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【第七章】本性
【第十六話】緊急会議③
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「では、私はさっさと死体を片付けて、そのまま仕事に戻ることにするよ。まだまだやらなければならないことがたらふく残っていてね。申し訳ない」
アベルトはそう言うと、ガタンと音を鳴らして立ち上がった。
相変わらず多忙なようだ。
しかし、
恭司は呼び止める。
「待ってください」
「ん?何かな?」
いつものよくある光景だった。
急ぐアベルトに、質問を投げかける恭司。
だが、
今日はいつもと雰囲気が違った。
「貴方からの指示、やはり俺が直接もらうわけにはいきませんか?」
前に話した内容の繰り返しだった。
アベルトは再びため息を吐く。
「……その話は、前にもしただろう。出来ない。以上だ」
「何故、そこまで頑なになられるのですか?まだ、私は信頼していただけませんか?」
「あぁ、信頼出来ないな。なんせ、既に終わった案件について、既に返答を返した質問をぶつけてくるんだ。その質問は既に君からされていて、私はその返答をその時返したはずだが、まさか覚えていないのかね?」
「いえ、覚えています。貴方は言いました。『私は、ユウカのことを娘としてとても愛している。そしてコレは……私からの親心なんだよ』と……」
「…………」
「ユウカの前で言うべきではないのかもしれませんが……あの時、貴方はユウカについての愛を惜しみなく語ってくれました。その上で、私がどう必要なのかを……」
「…………」
「あの時の言葉は勿論この胸に残っています。しかし……」
「本当に胸に残っているなら……こんな話をユウカの前ではしないはずだが?」
「ッ!!」
アベルトの目は冷たかった。
内容は勿論、状況も含めて、この話をここで恭司からされるとは思っていなかったのだろう。
それは、今までの恭司を見る目とは明らかに違っていた。
「失望したよ。君はもう少し人の心の分かる人間だと思っていた。所詮は殺人鬼か。私が何故あの話を君と2人の時にしたのか、まるで理解していなかったようだね」
アベルトは容赦なく恭司を追い詰めていく。
気恥ずかしさとは別に、恭司の人間性を疑う空気がそこにはあった。
しかし、
恭司は静かに首を横に振る。
「理由なら、理解しています。今日は、それを踏まえた上で話をさせていただいております」
アベルトの眉がピクリと動いた。
さっきまでとは明らかに違う、武芸者としての威圧感と迫力を身に纏いながら、恭司の目を間近で見つめる。
「……私をクレイアの手先如きと一緒にするなよ?喰斬りしか思い出していないお前如き、一瞬で塵に変えられるんだぞ」
それは明らかな脅しだった。
舐められていると思ったのか、アベルトの言葉は棘が剥き出しになり、声も空気も重く、威圧的になっている。
だが、
恭司は再び首を横に振る。
「私が申し上げたいのは、貴方の心配など物ともしないくらい、私はユウカと仲良くなっているということですよ。別に男女の仲ではありませんが、私はユウカを裏切らないし、ユウカも私を裏切るとは思っていません。それくらいの信頼関係なら、既に作り終わっているということです」
アベルトの表情が、少し和らいだ気がした。
恭司の言いたいことが分かり、自分の感じていることが杞憂だと気づいたためだろう。
アベルトはフッと微笑むと、ユウカに問いかけた。
アベルトはそう言うと、ガタンと音を鳴らして立ち上がった。
相変わらず多忙なようだ。
しかし、
恭司は呼び止める。
「待ってください」
「ん?何かな?」
いつものよくある光景だった。
急ぐアベルトに、質問を投げかける恭司。
だが、
今日はいつもと雰囲気が違った。
「貴方からの指示、やはり俺が直接もらうわけにはいきませんか?」
前に話した内容の繰り返しだった。
アベルトは再びため息を吐く。
「……その話は、前にもしただろう。出来ない。以上だ」
「何故、そこまで頑なになられるのですか?まだ、私は信頼していただけませんか?」
「あぁ、信頼出来ないな。なんせ、既に終わった案件について、既に返答を返した質問をぶつけてくるんだ。その質問は既に君からされていて、私はその返答をその時返したはずだが、まさか覚えていないのかね?」
「いえ、覚えています。貴方は言いました。『私は、ユウカのことを娘としてとても愛している。そしてコレは……私からの親心なんだよ』と……」
「…………」
「ユウカの前で言うべきではないのかもしれませんが……あの時、貴方はユウカについての愛を惜しみなく語ってくれました。その上で、私がどう必要なのかを……」
「…………」
「あの時の言葉は勿論この胸に残っています。しかし……」
「本当に胸に残っているなら……こんな話をユウカの前ではしないはずだが?」
「ッ!!」
アベルトの目は冷たかった。
内容は勿論、状況も含めて、この話をここで恭司からされるとは思っていなかったのだろう。
それは、今までの恭司を見る目とは明らかに違っていた。
「失望したよ。君はもう少し人の心の分かる人間だと思っていた。所詮は殺人鬼か。私が何故あの話を君と2人の時にしたのか、まるで理解していなかったようだね」
アベルトは容赦なく恭司を追い詰めていく。
気恥ずかしさとは別に、恭司の人間性を疑う空気がそこにはあった。
しかし、
恭司は静かに首を横に振る。
「理由なら、理解しています。今日は、それを踏まえた上で話をさせていただいております」
アベルトの眉がピクリと動いた。
さっきまでとは明らかに違う、武芸者としての威圧感と迫力を身に纏いながら、恭司の目を間近で見つめる。
「……私をクレイアの手先如きと一緒にするなよ?喰斬りしか思い出していないお前如き、一瞬で塵に変えられるんだぞ」
それは明らかな脅しだった。
舐められていると思ったのか、アベルトの言葉は棘が剥き出しになり、声も空気も重く、威圧的になっている。
だが、
恭司は再び首を横に振る。
「私が申し上げたいのは、貴方の心配など物ともしないくらい、私はユウカと仲良くなっているということですよ。別に男女の仲ではありませんが、私はユウカを裏切らないし、ユウカも私を裏切るとは思っていません。それくらいの信頼関係なら、既に作り終わっているということです」
アベルトの表情が、少し和らいだ気がした。
恭司の言いたいことが分かり、自分の感じていることが杞憂だと気づいたためだろう。
アベルトはフッと微笑むと、ユウカに問いかけた。
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