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【第八章】協定

【第十八話】協定⑤

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「流石です、三谷様。貴方様ならそう仰っていただけると分かっておりました」

「…………」


ククルの言葉に、流石の恭司も眉をピクリと動かす。

ここまで腹立たしい展開は初めてだ。

今すぐにでも殺してしまいたいくらいイライラする。

だが、

相手がこれだけ未知数な上に”味方まで裏切っている可能性がある“とすれば、軽はずみな発言は当然できなかった。

恭司はチラリとアベルトの顔を覗き見る。

アベルトは、まるで何か深刻な問題に悩むように真剣な顔をしていた。


(顔は本当に深刻そうにしているな。武芸よりもそっちの方が芸達者なんじゃないか?)


内心で皮肉を漏らしつつ、恭司はアベルトの表情に目を向ける。

最早どれが本当でどれが嘘か分からない状況だ。

そもそもの話でいうと、これだけ立場の差が明確な恭司にアベルトが嘘をついてくる理由が分からないのだ。

ハッキリ言って茶番とすら言える。

こういう状況における嘘とは騙しーーつまりは駆け引きだ。

駆け引きなんてものは立場が対等……あるいは下位の者がやってくるのが通常で、何でも命令できる立場の人間が部下に対してやってくるようなことじゃない。

要はやってほしいことがあるならそのまま言えばいいし、何か不都合があるならそれを取り除けばいいのだ。

ストレートに何でも『命令』できる立場の人間が何故こんな無駄なやり取りを必要とするのかーー。

恭司には分からなかった。


(だが、アベルトさんが俺に何か嘘、あるいは隠し事をしていることは確実ーー)


恭司は内心で確信する。

今回のアベルトの動きは本当に違和感だらけだった。

指示してくる内容は勿論のこと、全体的にあまりにも不審な点が多すぎる。

まず、今回のククルとの一件に対する学校への根回しの良さだ。

通常、今回のような対応をしようと思えば、先生や生徒が近寄らないようにすることは勿論、授業の調整やタイミングなど、かなりの手間と時間がかかる。

にもかかわらず、

そんな代物を、アベルトはあの土壇場で出してきたのだ。

ククルの居場所を把握していることは当然のこと、恭司がどれくらいの時間に来るかまで予想していないと、今回のような対応は決して出来ない。

事前にククルと繋がっていたことは明白ーー。

それに、

今さら盗聴機が家の中で見つかったこともやはりおかしい。

ユウカが前々からクレイアに度々勧誘を受けていたことは聞いていたし、今はそれに加えて三谷恭司というトップシークレットな存在もいるのだ。

普通に考えて、家の中に何もセキュリティを施していなかったということに強い違和感を感じる。

それも、

当のアベルトは森の中のセキュリティを察知して、ここから現場に来たというのに、だ。

難しい外の防衛システムをここまでしっかり構築できる人間が、家の中だけおざなりにしていたなど考えられない。

さらには、

盗聴機が本当なら、ククルは最初から恭司が三谷恭司だと分かっていたはずなのだ。

そうなると、今回驚いていたことも全て演技だったということになる。

クレイア内でククルには秘密にされていたということも考えられるが、アレを演技だとは恭司には思えなかった。

そして、

ここにきてアベルトの謎の駆け引きだ。

ここまでくると、例え理由は分からずとも普通に起きたことでないことくらいは恭司にも分かる。

仮にーーそれが覆される状況があるとすれば……
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