ!?
おヌル様って……アンタら……
とてつもなくセンスないな!!
そこはかとなく卑猥《ひわい》さを感じるのは私だけ!?
くぅぅ汚れちまった悲しみに、曇りあり眼《まなこ》の28歳女子だよぅ。
「はぁ~そうですか……。
うーん、私はちょっとその名で呼ばれるのは好みじゃないというか、むしろご遠慮願いたいというか……。
名前で! 普通に名前で呼んでください。ていうか私まだ自己紹介もしておりませんでしたね!」
「そういやそうだったな。痛っ。そうでしたね。
私はエタンセル・ドゥボワと申します。エタンと呼ばれる事が多いのでそのようにお呼び下さい」
ふふ、エタンさん、丁寧語じゃなく私に話しかけると相方に注意されてるし。
別に全然いいんだけどね。
「私も改めてもう一度。クレール・アルコンスィエルと申します」
「エタンさんもクレールさんも煌めいたお名前でぴったりですね。どうぞよろしくお願いします。
私の名前は〈小西 紫〉です」
「ん?」
「え?」
そっか。日本語名は聞き取りも発音も難しいかな?
じゃあいつものあだ名なら外国チックだから言いやすいかもね。
「あー、コニーって呼んで下さい。
それと、私には丁寧語とか敬語とか別にいいですよ。普通にお友達みたく接してもらえたら嬉しいです」
「お、そっか。救出時はめちゃくちゃ気ぃ貼ってたから敬語は完璧だったが、家だとついうっかりなぁ。気安く喋っちまうから、助かったぜ。
コニーも俺たちへは普通に話しかけてくれ」
「言葉遣いもコニーがそう言うなら、これからは丁寧語じゃなくて気軽な感じで話しかけるよ。
それにおヌル様って名称……。好きじゃないんだね、分かった。何度も呼びかけてごめん。今後は言わないように気をつけるから。
お互い話は山のようにあるけど、まずは早くお風呂に入って温まらないと。
濡れた服や頭でいるのは気持ち悪いだろうし。風邪引いたら大変だからね」
そう言ってトイレや風呂場へとクレールさんが案内してくれるために席を立ったので、私も急いで立ち上がり二人に向け、
「この度は助けに来てくれて本当にありがとうございました。ここでお二人に出会えたのは不幸中の幸いです。優しくしてくれて嬉しかったです。ありがとうございます!」
深々と頭を下げて、ちゃんと感謝とお礼を伝える。
お店を始めて以来、相手にとって言われて悪いことじゃない言葉は敢えて口に出して、湧き上がった心の中の好意を、するりと表現するようにしてるんだ。
お礼は勿論のこと、気軽なことも。
例えば「そのお財布可愛いですね」とか。
今回はめちゃくちゃ大事なことだからね、しっかりと伝えなくちゃ!!
【予告 第10話 トイレとお風呂場ご案内】
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