上 下
28 / 134
【第二章】ユウカ・バーレン

【第六話】ラウド・ウォーリア②

しおりを挟む
「そっちは耳がいいだけで頭が最悪に悪いね。獣だから私の言いたいことが上手く伝わらなかったのかな?」


ラウドの表情はもう真っ赤だった。

火を噴くように怒り顔で怒鳴り散らし、ユウカも負けじと言い返す。

そんな二人の言葉の乱戦は無駄に続き続け、収まる気配を全く見せなかった。

恭司はそんな中、一人落ち着いた態度で自分の分のコーヒーを手に取り、口に含む。

もはや三人というよりは二人+一人のような立ち位置だが、恭司は全く気にしてない。

コーヒーのほろ苦さを一人で味わいながら、二人のやり取りに目を向ける。


(多分、普段からこんな感じで絡むから、友達出来ないんだろうなぁ……)


カップを机上の皿に戻しつつ、恭司はユウカに目を向けながら、内心でしみじみと呟いた。

完全に蚊帳の外に置かれている恭司は、そのまま背景に徹しながら、自分以外の人間と話すユウカを側で観察することにしている。

恭司と話している時のユウカではなく、普段のユウカを見るための良い機会だと思ったのだが、その効果はテキメンだった。

ユウカはなんだかんだでヒートアップしているのか、恭司のそんな様子にも気付いていないようだ。

つまり、

これが、恭司がいない時の素のユウカなのだろう。

呼吸するように毒舌を吐く姿を見て、恭司はただなるほどなと頷いた。


(他人からの悪意に対して、反応がひどく敏感になっている。多分、小さい頃からずっと敵意ばかりを向けられて育ってきたんだろうな。反撃を繰り返すうち、それが自分の中で当たり前になったってとこか)


恭司はユウカの様子をそう読み取った。

ユウカは空気を読めないのではなく、読まない人種だ。

相手からどう思われても構わないという意識が強いためだろう。

言葉には常にトゲが剥き出しになり、他人に対して攻撃的な姿勢を崩さない。

その理由がこれなのだと、恭司はようやく真に納得できた。

アベルトから元々言われていた内容ではあったものの、実物を見てようやくしっくりきたのだ。

恭司以外の人間と話すユウカはひどく閉鎖的で、他人の意見をほとんど聞かない。

他人から言われるものは基本的に全て無視か防御か迎撃で跳ね返す性質がある。

この状況を見るに、ユウカはおそらく、そもそもの話で友達が欲しいということ自体思えなくなっているのだろう。

他人からの言葉に対し、受け入れるという選択肢は彼女には無いのだ。

ふと、恭司の頭の中に、アベルトから言われた話が本人音声で再生された。


『願わくば、あの娘を信頼してやってほしい。あの娘の友達になってやってほしいんだ』


アベルトはひどく真面目な顔で、恭司にそう話したものだった。

あの時は何故、親が殺人鬼相手にそんなことを頼むのかと思ったものだが、ユウカが普段からこんな感じで外部の人間と絡んでいたのでは、その理由も分からないではないなと思った。

 確かにこの調子では、ユウカは一生を独りで過ごすことになりかねないだろう。

例え、世界中を敵に回す危険人物であろうと、アベルトにとっては、娘を独り身から解放する大チャンスでもあったというわけだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...