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【第六章】クレイア

【第十四話】ククル・ウィスター<2>⑨

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「お前には大変気の毒だが人違いだ。確かにこの関係性のせいでそんな言いがかりを付けてくる奴は後を絶たないが、事実、俺は三谷恭司じゃない」

「嘘です!!ユウカさんに他の親戚なんていません!!」

「いないって……何を根拠に……」

「私たちのリーダーが一体誰だと思っているんですか!?」


ククルの畳み掛けに、今度は恭司の方が狼狽した。

確かに、その点は失念していた。

ククルの……いや、クレイアのリーダーはユウカの母親だ。

当然、ユウカの親族関係など把握し切っている。

まさか大罪人であるクレイアの人間が学校内に潜んでいるなどとは思わなかったため仕方ないが、ククルには嘘は最初からバレていたということだ。


「そうか……。それであんな質問を……」


恭司が最初自己紹介した時、最も熱心に質問してきたのがククルだ。

それも恭司とユウカの関係を疑うような質問ばかりで、一体何が目的かと思っていたが、つまりはこういうことだったらしい。

『本当はお前は、誰なのか』と。


「そうです!!ユウカさんには武者修行していた親族なんていなければ、それを鍛える親族もいません!!唯一いるその方は我々のリーダーなのです!!どうか本当のことを仰ってください!!」


問い詰めてくるククルに、今度は恭司の方がピンチになってきた。

アベルトもそうだが、ユウカの親族関係を把握しているクラスメイトがいるなんて思っていなかったのだ。

恭司は焦る。

良い考えはなかなか思いつかない。


「さあ!!どうしたのです!?答えられないのですか!?」


ククルはどんどん半狂乱じみてきていた。

狂信者という言葉があまりにも似合いすぎているくらい、常軌を逸した様子だった。

恭司が押されていると見るや、ユウカはククルの前に出て恭司を庇う。


「き……ギルスはまだ学校にも慣れていないし、転校初日で疲れてるから……」

「ユウカさんは黙っていてください!!これは私と彼の話です!!」


しかし、

ククルは即座に言葉で弾き飛ばしてしまった。

教室ではあれほど冷静だったククルがこれほどまでに激情しているというのは、ある意味で衝撃的だ。

先ほどまでよりも明らかにヒートアップしてきている。

追求の言葉が剥き出しになっている分、恭司にとってはもはや冷静に詰められていくよりもキツいものだった。

ククルの声はどんどん大きくなり、このままではトイレの外にまで響いてしまうだろう。

ユウカが色々と間に入ろうとしてくれているのも、正に焼け石に水の状況だ。

この状況を放置すれば、いずれ恭司の正体はククルを通じて周りの生徒にも広がり、アベルトの計画が見事に水泡と帰すことになってしまう。

そうなれば、もはやアベルトに大罪人である恭司を生かしておくメリットが無くなるのは必定だ。

側にいるだけで巨大なリスクとなる恭司は、そこに見合うメリットが消失した時点でお払い箱となるのは確定。

死刑も固い所だろう。

この状況をやり過ごすことは勿論、バレないようにするための『解決策』も講じないと、恭司の向かう未来はどうしたって悲惨なものになってしまう。

卑劣残虐どんな手を使ってでも、ククルが恭司のことを別人と判断するような何かを作るか、あるいは存在自体を消してしまわなければならない。

学校で後者は不可能なことを考えれば、残るは前者だ。

恭司は覚悟を決めると、一歩進み出る。

アベルトのことを考えていたら、1つ思い付いた。

内容を吟味する時間は無い。

恭司は不敵な笑みを浮かべて、パチパチと小さく拍手をする。
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