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【第四章】学園生活

【第九話】フェルビア学園⑨

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エレベーターの扉が開いて廊下を見ると、当たり前だが閑散としていた。

現在の時刻は8:50。

先生たちも授業に出ているはずだ。

当然、生徒の姿もない。

誰もいない最上階の廊下は、ただ横に広い通路の伸びた簡素なフロアだった。


「……何もねぇんだな……」


恭司は呟く。

よく見たらかなり奥の方に「職員室」という表札が見えるのだが、他には何もなかった。

職員室自体の広さも窺えるフロアだ。

一流学校は教師もVIP待遇というわけだ。


「このフロアは完全に先生たちのためのフロアだからね。職員室の中に、教師用のトレーニングルームとか色々あるらしいんだけど、基本的に生徒は立ち寄ることないからさすがにあまり知らないかな……」

「なるほど……」


廊下からは職員室しか見えないが、職員室の中に色々あるということだ。

生徒数に対する教師の数もその理由にはあるのだろう。


「とにかく行くしかないね。担当教師は既に教室行ってるだろうから、とりあえず必要な物もらってきたら?」

「そうだな。行ってくる」


恭司はそう言って、職員室の扉をノックして入った。


「………………」

「………………」

「………………」


扉を開けると、職員室中の先生たちから大注目だった。

保健室ならまだともかく、こんな時間に職員室を訪れる生徒など普通はいないからだ。

誰も知らないから誰の名前を呼ぶことも出来ないが、とりあえず転校生であることを伝えると、それらしい人が来てくれた。


「えーと、『ギルス・ギルバート』君だっけ?始業時間過ぎちゃってるけど、転校の手続きってことでいいのかな?」


引き攣った笑顔でやって来たのは、まだ20代か30代と思われる若い先生だった。

男性で、細身の体つきをしている。


「遅れてしまい申し訳ございません。始業している中で恐れ入りますが、手続きさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「うーん、本来は担当教員とやり取りしてもらう所なんだが……まぁ構わないよ。こっちに来なさい」

「分かりました」


そうして、その先生は恭司を奥の方に誘導した。

恭司は歩く最中、チラッと後ろを振り返り、ユウカの様子を窺う。

しかし、

扉からはユウカの姿は見当たらなかった。

扉からは見えない所にいるのか移動したのか。

恭司は首を傾げつつ、転校の手続きを進め、間も無くBクラスの教室へと向かった。
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