追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ

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【第五章】恭司の過去

【第十一話】王族狩り:序章 ⑤

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「我が国の現状を考えれば、この2国がいつ攻めてきてもおかしくない。厄介な話だ。少しでも早く、犯人を捕まえないとな」


シェルはそう言って椅子から立ち上がると、タバコを消して軽く体を伸ばした。

時間は14時ちょうど。

実は、これから各軍隊長たちを交えた会議があるのだ。

しかもシェル発信で、隊長クラスは文武共に全員集めた。

朝からの周知の事実であろうと、さすがにそんな会議の場でこんなにあからさまな怒りの感情を露わにするわけにもいかない。

冷静を心掛け、シェルは一つ深呼吸をすると、完全に落ち着いた様子で自室を出た。


「もうよろしいのですかな?」


先ほどの老人が尋ねかけてくる。

シェルは溌剌と頷くと、そのまま会議室に向かった。

扉の前で警備に当たっていた兵士たちも、まるで何事もなかったかのようにその後ろへついていく。

今日の会議の議題はズバリ『王族狩りへの対抗策』だ。

これまでに何度も挙がった議題だが、未だに解決していない上に被害も現在進行形で差し迫っているのだから、当然放置するわけにもいかない。

何としてでも、ここで決着を付け、次の被害を食い止めなければならない。

シェルは会議室の前に立つと、少しの躊躇も無しに会議室のドアを開けた。


「起立!!」


シェルがドアを開けた瞬間、号令と共に会議参加者が一斉に立ち上がった。

各隊長クラスも全員直立姿勢で畏まっており、欠席者は誰も見当たらない。

それだけ、シェルの発信したこの会議が重要だということでもある。


「シェル様、こちらへ」


シェルが彼らの様子を一瞥して前に進むと、側仕えの老人が、すぐさまシェルをホスト席へ促した。

シェルは鷹揚に頷き、淀みない動きで席に向けて歩いていく。

その道中、直立している隊長たちへ目を向けると、全員緊張した面持ちだった。

シェル、いや王である『バルキー・ローズ』が『王族狩り』への討伐を命じてから1年。

捕まえられなかったのは彼らの責任でもあるのだ。

元々は彼らの前任の王族に命じていたもので、彼らはその後釜に付いただけなのだが、彼らもその時に無関係だったわけではなく、ここにいる全員が王族狩りをこれまで捕らえられていない責を負っている。

その中で1年という区切りを迎えた今、シェルから発信された会議で緊張しないはずもなかった。

隊長クラス全員が呼ばれた時点で分かっている。

被害総数を考えても、これはもう賊の討伐などというものから逸脱した事態だ。

1年経過して、国としても軽視出来ない被害を被っている今、これは既に『犯罪者を捕まえる』なんて生易しい事態とは言えない。

そう、これは、

ミッドカオスという国の存亡をかけた、

賊対国の、『戦争』なのだ。
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