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【第三章】閑話休題

【第八話】お風呂事件簿②

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「おい、ユウカ。もう朝だぞ~、起きろ~」


恭司はユウカの部屋の前に立つと、ドアをコンコンとノックした。

しかし返事が無い。

もう一度少し強めにノックしてみたが、やはり返事は無かった。


「あれ?いないのか……?」


もしかしたら出掛けたのかもしれない。

もうそれなりにいい時間だし、街に遊びに出たのかのかもしれない。


「いや、無い。それは無いな」


我ながらさっきの考えはあまりにも適当だった。

ユウカに限ってそれは無い。

断言できる。

それなら、まだこの部屋で寝ているのだろう。

ユウカは活発な性格の割に中身は天下無双の引き篭もりだから、よっぽどのことでも無い限り外には出ないはずだ。

部屋を開けて確認してもいいが、ユウカも寝顔を勝手に見られるのは嫌だろうし、さすがの恭司も女性の部屋に無断で入るのは気がひける。

もし着替え中だったりしたら最悪だ。

その時は覗き魔としてしばらくの間ずっと変態扱いされるだろうし、気まずさも無駄に倍増する。

恭司は考えた末、結局ここで部屋を開けるのはやめておくことにした。

リスクが大きい割にメリットが小さいのだから、それも当然のことだ。


「ならどうするか……」


ドアを開けられないのであれば、当然振り出しに戻るしかなかった。

ユウカがいない以上、恭司に出来ることはとても限られてしまう。

恭司は無職無趣味の一文無しだから、居候中に出来ることと言えば、仕事か家事くらいだ。

今はその両方ともやることがない。

となれば、

どうせこの後やらなければならないことを先にやっておこうと判断した。

ユウカと話した後、ルーティンでいつもやっている作業を思い返し、恭司はポンと手を叩く。


「風呂だ」


本当なら、風呂はいつもは夜にきっちり時間を取って入っているが、昨日はアベルトとユウカの相手で結局疲れ果てて入らずに寝てしまったのだ。

だったら、

昨日の分まで代わりに今日朝風呂に入っておくべきだろう。

恭司はそう判断すると、着替えを自室に取りに行った後、そのまま風呂場へと向かった。

風呂場は一階にある。

バスタオルも脱衣所に完備されているはずだ。

恭司はドアの前に立つと、何の気無しにドアノブに手をかけ、中に入った。


「え……?」


しかし、

開けてみると、そこには全裸で一糸纏わぬユウカの姿があった。

風呂には既に入った後なのか、その肢体は濡れている。

細くも程よく肉付きの良いユウカの裸体を見て、恭司もさすがに思考が止まった。

これは、良くない展開だ。


「な、ななな何で……ッ!?何で恭司が……ッ!?」


ユウカは完全にパニック状態だった。

バスタオルで体を隠すことも忘れ、アタフタしながら恭司を見ている。

恭司もしばらくユウカの身体に見惚れていたが、ようやく思考も戻ってきた。

思考が戻ったのだから、ここは名誉挽回の策を提示しなければいけない。

計らずしも、匙は既に投げられた後なのだ。

僅か数秒の間に恭司は挽回の一手をいくつか頭の中に思い描き、最善手を一瞬のうちに導き出す。

そして、

その瞬間、音が鳴るくらい手のひらをポンと叩いた。


「一緒に入るか?」


ユウカは答えられないのか、相変わらず裸体を晒したまま、ワナワナと身体を震わせた。

恭司は撤退の準備を整えながら、ゴクリと生唾を飲み込む。

途端、

ユウカは半分涙目で、大きく息を吸い込んだ。


「いくら何でも!!まだ早すぎるよッ!!」


ユウカはそう言って、恭司を脱衣所の外に閉め出す。

恭司は脱衣所のドアの前で、ポリポリと頭をかきながら、とりあえず頭の中で状況を再確認した。


「いや、まだって何だ……」


恭司は怒られる前に、風呂は諦めてリビングに戻ることにした。
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