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【第七章】本性
【第十六話】緊急会議⑥
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ユウカは言葉をつぐんだ。
失敗だ。
つい余計なことを言ってしまった。
恭司は訳が分からなさそうな顔をしながら、ユウカの目を見つめてくる。
しかし、
返す言葉が思い付かずに、ユウカはただ目を逸らした。
(恭司と私では、住んでる世界があまりにも違いすぎるんだ)
恭司は人を当たり前のように殺す。
何も感じず、何も悩まず、至極当然のように、人を殺して何も感じない。
ユウカはさっきの戦いの中でハッキリと感じていた。
自分と恭司の感じている世界の違いを。
見えている景色の差を。
(埋められる訳ない。恭司は、あまりに特殊すぎるんだ)
幼い頃から天才で、幼い頃から人を殺し続けてきた恭司。
まだ10歳にも満たぬ内から戦場に立ち、何千何万と屍を築き上げてきた三谷の最高傑作。
恭司が今までに殺してきた人間の数は数万程度ではきかないだろう。
何百何千万と殺してきている。
それは、人殺しを割り切る戦人の覚悟でもなければ、人殺しに快楽を求める戦闘狂のソレでもない。
“日常” なのだ。
ユウカが食事をするのと同じような感覚で、恭司はルーチンワークのように人を殺してきている。
だから何も悩まないし、興奮したりもしない。
悲しみなど以ての外だ。
こればかりは何を言っても改善は難しいだろう。
今さらこの時代の人間と同じ価値観になれと言っても不可能に違いない。
例え記憶喪失だろうが、記憶を失っても食事の仕方は忘れないのと一緒で、体に芯まで染み込んだ習慣はなかなか拭い取れないものだ。
逆に変に抑圧してしまえば、それこそ大惨事が起きかねない。
恭司はこの時代では本当の殺人鬼で、この時代の常識の範疇にはどうあがいても収まらないのだ。
そして、
ユウカはそんな恭司に『恐怖』の感情を抱いてしまった。
表面ではどう繕えても、内面にこびり付いた感情は簡単には引き剥がせない。
恭司への『信頼』と恭司への『恐怖』。
相反する2つの感情に、ユウカはまだ、答えが出せていなかった。
「……まぁ、ククルさんの件はとりあえず君に任せたよ。やり方も特に指示はしない。君のやり方でやってくれ」
ユウカが黙っていた所に、アベルトが救いの手を差し伸べた。
恭司としては納得のいかない展開だったが、ユウカとは後でいくらでも話す時間がある。
今この場で押し切る必要はない。
恭司は素直に頷くことにした。
「……ありがとうございます」
どちらも特に想いのない軽々しいやり取り。
アベルトは肩をすくめる。
お互い偽物の会話をしたついでに、本物も話すことにした。
「そういえば、君の話の中にあった『大会』の参加可否についても、参加するよう改めて指示することにしようか。イベントの仕込みも確かにあるしね。ただし、参加するからには最低でも優勝は “絶対に” するように」
アベルトは何でもないことのようにそう言った。
単なる流れの問題かもしれないが、嫌に軽く聞こえる。
今日初めて学校に行き、初めて知った『大会』について、アベルトの答えは結局「参加」だったわけだが、
何故こんな大事なことを最初から言っていなかったのかについては謎のままだった。
『イベント』に仕込みを打っている時点で意識はあったのだろうが、こんなことは最初から言っておくべき事案だろう。
そうすれば、朝のユウカとのすれ違いも起きなかったし、順位についても慌てることはなかった。
些細と言えば些細な問題で、単にアベルトにとって優先順位が低かっただけなのかもしれないが、胸の奥に溜まった違和感はどうしたって消えない。
しかし……
「……かしこまりました」
恭司はただ素直に頭を下げた。
こんなことは今に始まったことではない。
アベルトに限ってはよくあることだ。
意見を通すためには結果が必要で、今言っても通らないことは目に見えている。
今はまだ、黙っていることにした。
失敗だ。
つい余計なことを言ってしまった。
恭司は訳が分からなさそうな顔をしながら、ユウカの目を見つめてくる。
しかし、
返す言葉が思い付かずに、ユウカはただ目を逸らした。
(恭司と私では、住んでる世界があまりにも違いすぎるんだ)
恭司は人を当たり前のように殺す。
何も感じず、何も悩まず、至極当然のように、人を殺して何も感じない。
ユウカはさっきの戦いの中でハッキリと感じていた。
自分と恭司の感じている世界の違いを。
見えている景色の差を。
(埋められる訳ない。恭司は、あまりに特殊すぎるんだ)
幼い頃から天才で、幼い頃から人を殺し続けてきた恭司。
まだ10歳にも満たぬ内から戦場に立ち、何千何万と屍を築き上げてきた三谷の最高傑作。
恭司が今までに殺してきた人間の数は数万程度ではきかないだろう。
何百何千万と殺してきている。
それは、人殺しを割り切る戦人の覚悟でもなければ、人殺しに快楽を求める戦闘狂のソレでもない。
“日常” なのだ。
ユウカが食事をするのと同じような感覚で、恭司はルーチンワークのように人を殺してきている。
だから何も悩まないし、興奮したりもしない。
悲しみなど以ての外だ。
こればかりは何を言っても改善は難しいだろう。
今さらこの時代の人間と同じ価値観になれと言っても不可能に違いない。
例え記憶喪失だろうが、記憶を失っても食事の仕方は忘れないのと一緒で、体に芯まで染み込んだ習慣はなかなか拭い取れないものだ。
逆に変に抑圧してしまえば、それこそ大惨事が起きかねない。
恭司はこの時代では本当の殺人鬼で、この時代の常識の範疇にはどうあがいても収まらないのだ。
そして、
ユウカはそんな恭司に『恐怖』の感情を抱いてしまった。
表面ではどう繕えても、内面にこびり付いた感情は簡単には引き剥がせない。
恭司への『信頼』と恭司への『恐怖』。
相反する2つの感情に、ユウカはまだ、答えが出せていなかった。
「……まぁ、ククルさんの件はとりあえず君に任せたよ。やり方も特に指示はしない。君のやり方でやってくれ」
ユウカが黙っていた所に、アベルトが救いの手を差し伸べた。
恭司としては納得のいかない展開だったが、ユウカとは後でいくらでも話す時間がある。
今この場で押し切る必要はない。
恭司は素直に頷くことにした。
「……ありがとうございます」
どちらも特に想いのない軽々しいやり取り。
アベルトは肩をすくめる。
お互い偽物の会話をしたついでに、本物も話すことにした。
「そういえば、君の話の中にあった『大会』の参加可否についても、参加するよう改めて指示することにしようか。イベントの仕込みも確かにあるしね。ただし、参加するからには最低でも優勝は “絶対に” するように」
アベルトは何でもないことのようにそう言った。
単なる流れの問題かもしれないが、嫌に軽く聞こえる。
今日初めて学校に行き、初めて知った『大会』について、アベルトの答えは結局「参加」だったわけだが、
何故こんな大事なことを最初から言っていなかったのかについては謎のままだった。
『イベント』に仕込みを打っている時点で意識はあったのだろうが、こんなことは最初から言っておくべき事案だろう。
そうすれば、朝のユウカとのすれ違いも起きなかったし、順位についても慌てることはなかった。
些細と言えば些細な問題で、単にアベルトにとって優先順位が低かっただけなのかもしれないが、胸の奥に溜まった違和感はどうしたって消えない。
しかし……
「……かしこまりました」
恭司はただ素直に頭を下げた。
こんなことは今に始まったことではない。
アベルトに限ってはよくあることだ。
意見を通すためには結果が必要で、今言っても通らないことは目に見えている。
今はまだ、黙っていることにした。
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