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【第六章】クレイア
【第十四話】ククル・ウィスター<2>①
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格技場を出て一足先に教室へと戻った2人は、荷物だけ置いてすぐに人気のない所へと移動した。
恭司にはどこが適当か分からなかったため、移動先は完全にユウカのチョイスだ。
他に人がおらず、目立たなくて内緒話ができるというのが条件だが、恭司は愕然としていた。
「トイレは無いだろ……」
連れてこられたのはグラウンドに設置された男女共用トイレだった。
さすがスーパーエリート校なだけあって外でもちゃんと綺麗で清潔なのは有り難いが、いくらなんでもここは無いだろうというのが正直な感想だった。
男女共用なあたりに配慮は感じるが、他になかったのかと思わずにはいられない。
授業直前ということも加味すれば、まるで不良中学生のようだ。
「仕方ないじゃない。他は監視カメラやら人混みやらで、とてもじゃないけど内緒話なんて出来ないんだよ」
「そうは言っても、ここはなぁ……」
思わず便器の方を見つめる。
男性も女性も問題なく使用できるこのトイレは、ある意味で普通のトイレよりデリケートな場所だった。
そんな所に2人暮らししている男女の2人が同時に立ち入るということは、ある意味では非常に危険な行為とすら言える。
例え当人たちにそんなつもりは一切なかったとしても、邪推する人間は後を絶たない。
「だから仕方ないんだよ。今は次の授業の移動時間だから、こんな遠いトイレにわざわざ人なんて来ないし、監視カメラもここなら心配ないから一番安心なの。不埒で違法な奴も、この学校は恐ろしく厳密にチェックしてるしね」
「あー、そうなのか……」
「てことでほら、グチャグチャ言ってないでさっさと話す。急がないと、次の授業始まっちゃうよ」
「あ、あぁ……。まぁ、そうだな」
恭司は納得出来ない気持ちを抱えつつも、ユウカに押されてとりあえず話すことにした。
殺気を感じた辺りからここに至るまでの経緯について、なるべく手短に説明する。
要点を絞ったため全部ではないが、言いたいことはある程度伝わっただろう。
ユウカは神妙な顔付きで頷いた。
「なるほどねぇ……。ククルさんか……。恭司の懸念、少し可能性あるかもしれないね」
「ホントか?」
ユウカは慎重に頷いた。
「私はこのBクラスをとても気に入っているし、卒業までずっと在留し続ける気でいるけど、そんな私でも、このBクラスで油断できない人が2人いるのね。1人は担任のクリスで、そして後のもう一人こそが、そのククルさんなんだよ」
ユウカの言葉には真剣味が満ちていた。
それだけ、その2人については本当にそうだということなのだろう。
だからこそ、
恭司には疑問だった。
「クリス先生のことは確かに何となく分かるが、何でククルさんもなんだ?俺が言う前からそうだったってことだろ?」
ユウカは頷く。
「理由は2つあるよ。1つは、私と同じで手を抜いてまでこのBクラスに居続けていること。そしてもう一つは……」
「…………」
「彼女が、『クレイア』の一員かもしれないからだよ」
久しぶりのワードを聞いて、恭司はハッとなった。
『クレイア』については、アベルトから少しばかり話を聞いたことがある。
ユウカの母親が束ねる犯罪組織で、武力を用いた反社会行動を起こし続けている団体だ。
そして、
恭司やユウカと同じ技を使う集団とも聞いている。
三谷恭司と同じ技を使えるということは、恭司にとっても決して他人事ではない事案だ。
むしろ自分が撒いた種である可能性を考えると、完全に当事者といっても差し支えない。
そして、
クレイアはユウカが世間からこうまで嫌われている原因でもあり、ユウカがこんな性格になってしまった原因でもあるのだ。
要は事の根本的発端。
放置する理由はどこにもなかった。
恭司にはどこが適当か分からなかったため、移動先は完全にユウカのチョイスだ。
他に人がおらず、目立たなくて内緒話ができるというのが条件だが、恭司は愕然としていた。
「トイレは無いだろ……」
連れてこられたのはグラウンドに設置された男女共用トイレだった。
さすがスーパーエリート校なだけあって外でもちゃんと綺麗で清潔なのは有り難いが、いくらなんでもここは無いだろうというのが正直な感想だった。
男女共用なあたりに配慮は感じるが、他になかったのかと思わずにはいられない。
授業直前ということも加味すれば、まるで不良中学生のようだ。
「仕方ないじゃない。他は監視カメラやら人混みやらで、とてもじゃないけど内緒話なんて出来ないんだよ」
「そうは言っても、ここはなぁ……」
思わず便器の方を見つめる。
男性も女性も問題なく使用できるこのトイレは、ある意味で普通のトイレよりデリケートな場所だった。
そんな所に2人暮らししている男女の2人が同時に立ち入るということは、ある意味では非常に危険な行為とすら言える。
例え当人たちにそんなつもりは一切なかったとしても、邪推する人間は後を絶たない。
「だから仕方ないんだよ。今は次の授業の移動時間だから、こんな遠いトイレにわざわざ人なんて来ないし、監視カメラもここなら心配ないから一番安心なの。不埒で違法な奴も、この学校は恐ろしく厳密にチェックしてるしね」
「あー、そうなのか……」
「てことでほら、グチャグチャ言ってないでさっさと話す。急がないと、次の授業始まっちゃうよ」
「あ、あぁ……。まぁ、そうだな」
恭司は納得出来ない気持ちを抱えつつも、ユウカに押されてとりあえず話すことにした。
殺気を感じた辺りからここに至るまでの経緯について、なるべく手短に説明する。
要点を絞ったため全部ではないが、言いたいことはある程度伝わっただろう。
ユウカは神妙な顔付きで頷いた。
「なるほどねぇ……。ククルさんか……。恭司の懸念、少し可能性あるかもしれないね」
「ホントか?」
ユウカは慎重に頷いた。
「私はこのBクラスをとても気に入っているし、卒業までずっと在留し続ける気でいるけど、そんな私でも、このBクラスで油断できない人が2人いるのね。1人は担任のクリスで、そして後のもう一人こそが、そのククルさんなんだよ」
ユウカの言葉には真剣味が満ちていた。
それだけ、その2人については本当にそうだということなのだろう。
だからこそ、
恭司には疑問だった。
「クリス先生のことは確かに何となく分かるが、何でククルさんもなんだ?俺が言う前からそうだったってことだろ?」
ユウカは頷く。
「理由は2つあるよ。1つは、私と同じで手を抜いてまでこのBクラスに居続けていること。そしてもう一つは……」
「…………」
「彼女が、『クレイア』の一員かもしれないからだよ」
久しぶりのワードを聞いて、恭司はハッとなった。
『クレイア』については、アベルトから少しばかり話を聞いたことがある。
ユウカの母親が束ねる犯罪組織で、武力を用いた反社会行動を起こし続けている団体だ。
そして、
恭司やユウカと同じ技を使う集団とも聞いている。
三谷恭司と同じ技を使えるということは、恭司にとっても決して他人事ではない事案だ。
むしろ自分が撒いた種である可能性を考えると、完全に当事者といっても差し支えない。
そして、
クレイアはユウカが世間からこうまで嫌われている原因でもあり、ユウカがこんな性格になってしまった原因でもあるのだ。
要は事の根本的発端。
放置する理由はどこにもなかった。
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