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【第六章】クレイア

【第十三話】ククル・ウィスター<1>②

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「カウンターの機を窺っているのか単に悪趣味なのか……。何で攻撃してやらないんだろうな」


恭司は少し同情混じりに呟く。

もはや力の差はあまりにも明らかだが、ククルが攻撃をしないせいでいつまで経っても同じような光景が繰り返されるだけだった。

この惰性の塊のような攻防が、対戦開始の時点からずっと続き続けている。

見ている側としては、さっさと決着をつけてほしいというのが本音だった。


「んー、警戒してるのかな?」

「いや……実力差を見る限りでもそれは考えにくいだろう。あれだけ場慣れした人間が、あの程度の人間の実力を見誤るとは思えない」

「そうだね……」


戦いが始まってからもう既に10分が経過した。

ラプロスが一方的に攻撃し、ククルが避けるだけの時間が10分だ。

ラプロスの表情も次第に曇ってきている。

彼は戦闘開始早々から一度も休まずに10分間一方的に攻撃し続けているのだ。

当然、

ただ余裕で避けてるだけのククルとは疲労の度合いがまるで違う。

その上、

これだけ攻撃しても尚、未だククルにはかすり傷1つ付けられていないのだ。

ここまできたら誰だって遊ばれていることに気付く。

精神的な面でも辛いに違いない。

どういうつもりかは知らないが、今の所ククルから攻撃して試合を終わらせる気は全く無いようだ。

意味があるのか無いのか、恭司もさすがに顔を顰めた。


「本当にどういうつもりなんだろうな……。優越感に浸りたがるタイプにも見えねぇが……」


ラプロスへの同情が次第にククルへの苛つきに変わる。

ククルの動きは確かに高レベルで、他に比べると見応えがあるのは間違いないが、それでダラダラと戦況が長引くなら話は別だ。

こんな茶番をいつまでも見ていたいわけはない。

そろそろ次の段階へ移行してほしかった。


「んー、多分だけど、アレって情報を隠したいんじゃないかな」

「情報を隠したい?」


恭司の呟きに対し、ユウカは珍しく真剣な表情で回答した。

いつものおふざけではない。


「この実技訓練の時間っていうのは、ただ単にランキングアップのチャンスってだけじゃなくて、ライバルたちの情報を得るチャンスにもなるの。さっき大会で金儲けする話してたよね?それの延長線上だよ」

「……?どういうことだ?」

「要は、大会に出場できないくらい低レベルな学生でも、出場する人間の情報を商品にして金儲けできるってこと。大会とかイベントとか、アレってブラックマーケットではかなり値のつくビッグディールだからね。直接的には賭けの対象にならないけど、それを使って事を進めたがる人は沢山いるんだよ」

「……つまり、賭けの対象になりそうな選手の情報を流すってことか。賭けてる奴らからすれば、自分の賭けを成功させる良いツールになると」

「そういうことだね。選手の対戦相手に弱点を教えたり、もっと酷い場合だと、選手の個人情報を使って外で襲わせたりとか……ね。試合直前に家を燃やされた選手もいたみたいだよ」

「……だから夜道に気をつけろってことか。胸糞悪い話だな」

「ホントだよ……」


たかが学校行事であっても、それが大金を動かす賭けに使われれば、途端に狂気の戦場と早変わりする。

数万使って学生から選手の情報を集め、数十万使って対戦相手を陥れたとしても、そこに1千万賭けていれば数百万の儲けだ。

そしてそれを賭けの相手も行うのが通常となっている。

学生同士の楽しいイベントのように見えるこの大会の裏側は、欲に塗れた卑しい大人たちの醜い賭博場になっている……ということだ。

道徳精神の薄い恭司でもさすがに嫌気がさすくらいには、最低で反吐の出る話だった。
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